第2章 分野ごとに見た国際情勢と日本外交

 第3節 よりよい地球社会の実現に向けた取組

   1.総論-人間の安全保障

 今日、物資、資金、技術、情報などの移動がより自由になったことに伴い、グローバリゼーションが急速な勢いで進行している。その中で環境破壊、テロ、人権侵害、国際組織犯罪、薬物、難民、対人地雷、貧困、エイズ等の感染症といった問題が深刻化し、国境を越えて人間の生存、生活、尊厳を直接脅かしている。
 国際社会においてこれらの問題への取組は個々の分野毎に精力的に行われ、一定の成果を収めつつあるが、最近、これらの問題を包括的に「人間の安全保障」に関する問題と捉える考え方が国際的に広まってきている。
 アジアにおいても、97年夏以来の経済危機が低所得層、失業者、女性、子供、高齢者、障害者といった社会的弱者に深刻な影響を与えつつあり、タイのスリン外相のASEAN拡大外相会議での提案に見られるように、社会のセーフティー・ネットの構築が必要不可欠であるとの認識が幅広く共有されるに至っている。日本は、この面においても積極的にイニシアティヴを発揮してきており、4月に小渕外務大臣の呼びかけにより、東京で「アジア経済危機と健康ー人間中心の対応」と題するシンポジウムが開催され、アジア各国と国際機関の専門家の間でアジア経済危機が社会的弱者へ健康面で与える影響とそれへの国際社会の対応について議論が深められた。小渕外務大臣は、5月のシンガポールにおける政策演説の中でアジア経済危機への対応に当たっては社会的弱者対策を重視することを表明した。また、12月に、小渕総理大臣は、アジア各国の有識者を集めて開催された「アジアの明日を創る知的対話」会議の席上で人間の安全保障について以下のような考え方を表明した。

  • 人間の安全保障とは、環境破壊、人権侵害、国際組織犯罪、薬物、難民、貧困、対人地雷、エイズ等感染症といった人間の生存、生活、尊厳を脅かすあらゆる種類の脅威を包括的に捉え、これらに対する取組を強化する考え方である

  • これらの問題は国境を越えた問題であることから、国際社会の一致協力した取組、さらには、各国政府、国際機関、NGO等市民社会の連携・協力が重要である

 このような考え方に基づき、小渕総理大臣は、12月にヴィエトナムで行った政策演説において、21世紀のアジアのビジョンとして「人間の尊厳に立脚した平和と繁栄の世紀」を提示し、その実現のための日本の取組の一つとして人間の安全保障の重視を挙げ、この分野で国連関連の国際機関が実施する事業に資金面での協力を行うために「人間の安全保障基金」を国連に設置し、5億円を拠出する用意があることを表明した。
 人間の安全保障の実現に向けた取組においては、経済問題、環境破壊等地球規模の問題、紛争下の児童等地域紛争との関係等様々な視点からのアプローチがあり得るが、取組強化のためには、国際的な共通ルールの策定、共同対処の方途の確立や途上国との連携の強化などが課題となっている。今後、各国政府、国際機関、NGO等市民社会と連携しつつこのような課題に対応して人間の安全保障という概念を具体的な行動に結びつけるとともに、この分野で中心的な役割を果たし得る国連の改革に反映させていくことが求められよう。

   2.地球環境問題

【国際社会による地球環境問題への取組】

 地球温暖化問題、オゾン層破壊等の地球環境問題は、一国のみでは対処が困難な、国際社会が共同で取り組むべき問題である。また、環境問題への取組が経済・産業の発展のブレーキになる場合があるという意味において、環境問題と開発問題は表裏一体の関係にある。そのため国際会議において、異なる発展段階や経済状況にある各国が協調行動をとることは容易でない。しかし、各国間の認識の相違や利害の対立を調整し、国家間あるいは地域間で交渉を積み重ね、妥協を図っていくことは地球環境問題を解決していく上で不可欠である。
 地球環境問題への国際社会の取組は、92年6月にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED、いわゆる「地球サミット」)を契機として大きく前進した。同会議の成果である「環境と開発に関するリオ宣言」及び「アジェンダ21」において包括的な取組内容が規定され、これらに基づき、93年以降、国連経済社会理事会の下部に設置されている「持続可能な開発委員会(CSD)」において年毎に定められた分野について見直しを行ってきている。
 国際社会の具体的な取組は、主として分野毎の多数国間条約の策定や推進を通じて行われてきている。地球温暖化問題に関しては、97年12月の京都における気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で、先進国及び市場経済移行国に対し温室効果ガス削減を具体的に義務づける「京都議定書」が採択されたのを受けて、その後同議定書で定められた排出量取引、クリーン開発メカニズム、共同実施のいわゆる「京都メカニズム」の具体化等に向けて国際交渉が行われた。11月にブエノスアイレスで開催された気候変動枠組条約第4回締約国会議(COP4)では、京都メカニズム等についての今後の作業スケジュールを定めた「ブエノスアイレス行動計画」が採択された。生物多様性条約については、5月に第4回締約国会議が行われ、2月と8月にはバイオテクノロジーにより改変された生物の安全な移送、取扱い、利用のための手続きを定めるバイオセイフティに関する議定書の準備作業等が行われた。オゾン層保護については、11月にモントリオール議定書第10回締約国会議が開催され、2000年から2002年の多国間基金の規模決定に向けた検討等が行われ、また砂漠化への対処については、12月に砂漠化対処条約第2回締約国会議が開催された。

【日本の協力】

 このような国際的な取組が進展する中で、日本は地球環境問題への国際貢献を引き続き外交の最重要課題の一つと位置づけ、以下のような協力を実施してきている。
 第一に、条約関連の取組における貢献である。気候変動について、京都でのCOP3以降11月のCOP4まで日本は議長国を務めたが、関係国間の対立が続く中で交渉の前進を図るため、9月に東京で非公式閣僚会合を開催した。京都議定書の早期発効に向けた国際交渉の進展を図るこうした日本の取組は、COP4におけるブエノスアイレス行動計画策定に大きく貢献した。砂漠化問題への対応について、日本は、12月から砂漠化対処条約の締約国となったことに加え、同月行われた同条約の締約国会議においては、同条約の最大拠出国として引き続きこの分野での協力を行っていく決意を表明した。
 第二に、環境分野での途上国支援である。92年の地球サミットにおいて、日本は92年から5年間で9000億円から1兆円を目途として環境分野のODAを大幅に拡充・強化することを発表したが、目標を大幅に上回る1兆4400億円を達成した。その後も97年6月に発表した「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」に沿ってきめ細かな環境協力を行ってきた。特に地球温暖化については、京都会議に際して発表した温暖化対策途上国支援策である「京都イニシアティヴ」を着実に実施し、途上国の取組を支援している。
 第三に、環境関連国際機関との協力関係を重視している。日本は、国連環境計画(UNEP)の主要拠出国として大きな役割を果たすと同時に、日本が誘致した「UNEP国際環境技術センター」(大阪及び滋賀)のプロジェクトへの経費支援などを行っている。
 このような取組に加え、酸性雨問題について「東アジア酸性雨モニタリング・ネットワーク」の試行稼働活動を4月に立ち上げ、東アジア主要国の参加を得て2000年に本格稼働すべく取組を進めている。なお、同ネットワークには、それまでオブザーバーであった中国が12月に正式参加を表明し、この分野での地域的取組を本格化するための前提ができた。

   3.テロ
【テロの深刻化と国際協力の強化】

 98年には、ケニア及びタンザニアにおいてほぼ同時に米国大使館を狙う爆弾テロ事件(8月)が発生し、多数の死傷者が出た(ケニアでは在留邦人1名が負傷)。北アイルランド中部のオマーにおける爆弾テロ事件(8月)も多くの死傷者を出し、世界に衝撃を与えた。その他にも爆弾事件は、スリランカ、ウガンダ、イスラエル、南アフリカなど、世界各地で相次いだ。このような深刻なテロ事件が続発する中で、国際社会はテロ対策のための国際協力に真剣に取り組んでいる。G8諸国はテロ対策のための25項目の実践的措置(96年7月のパリでのテロ閣僚会合で採択)及び同追加的措置(97年6月のデンヴァー・サミットで採択)の実施を推進するとともに、全世界に対してその実施を呼びかけている。5月のバーミンガム・サミットに先立って開催されたG8外相会合の総括文書において、テロリストの資金調達の防止をはじめとするテロ対策の優先分野が提示された。国連においては、97年12月に総会で爆弾テロ防止条約が採択され、また98年には核テロ防止条約の作成作業が進められた。また、8月、ケニア・タンザニアの米国大使館に対する爆弾テロ事件を非難し、全ての国に対して捜査への協力と国際テロの防止についての協力を求める安保理決議1189が全会一致で採択された。また、12月、国際テロ廃絶のための措置に関する総会決議(53/108)が採択された。

【日本の取組】

 日本は、96年12月に発生した在ペルー日本大使公邸占拠事件を契機に、あらためて国際テロに対する対策を見直し、危機管理体制、情報収集体制、警備体制の強化を図ってきている。特に外務省としてはテロ情報の収集・分析体制の強化に努めるとともに、「海外危険情報」の発出等を通じ、世界の危険地域に関する国民への情報提供の強化に努めている。
 あらゆる形態のテロを非難し、断固としてこれと闘い、テロリストに対し譲歩しないこと、テロリストを裁判にかけるために「法の支配」を適用することは、G8サミットなどでも累次強調されてきており、日本もこうした方針の下で各国との協力を積極的に進めてきている。
 11本のテロ防止関連条約については、日本はサミット参加国と共に、各国に対して早期締結を呼びかけてきており、また、98年に3本の条約を締結したことにより、既に発効している10本の関連条約全てを締結したことになる。(未発効の爆弾テロ防止条約についても4月に署名した。)また、アジア太平洋地域におけるこの分野での地域協力推進の一環として、98年10月、前年の日・ASEANテロ対策協議より対象地域を拡大してアジア・中南米諸国から6か国の専門家を招き、アジア・中南米地域テロ対策協議を開催した。同協議においては、テロ情報及び事件対応ノウハウの交換、情報収集及び事件発生時における連絡・協力体制の強化の重要性等について認識の一致を見た。
 日本赤軍については、97年2月にレバノンで身柄を拘束された国際手配中のメンバー5名に対して、6月に同国破棄院(最高裁)において、禁固3年、刑期終了後国外退去との刑が確定した。日本としては、司法手続きが終了次第、速やかに5人の身柄の引渡が行われるようにレバノン当局に要請している。これにより現在逃亡中で国際手配されている日本赤軍メンバーは7名、よど号ハイジャック犯は5名となっている。

   4.人権の擁護と民主化の促進
【国際社会及び日本の取組】

 世界の平和と繁栄のためには人権の擁護と民主化の促進が必要不可欠であるとの認識が国際社会において広く共有されるようになってきている。世界人権宣言採択50周年並びにウィーン宣言及び行動計画(VDPA)5周年に当たった98年にはこの分野で様々な動きが見られた。VDPAの見直しについては、7月の経済社会理事会調整セグメント及び国連総会において議論が行われ、各々合意結論及び決議が採択された。また、12月10日の「人権デー」に世界人権宣言50周年を記念する総会本会議が開催され、人権賞の授与等各種行事が行われたほか、人権擁護者宣言が採択された。
 また、日本としても引き続き人権分野で積極的な対応を行っていくことが重要との観点から、1月にロビンソン国連人権高等弁務官(UNHCHR)を招いて第3回アジア太平洋地域人権シンポジウムを東京で開催し、世界人権宣言の今日的意義を再確認した。さらに、12月10日には両陛下御臨席の下、世界人権宣言50周年等記念式典を開催した。
 日本は、人権高等弁務官事務所(OHCHR)等国連による人権分野での活動を積極的に支援してきており、財政面では、各国による人権状況改善努力を支援するための諮問サービス基金をはじめOHCHRが運営する各種基金に対し、98年に約80万ドルを拠出した。日本は82年以来国連人権委員会のメンバーとして、討議や決議案の検討に積極的に参加しており、3月-4月に開催された第54回会期では高村外務政務次官が出席し、日本の人権外交の基本方針に関するスピーチを行った。また、7月に第2回日中人権対話を行ったほか、人権問題に関し、あらゆる機会を利用して諸外国との間で協議を行っている。さらに、開発途上国等における民主化及び人権の擁護・促進のための協力として、法・司法制度や選挙制度の整備への支援、司法・警察官の研修等をはじめとする「民主的発展のためのパートナーシップ(PDD)」協力を従来より推進している。

【女性、児童】

 女性の地位向上に向けた取組として、日本は、3月に開催された第42回国連婦人の地位委員会において、第4回世界女性会議のフォローアップ等に関する審議や決議の採択に積極的に参加した。また、開発途上国の女性の能力向上支援等のための開発における女性(WID)基金、国連婦人開発基金、日本のイニシアティヴにより設置された「女性に対する暴力撤廃のための国連婦人開発基金信託基金」、「国際婦人調査訓練研修所」等に対して98年中約580万ドルを拠出するなど、世界の女性に対する支援を行っている。
 また、児童の権利保護や保健・教育の促進、緊急援助等に対し、国連人権委員会等での検討や国連児童基金(UNICEF)を通じた協力を行っており、98年の同基金への拠出は2653万ドルに上った。さらに、世界各地の紛争下で犠牲となっている児童を保護し、権利及び福祉を確保するため、この問題に関する国内外の意識啓発を目的として、11月に児童と武力紛争に関する国連事務総長特別代表事務所、国連大学及び日本ユニセフ協会との共催で、オトゥヌ特別代表を招いて「児童と武力紛争」国際シンポジウムを東京において開催した。

【社会開発】

 日本は、国連社会開発委員会のメンバーとして、2月に開催された第36回会期では、社会的弱者の支援等の検討に各国と協力して取り組んだほか、国内においては、社会開発サミットの「宣言」及び「行動計画」に基づき「西暦2000年及びそれ以降に向けての社会開発のための国内戦略」を作成した。また、日本はODAにおいても医療・保健・教育等の社会開発分野を重視しており、二国間のODAに占めるこの分野の割合は91年の12.3%から97年には22.8%へと増加傾向にある。

   5.国際組織犯罪、薬物
【国際組織犯罪】

 近年、グローバリゼーションが進む中でその負の側面として生じてきた国際組織犯罪は、国際社会にとってますます大きな問題となっており、各国間の協力体制の強化及び国際的な法的枠組みの整備が焦眉の急となってきている。現在この問題への国際的な取組は主として国連とG8の場を通じて行われている。
 96年のリヨン・サミット以降、G8国際組織犯罪上級専門家グループ(いわゆるリヨン・グループ)は、銃器の不正取引やハイテク犯罪等の様々な国際組織犯罪への対策を議論してきたが、特にハイテク・コンピュータ犯罪については、97年12月にG8司法・内務閣僚級会合が開催され、適時に協力して対応するために各国が24時間体制の連絡先を指定する等、10項目の行動計画を含むコミュニケが採択された。98年5月のバーミンガム・サミットでは、国際組織犯罪が主要議題の一つとして取り上げられ、リヨン・グループでの作業の成果を支持するとともに、国連国際組織犯罪条約を今後2年間で交渉すること、閣僚級会合で採択された「ハイテク犯罪と闘うための原則及び行動計画」を迅速に実施すること、新たに公務員の腐敗に取り組むこと等で一致した。これを受けて、12月にテレビ会議システムを使用するG8司法・内務閣僚会議が開催された。また、日本は、リヨン・グループにおいて銃器不正取引問題の検討グループの議長を務めているほか、各犯罪分野でのG8諸国間の共同作業に積極的に取り組んでいる。
 国連においては、国際組織犯罪を防止し、取り締るための包括的な条約づくりの動きが大きく進展しており、国際組織犯罪に関する包括的な条約の作成を進めていくとともに、銃器の不正取引、不法移民、女性及び児童の密輸に関する議定書についても検討していくことが、12月に総会で採択された決議に盛り込まれた。

【薬物】

 地球規模で深刻化してきている麻薬等薬物問題への国際的な取組は国連薬物統制計画(UNDCP)を中心に行われている。90年の国連麻薬特別総会、93年の国連総会麻薬特別会合を経て、98年6月に、薬物乱用の低年齢化や覚せい剤の乱用の増加等薬物乱用の現状を踏まえて、再度国連麻薬特別総会が開催された。この特別総会には、クリントン米大統領、シラク仏大統領他多数の政府首脳が出席し、日本からは高村外務政務次官が出席し、覚せい剤対策、青少年対策、国際協力推進を世界に訴えた。最終日、「政治宣言」を含む21世紀に向けての新たな国際的薬物戦略を定めた7つの文書が採択された。
 このような国際的な麻薬に対する取組を踏まえ、日本は、UNDCPの活動を積極的に支援してきており、厳しい国内財政事情にもかかわらず、91年以降毎年数百万ドルの拠出を実施してきている。またUNDCP以外にも、米州機構・全米麻薬乱用取締委員会(OAS/CICAD)、コロンボプラン・麻薬アドバイザリー計画(DAP)、金融活動作業部会(FATF)といった薬物対策に関係する国際機関に対しても資金拠出・分担金負担を通じてその活動を支援している。
 二国間援助においても、犯罪防止・取締のための技術協力、麻薬代替作物栽培等の代替開発や啓蒙活動のための資金協力や技術協力を行っている。特に、3月-4月、ミャンマー政府及びUNDCPと「けし代替開発に関する麻薬セミナー」をミャンマーにて共催したほか、7月には、UNDCPと連携しつつ、ミャンマー政府に対し、国境地域の少数民族の生活改善及びけし栽培から代替作物への転作取組を推進することを目的とする食糧増産援助を行った。また、日本は、薬物に関する先進国間の協議機関である、ダブリン・グループのメンバーでもあり、同グループの会合においては、先進国間で積極的な情報交換・協議も行ってきている。

   6.原子力の平和利用及び科学技術に関する国際協力
【原子力の平和利用】

  • 国際原子力機関(IAEA)による保障措置の強化・効率化
     IAEAは、原子力平和利用活動における核物質が軍事転用されないことを確保するために保障措置制度を設けている。同機関で、イラク及び北朝鮮の核開発疑惑を契機として、現在の保障措置制度をさらに強化し効率化するための検討を行った結果、97年5月、特別理事会で、各国がIAEAとの間で締結している保障措置協定を強化するためのモデル追加議定書が採択された。これは、IAEAに提供する情報の拡充、IAEAに対する補完的なアクセスの提供等を内容とする。日本は、98年12月にこの追加議定書に署名しているが、締約国を拡大していくことが今後の国際社会の大きな課題である。 

  • チェルノブイリ石棺計画
     86年に爆発事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所4号炉は、事故直後の応急手当としてコンクリート等で塞がれ、「石棺」化された。近年、この「石棺」が老朽化し、倒壊等の危険性があるため、97年6月、石棺の補修と新しい石棺建設を内容とする、総額約7億5800万ドルの「チェルノブイリ石棺計画」が作成され、デンバー・サミットにおいて、G7諸国がこの石棺計画実施のために3億ドルを拠出することが発表された。また、97年12月には、同石棺計画実施のための「チェルノブイリ石棺基金」が欧州復興開発銀行(EBRD)に設立された。現在、基本設計作業である初期プロジェクトが進行中である。日本も「チェルノブイリ石棺基金」に対する資金拠出を行っているほか、石棺計画の進捗に関して専門的な助言を行うために設立された「国際諮問グループ」にも参加している。さらに、初期プロジェクトの実施に日本企業が参加するなど、計画の推進に大きく貢献している。

【科学技術協力】

 科学技術の進歩は世界経済の発展に資するのみならず、環境、資源・エネルギー、食糧問題等、今日の国際社会が直面する種々の課題の解決に大きな役割を果たしている。また、科学技術の進歩のためには、国際協力による優れた科学技術の結集が必要である。日本は国際社会において、世界に冠たる科学技術を有する国として、それにふさわしい貢献を行っていくことが期待されている。
 日本は、約30カ国との間に科学技術協力協定を有しており、これらの国々を中心に二国間会合を定期的に開催している。98年は、9月にフィンランド、オランダと各々第1回会合を行った。また、各国との間で、時流に合った科学技術に関する情報・意見交換などを行っている。例えば、衛星測位は船舶や航空機の運航やカーナビゲーション、測量等の幅広い分野でますます重要となってきている技術であるが、日米間では9月の首脳会談の際に全世界的衛星測位システム(GPS)の利用における日米協力に関する共同声明を発出し、GPS利用の種々の分野においてワーキング・グループを設置することとなった。
 多数国間での科学技術協力については、旧ソ連邦の大量破壊兵器関連の科学者・技術者に対して平和目的の研究プロジェクトを実施するために、日本、米国、EU、ロシアにより設立された国際科学技術センター(ISTC)が、これまでに約650件、約1億9000万ドル(うち、日本政府は約110件分の約2840万ドル)のプロジェクト支援を決定している。ISTCは、ロシアの民主・市場経済化支援する橋本・エリツィン・プランの一端を担っている。また、日本の提唱によりG7等と共同で実施しているヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)においては、脳機能及び生体解明のための基礎研究への研究資金の助成を行っており、12月には、HFSP推進機構の設立10周年を記念して、東京で記念行事が行われた。
 APECの枠組みにおいても、3月に第14回産業技術ワーキング・グループ会合が、また、10月には第3回科学技術担当大臣会合が開催された。さらに、ASEMの枠組の下でも科学技術大臣会合の開催に向け準備を行っている。
 宇宙分野においては、10月に向井千秋宇宙飛行士がスペースシャトル「ディスカバリー」に搭乗し、ニューロラブ計画の継続実験を行った。また、日本は、米国、カナダ、欧州諸国、ロシアと共に国際宇宙基地計画を進めるために、1月に宇宙基地協力協定に署名し、11月に他国に先駆けて締結した。11月にはロシアのモジュールが打ち上げられるなど、2004年までの宇宙基地完成を目指して建設が開始されている。日本の担当部分である日本実験棟の建設は、2001年から開始される予定である。