(1)国際交流の重要性
今日の国際社会は、政治、経済、文化、社会等のあらゆる面において相互依存を深めている。また、冷戦の終結とともにイデオロギーの対立に替わって、民族や文化の違いが国際関係の前面に押し出されてきた。こうした状況の中で、国際社会の安定的発展を確保する上で、各国がお互いの民族、文化、社会の多様性を認め合い、相互理解を深めていくことが益々重要になってきている。また、貧困、エネルギー、人権、環境問題等地球的規模の問題が多数生じてきており、これらの問題に取り組むための国際交流が活発化している。
国際交流の推進は、88年の竹下総理大臣のロンドンでの演説の中で国際文化交流が日本の外交政策の三本柱の一つとして位置づけられて以来、積極的に行われてきた。97年1月のシンガポールにおける橋本総理大臣の政策演説では、「文化交流、文化協力の推進」が3つの提言の一つとしてうたわれた。また、途上国との関係においても、これまでの経済面での協力だけでなく、文化面での協力が求められている。こうした中で、二国間、多国間を問わず、首脳会談、外相会談等において、文化交流や文化協力がテーマとして頻繁に取り上げられるようになってきている。
(2)国際交流の幅の広がり
近年、国際交流の担い手は、国や国際交流基金の他に、地方自治体、民間団体、教育・研究機関、企業、個人など、多様なレベルに広がってきている。特に、「国際化」と「文化」という共通のキーワードの下に、国内各地方の草の根交流の進展がめざましい。今後、官民の連携を含め、国内関係組織のネットワークを作り、国際交流をより効果的に進めていくことが重要である。
また、これまでの相互交流を中心とした文化交流のみならず、途上国の文化の振興や文化財保存に協力することもますます重要になってきている。各国の文化財の中には、急激な経済発展や社会の変化に伴い、失われる危機に瀕しているものが少なくない。日本は、こうした「人類共通の遺産」を救済するために、世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約の枠組みやユネスコに設けた日本信託基金を活用しながら、カンボディアのアンコール遺跡などの文化財保存協力を実施している。また、途上国の文化の振興に協力するため、文化無償協力により資機材を供与している。
(3)国、地域別の交流の一層の推進
国際交流の分野においても、各国、地域の特性や日本との関係を踏まえて、きめ細かな施策を行っていくことが重要である。
北米との交流は、日米間の緊密な関係を反映して、地方自治体や民間のあらゆるレベルで活発な人的交流が行われてきている。例えば、「JETプログラム (Japan Exchange and Teaching Programme)」(海外青年を日本の各地方自治体に招聘し、中・高等学校の外国語指導や国際交流活動に従事してもらうプログラム)では、発足以来、2万人を超える米国、カナダの青年が来日し、地域レベルでの国際交流に大きく貢献している。また、国際交流基金の日米センターでは、日米の学者・研究者間のセミナー、シンポジウム、共同研究等を通じた知的交流を促進しているほか、草の根交流を支援している。
欧州との交流は、従来より、お互いの伝統文化に対する高い関心に基づく交流が行われてきたが、近年、交流の幅が広がりをみせ、相互の文化を総合的に紹介する大型文化事業が多数行われている。日仏両国首脳間の意見の一致により、97年4月から1年間は「フランスにおける日本年」と位置づけられ、日本の伝統文化から現代日本を幅広く紹介する種々の文化事業が行われ、98年4月からは「日本におけるフランス年」が幕を開ける。また、97年5月にはパリ日本文化会館が開館し、日仏のみならず日欧の文化交流の拠点となることを目指し、多様な文化事業が展開されている。
アジアとの交流は、従来、日本の文化をアジアの諸国へ紹介することが中心であった。これに対し、最近、アジアの一部の国々の間では、日本との間でより対等な関係を基盤とする交流が行われるようになってきている。例えば、インドネシア政府は民間の協力を得て、97年8月から11月にかけて、日本で古代王朝宝物展を始めとする総合的な文化紹介事業(インドネシア日本友好祭’97)を行った。また、ASEAN諸国との間では、橋本総理大臣の提案による多国籍文化ミッション(日本とASEAN各国の有識者からなるミッションが日・ASEAN間の文化交流に関する提言を行う)など、多面的、多角的な交流を促進する新たな試みも見られるようになった。また、アジアと欧州間の対話と交流を促進すべく、アジア欧州会合(ASEM)のフォローアップとして、第一回アジア欧州ヤングリーダーズシンポジウムを3月に東京及び宮崎で開催した。
(4)国際交流の更なる展開
97年に設立25周年を迎えた国際交流基金は、国際交流の実施に当たり、中核的役割を担っている。しかし、国際交流基金の現在の体制(97年度の予算:206億円、海外事務所:18ヶ所)は、国際交流の重要性の高まりに比べて、必ずしも十分とはいえない。ブリティッシュ・カウンシル(英国)やゲーテ・インスティテュート(ドイツ)等の海外の類似機関と比較しても不十分である。今後、一層の効率的、効果的な事業実施を図るとともに、実施体制の更なる強化を図ることが重要な課題である。
また、国際交流基金の主要な事業の一つである海外での日本語普及については、日本語国際センター(浦和)に加えて、5月には関西国際センターの活動を開始し、日本語普及の強化を図っている。
留学生交流については、21世紀初頭における「留学生受入れ10万人計画」のもとに、積極的に取り組んでいるが、近年、私費留学生数が伸び悩んでおり、国内外の受入れ体制の整備等に努めていくことが重要となっている。また、知日家を形成する方途の一つとして帰国留学生の同窓会作りの支援も重要である。
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