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96年は、冷戦後の新たな国際秩序の形成に向けて国連の活動への一層の期待が高まる中で、財政危機がさらに深刻化し、国連の活動の効率性の向上及び組織強化のための「国連改革」が中心に議論された年であった。 政治分野では、安保理改革については総会の作業部会において集中的な議論が行われたが、常任理事国の拡大に当たっては日独のみならず開発途上国をも常任理事国に加えるべしとの認識が広まる中で、途上国部分の拡大の具体的方法に関し議論が収斂していない。他方、3年の議論を経て論点がほぼ出そろった中で、早急に本格的交渉に入らない場合には、改革の機運が失われる可能性があるとの認識が高まってきている。 軍縮分野では、ジュネーブ軍縮会議での包括的核実験禁止条約最終交渉テキストが第50回国連総会再開会期に持ち込まれ、同条約は9月10日に圧倒的多数で採択された。9月24日の署名式では、国連総会に出席した橋本総理が署名した。通常兵器軍縮の分野では、対人地雷の全面禁止を求める声が高まり、総会で効果的な対人地雷全面禁止条約を求める決議が圧倒的多数で採択された。 平和維持活動(PKO)については、クロアチア及びハイティで従来展開していたPKOを実質的に引き継いだ形で新たなミッションが派遣された。地域紛争処理における国連の能力の限界という問題は依然抱えつつも、グァテマラ、シエラ・レオーネ等で和平合意が成立し、新たな平和維持活動への期待が高まっている。また、国連の緊急展開能力を強化するための方策も徐々に拡充されてきている。 経済社会分野では、日本は国連における最重要課題の一つは開発問題であるとの認識の下、国連の場において積極的なイニシアチブをとった。具体的には「開発のための課題」作業部会(総会の下に設置)、経社理、UNDP、UNICEF等の場において、開発のためのパートナーシップの強化、南南協力の推進等を提唱した。また、日本は、アフリカ開発の重要性に鑑み、9月に行われた国連アフリカ新アジェンダ中間レヴュー委員会の議長を務め、過去5年間の議論を踏まえた提言の取りまとめに積極的な役割を果たし、高い評価を得た。更に、新開発戦略の考え方の浸透を図り、各国の国連常駐代表等の参加を得て、3月に開発戦略に関する東京会議、8月にアフリカ開発戦略に関するハイ・レヴェルセミナーを日本で開催した。 人道支援活動については、モザンビーク、インドシナ等の成果はあるも、世界各地において人道緊急事態が発生しており、国連を中心とする国際社会が効果的かつ迅速に対応することが、ますます重要となっている。そのため、国連では、各人道支援機関の調整強化が進められている。また、95年の地雷に関する国連会議を契機として、地雷問題に対する国際的な関心が高まり、各国で地雷除去技術等に関する会議が開催されている。 行財政分野では、分担金未払い等による深刻な財政困難が続いている。12月末の時点で、分担金未払い額は22億ドルである。また、通常予算勘定は1.95億ドルの赤字である。平和維持活動予算勘定は9.1億ドルの黒字であるが、これは部隊・機材を提供している加盟国に対する償還が9.9億ドル分遅延していることによるものである。94年12月に総会の下に設置された財政状況に関する作業部会は、財政問題解決のための包括的措置につき合意するため、96年も審議を継続したが、結論は出なかった。国連本来の機能を損なうことなく、予算規模の抑制、効率性の向上を図ることが重要な課題である。 10月21日、安保理非常任理事国選挙が行われ、日本は142の支持票を獲得し、国連加盟国中最多の8回目の安保理入りを果たした。他に、コスタリカ、ケニア、ポルトガル、スウェーデンが新非常任理事国に選出された。今次選挙の勝因としては、国際社会における日本の地位の向上、アフリカを中心にとってきた冷戦後の新しい開発戦略に向けてのイニシアチブが高く評価されたことなどが指摘される。日本としては、各国の期待に応え、97年より2年間の任期中、安保理における活発な活動と共に、安保理の外においても国際社会のリーダーとしてイニシアチブを発揮して国際の平和と繁栄の為に貢献することが重要である。 |