(1) 国際文化交流・国際文化協力の必要性
国際社会が相互依存を深め、諸国民の交流が一層盛んになる中、各国民が相互に信頼、協力し合える基盤となる、共通の理念を探究する必要性が高まりつつある。その一方で各国、民族に固有の文化は、各国・民族のアイデンティティーの重要な要素であるとともに、世界の発展のエネルギーとなるものであり、国際社会における豊かな文化的多様性を維持し、多様な文化の共生に向けての方途を模索することもまた必要である。このような文化的多様性の下での協調を目指すためには、多国間の対話や人的交流をより一層拡充するとともに、固有の文化を守る努力を互いに理解、尊重し、さらに積極的な協力を行っていくことが大切である。また、国際的な相互信頼の基本には、二国間の交流を通じた相手に対する理解が不可欠であるが、諸外国の対日観が現代日本を的確に捉えたものでないことが時折見られることにかんがみれば、従来通りの二国間の交流を進めていくこともまた重要であることに変わりはない。
文化交流の重要性は3月のアジア欧州会合(ASEM)、4月のクリントン米大統領訪日、6月の日韓首脳会談、10月のコール独首相来日、11月のシラク仏大統領訪日などあらゆる首脳会談においても言及されている。このような観点から、日本は以下のような様々な国際文化交流、文化協力を推進してきている。その際、日本政府は、海外に18か所の事務所を持ち、国際文化交流の中核的役割を担う国際交流基金と緊密に連携するとともに、民間レベルの幅広い交流を支援していくとの観点から、非政府セクターとの連携にも努めている。
(2) 多様性の下での多角的協力の推進
[多国間の対話]
政府は民間セクターと連携しつつ、多国間にまたがる様々なレベルでの対話を支援している。95年10月に設立された国際交流基金アジア・センターは、特にアジア地域の多国間の知的交流を、事業の三本柱の一つとしている。また、日本で実施される初の ASEM のフォローアップ措置として、97年3月には、様々な分野で活躍するアジアと欧州の各界の青年指導者が21世紀に向けたアジア欧州間協力のあり方を討議する新しいタイプの青年交流会議「アジア欧州ヤングリーダーズシンポジウム」が、宮崎及び東京で開催される。
[文化財の保存と各国の文化振興への協力]
世界各地の遺跡や文化財、伝統文化は、急速な経済発展や社会変化に伴い、失われる危機に直面しているものも多い。こうした有形・無形の文化財を保存し次世代に伝えるため、日本政府は、ユネスコに89年に設立された文化遺産保存日本信託基金を通じて、カンボディアのアンコール遺跡や中国の大明宮含元殿など、アジア地域を中心に遺跡保存協力に取り組んでいる。特にアンコール遺跡については、人的貢献を重視し、現在、建築学、考古学などの分野の日本人専門家がカンボディア人専門家とともに遺跡保存活動を展開している。また、93年度より、ユネスコの無形文化財保存・振興信託基金に拠出を行い、舞踊、音楽、漆芸、陶芸など主にアジアの無形の伝統文化財の保存に努めている。さらに、在外の日本古美術品の保存修復に対する協力も行っている。
また、日本政府は、開発途上国が文化活動や教育活動の振興、文化財の保存に必要な資機材を購入するための資金を供与する文化無償協力を実施しており、95年度には合計53件、総額25億円の供与を行った。また、開発途上国における文化にかかわる様々な分野での人材の育成に協力するため、日本の専門家の派遣及び海外の専門家招聘を実施している。
(3) 二国間交流の一層の進展
[文化の相互紹介]
日本政府は、海外における日本文化の紹介及び国内における海外文化の紹介にも協力している。具体的には、現地の大使館が日本武道実演、日本人形展などの行事を開催しているほか、国際交流基金を中心に、舞台芸術の紹介、展覧会の開催、日本のテレビ番組・映画の放映の促進などの事業を行っている。96年には、多様な日本文化紹介行事を組み合わせた「SUN & STAR'96(米国)」などの開催を支援し、総合的な日本文化紹介に努めた。また、97年には日本が海外に有する最大規模の文化施設として、パリ日本文化会館が開館し、欧州における日本文化紹介の拠点として多様な文化事業を展開する予定である。
[日本語教育・日本研究支援]
93年の調査によれば、海外の99の国や地域で約162万人が日本語を学習している。日本政府は、国際交流基金を通じ、海外における日本語教育の一層の普及を図るために、日本語教育専門家の海外派遣、海外の日本語教師の日本での研修及び教材の寄贈などを行っている。こうした事業を更に効果的に行うため、専門的な日本語研修を行う施設として国際交流基金関西国際センターが12月に建設されたほか、海外の日本語センター(96年末現在6か所。7か所目のセンターとして、ロンドン日本語センターが97年3月に開設予定)の充実も図られている。
海外での日本研究は、従来からの文学、歴史といった分野に加えて、経済学など現代日本を対象とした分野へと多様化しており、これを支援することは海外での対日理解を促進する上で重要である。このような観点から、日本政府は、国際交流基金を通じ現地の大学・研究機関への客員教授及び講師の派遣、研究者の招聘などの事業に取り組んでいる。
[人物交流]
人物交流は相互理解の礎であり、青年層、各国を代表する有識者、スポーツ関係者など幅広い人物交流が行われている。
95年の調査(文部省調べ)では5万人以上の留学生が日本で学んでいるが、留学生の受け入れは、相互理解、友好親善に寄与し、日本の良き理解者の育成に資するものであり、政府は様々な形でこれを支援している。また、「JET(Japan Exchange and Teaching)プログラム」は96年に創設10周年を迎えた。このプログラムを通じて、過去10年間でのべ3万人以上の外国青年が来日し、全国の中・高等学校における外国語指導などに従事し、地域レベルでの国際交流に大きく貢献している。
日本政府はスポーツを通じた交流にも力を入れており、スポーツ専門家の派遣や招聘を行っているほか、98年2月に開催される長野オリンピック冬季競技大会や日韓両国の共催となった2002年FIFA ワールドカップなど、主要な国際スポーツ大会開催も支援している。
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