6.中近東
   (1) 最近の中東情勢と池田外務大臣の中東訪問
 中東地域は、日本の原油輸入の約8割を供給しており、エネルギーの安定供給の上で死活的な重要性を有しているのみならず、国際社会全体の平和と安定にとっても極めて重要な地域である。このような認識から、日本は、中東地域の国々との関係の一層の強化に取り組むと同時に、この地域の平和と安定の確保のために積極的に関与している。その一環として、池田外務大臣は、8月21日より27日まで、エジプト、シリア、ジョルダン、ガザ地区、イスラエルを訪問し、中東和平当事者の首脳や外相と会談し、中東和平の実現に向けた日本の協力などを説明しつつ、和平プロセスの速やかな前進に向けたそれぞれの努力を慫慂した。(中東和平の詳細については第2章第1節3.(3)参照。)

池田外務大臣の中東訪問(ムバラク・エジプト大統領との会談)(8月)

池田外務大臣の中東訪問(ムバラク・エジプト大統領との会談)(8月)

   (2) イラク、イラン
 イラク及びイランの情勢は、前述の中東和平問題と並んで、中東における不安定要因の一つである。
 イラク国内では、6年以上にわたる国連制裁の結果、物資不足やインフレなど経済状況の悪化が進んだが、フセイン政権は依然として国内掌握力を有していると見られる。また、食糧や医薬品等の人道物資購入を可能とするためにイラクの限定的石油輸出を認めた安保理決議986(95年4月採択)は12月に実施に移され、90年8月のクウェイト侵攻以降停止していたイラク石油の輸出が部分的ながら厳重な国連の監視の下に再開された。他方、イラクは大量破壊兵器廃棄活動を実施している国連特別委員会(UNSCOM)による査察活動を妨害したほか、8月末には国際社会の懸念にも拘わらず軍を北部イラク・クルド地域に進攻させ、米軍によるイラク軍事施設の攻撃を招来した。日本は、湾岸地域の平和と安全を回復するためには、イラクが関連安保理決議を完全に履行することが不可欠と考えており、再三にわたりイラクに対し決議の履行を求めている。
 イランでは、経済再建重視の「現実派」と、イスラム教義の厳格な実施を主張する「保守派」の間の対立と妥協の中で政策決定が行われている。国際社会には、中東和平反対、国際テロへの関与など、イランの行動に対する懸念が存在し、特に米国は、イラクに加えてイランを厳しく封じ込めるいわゆる「二重封じ込め政策」をとっている。これに対し、欧州諸国の多くは、イランに対しいわゆる「批判的対話」の政策をとっている。日本としては、イランの孤立化は望ましくなく、国際社会に存在する懸念を具体的行動をもって払拭するようイランに強く申し入れつつ現実的政策を助長する必要があるという立場をとっている。

   (3) GCC諸国
 日本は、サウディ・アラビア、アラブ首長国連邦、カタル、クウェイト、オマーン、バハレーンのGCC(湾岸協力理事会、本部リアド)6か国からだけでも原油輸入の70%近くを依存している。これら諸国とはエネルギーの取引関係の維持だけでなく、要人往来の活発化を通じた政治対話の拡充、投資を含めた経済技術協力の充実、文化交流などの幅広い関係の強化を図っていくことも重要である。