2.北米
   (1) 米国
[米国内政-大統領選挙を中心に-]
 95年以来のクリントン政権と共和党議会の間の予算協議の膠着は、同年末からの2度目の政府機能の一部停止が越年する事態となった。最終的には妥協が成立したが、民主党側の攻撃もあり、その「行き過ぎ」のゆえに共和党の人気は低落していった。他方、共和党の極端さを批判しつつ、中道姿勢を明らかにしたクリントン大統領の支持率は上昇した。その後、議会共和党は、選挙を念頭に、無為の議会という批判を回避するため、夏前から懸案事項の成立に向け努力し、最低賃金法、福祉制度改革法、医療保険改革法などが成立した。
 こうした政局展開の中、大統領選挙については、民主党側は、クリントン大統領が早期に選挙態勢を整え、党内からの挑戦を受けることなく民主党大統領候補の指名を確実にした。共和党側は、有力視されていたドール上院議員(6月に議員辞任)が指名争いの決着に手間取り、また、第3党から出馬したペロー候補の動向も注目されたが、3月頃には、クリントン大統領対ドール候補の構図がほぼ確定した。クリントン大統領は終始優位に選挙戦を展開し、11月の一般投票で再選された。また、共和党の不人気を背景に民主党が一院なりとも奪回するかが注目された議会選挙では、共和党が両院で議会多数党の地位を維持する結果になった。
 クリントン大統領勝利の要因・背景については、まず、米国経済の好調が継続し、96年中頃よりその認識が国民の間でも広まり、現職支持の底流になったこと、また、同大統領の巧みな選挙運動や中道路線、「21世紀への架け橋」の構築という未来志向の主張を、教育減税など国民の身近な問題に応える政策の発表とともに行ったこと、そしてドール候補が明確なビジョンを打ち出せず、その選挙運動が最後まで勢いを得られなかったことなどが指摘されている。
 同時に行われた議会選挙の結果については、個々の選挙区事情や民主党に現職不出馬の議席が多かったことなどに加え、好調な経済を反映した現状維持志向や夏以降の共和党の柔軟な姿勢、さらにクリントン大統領再選の見方が強まっていく中で、有権者が民主党大統領と共和党議会によるバランスを期待したとの見方がある。投票率が50%を割ったことに見られるように全般的に有権者の関心が低かったことに加え、大統領の得票率が50%に至らなかったこと、共和党も上院では議席を増やしたものの、下院では9議席減となったことから、単なる現状肯定ではないとみられている。
 第2期クリントン政権の発足(97年1月20日)に向け、選挙後は、閣僚・スタッフ等人事の入れ替えが順次発表されるとともに、中道路線の継続を確認し、政策課題のうち、内政・経済面では、メディケア(高齢者・障害者医療保険)やメディケイド(低所得者医療扶助)の改革を含む財政均衡の実現を引き続き重視しているほか、教育改革を主要課題として取り組んでいく姿勢を明らかにしてきている。この他、犯罪対策、福祉制度改革、選挙資金改革等の問題を重視することを表明している。
 対外面では、基本的には1期目の政策を継続しつつ、 NATO 拡大、ロシアとのパートナーシップ強化、ボスニア、北アイルランド和平、中国への関与政策、北朝鮮、中東和平、キューバ民主化及び新しい安全保障上の脅威(テロ、国際犯罪、麻薬、大量破壊兵器等)などの主要課題に取り組む旨明らかにしている。
 憲法の大統領三選禁止規定もあり、選挙を気にする必要のなくなったクリントン大統領は、今後は歴史的評価を念頭においた政局運営を展開していくであろうが、共和党議会との関係をいかに扱うか、対外政策面では、内向きと言われる米国の世論及び議会からいかに支持を得つつ政策を運営していくかが注目される。
[米国経済]
 米国経済は安定した成長を続けており、雇用も緩やかな拡大基調を持続している。個人消費、設備投資、住宅投資も堅調に推移しており、物価も総じて落ち着いた動きとなっている。他方、96年度の財政赤字は1,073億ドル(対前年度比34.5%減)と81年度以来の低水準となったが、行政管理予算局(OMB)の見通しによると97年度は1,257億ドルに拡大すると予想されており、今後は景気減速による税収の伸び悩みも予想される中で、財政赤字の削減は厳しいものとなることが予想される。
〈日米間の個別経済問題〉
 96年初め、米側は、日本に対し、半導体、保険、航空、フィルムの4分野に関する協議を提起したが、このうち96年末までに半導体と保険については解決を見ている。
 半導体問題に関しては、日米取極が存在した過去の10年間において日米両業界の密接な協力関係が確立するとともに、半導体産業が急速にグローバル化し、日本市場への参入問題が基本的に解消するなどの変化を踏まえて、8月2日にヴァンクーヴァーにて決着した。協議の結果、日米取極を終了させるなど政府の役割を大幅に縮小し、今後半導体産業が直面する課題への対応は民間部門が主要な責任を担うこととなった。
 保険問題に関しては、2回にわたって決着期限を延長し、12月15日最終決着に至った。決着内容は、自動車保険料率の自由化をはじめとする大胆な自由化措置を打ち出しており、これは2001年までに金融システム改革を完成させるという橋本総理大臣によるいわゆる「ビックバン」構想に沿ったものとなっている。
 航空問題に関しては、95年9月に開始された貨物専用便分野での包括的な交渉が4月に決着し、右決着を踏まえ、日米間の取極が8月に作成された。この結果、日米航空企業間の運航機会の不均衡が大幅に改善されるとともに、新規企業の市場参入が認められるなど、貨物専用便分野における一層の自由化及び競争の促進が図られることとなった。日本政府は、旅客分野においても、両国航空企業の平等な取扱いを前提として一層の自由化を図るとの姿勢で、6月以降、米国との交渉を開始した。双方の立場の違いから、夏以降の交渉が中断されていたが、11月の APEC に際して行われた日米首脳会談において、協議の再開が決定された。
 フィルム問題に関しては、日本のフィルム市場をめぐるコダック社の通商法第301条に基づく申立につき、6月13日、米国政府が、日本政府の慣行は不合理であるとの決定を下した上で、同日、(1)94年 GATT 第23条、(2)サービスの貿易に関する一般協定(GATS)第23条、(3)制限的商慣習に関する GATT 決定(1960年)に基づき、3つの協議要請を行った(但し、(2)においては日本の流通サービスを問題としており、フィルムに限定していない)。日本は、(1)及び(2)についてはこれを受諾し、WTO協定に則った紛争の解決を目指している。(3)については、10月3日、米側協議要請の受諾と併せ日本政府からもこの決定に基づき米国に対して協議要請を行っている。なお、8月7日、コダック社は、独禁法第45条に基づき公正取引委員会に申立を行った旨発表した。
 また、規制緩和に関しては、11月19、20日に日米包括経済協議の下での第9回規制緩和・競争政策作業部会が開催され、米側の規制緩和要望書、日本側の対米関心事項などに基づき実質的な議論が行われた。日本政府としては、規制緩和推進計画改定に関する中間見直し作業などにおいて、作業部会における議論の結果を反映させていくことになる。
 この他、米・ EU WTO に基づく協議を要請した著作隣接権(演奏者、歌手等の実演家及びレコード製作者等の権利)の保護についても、著作権法における著作隣接権の遡及的保護を拡充するとの政策判断から、96年末の臨時国会において著作権法の改正を行い、基本的に決着した。

   (2) カナダ
 カナダでは、クレティエン首相の率いる自由党政権は、引続き雇用創出と財政赤字の削減を最重要課題に掲げ、国民の高い支持を得ている。内政上最大の問題であるケベック州の分離・独立問題も小康状態にあり、ブシャール・ケベック州政権も州経済の再活性化が急務との姿勢を取っている。外交面では、(1)繁栄と雇用の促進、(2)安定した国際的枠組みの中での安全保障の推進、(3)カナダの価値観と文化の推進、を主要目標として、アジア太平洋及び中南米地域に重点を置いている。日加関係も全般的に引き続き順調に推移し、エグルトン国際貿易大臣の訪日(4月)、斉藤参議院議長の訪加(6~7月)、池田外務大臣の訪加(9月)、クレティエン首相の訪日(11月)など要人の往来も活発に行われた。特にクレティエン首相訪日の際には、日加関係の今後の見通しと方向性を記した共同文書が発表された。