2.テロ

[国際協力の強化]
 96年は、スリ・ランカ中央銀行爆破事件(1月)、IRAによるロンドン等連続爆弾事件(2月以降)、イスラエルにおけるパレスチナ過激派による連続爆弾事件(2~3月)、サウディ・アラビア米軍施設爆破事件(6月)、パリの地下鉄爆破事件(12月)などが発生した。さらに、12月17日、在ペルー日本国大使公邸が、MRTA(トゥパク・アマル革命運動)により襲撃・占拠される事件が発生した(この事件については、第1章1.及び第3章3.参照)。
 深刻なテロ事件が続発する中で、テロ対策の国際協力の重要性が強く認識され、リヨン・サミットでは、直前に発生したサウディ・アラビア米軍施設爆破事件を背景として、テロが最重要議題の1つとして取り上げられ、テロとの闘いを国際社会の最優先課題と位置づけるとともに、G7及びロシアの外相及び治安担当相等が参加するテロ閣僚会合の開催を掲げる「テロに関する宣言」が発出された。この閣僚会合は、7月30日にパリで開催され、日本からは池田外務大臣及び倉田国家公安委員長が出席し、テロ対策のための25項目の実践的措置を盛込んだ文書を採択し、国際社会の全ての国々に対し、これらの措置の実施を要請した。
 国連においては、12月に「テロ廃絶措置」に関する総会決議が採択された。なお、25項目の実践的措置の中に掲げられた爆弾テロ条約の作成については、国連総会第6委員会で、97年2月より作業が開始されることとなった。

G7及びロシアによるテロ閣僚会合に参加する池田外務大臣(7月)

G7及びロシアによるテロ閣僚会合に参加する池田外務大臣(7月)

[日本の取組]
 あらゆる形態のテロを非難し、断固としてこれと闘うこと、テロリストに対し譲歩をしないこと、テロリストを裁判にかけるために「法の支配」を適用することは、サミットなどでも累次強調されてきた方針である。日本としても、テロを地球規模の問題と位置づけ、その分野における国際協力に積極的に参画している。まず、95年12月にG7及びロシアが参加してオタワにおいて行われたテロ閣僚級会合において、日本より、生物・化学テロに関する専門家会合の開催を提唱し、96年夏に同会合が開催された。また、4月のクリントン大統領の訪日の際、テロ対策が日米コモン・アジェンダの新分野として追加された。さらに、リヨン・サミットで、橋本総理大臣は、先進国と途上国の双方が参加するテロ・セミナーの開催を提唱し、これを受けて、12月3日及び4日、東京においてアジア・太平洋地域テロ対策国際協力セミナーが、この地域における初めてのテロ分野の地域協力イニシアティヴとして、11か国(日本、米国、仏、カナダ、タイ、カンボディア、フィリピン、ペルー、コロンビア、豪州、ロシア)の専門家の参加を得て開催された。このセミナーでは、地域協力の重要性が指摘されるとともに、大規模なイベントの警備対策について、関係諸国間で経験・情報交換を行っていくことが確認された。  日本赤軍については、メンバー十数名を国際手配しているが、5月及び9月には日本赤軍メンバーがそれぞれペルー及びネパールで身柄拘束された。また、3月にタイで偽造通貨所持及び詐欺容疑で1970年の日航よど号ハイジャック事件の容疑者1名が逮捕され、現在タイで公判が行われている。

   3.原子力安全の確保及び科学技術分野における国際協力

       (1) 原子力安全の確保

[モスクワ原子力安全サミットの開催]
 チェルノブイリ原子力発電所事故の10周年にあたる96年には、国際社会における原子力安全の分野の協力の強化に向けた活発な取組が見られた。まず、4月、モスクワにおいて原子力安全サミットが行われ、G7及びロシアの首脳が原子力の安全及び核物質の安全管理の諸問題について話し合った。その結果、G7及びロシアは、原子力の利用にあたっては安全が最優先されるべきこと、安全を確保する第一義的責任は原子力施設を有する国自身が負うこと、原子力の利用にとって公開性と透明性が重要であることなどの原子力安全の諸原則を確認した。これは、原子力安全の分野において、ロシアを含めた形で国際協力を進めていくことが可能となったという意味で画期的なものであり、この十数年間における国際社会の変化を示す出来事としても象徴的であった。日本が重視している放射性廃棄物の海洋投棄の問題について、ロシアから海洋投棄の禁止に関するロンドン条約付属書の改正を96年中にも受諾するとの発言がなされたが、96年中に受諾はなされなかった。
 また、原子力安全モスクワ・サミットでは、92年のミュンヘン・サミット以降、G7を中心とする諸国が取り組んできた旧ソ連・東欧の原子力発電所の安全確保についても話合いが行われ、G7各国により、これらの諸国の原子力安全の向上のために協力を行う決意が再確認された。特に、サミットの一部に参加したクチマ・ウクライナ大統領がチェルノブイリ原子力発電所を2000年までに閉鎖するという決定を再確認したことは、世界全体の原子力安全の向上にとって大きな意義を有している。日本としてもこのようなウクライナ政府の決定を歓迎しており、他のG7諸国とともに同発電所の閉鎖実現に向けて貢献していく方針である。

原子力安全モスクワ・サミット(4月)

原子力安全モスクワ・サミット(4月)

[原子力安全に関する多国間条約を巡る動き]
 96年には、原子力安全に関する多国間条約をめぐっても、着実な進展が見られた。まず、高い水準の原子力の安全を世界的に達成、維持することを目的とする「原子力の安全に関する条約」が10月に発効した。日本は、95年5月の条約締結以来、条約の早期発効のため、多くの国がこの条約を締結するように働きかけを行ってきており、条約の発効を歓迎している。国際原子力機関(IAEA)においては、現在、放射性廃棄物等の安全な管理の分野において、条約の作成作業が行われているが、日本は、条約が早期に採択されるよう作業に積極的に参加している。

[アジア原子力安全東京会議]
 近年、アジア地域では将来のエネルギー需要の増大を見越した原子力発電の導入、拡充に向けた動きが活発化している。このような情勢を受けて、日本は、11月に、原子力安全の分野での協力を拡充するためにアジア諸国との意見交換を行う目的で、アジア原子力安全東京会議を開催した。この会議の結果、モスクワ・サミットでG7及びロシアが確認した「安全最優先」の理念に従って、安全の重要性がアジア地域においても確認されると同時に、原子力安全の分野での人材の育成のための研修やセミナーの充実、この分野での法制や組織の強化といった具体的協力を実施することで一致した。


   (2) 科学技術分野における国際協力

[科学技術と国際社会]
 環境、エネルギー、食糧問題など、今日の国際社会が直面する種々の課題の解決にあたっては、国際社会が協調し、優れた科学技術を結集させて対応する必要性がますます高まっている。科学技術の分野で世界の最高水準に達している日本としては、自らの能力に相応しい貢献を行い、こうした問題の解決に向けて重要な役割を果たしていくことが期待されている。
[二国間及び多国間の科学技術協力]
〈二国間協力〉
 日本は、約20か国との間に科学技術協力協定を有しており、これらの国を中心に、定期的に二国間会合を開催して科学技術協力を促進するための協議を行っている。11月には、新たにオランダとの間で両国間の科学技術分野における協力を一層推進するため科学技術協力協定を署名した。
 また、日本は、従来の科学技術協力協定の下での活動に加え、時流に沿った科学技術情報の交換や意見交換を各国との間で積極的に行っている。8月には、米国との間で、全世界的衛星測位システム(GPS)に関する協力関係の構築を目標として、第1回の協議を行った。

〈多国間協力〉
 近年、複数の国が共同で行う大規模な科学技術研究(メガ・サイエンス)を始め、多国間での科学技術協力の重要性が高まっている。旧ソ連の大量破壊兵器関連の科学者に対して平和目的の研究プロジェクトを提供するために、日本、米国、EU、ロシアの参加の下で設立された「国際科学技術センター」は、96年には120件を越えるプロジェクトに対する約4千万ドルの支援を決定した(うち、日本は18件のプロジェクトに対し、約400万ドルを支援)。
 また、日本は、新たなエネルギーの開発を目指した国際熱核融合実験炉(ITER)の共同研究開発プロジェクトにおいても、米国、EU及びロシアとともに協力を進めている。
 ライフサイエンスの分野においては、G7、EU、スイスとともに、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)を実施しており、リヨン・サミットにおいても、このプログラムの今後の進展に対し各国首脳の期待が表明された。
 また、宇宙開発分野に目を向ければ、8月に、日本が開発した衛星に日本、米国、仏の観測機器を搭載した地球観測衛星「ADEOS(アデオス)」が、国産のH-IIロケットにより打ち上げられた。
 日本は以上のような先進国との協力のほか、開発途上国との間でも科学技術協力を進めている。11月にはAPEC第2回科学技術協力大臣会合において、18か国・地域の代表とともに、科学技術分野での国際的な人材交流の活性化を謳ったソウル宣言を採択した。

   4.環境問題

[国際社会による環境問題への取組]
 人類全体の生存に影響を与える地球環境問題解決のためには、各国ごとの努力だけでは不十分であり、グローバル及び地域的な取組が不可欠である。地球環境の破壊は、現時点では目に見えない場合でも、数十年あるいは数百年後に現実の脅威となる性質を有しており、長期的な観点からの取組が必要である。また、環境問題は、経済や社会の開発、発展と表裏一体の関係にあり、異なる発展段階と経済情勢にある各国が協調行動をとることは容易ではない。従って、外交努力により国と国の間の認識の相違や利害の対立を調整し、もって全地球的、長期的な観点から適切な取組を行っていくことが必要である。
 こうした中、国際社会は、92年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED、いわゆる「地球サミット」)の成果である「環境と開発に関するリオ宣言」及び「アジェンダ21」を出発点として、さまざまな取組や議論を行っている。特に「アジェンダ21」については、国連経済社会理事会の下部に設置されている「国連持続可能な開発委員会(CSD)」において、定期的にレビューや意見交換が行われている。また、97年6月には、地球サミット以降の様々な取組を包括的にレビューするための国連特別総会も予定されており、この総会を一つの節目として、地球サミットでの成果を更に前進させるための努力が続けられている。
 具体的には、地球温暖化問題については、既存の条約では決まっていなかった2000年以降の温室効果ガスの取扱いに関する検討が行われており、97年12月に京都において開催される予定である気候変動枠組条約の第3回締約国会議で結論を出すべく、各国が努力している。砂漠化の防止については、砂漠化防止条約の締約国が9月に50か国に達し、12月に条約が発効した。生物多様性の保全については、生物多様性条約に基づいてバイオセイフティに関する議定書の検討が開始されたところであり、オゾン層保護問題に関しても、11月、途上国の脱フロン化などのため、オゾン層保護基金に対し、97年から99年にかけての3年間で先進国より5億4千万ドルを拠出することが決定された。

[日本の協力]
 このように様々な分野で国際社会の努力が進展する中で、日本としても地球環境問題を外交の主要課題として位置づけ、最大限の努力を行ってきている。
 第一に、前述の気候変動枠組条約第3回締約国会議については、同会議の持つ特段の重要性にかんがみ、7月の第2回締約国会議において開催国に立候補し、承認された。地球温暖化対策は、各国の経済的な利害も複雑に絡み合うため、その調整は容易ではないが、開催国として、将来の地球温暖化対策のため、地球温暖化防止上、効果があり、公平でかつ実行可能な合意がなされるよう努力していく必要がある。
 第二に、政府開発援助(ODA)を通じて、国際社会が直面する環境問題に対し協力を行っている。日本は、自らが公害問題に苦しみ、それを克服した背景を有するが、92年6月に閣議決定したODA大綱において、「環境の保全」を基本理念の一つと位置づけるとともに、ODAを実施する際には、環境と開発を両立させることを原則としている。92年の地球サミットにおいて、日本は92年度より5年間で環境ODAを9千億円から1兆円を目途に拡充・強化する旨表明したが、95年度までの4年間の累積額が約9800億円となったことにより、1年前倒しでこの目標を達成した。日本の環境ODA政策においては、開発途上国との政策対話を重視しており、例えば5月には、北京において、関係省庁、地方公共団体、民間団体の参加の下、第1回日中環境協力総合フォーラムを開催し、中国との政策対話を強化している。また、環境問題の解決のためには、開発途上国を始め各国・地域の環境対処能力の向上を図ることが必要であるとの観点から、中国、タイ、インドネシアに「環境研究研修センター」を設置し、このセンターを通じて技術協力を実施している。
 第三に、日本は、以上の二国間協力に加え、国際機関との協力関係も重視している。例えば、国連環境計画(UNEP)との関連では、「UNEP国際環境技術センター」を日本(大阪及び滋賀)に誘致し、プロジェクトなどへの経費支援も行っており、また、11月には、東京の国連大学において日本海及び黄海の海洋及び沿岸域の環境保全を目的とした北西太平洋地域海計画第2回政府間会合(国連環境計画(UNEP)主催)を開催した。開発途上国の地球環境問題に対する取組の支援のための基金として設立された「地球環境ファシリティ(GEF)」についても、日本は、設立当初より積極的に支援してきており、94年7月から3年間の第一次増資においては全体額の約20%である約450億円を拠出した。

   5.人口、エイズ

   (1) 人口

 世界の総人口は、現在約58億人を数え、2025年には約83億人、2050年には約98億人に達するものと予測されている。開発途上国では、人口の急増が、食糧不足、雇用問題、都市への人口集中によるスラムの拡大を招くなど、経済・社会開発の阻害要因となる一方、先進諸国では、高齢化並びに開発途上国からの人口移動などの問題が生じている。また、人口の増加はエネルギー消費の拡大と相まって、緑地の砂漠化や地球の温暖化などの環境問題の一因ともなっている。深刻化する人口問題に対応するために94年9月にカイロで開催された国際人口・開発会議(ICPD)においては、家族計画、母子保健の促進、人口問題と環境との関わり、女性の権利と地位の向上などの重要かつ新しい分野における取組の指針を含む「行動計画」が採択された。
 日本は、ICPDに先立ち、94年度から2000年度までの7年間で人口・エイズ分野においてODA総額30億ドルを目標に開発途上国援助を行う「地球規模問題イニシアテイヴ」(GII)を94年2月に発表した。GIIの実施にあたっては、母子保健や家族計画など人口問題に直結する分野での協力に加え、人口問題が経済・社会開発問題全体に深く関わっているとの認識から、基礎的保健医療、初等教育、女性の地位向上なども含んだ包括的アプローチが採用されており、94年度から96年度までの2年間で、既に約10億ドルの援助が実施されている。また、日本は、多国間の協力にも積極的に貢献し、86年以降、国連人口基金(UNFPA)及び国際家族計画連盟(IPPF)に対する第1位の拠出国である。


   (2) エイズ

 エイズを取り巻く現状は深刻であり、国連エイズ合同計画(UNAIDS)の96年報告によれば、70年代後半から94年末までのエイズ感染者は総計2,800万人にのぼり、その9割以上が途上国に存在している。エイズ問題は、女性・子供の人権、麻薬、途上国の開発などの問題と密接に関連しており、国際社会はその解決に向けて包括的かつ効果的な取組を実施する必要がある。このため、1月、エイズ対策に取り組む国際諸機関の調整役としてUNAIDSが発足した。  日本は、前述の通り「地球規模問題イニシアテイヴ」(GII)を発表しエイズ問題に取り組んでおり、UNAIDSに対しては、人的、財政面で支援を行っている。95年度にはUNAIDSへの支援を含め、エイズ問題への取組として、12億円以上の開発途上国支援を行った。

   6.国際犯罪、麻薬

   (1) 国際犯罪

 近年、組織犯罪・経済犯罪等の国際犯罪が活発となっており、国際社会の共通の課題として各国の協力体制の一層の強化が進められている。リヨン・サミットにおいて採択された、「国際組織犯罪対策に関する40の勧告」を受けて具体的な方策を協議するため、10月、サミット参加国による国際組織犯罪上級専門家会合が開催された。日本はこの会合の後、「銃器の不正取引に関する勧告」の一環として、11月、各国の銃器問題担当者による銃器対策会議を東京で開催した。
 また、日本は、92年の国連犯罪防止刑事司法委員会発足時より連続してこの委員会のメンバーとなっている。さらに、10月には、兼元警察庁国際部長が国際刑事警察機構(ICPO)総裁に選出され、国際犯罪対策における日本の役割がますます期待されている。


   (2) 麻薬

 世界の主要薬物の押収量については、ヘロインは近年20~30トン台で横ばいであるが、モルヒネは中近東と欧州で、あへんは南北アメリカ及び欧州でそれぞれ急増している。コカインは近年300トン前後で横ばいで、その90%以上が南北アメリカで押収されている。大麻及び大麻草の押収量は増加しており、大麻草はアフリカ及び南北アメリカで大麻樹脂は欧州、中近東でそれぞれ押収されている。
 近年薬物の乱用と不正取引が世界中に蔓延し深刻な問題となるとともに、薬物問題に関する地球規模での協力の強化の必要性が強調されている。特に、国連(国連薬物統制計画:UNDCP)などの国際機関が中心となった取締り、押収、訓練及び教育等の薬物統制分野でのプロジェクトは、日本を始め先進ドナー国から評価と支持を得ている。日本はUNDCPの活動を支援するため、91年の発足から継続して積極的な拠出に努めている。このほか、日本は薬物に関する先進ドナー国間協議フォーラム(ダブリン・グループ)への参加に加え、麻薬対策についての勧告を目的とするコロンボ・プラン及び米州機構全米薬物乱用取締り委員会(OASCICAD)に対する資金拠出などの貢献も行っている。
 さらに、96年には、薬物犯罪取締セミナーを日本で開催したほか、日米コモン・アジェンダの一環として開催された第6回次官級全体会合において、麻薬問題に関するグローバルな日米協力が話し合われた。

   7.世界福祉構想

 リヨン・サミットにおいて、橋本総理大臣は「世界福祉構想」を提唱した。これは、各国が社会保障の分野で知恵と経験を分かち合うことにより持続可能な社会保障制度を確立し、先進国のみならず新興経済国、開発途上国とも知恵や経験を分かち合いながら、それぞれの悩みや問題を解決し、お互いがより良い社会を築き次の世代に引き継いでいけるように貢献しあうという考えである。これに対しG7首脳から支持が得られ、今後は97年のデンバー・サミットなど国際的な場で取り上げていくこととなっている。この構想のフォローアップを行うにあたっては、既にこの分野で作業の蓄積のあるOECDを今後とも活用していくことが有益である。
 日本としては、この構想の東アジアにおける具体化の第一歩として、12月5日、沖縄で「東アジア社会保障担当閣僚会議」を開催した。この構想の具体化の一環として、保健・医療、公衆衛生など広い意味での社会保障分野の国際協力に積極的に取り組んでいくことも日本に期待されている。
   8.国連海洋法条約の締結等

 「海洋法に関する国際連合条約」(国連海洋法条約)及び「1982年12月10日の海洋法に関する国際連合条約第11部の実施に関する協定」(実施協定)は、海洋に関する諸問題について包括的に規律する画期的な条約である。
 国連海洋法条約は、第三次国連海洋法会議の結果、82年に採択され、94年11月に発効した。一方、採択以降に生じた政治的及び経済的な変化に伴い、国連海洋法条約第11部の規定によって設けられる深海底制度の費用対効果について疑問が提起され、多くの先進国が国連海洋法条約の締結に消極的な姿勢をとることとなった。これを受けて、90年から第11部の規定を見直すための交渉が行われた。その結果、実施協定が94年の国連第48回総会再開会合において採択された。
 日本政府は、新たな海洋の法的秩序に早急に参加することが重要との見地から、国連海洋法条約及び実施協定を96年の第136回通常国会に提出し、国会はこれを承認した。これを受け、日本政府は国連海洋法条約及び実施協定の批准書を6月20日に国連事務総長に寄託し、同条約は7月20日に日本について効力を生じた。一方、実施協定も、効力発生のための要件が満たされ、7月28日、日本を含むすべての締約国について効力を生じた。  日本が国連海洋法条約及び実施協定を締結したことは、日本が世界の主要な海洋国家であることにかんがみ、海洋に関する安定的な法的秩序の確立に寄与するとともに、海洋に係る活動を一層円滑にするという見地から極めて有意義である。また、国連海洋法条約及び実施協定は、今後更に締約国数が増加することにより、国際社会においてより普遍的に受け入れられていくものと期待されている(97年3月13日現在の締約国数は、国連海洋法条約については116か国、実施協定については78か国)。
 なお、国連海洋法条約に基づき独のハンブルグに設立された国際海洋法裁判所の裁判官選挙(8月1日実施。21名選出)において、日本が指名した山本草二上智大学教授が裁判官として選出された(任期9年)。