(2) 核兵器及びその他の大量破壊兵器の軍縮・不拡散
核兵器及び他の大量破壊兵器の軍縮・不拡散に関するCTBTの成立以外の主な動きは、以下のとおりである。
[核不拡散条約の無期限延長後の核軍縮]
95年の核不拡散条約(NPT)再検討・延長会議で、日本は、世界の平和と安全にとって、NPT体制を安定的なものとし、核兵器保有国の増加を防止することが不可欠であると考え、NPT無期限延長の決定を支持した。同時に、日本は、核兵器のない世界を目指し、核兵器国に対しNPT第6条の核軍縮義務を誠実に履行するよう強く訴えてきた。日本としては、冷戦後の核軍縮の流れを維持・促進するためには、核兵器国と非核兵器国との間の建設的な対話・協力が不可欠であると考えており、その意味で、2000年のNPT再検討会議に向けて97年から開始される準備プロセスを重視している。このプロセスの円滑な開始を期すため、日本は、12月に京都で主要国を集めた「NPT延長後の核軍縮セミナー」を開催した。
[核兵器の究極的廃絶に向けた核軍縮に関する決議]
日本は、96年の第51回国連総会においても、94年、95年に引き続き「核兵器の究極的廃絶に向けた核軍縮に関する決議」を提出し、この決議案は賛成159、反対0、棄権11の圧倒的多数の支持を得て採択された。96年の決議において、日本は、この1年間の核軍縮・不拡散分野における動きを踏まえた上で、95年の決議をさらに一歩進め、97年から開始されるNPT再検討プロセスの円滑な開始のため最大限の努力を傾けるよう各国に呼びかけた。この決議が一昨年、昨年に続き多数の国の支持を得て採択されたことは、核兵器のない世界を目指して現実的かつ着実な核軍縮努力を積み重ねていくことが重要であるとの日本の考えが、広く国際社会に受け入れられていることを示すものである。
[非核地帯条約をめぐる動き]
3月25日、米国、英国、仏が「南太平洋非核地帯条約」(いわゆる「ラロトンガ条約」85年署名、86年発効)の議定書に署名し、4月11日、 アフリカ諸国42か国が「アフリカ非核兵器地帯条約」(いわゆる「ペリンダバ条約」)に、また、米国、英国、仏及び中国が同条約の議定書に署名した(ロシアは、11月5日に同議定書に署名した)。
[核兵器使用の違法性に関する国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見]
7月8日、国際司法裁判所(ICJ)は、国連総会から求められていた核兵器使用の違法性に関する勧告的意見を出した。この勧告的意見は、その主文となる第105パラグラフにおいて、概ね[1]国際法上、核兵器による威嚇またはその使用を明示的に許可したり、これを包括的に禁止する規定は存在しない、[2]核兵器による威嚇またはその使用は、国連憲章上の自衛権行使の要件に合致し、国際人道法等に適合しなければならない、[3]核兵器による威嚇またはその使用は、武力紛争時に適用される国際法の規則、特に人道法の原則と規則には一般的には相容れないが、国家の存続自体が問題となるような自衛の究極的状況における威嚇または使用が、合法か違法かについて判断できない、[4]厳格かつ効果的な国際管理の下で、核軍縮に向けての交渉を誠実に行い、交渉を妥結する義務が存在する等としている。この勧告的意見では、核兵器使用の違法性について国際法上の観点から多面的かつ詳細な議論が展開されており、また、多くの個別意見、反対意見が付されている。このことは、国際社会において、この問題に関し多様な意見が存在することを反映したものであると考えられる。
[米露間の核軍縮]
第1次戦略兵器削減条約(START I)は、94年12月に発効した。この条約に基づき、米露両国により核兵器の解体が進められており、また、95年4月にはカザフスタン、96年6月にはウクライナ、同年11月にはベラルーシにそれぞれ配備されていた核弾頭がロシアへ移送され、これら3か国からの核弾頭の移送が完了した。
更なる削減を定める第2次戦略兵器削減条約(START II)については、米国は1月に批准しており、ロシアの早期批准による発効が期待されている。
[化学兵器禁止条約]
化学兵器の廃絶を目指す包括的な条約である化学兵器禁止条約(CWC)は、93年1月に署名のため開放されたが、10月のハンガリーの批准書寄託により、97年4月29日に条約が発効することが確定した。現在、その発効に向けて、化学兵器禁止機関(OPCW)の設立のための準備委員会で、行財政問題、検証手続及び条約発効後開かれる第1回締約国会議に関する検討が行われている。(注1)
[生物兵器禁止条約]
生物兵器禁止条約は、生物兵器の開発、生産、貯蔵、保有等を禁止する条約であるが、成立当時(1972年)から検証規定が存在しないことが大きな欠陥と見なされてきた。このため、91年以降条約を強化するための作業が開始され、93年の専門家による検討結果(科学的、技術的見地から導入可能な検証手段を列挙したもの)を踏まえ、94年新たに設置された専門家会合は、95年1月以降「検証措置を含めた新たな法的枠組み」の作成に関する作業を重ねている。
[大量破壊兵器及びミサイルの不拡散のための輸出管理体制]
大量破壊兵器等の不拡散のためには、単にその保持を禁止するのみならず、新たな取得を防止するための輸出管理体制を整備することが重要である。このような観点から、核兵器、生物・化学兵器及びその運搬手段となるミサイルについては、これらの兵器の製造に使用されうる関連物資と技術に関する国際的な輸出管理体制の下で協調した規制を行っている。核関連品目についてはロンドン・ガイドライン(注2)に基づく原子力供給国グループ(NSG:34か国参加)が、生物・化学兵器関連品目についてはオーストラリア・グループ(AG:30か国参加)が、ミサイルについてはミサイル関連技術輸出規制(MTCR:28か国参加)が存在している。日本はこれらの国際的な輸出管理レジームに積極的に関与しており、特に、原子力供給国グループについては、その事務局を日本の在ウィーン国際機関代表部が引き受けている。
注1: |
化学兵器禁止条約(CWC):化学兵器の開発、生産、保有などの禁止と並んで保有する化学兵器及び化学兵器生産施設の廃棄、科学産業に対する厳格な検証制度、さらには、条約違反の疑いがある場合には、締約国の要請により、他の締約国において、いつ、いかなる施設に対しても査察を行うことができる制度(申立てによる査察)などを規定。化学兵器を有する国は、条約発効後原則として10年以内に化学兵器の全廃を義務づけられている。
化学兵器禁止機関(OPCW):化学兵器禁止条約の実施を確保し、締約国間の協議及び協力のため同条約に基づきハーグに設置される機関。この機関の技術事務局が締約国への査察の実施にあたる。
|
注2: |
原子力専用品についてはロンドン・ガイドライン・パート1で、原子力・非原子力の両分野に使用される品目については同パート2で規制する。
|
|