2.軍備管理・軍縮の促進及び不拡散体制の強化

 冷戦終結後も、核兵器を始め化学兵器及び生物兵器等の大量破壊兵器の拡散の危険は依然として存在しており、これらの軍備管理・軍縮及び不拡散体制の強化が国際社会全体が取り組むべき課題となっている。

   (1) 包括的核実験禁止条約(CTBT)

[交渉の経緯]
 包括的核実験禁止条約(CTBT)交渉は、94年1月よりジュネーヴ軍縮会議で開始され、95年12月の第50回国連総会決議を受け、96年秋までの交渉妥結を目指し、精力的な交渉が行われた。日本は、交渉の早期妥結のため交渉の場で尽力するとともに、6月に池田外務大臣がジュネーヴを訪問し、軍縮会議参加各国の代表に対し交渉妥結に向けた建設的な対応を呼びかけた。6月末には、条約による禁止の範囲、検証の方法、CTBT機関のあり方など多くの項目についてほぼ意見の一致が見られ、ラマカー核実験禁止特別委員会議長による条約最終案が提示された。

包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名する橋本総理大臣(9月)

包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名する橋本総理大臣(9月)

 ラマカー議長の条約最終案に対してはほとんどの参加国が支持を表明したが、8月の交渉の最終段階において、自国の批准を要件とする条約の発効規定などを不満とするインドなどの反対により、同条約案を採択することについてのコンセンサスが成立せず、軍縮会議において同条約案を採択することは断念された。このため、同条約の成立を望む国際社会の圧倒的多数の意向を背景として、日本を含む127か国が、その採択を求める決議案を第50回国連総会に共同提案した結果、同条約案は、9月11日(現地ニューヨーク時間10日)、圧倒的賛成多数により採択された(賛成158、反対3、棄権5)。また、同条約は、9月24日に署名のため開放され、日本は、米国、中国、仏、ロシア、英国に続き、非核兵器国としては最初の署名国として、橋本総理大臣が署名した。97年2月18日現在、142か国が署名済みであるが、批准書の寄託が発効要件とされている44か国のうち、インド、パキスタン、北朝鮮は未署名である。今後、条約が早期に発効することが重要であり、そのために日本としても国際社会とともに最大限の努力を行っていく方針である。

[CTBTの主な内容]
包括的核実験禁止条約の概要

 CTBTの主な内容は以下のとおりである。
 (イ) 基本的義務:締約国は、核兵器の実験的爆発又は他の核爆発(以下「核爆発」という。)を実施せず、核爆発を禁止し及び防止する。また、締約国は、核爆発の実施を実現させ、奨励し又はこれに参加することを差し控える。
 (ロ) 機関:条約の実施を確保する等のため、CTBT機関を設立し、その所在地をウィーンとする。内部機関として、締約国会議、執行理事会、技術事務局を設置する。
 (ハ) 国際監視制度:核爆発の実施を国際的に監視するため、地震学的監視観測所網等を設置する。
 (ニ) 現地査察:核爆発がこの条約に違反して実施されたか否かを明らかにする等のため、締約国の要請を受けて、執行理事会(51か国)の30以上の理事国の賛成により現地査察の実施が認められる。
 (ホ) 発効要件:96年6月時点の軍縮会議の構成国であり、かつ、国際原子力機関の「世界の動力用原子炉」等の表に掲げられている44か国(核兵器国、インド、パキスタン、イスラエル、日本など)すべてが批准書を寄託した後、180日で効力を生ずる(ただし、署名開放後2年間は効力を生じない。)。また、この条約がその署名開放後3年を経過しても効力を生じない場合には、既に批准書を寄託している国により、条約の早期発効を容易にするための会議を開催し、批准の過程を促進するための措置をコンセンサス方式により決定する。

 

   (2) 核兵器及びその他の大量破壊兵器の軍縮・不拡散

 核兵器及び他の大量破壊兵器の軍縮・不拡散に関するCTBTの成立以外の主な動きは、以下のとおりである。

[核不拡散条約の無期限延長後の核軍縮]
 95年の核不拡散条約(NPT)再検討・延長会議で、日本は、世界の平和と安全にとって、NPT体制を安定的なものとし、核兵器保有国の増加を防止することが不可欠であると考え、NPT無期限延長の決定を支持した。同時に、日本は、核兵器のない世界を目指し、核兵器国に対しNPT第6条の核軍縮義務を誠実に履行するよう強く訴えてきた。日本としては、冷戦後の核軍縮の流れを維持・促進するためには、核兵器国と非核兵器国との間の建設的な対話・協力が不可欠であると考えており、その意味で、2000年のNPT再検討会議に向けて97年から開始される準備プロセスを重視している。このプロセスの円滑な開始を期すため、日本は、12月に京都で主要国を集めた「NPT延長後の核軍縮セミナー」を開催した。

[核兵器の究極的廃絶に向けた核軍縮に関する決議]
 日本は、96年の第51回国連総会においても、94年、95年に引き続き「核兵器の究極的廃絶に向けた核軍縮に関する決議」を提出し、この決議案は賛成159、反対0、棄権11の圧倒的多数の支持を得て採択された。96年の決議において、日本は、この1年間の核軍縮・不拡散分野における動きを踏まえた上で、95年の決議をさらに一歩進め、97年から開始されるNPT再検討プロセスの円滑な開始のため最大限の努力を傾けるよう各国に呼びかけた。この決議が一昨年、昨年に続き多数の国の支持を得て採択されたことは、核兵器のない世界を目指して現実的かつ着実な核軍縮努力を積み重ねていくことが重要であるとの日本の考えが、広く国際社会に受け入れられていることを示すものである。

[非核地帯条約をめぐる動き]
 3月25日、米国、英国、仏が「南太平洋非核地帯条約」(いわゆる「ラロトンガ条約」85年署名、86年発効)の議定書に署名し、4月11日、 アフリカ諸国42か国が「アフリカ非核兵器地帯条約」(いわゆる「ペリンダバ条約」)に、また、米国、英国、仏及び中国が同条約の議定書に署名した(ロシアは、11月5日に同議定書に署名した)。

[核兵器使用の違法性に関する国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見]
 7月8日、国際司法裁判所(ICJ)は、国連総会から求められていた核兵器使用の違法性に関する勧告的意見を出した。この勧告的意見は、その主文となる第105パラグラフにおいて、概ね[1]国際法上、核兵器による威嚇またはその使用を明示的に許可したり、これを包括的に禁止する規定は存在しない、[2]核兵器による威嚇またはその使用は、国連憲章上の自衛権行使の要件に合致し、国際人道法等に適合しなければならない、[3]核兵器による威嚇またはその使用は、武力紛争時に適用される国際法の規則、特に人道法の原則と規則には一般的には相容れないが、国家の存続自体が問題となるような自衛の究極的状況における威嚇または使用が、合法か違法かについて判断できない、[4]厳格かつ効果的な国際管理の下で、核軍縮に向けての交渉を誠実に行い、交渉を妥結する義務が存在する等としている。この勧告的意見では、核兵器使用の違法性について国際法上の観点から多面的かつ詳細な議論が展開されており、また、多くの個別意見、反対意見が付されている。このことは、国際社会において、この問題に関し多様な意見が存在することを反映したものであると考えられる。

[米露間の核軍縮]
 第1次戦略兵器削減条約(START I)は、94年12月に発効した。この条約に基づき、米露両国により核兵器の解体が進められており、また、95年4月にはカザフスタン、96年6月にはウクライナ、同年11月にはベラルーシにそれぞれ配備されていた核弾頭がロシアへ移送され、これら3か国からの核弾頭の移送が完了した。
 更なる削減を定める第2次戦略兵器削減条約(START II)については、米国は1月に批准しており、ロシアの早期批准による発効が期待されている。

[化学兵器禁止条約]
 化学兵器の廃絶を目指す包括的な条約である化学兵器禁止条約(CWC)は、93年1月に署名のため開放されたが、10月のハンガリーの批准書寄託により、97年4月29日に条約が発効することが確定した。現在、その発効に向けて、化学兵器禁止機関(OPCW)の設立のための準備委員会で、行財政問題、検証手続及び条約発効後開かれる第1回締約国会議に関する検討が行われている。(注1)

[生物兵器禁止条約]
 生物兵器禁止条約は、生物兵器の開発、生産、貯蔵、保有等を禁止する条約であるが、成立当時(1972年)から検証規定が存在しないことが大きな欠陥と見なされてきた。このため、91年以降条約を強化するための作業が開始され、93年の専門家による検討結果(科学的、技術的見地から導入可能な検証手段を列挙したもの)を踏まえ、94年新たに設置された専門家会合は、95年1月以降「検証措置を含めた新たな法的枠組み」の作成に関する作業を重ねている。

[大量破壊兵器及びミサイルの不拡散のための輸出管理体制]
 大量破壊兵器等の不拡散のためには、単にその保持を禁止するのみならず、新たな取得を防止するための輸出管理体制を整備することが重要である。このような観点から、核兵器、生物・化学兵器及びその運搬手段となるミサイルについては、これらの兵器の製造に使用されうる関連物資と技術に関する国際的な輸出管理体制の下で協調した規制を行っている。核関連品目についてはロンドン・ガイドライン(注2)に基づく原子力供給国グループ(NSG:34か国参加)が、生物・化学兵器関連品目についてはオーストラリア・グループ(AG:30か国参加)が、ミサイルについてはミサイル関連技術輸出規制(MTCR:28か国参加)が存在している。日本はこれらの国際的な輸出管理レジームに積極的に関与しており、特に、原子力供給国グループについては、その事務局を日本の在ウィーン国際機関代表部が引き受けている。


注1: 化学兵器禁止条約(CWC):化学兵器の開発、生産、保有などの禁止と並んで保有する化学兵器及び化学兵器生産施設の廃棄、科学産業に対する厳格な検証制度、さらには、条約違反の疑いがある場合には、締約国の要請により、他の締約国において、いつ、いかなる施設に対しても査察を行うことができる制度(申立てによる査察)などを規定。化学兵器を有する国は、条約発効後原則として10年以内に化学兵器の全廃を義務づけられている。
化学兵器禁止機関(OPCW):化学兵器禁止条約の実施を確保し、締約国間の協議及び協力のため同条約に基づきハーグに設置される機関。この機関の技術事務局が締約国への査察の実施にあたる。
注2: 原子力専用品についてはロンドン・ガイドライン・パート1で、原子力・非原子力の両分野に使用される品目については同パート2で規制する。

 

   (3) 通常兵器の軍備管理・軍縮

 冷戦終了後の新たな国際環境においては、大量破壊兵器だけでなく、通常兵器についても、その過度の移転と蓄積による地域の不安定化の防止が重要な課題となっている。

[対人地雷問題]
 紛争時に無差別に設置され、その後も放置された対人地雷による文民への被害は深刻であり、人道上のみならず紛争終了後の復興にとっても大きな問題となっている。このため、対人地雷などの規制の強化を目的として、95年9月より特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の再検討会議が開催された結果、5月に同条約の議定書IIの改正が採択され、地雷の使用規制の強化や移譲規制の導入による強化が図られた。近年さらに対人地雷の全面禁止に向けた国際的な努力が必要であるとの国際的世論が高まっており、日本も、リヨン・サミットにおいて対人地雷の全面禁止に向けた国際的な努力を支持する旨表明するとともに、第51回国連総会おいては、効果的な対人地雷の全面禁止のための条約を精力的に追求することを各国に求める決議を共同で提案し、採択された。また、このような規制の強化に加えて、地雷除去活動支援、地雷の探知及び除去のための技術開発、犠牲者支援の分野での取組も重要であり、このような国際協力の強化を目的とした国際会議を97年3月に東京で開催することをリヨン・サミットで表明した。

[国連軍備登録制度]
 軍備の透明性・公開制を向上させることを目的として、日本などのイニシアティヴにより、92年1月に国連軍備登録制度が発足したが、毎年90か国以上が、戦車、戦闘機などの7種類の攻撃兵器の輸出入数量を報告している。この制度については、日本は、ワークショップの開催などを通じて各国の理解と参加を促進するなど、国連軍備登録制度の円滑な運営に大きな役割を果たしている。また、この制度において、軍備保有や国内生産を通じた調達に関するデータの提供は求められていないが、日本は、これも自発的に提供するなど、他国と協力して制度の充実に向けて努力している。

[小火器問題]
 95年1月、ガーリ国連事務総長は「平和のための課題の追補」において、紛争地域で大量に使用され、被害を及ぼしている小火器の規制を「ミクロ軍縮」として提唱した。日本はこの見解に支持を表明し、いまだ特段の措置が取られていない過剰に蓄積された小火器の規制問題を検討するため、国連事務総長の下に専門家会合を設置することを提案した。この専門家会合は、検討の結果をとりまとめて報告書を作成し、事務総長を通じて、第52回国連総会に提出することとなっており、日本の堂之脇外務省参与が同専門家会合の議長を務めている。

[通常兵器及び関連品目の輸出管理体制]
 通常兵器関連品目については、大量破壊兵器の場合と異なり、94年3月末にココム(旧共産圏に対する戦略物資及び技術の輸出規制を目的とした輸出規制委員会)が解消された後、国際的な輸出管理体制は存在していなかったが、2年以上に亘る協議を経て、7月、「ワッセナー・アレンジメント」(注)が、通常兵器及び関連汎用品・技術に関する新たな国際的輸出管理体制として正式に発足した。
 旧ココムが旧共産圏諸国という特定の規制対象を持っていたのに対し、ワッセナー・アレンジメントは、特定の地域を対象とするものではなく、地域の安定を損なうおそれのある通常兵器の過度の移転と蓄積を防止することを目的としている。また、規制対象物資の輸出のために他の参加国の承認を必要としたココムとは異なり、ワッセナー・アレンジメントの下では、対象品目の移転等に関する情報交換を行い、各国が責任ある輸出管理を行うこととなっている。
 ワッセナー・アレンジメントの参加国は日本、米国、欧州諸国、韓国など33か国であるが、旧ココムの規制対象国であったロシア及び東欧諸国も参加している。日本は、冷戦後の国際社会における通常兵器移転の問題への取組を重視し、適切な国際的輸出管理体制の早期発足のために積極的な役割を果たしてきた。


注:協議が行われてきたオランダの地名にちなんだ名称。



大量破壊兵器、ミサイル、通常兵器及び関連物質等の軍縮・不拡散体制の概要

[第三国の輸出管理の整備・強化への協力]
 また、国際的な輸出管理の実効性を高めるため、上記の輸出管理レジームなどは、レジームの非参加国に対しても、輸出管理制度の整備・強化を呼びかけている。日本も、アジア諸国やNIS諸国に対し、セミナーや研修などの実施を通じて、輸出管理分野での協力、対話を進めている。