(10) G7/P8テロ閣僚会合採択文書(仮訳)

(96年7月30日、パリ)

 リヨン・サミットの参加首脳は、テロリズムとの闘いを最優先課題とする決意を表明した。首脳は、全ての国と協力し、国際社会がテロリズムを打破する能力を強化する全ての措置を検討し、実施することを決定した。この目的のため、首脳は、更なる行動を勧告するために彼らの外務大臣及び治安に責任を有する大臣の会合を遅延なく開催することを求めた。
 この決定に従い、我々は7月30日パリにて会合を行った。
 我々は、世界中のテロリズムの新しい傾向の徹底的なレビューを行った。我々は、深い懸念をもって、1996年におけるテロリストによる強力な爆弾の使用に留意した。我々は、テロリズムに弁解はあり得ないという基本的な考えを繰り返す。我々の議論においては、未解決の紛争の永続的解決を確保し得るよう全ての要因を考慮した解決策を見い出す必要性、及びテロリズムの進展を促し得る状況を注視する必要性についての見解の一致が強調された。
 我々は、テロリズムを、その形態がどのようなものであれ、また、動機にかかわらず、非難し、テロリストには何ら譲歩を行わず、そして基本的自由及び法の支配に則して効果的にテロリズムと闘うよう措置を講ずるとのコミットメントが国際社会の中で広まりつつあることに留意した。我々は、1994年12月に国連総会により採択された宣言の中で確認されたように、テロリズムを根絶するという目的を達成するために、国際法と人権の原則及び基準を完全に遵守しつつ、全ての国と共に行動することを決意する。この目的のため、我々は、1995年12月12日のオタワ宣言で定められた方針及びシャルム・エル・シェイク・サミットに引き続いて行われた作業を踏まえ、一連の実践的措置をまとめた。我々は、これらの措置を我々の間で実施することを決意する。
 また、我々は、テロリズムとの闘いに一層の効率と一貫性を与えるために、全ての国に対して、これらの措置を採用するよう奨励する。我々自身の能力をより緊密に集結させるために、我々は、テロ対策の能力、技術及び専門的知識に関する要覧を我々の間で作成し実践的な協力を促進することを決定した。

I.テロリズム防止のための国内的措置の採用

1/対テロ協力及び能力の改善
我々は、全ての国に対し以下を求める。

  1. テロ対策の様々な側面に関係する全ての政府機関の間の相互協力を強化する。
  2. 放射性、化学又は生物物質、若しくは毒素を使用するものを含め、すべての形態のテロ活動を防止するためのテロ対策に係わる人員の訓練を拡充する。
  3. 航空及び海上交通の分野で行われた努力に沿い、また、鉄道、地下鉄、バス交通のような大量陸上輸送手段に対する広範囲に及ぶテロ攻撃を勘案して、関心国の交通保安に係わる政府関係者が、交通手段に対するテロ攻撃を防止、捜査し、及び、これに対処するための政府の能力を改善し、この点に関し他の政府と協力するために協議を直ちに実施することを勧告する。これらの協議には、乗客名簿及び積み荷目録の標準化、並びに爆弾テロの捜査を助けるために車両を特定するための標準的手段の採用が含まれるべきである。
  4. 爆発物及び死傷者を生じさせ得るその他の有害物質の探知方法の研究・開発を推進し、爆発後の捜査において爆薬の製造地を特定するため爆薬に識別策を施すための標準の開発に関する協議を実施し、そして適当な場合には、協力を促進する。
2/テロリストの抑止、訴追及び処罰
我々は、全ての国に対し以下を求める。
  1. 国内法上十分な根拠がある場合には、テロリストが組織、団体又は協会-慈善的、社会的又は文化的目的を持つものも含む-を彼らの活動の隠れみのとして使用することによるこれらの組織等の悪用を捜査する。
  2. テロリストが犯罪行為を実行するために電子又は電信による通信のシステム及びネットワークを使用する危険性及び国内法に従いそのような犯罪を防止する方途を開拓する必要性に留意する。
  3. 火器、爆発物、又は重大な傷害、損害又は破壊をもたらすように作られたいかなる装置であっても、そのテロリストの行為による使用を防止するため、これらの製造、取引、輸送及び輸出を管理する効果的な国内法及び規則-輸出管理を含む-を採用する。
  4. 特に、テロリストの行為が重大な犯罪行為とされ、テロリストの行為の重大性が服すべき判決内容に然るべく反映されることを確保するため、各国の権限の範囲内で、反テロに関する国内法を直ちにレヴューし、必要に応じて改正するよう措置を講じる。
  5. テロ行為の計画、準備又は実行に加わり、或いはテロ行為の支援に加わったとして告訴されたいかなる者も刑事司法手続にのせる。
  6. テロ活動に関与する組織又は個人に対する支援は、能動的なものであれ受動的なものであれ、厳にこれを差し控える。
  7. 特に、合法的通信のプライバシーを保護しつつ、テロ行為を防止又は捜査するために、必要な場合に政府によるデータ及び通信への合法的なアクセスを可能にする暗号化の使用についての協議を、適当な二国間又は多国間の場において、促進する。
3/庇護、国境及び渡航文書
我々は、全ての国に対し以下を求める。
  1. 国境管理並びに身分証明書及び渡航文書の発行管理の強化により、また、虚偽文書の偽造又は使用を防止することにより、テロリスト又はテロ集団の移動を阻止するために強力な措置を講じる。
  2. 政治的庇護及び難民の入国は国際法上正当な権利であることを認識する一方、そのような権利が、テロ目的に利用されないことを確保するとともに、テロ行為を計画し、これに資金を供与し、又はこれを実行する難民及び庇護希望者の問題に対処するため追加的な国際的措置を探求する。
II.テロリズムと闘うための国際協力の強化

4/国際条約及び他の取決めの拡充
我々は、全ての国に対し以下を求める。

  1. 2000年までに、テロと闘うための国際条約及び議定書の締約国となる。これらを実施するために必要な国内法を制定する。テロ行為の首謀者を裁判にかけるための裁判所の権限を確認又は拡大する。又、必要な場合には、これらの目的のために他国政府に対し支持及び援助を提供する。
  2. 必要な場合には、特に二国間及び多数国間の協定及び取決めを締結することにより、捜査及び証拠収集を促進し迅速化するための司法共助手続を整備し、又、テロ行為を防止し、発見するための法執行機関間の協力を進展させる。
      テロ行為が数か国において起きた場合には、管轄権を有する諸国は、テロ集団との闘いをより効果的に行うため、戦略的方法により訴追及び共助手段の使用を調整するべきである。
  3. テロ行為の責任を負う者が刑事司法手続にのせられることを確保するために、必要に応じ、犯罪人引渡条約及び取決めを作成し、また条約が存在しない場合においても、犯罪人引渡の可能性を検討する。
  4. 爆弾テロ又は市民に集団的危険をもたらすその他のテロ行為に関する国際条約の検討及び作成を、既存の多数国間テロ対策条約がこれらの分野における協力について規定していない範囲において、促進する。
      また、その他のテロの脅威に対処するために既存の国際的な文書及び取決めを補完する必要性及び可能性を検討し、必要に応じて新たな文書を採用する。
      爆薬探知の統一的かつ厳格な国際標準を確立するための協議及び空港における追加的な保安強化措置を作成し採択するため現在行われている協議を国際民間航空機関(ICAO)において促進し、既に合意されている、検査手続及びその他の国際民間航空機関(ICAO)の標準の全ての早期実施を求める。
  5. 我々は、生物兵器禁止条約の締約国に対して、来たる再検討会議において、特にテロ目的にこれらの武器が使用されることを排除するために、その領域内及びその管轄又は管理の下にある如何なる場所においても、そのような武器の開発、生産、貯蔵、取得又は保有を禁止し、及び防止するためにいかなる必要な措置をも取るとの条約上の義務の実効的な履行を、国内措置を採用することを通じ、確保するとのコミットメントを確認するよう勧告する。
5/テロリストの資金調達
我々は、全ての国に対して、以下を求める。
  1. 適切な国内措置を通じて、テロリスト及びテロ組織への資金供与を-そのような資金供与が直接的であるにせよ、あるいは慈善的、社会的又は文化的目的をも有する、又は有すると主張する組織、或いは違法武器取引、麻薬売買及び闇取引のような不法行為に従事している組織を通じた間接的なものであるにせよ-阻止するための措置をとる。このような国内措置には、適当な場合には、現金の移転及び銀行の情報開示手続きに関するモニタリング及び管理が含まれ得る。
  2. ある国から送られ、又は別の国で受け取られ、且つテロ活動を実施又は支援する可能性のある個人、協会又は団体を宛先とした国際的な資金の移動に関する情報交換を強化する。
  3. 合法的な資本の移動の自由を決して阻害することなく、テロ組織を宛先としている疑いのある資金の移動を防止するため、規制措置を採用することを適当な場合には、検討する。
6/テロリズムに関する情報交換の改善
我々は、全ての国に対して、以下を求める。
  1. 情報交換及び法的請求の伝達の促進をはかるため、請求の迅速な調整を行うための中心的機関を定める。但し、このような中心的機関は、各国間の共助の唯一のチャネルでないものと理解される。権限ある諸機関の間の直接の情報交換は奨励されるべきである。
  2. テロ行為を防止するために、テロリストとつながりのある活動を行っているとの容疑がある個人又は組織、特に、その組織構造、手口、通信システムに関する基礎的な情報の交換を強化する。
  3. 実務的情報の交換を、特に以下に関し、強化する。
    • テロ・ネットワークに属している、またはつながりがあるとの疑いがある個人又は団体の行動及び移動。
    • 偽造又は不正の疑いがある渡航文書。
    • 武器、爆発物、又は機微な物質の取引き。
    • テロ集団による通信技術の使用。
    • 化学、生物又は核物質及び毒素を使用するものを含む、新型のテロ活動の脅威。
  4. 情報を提供する国の法律及び規則に従って、秘密を保全しつつ、上記の情報交換を促進し、より直接的なものとするための方途を開拓する。
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 我々はこれらの措置の遅滞なき実施を確保することを約束する。この目的のために、我々は、我々の適当な専門家に対し、必要な会合を大変速やかに開催するよう求める。
 我々は、我々のテロ専門家に対し、これらの措置の実施のためになされた作業の進歩ぶりを評価するために、本年の末までに会合を開催するよう、要請する。