(4)  原子力安全モスクワ・サミット宣言(仮訳)

(96年4月20日、モスクワ)

  1.  冷戦の終結とロシアの政治・経済改革は、我々の関係に新たな時代を開き、国際社会に原子力安全の分野における協力のための現実的な可能性を与えた。モスクワ・サミットは、これらの目的を実現する上で重要な一歩である。我々は、このサミット及びその後において、原子力の安全を確保し、核物質の一層の安全を促進するために協力していく決意である。
  2.  我々は、原子力の利用に当たって、安全に絶対的な優先順位を与える決意である。チェルノブイリ事故から10年が経とうとしている現在、このような悲劇が再び起こり得ないようにすることが、我々の共通の目標である。
     我々は、原子力の利用が世界中で原子力の安全に関する基本原則と適合して行われるよう、互いに協力する用意がある。更に、我々は、原子力の開発を選択した国においては、既に電力の供給に重要な貢献をしている原子力が、来世紀においても、将来の世界のエネルギー需要を満たす上で、1992年のリオ会議で合意された持続可能な開発という目標と適合する重要な役割を引き続き果たすことを可能にする措置をとる決意である。
     我々は、原子力の利用にとって鍵となる要因である国民の信頼を得るために公開性と透明性が重要であることを認識する。
  3.  すべての核物質の安全は、原子力の責任ある、かつ、平和的利用の不可欠の部分である。特に、核兵器の解体から生じるものを含む核分裂性物質の安全な管理は、とりわけ核物質の密輸の危険に対する保証として緊要である。
  4.  我々は、1995年5月の核兵器不拡散条約(NPT)再検討・延長会議における諸決定(「核不拡散と核軍縮のための原則と目標」に関する決定を含む。)の精神の下で、特に、NPTの普遍的な遵守を促進し、国際原子力機関(IAEA)の保障措置制度を強化するために精力的に取り組むことにより、また、効果的なかつ責任ある輸出管理措置を通じて、核不拡散及び核軍縮の分野における協力を拡大する。我々は、CTBTに関する別個の声明を発出している。我々は、核兵器その他の核爆発装置用の核分裂性物質の生産を禁止する無差別かつ普遍的に適用される条約に関する交渉の即時開始と早期妥結への決意を新たにする。
原子力の安全
  1.  原子力の安全に関する主要な責任は各国政府が負うことを認識し、原子力の高い水準の安全を世界的に促進するために引き続き国際協力を通じた努力を強化していくことが第一に重要である。
民生用原子炉の安全
  1.  原子力の安全は、他のすべての考慮に優先しなければならない。我々は、原子力施設の立地、設計、建設、運転及び規則に関する国際的に受け入れられている最も高い安全水準へのコミットメントを再確認する。
  2.  原子力施設を有する各国において原子力安全文化を十分に醸成することは、この目的のために不可欠である。
  3.  維持可能な原子力の安全は、また、それを支える経済的及び法的な環境を必要とし、その環境により、事業者と国の規則機関は、それぞれの独立した責任を十分に負うことが可能となる。
  4.  原子力の安全は、また、原子力活動における国際的な透明性を一層高めること、特に、ピア・レビューによって向上させることができる。これにより、現行の安全要件を満たしていない既存の原子炉については、その安全性が受入れ可能な水準まで引き上げられるか、又は、運転が停止されるべきである。
  5.  安全に関するこれらの基本原則を再確認する原子力の安全に関する条約の採択は、この分野における主要な成果である。我々は、この条約が確実に1996年末前に速やかに発効するように、すべての国に対し、この条約に署名し、締約国になるための国内手続を完了するよう要請する。
  6.  中・東欧諸国及び新独立国家においては、しばしば多数国間及び二国間プログラムによる協力の下で、原子力の安全の水準を向上させるための各国による努力がなされている。この点に関し、我々は、原子炉の安全性と原子力安全文化を向上させるためのこのような重要な努力がなされていることを確認するが、一層の実質的な進展が依然として必要であることに留意する。我々は、この目的のために十分に協力を行う決意を再確認する。
(原子力損害賠償責任)
  1.  効果的な原子力損害賠償責任制度は、原子力事故の被害者と損害に対して適切な賠償を確保しなければならない。更に、同制度は、同時に、極めて重要な安全性の改善を行うために必要な民間部門の関与の程度を確保するために、産業上の供給者を不当な訴訟から守るべきである。
  2.  この分野で不可欠な原則は、原子力施設の事業者についての責任の集中及び厳格な責任並びに適切な賠償のために必要な金銭上の保証の確保である。
  3.  原子力施設を有しているもののこれらの原則に応じた効果的な原子力損害賠償責任制度を未だ設立していない国が、同制度を設立することは、不可欠である。
  4.  国際的な原子力損害賠償責任制度が、広範な参加を促進し、参加を望むいかなる国にも配慮したものとなることを確保するため、同制度を改善することについて協力することが重要である。我々は、専門家に対し、この目的のために更に作業を進めるよう要請する。これに関して、地域的な協力の強化を歓迎する。
(移行国のエネルギー部門戦略)
  1.  エネルギー部門の改革のための市場指向型の効率的な戦略は、原子力の安全を促進するために不可欠である。これは、安全の向上と維持への投資のために適切な資源を生み出し、エネルギーの節約を促す。すべての移行国は、原子力の安全、環境基準並びにエネルギーの効率及び節約に十分な考慮を払いつつ、最小費用計画に基づくこのような市場指向型の改革と投資戦略を追求すべきである。
  2.  国際金融機関は、市場指向型のエネルギー部門の改革と投資計画を進展させる上で指導的な役割を果たしてきている。これらの機関の継続的な関与と支援は、一層の進展を確保するために極めて重要である。
放射性廃棄物管理
(国際条約)
  1.  各国の当局は、放射性廃棄物が安全に管理され、その適切な取扱い、貯蔵及び最終的な処分のための規則が作成されることを確保しなければならない。これらは、原子力計画にとって不可欠な要素である。
  2.  これらの原則に基づく放射性廃棄物管理の安全に関する条約(仮称)の作成は、最も重要である。我々は、原子力施設を有し、放射性廃棄物を発生させているすべての国に対し、IAEAの主催の下で行われているこの条約の作成作業に積極的に参加し、同条約が効果的にまとめられ、速やかに採択されることを奨励するよう要請する。
(海洋投棄)
  1.  我々は、放射性廃棄物の海洋投棄を禁止することにコミットし、すべての国に対してロンドン条約附属書の1993年の改正を可能な限り最も早い時期に受諾するよう要請する。
核物質の安全
核物質密輸防止プログラム
  1.  核物質の密輸は、公共の安全と不拡散上の懸念である。我々は、ナポリとハリファックスにおけるサミットで、この問題の重要性を認識した。我々は、危険が引き続き存在しているため、核物質の密輸の防止、探知、情報交換、捜査及び訴追のすべての側面での政府間の協力の強化を確保するために、核物質密輸防止プログラムに合意し、発表した。
     我々は、他の政府に対し、このプログラムの実施に参加するよう要請する。
核物質の計量管理及び防護
  1.  我々は、保有しているすべての核物質の安全を確保する基本的な責任は各国が負うこと並びにそれらの核物質が、計量管理及び防護の効果的な制度の下にあることを確保することが必要であることを再確認する。これらの制度は、規則、許可及び査察を含むべきである。我々は、核物質の転用が探知できなくなることを防止する保証を提供する上で極めて重要な役割を果たしているIAEAの保障措置制度への支持を表明する。我々は、未申告の原子力活動を探知するIAEAの能力を緊急に強化する必要性を強調する。我々は、これらの措置が、また、核物質密輸の防止に資することに留意する。
  2.  我々は、核物質を管理し及び防護するための制度と技術を継続的に改善することの重要性を認識する。我々は、各国に対し、核物質の管理に関する国内制度が引き続き効果的であることを確保するために、二国間及び多数国間で並びにIAEAを通じて協力するよう要請する。我々は、この分野で実施されている二国間及び多数国間の広範な協力プロジェクトに意を強くしており、これらの努力を維持し拡大していくことを誓う。
  3.  我々は、核物質の防護に関する条約をすべての国が批准するよう要請し、核物質の防護に関するIAEA勧告の適用を奨励する。
  4.  我々は、防衛上の要請に応じた利用が意図されていないとされたすべての機微な核分裂性物質(分離プルトニウム及び高濃縮ウラン)が、安全に貯蔵され、防護され、かつ、実施可能になり次第、IAEAの保障措置(核兵器国においては、自発的申出に基づくIAEAの保障措置協定)の下に置かれることを確保するための努力を支援することを誓う。
防衛目的にとり不要とされた兵器級核分裂性物質の安全かつ効果的な管理
  1.  近年、核軍縮に向けて大きな進展があった。これによって、防衛目的にとり不要とされた核分裂性物質の相当の在庫が生じている。上途のとおり、これらの在庫は、安全に管理され、使用済燃料又は同様に核兵器に利用不可能な他の形態に最終的に変えられ、安全かつ恒久的に処分されることが極めて重要である。
  2.  兵器級核分裂性物質の安全な管理の主要な責任は各核兵器国が負うが、必要な場合に他国や国際機関が支援することを歓迎する。
  3.  我々は、解体核兵器から生じる高濃縮ウラン(HEU)を混合して平和的非爆発目的のために低濃縮ウラン(LEU)にするために米国とロシアがとってきた措置、並びに核兵器の解体によって生じる核分裂性物質の安全な貯蔵、平和的利用及びその目的のための安全かつ確実な輸送のためのカナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国その他諸国とロシアとの協力プログラムを歓迎する。また、これらの方向に沿うその他の努力を奨励する。
  4.  我々は、防衛目的にとり不要とされた核分裂性物質のための適切な戦略を明らかにする決意である。選択肢には、安全かつ確実な長期貯蔵、ガラス固化又は他の方法による恒久的な処分及び原子炉で使用するための混合酸化物燃料(MOX)への転換が含まれる。我々は、これらの戦略を策定し実施するために、関連する経験と専門的知識を共有することに合意した。我々は、試験的なプロジェクト及びプラントを設立する可能性を含むこれらの選択肢に関係する小規模な技術デモンストレーションを行う計画を歓迎する。我々は、技術的、経済的、不拡散上、環境上その他の関連する問題を念頭に置いて、可能な選択肢を検討し、これらの国家戦略の実施のための国際協力の可能な進展を特定するために、専門家による国際会議を開催する。この会議は、1996年末までにフランスで開催される。
  5.  我々は、防衛目的にとり不要とされた高濃縮ウラン及びプルトニウムの管理における透明性を確保することの重要性を認識する。