3.日本国政府が関与した主要なコミュニケ等
 (1)  アジア欧州会合議長声明(仮訳)

(96年3月2日、バンコク)

    I.アジアと欧州の共通の未来像に向けて
  1. 1996年3月1日及び2日、バンコクにおいて、初のアジア欧州会合(以下ASEM)が、アジアから10カ国及び欧州から欧州連合(以下EU)理事会議長も務めるイタリア首相を含む15カ国の元首及び首相並びに欧州委員会委員長の参加の下に開催された。首脳には、外相、欧州委員会委員、及びその他の閣僚が随行した。この歴史的会合では、タイの首相が議長を務めた。*1

  2. 1996年3月1日、各国の元首及び首相並びに欧州委員会委員長は、アナンタサマーコム宮殿において、プーミポン・アドゥンヤデート国王陛下及びシリキット王妃陛下に拝謁した。

  3. 本会合では、広範な問題について討議が行われ、各首脳が互いの関心と希望を分かち合い、共通の未来像を形成するための機会が提供された。本会合では、平和と安定の維持及び強化、並びに経済・社会開発に資する環境の醸成という共通の目標のために努力する必要性が認識された。このために、本会合では、新たに包括的な「更なる成長のためのアジア欧州パートナーシップ」が形成された。このパートナーシップは、アジアと欧州のつながりを強化し、もって世界の平和と安定及び繁栄に貢献することを目的とする。この関連で、本会合では、アジアと欧州がともに他の地域との対話を維持することの重要性が強調された。

  4. 本会合では、このパートナーシップの重要な目的の一つが、アジアと欧州の人々の間で一層の理解を築く責任を両地域が分かち合うことであることが確認された。協力の精神の下で、かつ広範な問題にわたる認識の共有を通じ、アジアと欧州との間で対等な立場での対話を強化することは、相互理解を促進し、両地域に利益をもたらす。主要な地域統合の世界的な影響に鑑み、対話はまた、そのような統合が国際社会全体の利益となることを確保する助けとなる。


    *1参加者リストは別添されている。

    II.政治対話の促進

  5. アジアと欧州の首脳による会合は、アジアと欧州との間の政治対話を強化したいとの共通の願いを反映するものである。アジアと欧州の各国は、共通の基盤に注目しそれを拡大し、理解と友好を増進し、協力を推進及び深化させていくべきである。参加国間の対話は、相互の尊重、平等、基本的権利の増進、及び、国際法の規則と義務にある通り、直接間接を問わず相互の内政に干渉しないことを前提に行われるべきである。首脳は、両地域における政治・安全保障情勢を検討し、未解決の問題を解決するための国際的イニシアティヴを支持することの重要性を強調した。また本会合では、政治対話を促進する関連で、両地域間の知的交流を推進することが合意された。

  6. 本会合では、一般的な安全保障問題、及び、特に信頼醸成に関するアジアと欧州との間の既存の対話を強化することの重要性が合意された。多くのアジア諸国はEUとの間で定期的な対話を行っている。EUとアジア諸国は、ASEANEU対話、ASEAN地域フォーラム(ARF)、及びASEAN拡大外相会議(PMC)等の場においても、政治問題に関する議論を行っている。

  7. 本会合では、国連憲章、世界人権宣言、1986年の発展の権利に関する宣言、1992年の環境と開発に関するリオ宣言、1993年の世界人権会議におけるウィーン宣言及び行動計画、1994年の国際人口・開発会議におけるカイロ行動計画、1995年の社会開発に関するコペンハーゲン宣言及び行動計画、並びに1995年の第4回世界女性会議における北京宣言及び行動綱領に対する確固たるコミットメントが再確認された。また、本会合では、国際の平和と安全及び持続可能な開発を維持及び促進する上で国連が果たしている卓越した役割を一層強化するために、とりわけ国連の安全保障理事会、総会、経済社会理事会、及び国連財政に関する問題を含め、国連システムの実効的改革及び一層の民主化促進につき協力することが合意された。この関連で、本会合では、国連改革という極めて重要な問題を検討するため、ニューヨークにおいて、ASEM参加団代表による対話を開始することが合意された。

  8. 本会合では、大量破壊兵器の軍備管理、軍縮及び不拡散に関する世界的なイニシアティヴを強化することの重要性が合意され、アジアと欧州の各国が、これらの分野で協力を深めることが再確認された。従って、全面核実験禁止条約(CTBT)の1996年内の早期締結が特に重視された。本会合では、核兵器不拡散条約(NPT)体制に貢献するための努力として東南アジア10カ国が1995年12月にバンコクにおいて東南アジア非核兵器地帯条約(SEANWFZ)を締結したことが留意された。首脳は、核兵器の廃絶及び厳格で効果的な国際管理の下における一般的かつ完全な軍縮を究極的目標として、世界的な核兵器削減のための体系的かつ漸進的な努力を追求する決意を再確認した。本会合では、生物・化学兵器の不拡散及び禁止、特に化学兵器禁止条約の早期発効に対するコミットメントが強調された。本会合では、合意されたマンデートに基づいた核分裂性物質のカット・オフに関する交渉を開始するための軍縮会議における努力が支持された。

    III.経済面での協力の一層の強化

  9. 本会合では、アジアと欧州との間には、両地域の経済のダイナミズムと多様性のゆえに、相乗効果を生み得る大きな可能性が存在することが認識された。アジアが巨大な市場となったことにより、消費財、資本設備、金融及びインフラに対する大きな需要が生まれた。他方、欧州は、特に単一市場の完成以来、世界の主要な物、投資、サービスの市場である。このように、両地域には、物、資本設備、及びインフラ開発事業の市場を拡大し、資本、専門知識、及び技術のフローを増やす機会が存在する。

  10. 本会合では、アジアと欧州との間の経済関係の拡大が、両地域間の強固なパートナーシップの基盤となっていることが認識された。このパートナーシップを一層強化するため、本会合では、両地域間の貿易及び投資の双方向的なフローを一層増大させるという決意が表明された。このようなパートナーシップは、市場経済、開かれた多角的貿易体制、無差別の自由化、及び開かれた地域主義に対する共通のコミットメントに基づくべきである。本会合では、いかなる地域統合及び地域協力も、WTO整合的、かつ外向きであるべきことが強調された。

  11. 本会合では、ASEMのプロセスが、WTOに体現された開放的かつルールに基づく貿易体制を強化するための努力を補完しまた補強すべきことが合意された。全てのASEM参加国がWTOに加盟することは、WTOを強化する。本会合では、1996年12月にシンガポールで開催される第1回WTO閣僚会議の重要性が認識され、アジアと欧州の参加国がWTOの成功に向けて緊密に協力することが合意された。本会合では、WTOが取り組むべき優先課題の一つは、ウルグァイ・ラウンド交渉でなされたコミットメントの完全な実施をいかに確保するかであることが合意された。また、参加国は、ウルグァイ・ラウンドの継続交渉を成功裡に終結させ、マラケシュで合意されたいわゆる「ビルト・イン・アジェンダ」を追求することの緊急の必要性を強調した。アジアと欧州の参加国は、WTOでの議論のための新たな課題につき、緊密に協議を行う。

  12. アジアと欧州との間の一層の貿易及び投資の促進のため、本会合では、税関手続の簡素化及び改善並びに基準適合性を含む円滑化及び自由化の措置を講ずることが合意された。また、ASEMは、アジアと欧州との間の貿易のフローの一層の増大を促すべく、貿易の歪曲を回避し市場アクセスを改善するための貿易障壁の削減を目指す。本会合では、欧州の対アジア投資を現在の水準から増加させ、また、アジアの対欧州投資を慫慂する緊急の必要性が強調された。

  13. 本会合では、高級実務者に対し、経済面での協力、特に貿易及び投資の自由化及び円滑化を促進するための方途に関する非公式会合を早期に開催するよう要請することが決定された。当初の重点は、上途のWTOの課題に置かれるべきであるが、高級実務者は、貿易及び投資の円滑化のためにASEM参加国が取り得るその他の措置の特定にも努めるべきである。また、高級実務者は、貿易及び投資の円滑化のために、いかに訓練プログラム、経済面での協力、及び技術支援を一層強化し得るかについて検討し得る。

  14. 本会合では、両地域の中小企業を含むビジネス・民間部門に対し、相互の協力を強化し、アジアと欧州との間の貿易及び投資の増加のために貢献するよう慫慂することが合意された。この目的のため、本会合では、アジアと欧州ビジネス・フォーラムを然るべき時期に設置することが合意された。

    IV.他の分野での協力の推進

  15. 本会合では、特に農業、情報・通信技術、エネルギー、及び運輸等原動力となる優先分野におけるアジアと欧州との間の科学技術面での交流の強化が、両地域間の経済関係の強化のために重要であることが合意された。本会合では、人材開発の分野での協力は、アジアと欧州との間の経済面での協力の重要な構成要素であるとの見解が示された。また、本会合では、あらゆるレベルの教育並びに職業及び経営訓練に関する協力を強化することが支持された。更に、本会合では、貧困の軽減に重点を置き、女性の役割を向上させ、エイズと闘いエイズ予防を促進するための世界的な努力の強化を含む公衆衛生分野での協力を行いつつ、両地域間の開発協力を拡充する必要性が強調された。更に、本会合では、両地域が、それぞれの経験を分かち合いつつ、実行可能なものにつき、他の地域との開発協力に関するASEM参加国間の対話を促進すべきことが合意された。

  16. 本会合では、地球温暖化、水資源の保全、森林減少及び砂漠化、生物多様性、海洋環境保護等の環境問題に取り組むことの重要性が認識され、持続可能な開発を促進するため、環境に優しい技術の移転を含め、この分野において双方にとって有益な協力を行うべきことが合意された。本会合では、不法な麻薬取引、資金洗浄、テロ、及び、不法移民の搾取を含むその他の国際犯罪に取り組むため、二国間及び既存の多国間イニシアティヴを通じ、両地域間の協力を推進することが合意された。

  17. 本会合では、両地域の人々の間で一層の認識と理解を深めるための不可欠なアジアと欧州との間の文化的な関係の強化、特により緊密な人的交流の促進が求められた。本会合では、これらのアジアと欧州との間の新たな関係は、両地域間に存在し得る誤解の克服に資するものであり、また、両地域間の文化、芸術、教育活動、特に青年及び学生の交流、並びに観光を促進することを通じ、一層強化され得ることが強調された。この観点から、本会合では、最近ヴェニスにおいて開催された、文化、価値、及び技術に関する欧州アジア・フォーラムの結果が報告された。また、本会合では、文化遺産の保存に関する協力も慫慂された。

    V.ASEMの将来の方向性

  18. 本会合では、ASEMは、アジアと欧州との間の一層の協力を推進するために有益なプロセスであると認められた。本会合では、ASEMのプロセスを開放的かつ漸進的なものとする必要性が認識された。本会合では、組織化は必要ないが会期間の活動は必要であることが合意された。更に、本会合では、ASEM参加国が共同で行うフォローアップ活動は、コンセンサスに基づくことが合意された。本会合では、また、アジアと欧州の財界指導者間の協力を促進することが合意された。

  19. 本会合では、以下のフォローアップ措置が合意された。
    •  外相及び第1回ASEMを担当した高級実務者会合は、第1回ASEMの成果を基礎として、第2回ASEMに向け調整及び準備を行う。この関連で、1997年に外相会合が開催される。
    •  関連の経済問題を議論するため、1997年に日本において経済閣僚会合が開催される。
    •  両地域間の経済面での協力の促進、特に、当初はWTOの課題に重点を置きつつ、貿易及び投資の自由化及び円滑化を促進するための方途に関する非公式高級実務者会合が1996年7月にブラッセルにおいて開催される。
    •  アジアと欧州との間のより多くの投資の流れを促進するためのアジア欧州投資促進行動計画を6カ月以内に作成するために、タイにおいて官民作業部会会合が開催される。この作業部会は、また、アジアと欧州との間の投資の現状と可能性を研究し、とるべき措置につき提言し得る。
    •  アジア欧州ビジネス・フォーラムの初回会合が1996年にフランスにおいて、またその次の会合がタイにおいて開催される。このフォーラムにおいて、高級実務者は、両地域のビジネス・民間部門間の一層の協力を促進するための適切な態様について検討する。これに関連して、1997年にビジネス関係者の会議が開催される。
    •  マレイシアがアジア横断鉄道ネットワークの統合の研究(当初はメコン河流域開発における鉄道プロジェクトから開始)及びこのネットワークがその後欧州横断鉄道ネットワークと統合する可能性についての研究の調整者となる。
    •  両地域の政府及び国民に政策的指針を与えるとともに研究開発活動を行うためのアジア欧州環境技術センターのタイにおける設立。
    •  シンクタンク、国民及び文化団体同士の交流を促進するために、アジア及び欧州諸国からの拠出を得て、シンガポールにアジア欧州基金が設立される。この関連で、シンガポールは、同基金の原資として100万米ドルを拠出する用意がある旨を表明した。
    •  両地域の文化、歴史及び商慣行につきより良い理解を形成するために、アジア欧州大学計画が開始される。
    •  国際・地域問題に関するセミナー及びシンポジウムの開催、並びに、両地域の然るべきシンクタンク同士のネットワークの構築を通じたアジアと欧州との間の知的交流。
    •  効果的な政策措置の策定に資するべく将来の見通し及び確固たる基礎を提供するためのアジアと欧州との間の経済的相乗効果に関する客観的な研究。
    •  ミニ「ダボス」型の青年交流計画を両地域の人々の間の文化的結び付きと相互理解を強化するために行う。
      本会合では、また、以下につき検討することが合意された。
    •  蔵相会合。
    •  政治、経済、社会及びその他の分野での長期的なアジア欧州協力のための原則及びメカニズムを明記したアジア欧州協力の枠組み。
    •  特に農業、環境保護、並びに企業の技術面での向上及び改善の分野で技術交流及び協力を促進する研究グループの設立。
    •  関税手続き及び不法な麻薬取引防止の分野でのアジアと欧州の関税当局者間のより緊密な協力の形成。
    •  メコン河流域開発における協力。

  20. 本会合では、2年後に第2回ASEMを英国において、また、2000年に第3回ASEMを韓国において開催することが合意された。