第4章 国民と共にある外交 第2節 海外における日本人への支援 4 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)の実施状況 ハーグ条約は、子の利益を最優先するという考えの下、国境を越えた子供の不法な連れ去りや留置をめぐる紛争に対応するための国際的な枠組みとして、子供を元の居住国に返還するための手続や国境を越えた親子の交流の実現のための締約国間の協力などについて定めた条約である。 この条約は、日本については2014年4月1日に発効し、2025年12月末時点、日本を含む103か国が加盟している。 条約は、各締約国の「中央当局」として指定された機関が相互に協力することにより実施されている。日本では外務省が中央当局として、様々な分野の専門家を結集し、外国中央当局と連絡・協力をしながら、子を連れ去られた親と子を連れ去った親の双方に、問題解決に向けた支援を行っている。 ハーグ条約発効後2025年12月末までの11年9か月間に、外務大臣は、子の返還を求める事案での援助申請を461件、子との交流を求める事案での援助申請を212件、計673件の申請を受け付けた。日本に連れ去られた子の返還が求められた事案のうち85件において子の返還が実現し、62件において返還しないとの結論に至った。外国に連れ去られた子の返還が求められた事案については、85件において子の返還が実現し、49件において返還しないとの結論に至った。 外務省は、幅広い層へハーグ条約を周知するため、海外における邦人向けの啓発セミナーや、国内の地方自治体や弁護士会などの関係機関向けのセミナーを実施するなど、広報啓発活動に力を入れている。 また、2025年10月には、ロンドンで英国の法曹関係者向けのセミナー「Japan and the 1980 Hague Convention:The Reality of Implementation and Civil Code Amendments」を開催するなど、日本がハーグ条約を着実に実施していることを国外の関係者に周知するための活動も行っている(5)。 (参考)ハーグ条約の国内実施法に基づく外務省に対する援助申請の受付件数(2025年12月末時点) 返還援助申請 子との交流援助申請 日本に所在する子に関する申請 239 159 外国に所在する子に関する申請 222 53 コラムハーグ条約:親子に寄り添う条約実施 外務省ハーグ条約室は、ハーグ条約における日本の「中央当局」として、様々な事情でやむを得ず片方の親と子が国境を隔てて暮らす場合に、双方の親が自ら問題を解決できるよう支援しています。その際に重視しているのは、両親の関係から最も影響を受ける立場にある子の利益を優先に考えることです。 子の連れ去りや子との交流に関する問題を解決するためには、両親が話し合い、できる限り友好的な解決を図ることが子の福祉の観点から重要です。そのため、ハーグ条約室では、当事者間の連絡仲介を行ったり、協議のあっせんを行う裁判外紛争解決手続(ADR)機関を紹介し、その費用を負担したりしています。協議のあっせんとは、公正中立な第三者である弁護士や臨床心理士などのあっせん人が、双方の親から話を聞いて主張を確認し、誤解がある場合にはそれを解くなどして和解による解決を目指す制度です。 また、ハーグ条約室では、離れて暮らす親と子の交流を実現するため、双方の親の意思が一致した場合、民間の親子交流支援団体を紹介し、その費用を負担しています。支援団体は、交流の当日に一方の親から子を引き取ってもう一方の親に会わせ、その後交流の現場に付き添うことで親や子の不安をやわらげ、しばらく会っていない親子でも交流が円滑に行えるよう支援します。また、外国に暮らす親と日本にいる子がオンラインでの交流を希望する際、支援団体の職員がオンライン上で同席する「ウェブ見まもり交流」も利用できます。その場合は、支援団体の職員が子の表情や言動を観察しながら、子が安心して交流できるようサポートします。 ハーグ条約室が扱ったケースの中には、前述のような支援を利用して、子が元いた国に戻るための合意が成立したものや、外国に暮らす親と日本に住む子との交流が長きにわたり行われたものもあります。あるケースでは、まず、父母間でADR機関を利用した話合いが行われ、通訳の助けも得ながらあっせん人を介した話合いを重ねた結果、父母間で「親子交流支援団体を利用して、離れて暮らしている親が子と交流を行う」との合意が成立しました。その後、支援団体の協力の下、外国に暮らす親と日本にいる子との間で交流が行われました。親子は長い間会っていなかったため言葉が通じにくい状況でしたが、職員の助けを借りながら共通の趣味の話をするなど、和やかな交流が行われました。子が親の住む国へ渡航する計画を話し合うなど、その後交流が続いていく可能性もうかがえました。 上記は、ハーグ条約室によるきめ細かな連絡仲介などの支援を通じ、親子の交流が実現したケースです。家庭問題は複雑であり、全てのケースで支援が成果につながるわけではありませんが、ハーグ条約室には、児童心理やドメスティック・バイオレンス(DV)被害者支援などの専門家もおり、ケースごとに親子に寄り添った支援を提供できるよう努力しています。 (5) ハーグ条約に基づく援助の内容や国内外への広報活動については、1980年ハーグ条約と日本の取組に関する外務省ホームページ参照: https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html