第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 第3節 経済外交 1 経済外交の概観 (1)総論 国際社会においては、国家間の競争が激化し、パワーバランスの変化がより加速化・複雑化するとともに、世界経済の不確実性が高まっている。特に、2020年以降の新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の世界的流行、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化等の事象は、サプライチェーンの脆(ぜい)弱性を露呈させ、エネルギーや商品価格高騰を引き起こした。世界で保護主義や内向き志向が強まる中、重要鉱物を含むサプライチェーンの強靱(じん)化、非市場的政策・慣行や経済的威圧への対応も急務となっている。 このような中、外務省では、8月、これまで以上に機動的かつ戦略的に外交政策に取り組むための機構改革を行い、経済局に総務課、経済外交戦略課、経済安全保障課を新設した。新たな体制の下、(ア)新規市場・イノベーションの創出、(イ)ルールに基づく自由で公正な国際経済秩序の維持・強化、(ウ)経済安全保障の強化を軸として、経済外交を戦略的に展開し、日本の国力の源泉である経済力の強化に貢献していく。具体的には、第一に、新規市場やイノベーションの創出につなげるため、成長市場であるいわゆるグローバル・サウスと呼ばれる国々を含め、世界市場で、日本が優位性を持つ技術や日本企業の海外展開を外交面で後押しするとともに、対日直接投資や国際頭脳循環の推進に向けた取組を行っていく。第二に、ルールに基づく自由で公正な国際経済秩序を維持・強化するため、引き続き同盟国・同志国と連携しつつ、多国間や二国間の議論を主導する。また、人工知能(AI)を含む新たな分野の国際ルール形成を主導するとともに、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)(1)などを通じた経済連携の推進、世界貿易機関(WTO)(2)や経済協力開発機構(OECD)(3)のルール・枠組みの維持・強化に取り組む。第三に、経済安全保障の重要性が一層増す中で、日本の戦略的自律性や戦略的不可欠性を確保する観点から、重要鉱物を含むサプライチェーンの強靱化や重要・新興技術の保全・開発促進、エネルギー・食料の安定的な確保などに取り組むほか、非市場的政策・慣行や経済的威圧への対応を含め、日本の経済安全保障に資する国際経済秩序の強化に向けた議論に積極的に参画していく。 (2)新たな諸課題への対応 技術革新に伴い、分野横断的な取組を必要とする新たな課題も生じている。特に、AIは、今や国力を左右する技術として各国間で開発競争が激化するのみならず、安全保障にも直結する外交上の重要な分野となっている。 AIに関連した2025年の主要な外交行事として、2月にフランスでAIアクション・サミットが開催され、約90か国の政府代表、国際機関代表や民間企業等が参加した。同サミットに際して、日本は、「人工知能と人権、民主主義及び法の支配に関する欧州評議会枠組条約」への署名を行った。6月のカナダでのG7カナナスキス・サミットでは、「繁栄のためのAIに関するG7首脳声明」が発出された。7月には米国がAI行動計画を発表し、その直後には中国が世界AI大会(WAIC)を開催して「AIグローバル・ガバナンス行動計画」を発表した。8月には国連総会において「AIに関する独立国際科学パネル」及び「AIガバナンスに関するグローバルダイアログ」のTOR決議(Terms of Reference:付託事項)が採択された。 日本は、2023年に生成AIの国際ガバナンスに関する「広島AIプロセス」(4)の立ち上げを主導して以来、「安全、安心で信頼できるAI」エコシステムの構築に向けた国際ルール作りに積極的に貢献してきた。「広島AIプロセス・フレンズグループ」を通じて「広島AIプロセス」国際指針や国際行動規範の実践の拡大に取り組み、2025年2月には東京でフレンズグループ対面会合を初めて開催したほか、同年中に新たにマレーシア、インドネシア、エジプト、スイス、フィリピンがフレンズグループに参加し、同年12月時点で、60の国・地域にまで拡大している。 同時に、日本は、インド、アフリカ、ASEAN(東南アジア諸国連合)、中央アジアを始めとするグローバル・サウス諸国と共に、各国・地域のニーズに応じた形で、「安全、安心で信頼できるAI」エコシステムを共創していくための取組を進めている。例えば、10月の日ASEAN首脳会議では、AIを活用したソリューションの共創、制度整備・ガバナンス、人材育成・能力構築、基盤支援の四つの面において共にASEANにおけるAIエコシステムを構築することを目的とする「日ASEAN・AI共創イニシアティブ」の立ち上げを発表した。 日本は引き続き、首脳・外相会談等の機会や在外公館を活用し、同志国との連携を強化しながら、「安全、安心で信頼できるAI」を推し進め、国際的なAIガバナンスの構築やAIを活用したイノベーションを促進していく。 (1) CPTPP:Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership (2) WTO:World Trade Organization (3) OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development (4) 広島AIプロセス:2023年5月、日本議長国下のG7広島サミットにおいて立ち上げられた、生成AIに係る国際的ルールの検討のためのプロセス。同年12月のG7首脳声明において、「全てのAI関係者向けの広島プロセス国際指針」及び「高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセス国際行動規範」を含む「広島AIプロセス包括的政策枠組み」が承認された。