第2章 地域別に見た外交 第7節 中東と北アフリカ 1 概観 中東・北アフリカ地域(以下「中東地域」という。)は、欧州、サブサハラ・アフリカ、中央アジア及び南アジアの結節点に位置する。世界の石油埋蔵量の約5割、天然ガス埋蔵量の約4割を占め、世界のエネルギーの供給地としても重要であることに加え、高い人口増加率も背景に、湾岸諸国を中心に経済の多角化や脱炭素化が進められており、市場としても高い潜在性を有している。 同時に中東地域は、歴史的に様々な紛争や対立が存在し、今も多くの不安定要因・課題を抱えている。特に2023年10月に発生したハマスなどによるイスラエルに対するテロ攻撃を発端とするガザ情勢については、停戦と人質解放の実現に向け、米国、カタール、エジプトが仲介努力に尽力し、また国連場裡(り)においても複数の停戦決議の採択に外交努力が注がれてきた。日本は、地域諸国との関係を基盤に、G7の一員、さらに2024年までは国連安全保障理事会(国連安保理)の非常任理事国として、各国とも緊密に連携しながら、人道状況の改善、そして事態の早期沈静化に向け外交努力を重ねてきた。 2025年には、中東域内の緊張が高まった。特に6月には、イスラエルがイランの核関連施設等に対して大規模な軍事攻撃を実施し、イラン側もその報復としてイスラエルにミサイル及びドローン攻撃を実施するなど、イスラエル・イラン間で攻撃の応酬が継続し、地域全体の緊張が急速に高まった。岩屋外務大臣は、アラグチ・イラン外相及びサアル・イスラエル外相との電話会談などにおいて、報復の応酬と甚大な被害に強い懸念を表明するとともに、更なる事態悪化を回避するよう要請するなど、地域安定化に向けた外交努力を継続した。その後、米国によるイラン核施設に対する攻撃が行われ、24日には米国によるイスラエルとイランとの間の停戦合意が発表された。政府としてこの停戦合意の発表を歓迎しつつ、合意の着実な実施に期待すると表明した。 ガザ情勢に関しては、2025年1月に停戦合意が発効したものの、3月にはイスラエルによる攻撃が再開された。10月にはトランプ米国大統領による「ガザ紛争終結のための包括的計画」の下、当事者間で合意が成立し、停戦と人質解放が実現するなどの進展が見られた。岩屋外務大臣は、トランプ米国大統領のリーダーシップの下で合意が成立したことを歓迎し、米国、エジプト、カタール、トルコなどの仲介国のたゆまぬ努力に敬意を表した。また、人道状況の改善と「二国家解決」の実現に向け、全ての関係者に対して合意の履行と国際人道法を含む国際法の遵守を求めるとの談話を発出した。 イラン核問題に関しては、2015年核合意(JCPOA)(1)に対するイラン側の重大な不履行を理由に、9月に国連安保理でいわゆる「スナップバック」が発動され、イランに対し制裁が再び課されることとなった。これに関連し、同月、岩屋外務大臣はアラグチ・イラン外相と会談し、米国との核問題に関する協議の再開やIAEA(国際原子力機関)との完全な協力の再開を求めた。12月には、茂木外務大臣がアラグチ外相と電話会談を行い、対話を通じたイラン核問題の解決に向けて、外交努力を継続する重要性について改めて強調した。 紅海及びアデン湾においては、ホーシー派(イエメンの武装組織)による商船攻撃により、国際的なサプライチェーンが深刻な影響を受けた。日本は、国際社会と緊密に連携しながら、航行の権利及び自由の確保に向けた役割を果たしてきている。 ヨルダン川西岸地区では、経済活動や移動の制限により社会経済状況が悪化したほか、イスラエルによる入植活動の継続や、入植者による暴力的行為が増加し、入植者と住民との間で軋轢(あつれき)が生じている。シリアでは、シャラア大統領の下で発足した政権により、包摂的な政治的解決と国民和解に向けた対話の取組が進められている一方、国内諸宗派・部族間による衝突が散発している。また、ゴラン高原においてはイスラエルによる占領が続いている。アフガニスタンでは、9月及び11月に相次いで発生した地震による被害も含め、引き続き深刻な人道状況の悪化が懸念されている。 中東情勢は日本の平和と繁栄に直結しており、中東地域の平和と安定を促進し、中東地域諸国との良好な関係を維持、強化していくことは日本にとり極めて重要である。こうした観点から、日本は、近年、経済、政治・安全保障、文化・人的交流を含めた幅広い分野で、中東地域諸国との関係強化に努めている。大阪・関西万博に際する各国要人の訪日や、8月に開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)、9月の日GCC(2)外相会合の機会における首脳間及び外相間の会談などの機会を通じて、各国との二国間関係の強化や、緊迫化する中東情勢についての意見交換を行った。 (1) JCPOA(Joint Comprehensive Plan of Action):イランの原子力活動に制約をかけつつ、それが平和的であることを確保し、また、これまでに課された制裁を解除していく手順を詳細に明記したもの (2) GCC:Gulf Cooperation Council 湾岸協力理事会:1981年にサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートによって設立。防衛・経済を始めとするあらゆる分野における参加国間での調整、統合、連携を目的としている。