第2章 地域別に見た外交 第6節 ロシア・ベラルーシと中央アジア・コーカサス 3 中央アジア・コーカサス諸国 (1)総論 中央アジア・コーカサス諸国は、東アジア、南アジア、中東、欧州、ロシアを結ぶ地政学的な要衝に位置し、石油、天然ガス、ウラン、レアメタルなどの豊富なエネルギー・鉱物資源を有する。また、中央アジア・コーカサス諸国を含む地域全体の安定は、テロとの闘い、薬物対策といった国際社会が直面する重要課題に取り組んでいく上でも高い重要性を有してきた。 ロシアによるウクライナ侵略を受け、歴史的、経済的にロシアと密接な関係にある中央アジア・コーカサス諸国はそれぞれに慎重な対応を迫られている。中央アジア・コーカサス諸国は、ウクライナ侵略関連の国連総会決議に対しては、ウクライナ支持を表明しているジョージアを除き棄権又は不投票であり、多くの国は対外的に立場を明確にしない対応をとっている。一方、日本と中央アジア5か国は、「中央アジア+日本」対話の枠組みなどを含む様々な機会を捉えて全ての国の独立、主権及び領土一体性、紛争の平和的解決といった国連憲章やその他の国際法を堅持する重要性について一致している。 日本と中央アジア・コーカサス諸国は伝統的に友好的な関係を維持してきている。日本は、ソビエト連邦解体に伴う同諸国の独立後、いち早く外交関係を樹立し、ハイレベルの対話や経済協力などを通じて中央アジア・コーカサス諸国との二国間関係を強化するための取組を続けている。 また、現下の国際情勢を踏まえ、中央アジアと欧州を結ぶ輸送路である「カスピ海ルート」の重要性について、中央アジア・コーカサス諸国及び欧米各国の注目が高まっている。日本も同地域の域内外の連結性強化に着目し、通関の迅速化による物流の円滑化促進などの経済協力を推し進めている。 近年、中央アジア諸国及び周辺国の間では、地域協力の推進に向けた動きが活発化している。2025年には、上海協力機構(SCO)首脳会合(8月)、独立国家共同体(CIS)(8)首脳会合(10月)、集団安全保障条約機構(CSTO)(9)首脳会合(11月)、など、中央アジア諸国の首脳が出席する会合が多数行われた。また、キルギスとタジキスタンとの間では、旧ソ連崩壊後未画定であった国境に関する両国政府間の建設的な対話を通じた長年の交渉が結実し、3月に国境に関する条約が署名された。 アルメニアとアゼルバイジャンの間では、8月、両国首脳が、トランプ米国大統領の立会いの下、30年以上にわたる紛争を終結させるための和平に向けた共同宣言に署名した。これを受けて、日本は、同宣言の署名を歓迎する外務大臣談話を発出し、トランプ大統領を始めとする米国の仲介努力を高く評価するとともに、同文書の署名が、和平の達成、ひいては両国間の紛争の最終的な解決につながり、コーカサス地域に恒久的な平和と繁栄がもたらされることへの期待を表明した。ジョージアは、EU・NATO加盟を外交の優先課題としており、2023年12月に欧州理事会によりジョージアに対してEU加盟候補国のステータスが付与されたものの、2024年11月、コバヒゼ首相はEU加盟プロセスを2028年末まで開始しないと発表した。これを受けてEU加盟を支持する市民などが大規模な抗議活動を開始し、治安部隊との衝突により、多くの逮捕者や負傷者が発生した。日本は、かかる事態への懸念を表明するとともに、ジョージア政府に対して事態悪化を回避するため自制を促すとともに、国民の理解が得られるようジョージア政府が建設的な対応をとり、事態の早期沈静化を望むとの外務報道官談話を発表した。なお、南オセチア及びアブハジアをめぐる問題が存在し、ジョージアはロシアと外交関係を断絶している。 (2)中央アジア諸国 中央アジア諸国は、日本にとって自由で開かれた国際秩序を維持・強化するパートナーであり、日本は、中央アジアの平和と安定に寄与することを目的とした外交を推進している。 日本は2004年、中央アジアの発展には地域間の協力が不可欠であるとの認識から「中央アジア+日本」対話(CA+JAD:Central Asia plus JApan Dialogue(カジャッド))の枠組みを立ち上げ、日本が触媒となり、中央アジア諸国が主体となった域内協力を促進している。日本と中央アジア諸国との間で、これまでオンラインを含め10回の外相会合のほか、政府関係者による高級実務者会合(SOM)やビジネス対話に加え、薬物対策・国境管理、観光等をテーマとした専門家会合、中央アジア・コーカサスとの連結性等をテーマとした東京対話(有識者による公開シンポジウム)を実施するなど、政治や経済、人的交流を始めとする様々な分野での協力を促進してきた。また、2025年2月には、外務省は中央アジア5か国の法執行当局関係者を日本に招待し、「中央アジア地域におけるテロ対策・法の支配ワークショップ」を開催し、国際テロ対策における連携を確認した。 近年、国際社会においても中央アジア諸国との関係強化への関心が高まっており、米国、EU、湾岸協力理事会(GCC)(10)、中国、ロシア、インド、ドイツ、イタリアが中央アジア諸国との首脳会合を開催する中、日本は2025年12月、「中央アジア+日本」対話の首脳会合を初めて開催した(149ページ コラム参照)。6か国の首脳は、同首脳会合において中央アジアの産業高度化・多角化を後押しする互恵関係のための「CA+JAD東京イニシアティブ」を立ち上げ、「グリーン・強靱(じん)化」、「コネクティビティ(連結性)」、「人づくり」を重点協力3分野とした共同宣言(東京宣言)を採択した。同首脳会合の開催に先立ち、1月から2月にかけて長島昭久内閣総理大臣補佐官が総理特使として中央アジア5か国を訪問し、各国外相等との会談やカザフスタン及びウズベキスタンの大統領表敬において、「中央アジア+日本」対話・首脳会合に向けた協力や二国間関係等について意見交換を行った。また、8月には岩屋外務大臣がカザフスタン及びウズベキスタンを訪問し、「中央アジア+日本」対話・首脳会合を早期に開催することで一致した。今後も、ハイレベルの対話などを通して中央アジアとの関係を強化していく。日本とウズベキスタンとの関係では、8月のウズベキスタンの大阪・関西万博のナショナルデーに併せてウメロヴァ大統領府創造経済・観光局長が訪日した。さらに、同月、岩屋外務大臣がウズベキスタンを訪問し、サイードフ外相と両国間で初めてとなる外相戦略対話を実施したほか、ミルジヨーエフ大統領表敬等を行った。外相戦略対話においては、「中央アジア+日本」対話・首脳会合の早期開催に向けた協力や二国間関係等について協議を行い、会談後には、両外相により第1回外相戦略対話共同コミュニケが署名されたほか、無償資金協力「人材育成奨学計画」及び「スルハンダリア州におけるアフガニスタン人を含む脆(ぜい)弱層の自立支援計画」に関する書簡の署名・交換が行われた。12月には、「中央アジア+日本」対話・首脳会合に出席するために訪日したミルジヨーエフ大統領と高市総理大臣による首脳会談が実施され、成果として両国間の「次世代のための拡大された戦略的パートナーシップに関する共同声明」が発表されたほか、同対話・首脳会合に先立って円借款「畜産振興・家畜衛生強化計画」に係る交換公文の署名・交換が行われた。 岩屋外務大臣によるミルジヨーエフ・ウズベキスタン大統領への表敬(8月27日、ウズベキスタン・タシケント) カザフスタンとの関係では、3月にヌルトレウ・副首相兼外相が外務省賓客として訪日し、岩屋外務大臣との会談のほか、石破総理大臣及び林芳正官房長官を表敬した。また、8月のカザフスタンの大阪・関西万博のナショナルデーに併せてシャッカリエフ貿易・統合相が訪日した。さらに、同月に岩屋外務大臣がカザフスタンを訪問し、トカエフ大統領表敬等を行ったほか、ヌルトレウ副首相兼外相と外相会談を実施し、両外相により、無償資金協力「経済社会開発計画」(核実験被害者支援:医療機材の供与)に係る交換公文の署名・交換が行われた。12月には、「中央アジア+日本」対話・首脳会合に出席するために訪日したトカエフ大統領と高市総理大臣による首脳会談が実施され、成果として「将来に向けた拡大された戦略的パートナーシップの更なる相乗効果に関する共同声明」が発表されたほか、航空協定締結に向けた協議を開始することで一致した。 岩屋外務大臣によるトカエフ・カザフスタン大統領への表敬 (8月25日、カザフスタン・アスタナ) キルギスとの関係では、6月のキルギスの大阪・関西万博のナショナルデーに併せてバイサロフ内閣副議長が訪日した。12月には、「中央アジア+日本」対話・首脳会合に出席するために訪日したジャパロフ大統領と高市総理大臣による首脳会談が実施され、成果として「互恵的な協力を共創するための関係の更なる発展に関する共同声明」が発表された。また、同行したクルバエフ外相と茂木外務大臣との間で会談が行われ、この機会に「日本国外務省とキルギス共和国外務省の間の協力に関するプログラム(2026-2027)」及び日・キルギス租税協定への署名が行われた。 日・キルギス外相会談(12月19日、東京) タジキスタンとの関係では、5月に藤井外務副大臣がドゥシャンベで開催された「氷河保全に関するハイレベル国際会議」に日本政府を代表して出席するとともに、ムフリッディン外相を始めとする政府要人と会談を実施し、二国間関係等について意見交換を行った。6月のタジキスタンの大阪・関西万博のナショナルデーに併せてホリクゾダ第一副首相が訪日した。また、同月に東京で、日・タジキスタン経済・技術・科学協力政府間委員会第3回会合が開催された。12月には、「中央アジア+日本」対話・首脳会合に出席するために訪日したラフモン大統領と高市総理大臣による首脳会談が実施され、成果として「互恵的な協力を共創するための関係の更なる発展に関する共同声明」が発表された。また、同行したムフリッディン外相と茂木外務大臣との間で外相会談が行われ、この機会に「日本国外務省とタジキスタン共和国外務省の間の協力に関するプログラム(2026-2028)」及び日・タジキスタン投資協定への署名が行われた。 日・タジキスタン外相会談(12月19日、東京) トルクメニスタンとの関係では、大阪・関西万博における最初のナショナルデーとなったトルクメニスタン・ナショナルデーに併せて、4月、ベルディムハメドフ大統領が訪日し、石破総理大臣と首脳会談を行い、友好と相互信頼に基づく互恵的なパートナーである両国の関係深化に向けて、緊密に連携していくことを確認し、会談の成果として共同プレスリリースが発表された。また、11月に日・トルクメニスタン租税条約が発効した。12月には、「中央アジア+日本」対話・首脳会合に出席するために再度訪日したベルディムハメドフ大統領と高市総理大臣による首脳会談が実施され、成果として共同プレスリリースが発表された。 日・トルクメニスタン首脳会談 (12月20日、東京 写真提供:首相官邸ホームページ) (3)コーカサス諸国 コーカサス地域は、アジア、欧州、中東をつなぐゲートウェイ(玄関口)としての潜在性と国際社会の平和・安定に直結する地政学的重要性を有している。日本は、2018年に(ア)国造りを担う人造り支援(人材育成)及び(イ)魅力あるコーカサス造りの支援(インフラ支援及びビジネス環境整備)の2本柱から成る「コーカサス・イニシアティブ」を発表し、これに沿った外交を展開している。 アゼルバイジャンとの関係では、6月のアゼルバイジャンの大阪・関西万博のナショナルデーに併せてアラクバロフ大統領補佐官が訪日した。同補佐官は、伊東良孝国際博覧会担当大臣及び長島内閣総理大臣補佐官とそれぞれ面会を行い、二国間関係の一層の強化に向けた議論が行われた。 アルメニアとの関係では、石破総理大臣は、9月の大阪・関西万博のナショナルデーに併せて訪日したパシニャン首相との間で首脳会談を実施し、アルメニアとアゼルバイジャンとの和平に向けた共同宣言が署名されたことなどを歓迎し、和平の達成への期待が表明された。また、12月には日・アルメニア租税条約が発効した。 ジョージアとの関係では、12月、河合純一スポーツ庁長官がゴゴラゼ・スポーツ相の表敬を受け、スポーツを通じた両国間の連携に関し意見交換を行った。 コラム「中央アジア+日本」対話・首脳会合 CA+JADロゴマーク ©森薫 12月20日、東京において、「中央アジア+日本」対話(CA+JAD)1の初めての首脳会合が開催されました。同会合には、高市総理大臣の議長の下、トカエフ・カザフスタン大統領、ジャパロフ・キルギス大統領、ラフモン・タジキスタン大統領、ベルディムハメドフ・トルクメニスタン大統領、ミルジヨーエフ・ウズベキスタン大統領が参加しました。 2004年に日本が中央アジア諸国との対話メカニズムとして他国に先駆けてCA+JADを発足させてから21年が経(た)ち、今回の首脳会合では、この間の中央アジア地域内外を取り巻く国際情勢の変化を踏まえ、中央アジア地域の重要性と潜在性及び日本との協力について議論を行いました。高市総理大臣から、中央アジア地域の重要性と潜在性として、(ア)欧州とアジアの結節点としての地政学的重要性、(イ)エネルギーや鉱物資源を有する中央アジアの経済安全保障上の重要性、(ウ)経済成長と人口増加が著しい中央アジアの潜在性について指摘した上で、この首脳会合を機に、中央アジア5か国の産業高度化・多角化を後押しし、日本と中央アジアの互恵関係を強化するため、「CA+JAD東京イニシアティブ」を立ち上げることを宣言しました。具体的には、今回新たに特定した重点協力3分野である(ア)グリーン・強靱(じん)化(例:エネルギー・トランジション、防災、気候変動対策に関する協力、重要鉱物サプライチェーン強靱化)、(イ)コネクティビティ(例:「カスピ海ルートの円滑化支援を含むコネクティビティ強化」、「日本・中央アジアAI協力パートナーシップ」の立ち上げ)、(ウ)人づくり(例:人材育成奨学計画(JDS)等の継続、医療・保健分野の協力)を中心に、互恵的なプロジェクトを推進していくことを表明しました。 中央アジア各国首脳からは、重点協力3分野における日本側イニシアティブの協力・支援に対する謝意が示され、日本と中央アジアの互恵的なプロジェクトを組成していくことに意欲が示されました。 この会合の最後に、「中央アジア+日本」対話・首脳共同宣言(東京宣言)が採択されました。加えて、官民合わせて150件以上の文書が署名・披露されました。 同会合及び中央アジア5か国それぞれと実施された二国間首脳会談を機に、日本と中央アジアとの関係が更に強化されることが期待されます。 「中央アジア+日本」対話・首脳会合での集合写真 (12月20日、東京 写真提供:首相官邸ホームページ) CA+JADイメージキャラクターの等身大パネル ©森薫 1 CA+JAD(カジャッド):Central Asia plus JApan Dialogue (8) CIS:Commonwealth of Independent States (9) CSTO:Collective Security Treaty Organization (10) GCC(Gulf Cooperation Council):1981年にサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートによって設立。防衛・経済を始めとするあらゆる分野における参加国間での調整、統合、連携を目的としている。