第2章 地域別に見た外交 第4節 中南米 1 概観 (1)中南米の位置付け 法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が深刻な挑戦を受ける中、多くの中南米諸国は、自由、民主主義、法の支配、人権などの価値や原則を重視しており、こうした価値や原則を共有する中南米諸国との連携強化は、日本にとって近年ますます重要となっている。約6億6,000万人の人口と約7.1兆ドルの域内総生産を擁し、プラス成長を続ける中南米地域は、市場としても重要であるほか、重要な鉱物資源やエネルギー、食料資源も豊富であり、サプライチェーン構築や経済安全保障の観点からも、国際社会における存在感を増している。一方で、貧富の格差が深刻な国・地域では、麻薬カルテル等の犯罪組織の暗躍、深刻な治安の悪化や北米への非正規移民の発生や帰還移民の社会統合等の課題を抱えており、更なる成長の阻害要因ともなっている。 中南米地域には、世界の日系人の約6割を占める約310万人から成る日系社会が存在しており、100年以上に及ぶ現地社会への貢献を通じて同地域における伝統的な親日感情を醸成してきた。一方、移住開始から100年以上を経て世代交代が進み、若い世代を含め日本とのつながりを今後どう保ち深めていくかが課題となっている。こうした観点から、外務省は、日系人の招へい及び日本人学生の派遣事業(同世代日系人等との交流)に加え、ネットワーク作りの後押しのため、各国の日系人によるイベント開催の支援など、日系社会との連携強化に向けた施策を実施してきている。 (2)日本の対中南米外交 日本の対中南米外交は、2014年以来、「3つのJuntos!!(共に)」(1)の理念の下で展開されてきた。2024年、岸田総理大臣は、ブラジルにおいて、「中南米と共に拓く『人間の尊厳』への道のり」と題した対中南米政策スピーチを行い、10年ぶりにその指針をアップデートした。スピーチでは、(ア)法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の確保、(イ)環境、気候変動など人類共通の課題の克服、(ウ)誰をも犠牲にせず、世界の全ての人々が共有できる繁栄の追求、という方向性を示し、国際社会及びその課題の変化を踏まえ、対話を通じて中南米諸国と共に新たな道のりを切り開いていく決意を明らかにした。また、同年、上川外務大臣は、パナマにおいて、従来の外交上の取組に、海洋、ジェンダー平等といった重要性を増すテーマ、日系社会といった日本独自の切り口を横串として通すことで、中南米諸国との新たな連携を追求する「中南米外交イニシアティブ」を発表した。こうした中南米外交の指針とその具体化のためのイニシアティブの下、2025年の対中南米外交は新たな深化を見せた。 2025年は「日本ブラジル友好交流年(外交関係樹立130周年)」であり、3月にルーラ・ブラジル大統領を国賓として招き、石破総理大臣との会談等を実施した。また、同年は「日・中米交流年」に当たり、アレバロ・グアテマラ大統領、ムリーノ・パナマ大統領、ブリセーニョ・ベリーズ首相が訪日したほか、コスタリカ、ホンジュラス、ドミニカ共和国からも閣僚が訪日し、日本と中米の関係が深められた。4月から10月にかけて開催された大阪・関西万博の各国ナショナルデーに際しては、中南米地域から首脳11人、外相13人を含む閣僚級16人が訪日し、様々なレベルで会談等が行われた。 経済分野においては、日系企業の中南米地域拠点数が、2024年には3,095となり増加傾向が継続するなど、サプライチェーンの結び付きが強化されている。日本は、メキシコ、ペルー、チリも参加する「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」(2)などを通じ、中南米諸国と共に自由貿易の推進に取り組んでいる。同年11月には、コスタリカのCPTPPへの加入手続が開始され、2025年11月にはウルグアイの同協定への加入手続の開始が決定された。 開発協力の分野においては、経済成長を遂げた一部の中南米地域では、経済協力開発機構・開発援助委員会(OECD/DAC)(3)の政府開発援助(ODA)受取国リストからの「卒業国」、又は「卒業」を控えた国々により南南協力が進められており、日本はこれらの国々との間の三角協力を推進している。 (1) 2014年に安倍総理大臣が提唱した日本の対中南米外交の指導理念で、三つの「共に」とは、「共に発展」、「共に主導」、「共に啓発」を指す。 (2) CPTPP:Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership (3) OECD/DAC:Organisation for Economic Co-operation and Development/Development Assistance Committee