第2章 地域別に見た外交 第3節 北米 3 カナダ (1)カナダ情勢 カナダでは、2025年3月、約9年間首相を務めたトルドー首相が首相を退任し、与党・自由党党首選挙で勝利したマーク・カーニー氏が首相に就任した。カーニー首相は、4月末に実施された連邦下院議会選挙でも、改選343議席中169議席を獲得して勝利したものの、自由党少数政権が継続した。カーニー新政権発足時の閣僚は38人(閣内大臣28人、閣外大臣10人)であり、新入閣は24人(うち13人は初当選)、閣内大臣は男女同数(14人)、全10州から閣僚が任命された。少数政権のため、野党各党との是々非々での議会協力が続いているが、同年11月及び12月保守党議員2人が自由党へ鞍(くら)替えし、下院議席数が自由党は過半数議席まで1議席に迫っている。 経済面について、2025年11月のカナダ財務省の連邦予算方針によれば、同年の実質GDP成長率は1.1%(前年1.5%)、失業率は7.0%(前年5.4%)、消費者物価指数(CPI)の年間平均値は2.1%(前年平均値2.4%)の見通しとなっている。また、米国による関税措置と将来の貿易ルールに対する不確実性がもたらすマイナスの影響、政府による積極的な財政措置により、2025年度は783億加ドルの財政赤字が予想されている(前年12月の見込みでは422億加ドルの財政赤字)。 外交面では、2025年のG7議長国として、6月にG7カナナスキス・サミットを、3月と11月にG7外相会合を主催し、中東やウクライナ情勢を含めて幅広い事項に関する取組を主導した。また、伝統的に安定してきた米加関係にも大きな動きがあった。米国政府による一連の関税措置の一環で、カナダは3月から不法移民やフェンタニルの流入を理由とした25%の関税を全製品に対して課された(8月に35%に引上げ)(米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)準拠品は除外、エネルギー及び肥料は10%)。また、他国同様、各種分野別関税が賦課された。これを受けて、カナダ政府は米国の一部の品目に対し、対抗関税措置を発動した。3月に首相に就任したカーニー首相は、米国との新たな経済・安全保障関係構築を模索すると同時に、貿易多角化の観点から、欧州やインド太平洋諸国との協力関係の強化を推進した。 ASEAN諸国とは、2025年7月にアナンド外相が第32回ASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会合に出席し、10月にカーニー首相がASEAN関連首脳会議に出席するなど、2023年9月に確立した「戦略的パートナーシップ」に基づき関係を強化しており、2026年中のカナダ・ASEAN間の貿易協定締結に向け、交渉を加速化させている。2025年9月には、インドネシアのプラボウォ大統領がカナダを訪問し、ASEAN加盟国との間では初めて、インドネシアとの包括的経済連携協定に署名した。 対中関係では、2024年にカナダ政府は、中国の不公正な貿易慣行を理由に中国製電気自動車(EV)及び、中国からの鉄鋼・アルミニウム製品に対しての追加関税を賦課し、これ対して中国政府は、2025年3月、カナダ産菜種、水産物や豚肉等に対して追加関税を課した。さらにカナダ政府は6月以降、中国製鉄鋼製品への関税割当の設定及び中国で製錬・鋳造された鋼・アルミニウムを含有する製品への追加関税を賦課するなど、追加関税措置の応酬が続いていた。こうした中、2024年7月のジョリー外相の訪中に続き、2025年10月にアナンド外相が訪中し、11月のAPEC首脳会議の際には、カーニー首相と習近平(しゅうきんぺい)国家主席との間で、約8年ぶりの加中首脳会談が実施された。2026年1月、李強(りきょう)国務院総理の招待を受け、カーニー首相は、カナダ首相としては約8年ぶりに訪中した。同月16日に実施された習近平国家主席との加中首脳会談では、「新たな戦略的パートナーシップ」に関する首脳共同声明や、「加中経済・貿易ロードマップ」など七つの二国間協力に関する文書・覚書が締結され、2024年以降に加中両国間で課された特定品目への関税を大幅に引き下げるなど、加中貿易に関する暫定取決めが発表された。 対韓関係では、11月のAPEC首脳会議の際に加韓首脳会談が行われ、加韓安全保障・防衛協力パートナーシップで合意したことが発表された。 インドとの関係では、2023年のカナダ国内でのシーク教徒殺害事案の発生以降、緊張関係が続いていたが、6月のG7カナナスキス・サミットの際に加印首脳会談が行われた。8月末、両国は、相手国への在外公館長の再派遣を発表し、10月、アナンド外相が訪印した。 ウクライナ情勢への対応では、カナダは英国とフランスが主導する有志連合に参加し、退任直前のトルドー首相が2月に、カーニー首相が8月にウクライナを訪問するなど、対露制裁やウクライナ支援を継続している。2022年2月以降、カナダ政府は、総額65億加ドルの軍事支援を含め、総額220億加ドル(約2兆5,150万円)の支援にコミットしている。 イスラエル・パレスチナ情勢への対応では、9月の国連総会でカーニー首相は、カナダがパレスチナ国家の承認を行うことを発表した。7月には新たに4,000万加ドルの支援を発表するなど、ガザの人道状況改善のため、カナダ政府として総額3億4,000万加ドル(約388億円)の人道支援を発表している。 (2)日・カナダ関係 また、日本とカナダの間では、2025年1月から同年12月まで、首脳間で3回(うち電話会談1回)、外相間で6回(うち電話会談1回)の会談が行われた。 3月13日、G7シャルルボワ外相会合に出席するためカナダを訪問中の岩屋外務大臣は、ジョリー外相との間で外相会談を実施した。両外相は、G7を始めとする同盟国・同志国間の協力の重要性について確認し、岩屋外務大臣からは、日本として2025年のカナダG7議長年の成功に向けて最大限の支援をしていくことを述べた。両外相は、日加情報保護協定が実質合意に至ったことを歓迎した。 日加外相会談(3月13日、カナダ・シャルルボワ) 5月2日、石破総理大臣は、カーニー首相と電話会談を実施した。石破総理大臣から、カナダ連邦議会選挙における勝利に対して、カーニー首相に祝意を伝え、厳しい国際情勢が続く中、2025年G7サミット議長でもあるカーニー首相と協力して、様々な課題に対応していきたいと述べた。 5月29日、岩屋外務大臣は、アナンド外相と電話会談を実施した。岩屋外務大臣から、外務大臣就任に対する祝意を述べ、両外相は早期に対面で会談を実施することで一致した。 6月16日、G7カナナスキス・サミットに出席するためカナダを訪問中の石破総理大臣は、カーニー首相と首脳会談を行った。石破総理大臣からは、G7サミット開催に際するカーニー首相のリーダーシップに敬意を表するとともに、カナダで発生している山火事の被害に遭った方々へのお見舞いを伝えた。両首脳は、2025年に実質合意された情報保護協定及び防衛装備品・技術移転協定に早期に署名し、発効済みの物品役務相互提供協定を通じた協力と合わせ、安全保障分野の日加協力を強化することで一致した。また、両首脳は、日本企業が参画するカナダ産LNGや小型モジュール原子炉などの事業の進展を歓迎するとともに、蓄電池、重要鉱物分野などの経済分野における日加協力の可能性についても議論を行った。 日加首脳会談 (6月16日、カナダ・カナナスキス 写真提供:首相官邸ホームページ) 6月25日、NATO首脳会合関連行事等に出席した岩屋外務大臣は、アナンド外相と会談を実施した。岩屋外務大臣から、カナダがインド太平洋地域で実施している違法漁業監視活動や日本周辺海域における北朝鮮籍船舶の「瀬取り」(4)を含む違法な海上活動に対する警戒監視活動に触れつつ、同地域に対するカナダのコミットメントを歓迎した。 日加外相会談(6月25日、オランダ・ハーグ) 7月8日、岩屋外務大臣は、訪日中のアナンド外相と日加外相会談や日加情報保護協定の署名式等を実施した。両外相は、同情報保護協定の署名を歓迎した上で、防衛装備品・技術移転協定及び刑事共助条約についても早期の署名を実現することで一致した。両外相は、カナダが2025年のG7議長国を務めていることも念頭に、引き続き両国間及びG7で連携していくことを確認した。 日加外相会談(7月8日、東京) 11月1日、APEC首脳会議に出席するため、韓国・慶州(キョンジュ)を訪問中の高市総理大臣は、カーニー首相と日加首脳会談を行った。冒頭、カーニー首相から、高市総理大臣の就任について祝意が伝えられ、高市総理大臣からは、祝意に対する謝意を述べるとともに、2025年G7議長を務めるカーニー首相のリーダーシップに深い敬意を表した。両首脳は、FOIPの実現に向けて、「FOIPに資する日加アクションプラン」を土台として、緊密に協力していくことで一致した。高市総理大臣から、カナダは極めて重要なパートナーであると述べ、両首脳は安全保障、エネルギー安全保障、食料安全保障を含む経済分野等幅広い分野での協力を進めていくことを確認した。両首脳は、核・ミサイル問題及び拉致問題を含む北朝鮮への対応を始めとする地域情勢について、緊密に連携していていくことで一致した。 日加首脳会談(11月1日、韓国・慶州 写真提供:首相官邸ホームページ) 11月6日、茂木外務大臣は、アナンド外相と電話会談を実施した。アナンド外相から茂木外務大臣の就任に対する祝意が示され、これに対し、茂木外務大臣から謝意を述べるとともに、2025年G7議長国を務めるカナダのリーダーシップに敬意を表した。両外相は、今後のG7外相会合における連携を含め、協力を強化していくことを確認した。 11月11日、G7外相会合に出席するためにカナダ・ナイアガラを訪問中の茂木外務大臣は、アナンド外相と会談を実施した。茂木外務大臣から、2025年G7議長国を務めるカナダのリーダーシップに敬意を表し、両外相は、「FOIPに資する日加アクションプラン」を土台として、緊密に協力していくことで一致し実質合意済みの防衛装備品・技術移転協定及び刑事共助条約の早期署名に向けて協力していくことを確認した。その後、防衛装備品・技術移転協定については2026年1月、刑事共助条約については2025年12月に両政府間で署名がなされた。 日加外相会談(11月11日、カナダ・ナイアガラ) 経済・貿易分野においては、日本は、インド太平洋における自由で公正な経済秩序の維持・強化に向け、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)(5)の新規加入、一般見直しなどの議論を進める上でカナダと協力した。また、オタワ・グループでの議論を含め、世界貿易機関(WTO)改革についても連携した。また、2023年に作成されたバッテリー・サプライチェーンに関する協力覚書に基づく対話の第2回会合が8月に東京で開催された。会合では、日加間のグローバルなバッテリー・サプライチェーンの構築に向けて、両国で前回の対話以降進めてきた具体的なアクションプランについて確認し、引き続き両国の政策情報の交換、貿易・投資促進策、研究開発について更なる取組を進めていくことで一致した。エネルギー分野では、6月、日本企業が参画するLNGカナダプロジェクトの出荷が始まり、カナダ産LNGの日本を含むアジアへの供給が開始された。さらに、カナダ・オンタリオ州が進める原子力の小型モジュール炉(SMR)の建設プロジェクトにおいては、日本企業が開発に携わるSMRが採用された。科学技術分野においては、2023年に作成された量子・AI等の産業科学技術分野に関する協力覚書に基づく連携が進められている。 (4) ここでの「瀬取り」は、2017年9月に採択された国連安保理決議第2375号が国連加盟国に関与などを禁止している、北朝鮮籍船舶に対する又は北朝鮮籍船舶からの洋上での船舶間の物資の積替えのこと (5) CPTPP:Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership