第2章 地域別に見た外交 第2節 アジア・大洋州 1 概観 〈全般〉 アジア・大洋州地域は、様々な発展段階の国・地域が存在し、多種多様な文化や人種が入り交じり、相互に影響を与え合うダイナミックな地域である。米国、カナダ及びロシアを除くASEAN(1)地域フォーラム(ARF)参加国(2)には、世界人口(約82億人)の実に半分以上となる約42億人が居住している(3)。また、これらの国々の名目国内総生産(GDP)の合計は世界の30%(2024年)以上を占めており(4)、この地域は豊富な人材にも支えられ、国際社会の成長と繁栄の中心である。 緊密な関係にあるこの地域の力強い成長と持続的な安定は、日本を含む、国際社会の平和と繁栄に直結する。一方、北朝鮮の核・ミサイル開発、地域諸国による透明性を欠いた形での軍事力の強化・近代化、法の支配や開放性に逆行する一方的な現状変更の試み、海洋をめぐる問題における関係国・地域間の緊張の高まりなどにより、この地域の安全保障環境は厳しさと複雑さを増している。また、整備途上の経済・金融システム、経済的威圧や非市場的政策・慣行、国際組織犯罪、気候変動、不安定な食料・資源需給、頻発する自然災害、テロリズム、少子高齢化など、この地域の安定した成長を阻む要因も存在している。そうした地域を取り巻く状況や、日中関係の緊張の高まりもありながら(36ページ 2(1)イ参照)、日本は、この地域で首脳・外相レベルを始め、積極的な外交を展開し、近隣諸国との良好な関係を維持・発展させている。 首脳レベルの外交については、石破総理大臣は1月、就任後初の二国間訪問としてマレーシアとインドネシアを訪問し、それぞれの首脳と会談した。その後訪日したラオスの首相とも会談し、これらの会談では海洋安全保障、災害対応、脱炭素化などにつき実務的な協力を進めていくことで一致した。2月と3月にはパラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦と首脳会談を行った。 4月、石破総理大臣は、ベトナムとフィリピンを訪問し、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、安全保障を含む協力を強化していくことを確認した。また、5月には訪日したラオス、バングラデシュ、カンボジアの首脳とそれぞれ会談した。6月、カナダで開催されたG7カナナスキス・サミットに出席した際、韓国、オーストラリアの首脳と会談を行い、7月にはパプアニューギニアの首相と会談を行った。8月には訪日したモディ・インド首相と会談を行い、共同声明を含む成果文書を発表した。また同月、韓国、東ティモールの首脳とも会談を実施した。 9月、石破総理大臣は訪問した韓国で李在明(イジェミョン)韓国大統領と会談し、日韓関係を安定的に大きく発展させていくことで一致したほか、安全保障、経済安全保障分野について戦略的な意思疎通を続けていくことを確認した。同月、スリランカの首脳との会談も実施した。 10月、高市総理大臣は、総理大臣就任後初の外国訪問としてASEAN関連首脳会議に出席するためマレーシアを訪問し、FOIP実現の要であるASEAN諸国との連携強化を確認し、また日本とASEANが共に強く、豊かになるための協力を進めていく決意を伝えた。さらに同会議の際、オーストラリア、マレーシア、フィリピンの首脳と会談を行ったほか、ASEAN各国の首脳に挨拶をし、立ち話を行った。同月、高市総理大臣は、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に出席するため訪問した韓国で、中国、韓国の首脳と会談を行った。 11月、高市総理大臣は、フィジー首脳と会談を行い、さらに同月、G20首脳会合に出席するために南アフリカを訪問した際、インド、韓国、オーストラリア、ベトナム、マレーシアの首脳と会談や短時間の意見交換を実施した。 2026年1月、高市総理大臣は訪日中の李在明韓国大統領と会談し、日韓関係の戦略的重要性について認識を共有し、両国が地域の安定に連携して役割を果たしていくべきとの点を確認したほか、今後も緊密に意思疎通を続けることで一致した。 外相レベルの外交については、岩屋外務大臣は、2025年1月、韓国、フィリピン及びパラオを訪問し、それぞれの国で外相会談を行った。同月、ワシントンD.C.(米国)で開催された日米豪印外相会合に出席し、FOIPの実現に向けたコミットメントを再確認したほか、オーストラリア、インドの外相と会談を行った。2月、ミュンヘン安全保障会議に出席するため訪問したドイツで日米韓外相会合を行った。同月、パラオの外相とも会談した。 3月、岩屋外務大臣は、訪日したモンゴルとミクロネシア連邦のそれぞれの外相と会談した。同月、議長国として開催した日中韓外相会議では、国際社会の平和と繁栄に大きな影響力と責任を有する3か国で、共に未来志向の交流と協力を推進していくことを確認した。この機会に中韓両国とそれぞれ二国間外相会談を行ったほか、日中ハイレベル経済対話も開催し、協力案件のみならず、課題や懸案の解決に向けた率直な議論を行った。 4月、岩屋外務大臣は、北大西洋条約機構(NATO)外相会合に出席するためにベルギーを訪問し、日米韓外相会合を行った。また訪日中のトンガ外相とも会談した。5月にはネパール、フィリピン、カンボジア、タイと外相会談を行った。7月、岩屋外務大臣は、オーストラリア、インドの外相と会談を行った。同月、マレーシアで開催されたASEAN関連外相会議で、日本は引き続きASEANの「信頼のパートナー」として関係強化に取り組むことを確認した。マレーシア訪問中は日・メコン外相会議を共催したほか、日米比(フィリピン)外相会合、日米韓外相会合を行い、さらにベトナム、ニュージーランド、中国、ラオス、シンガポール、マレーシア、フィリピンなどと会談や短時間の意見交換を行った。 9月、岩屋外務大臣は、東京で日豪外務・防衛閣僚協議(「2+2」)及び日豪外相会談を実施した。「2+2」では、日豪双方はインド太平洋地域における一層厳しさを増す戦略環境への認識を深く共有し、共同の抑止力の強化に向けた協力を更に発展させることで一致した。また同月、国連総会等出席のため訪問したニューヨーク(米国)で日米韓外相会合を行い、カンボジア、タイの外相とも会談を実施した。同月、日・スリランカ外相会談を実施したほか、10月にはソロモン諸島とも外相会談を行った。 10月、茂木外務大臣はパラオとの外相会談を実施した。同月、大臣就任後初めての外遊としてマレーシアを訪問し、ASEAN+3(日中韓)首脳会議、地域的な包括的経済連携(RCEP)首脳会議、東アジア首脳会議(EAS)に総理大臣の代理として出席したほか、ベトナムとインドの外相と会談した。さらに、APEC閣僚会議への出席のため訪問した韓国で、オーストラリア、韓国、シンガポールの外相との会談や短時間の意見交換に加え、日米韓外相会合を行った。 11月、茂木外務大臣は、東京で日・インドネシア外務・防衛閣僚会合(「2+2」)及び両国外相会談を主催した。「2+2」では、4大臣は、厳しさを増している現下の安全保障環境への認識を共有した上で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するため、協力関係を更に強化していくことを確認した。12月には訪日したタイ外相と会談を行った。 2026年1月、茂木外務大臣はフィリピンとインドを訪問し、両国での外相会談などを通じ、FOIPの実現に向け、現下の厳しい地域・国際情勢について認識を共有し、日米比や日米豪印の枠組みも含めて協力することで一致した。 〈日米同盟とインド太平洋地域〉 日米同盟は日本の外交・安全保障の基軸であり、インド太平洋地域、そして国際社会の平和と繁栄の基盤である。地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米同盟の重要性はこれまでになく高まっている。かつてなく強固な日米の協力関係の下、米国とは、1月のトランプ政権発足以降、電話会談を含め10回の首脳会談及び6回の外相会談(2026年1月時点)を行うなど、首脳及び外相間を始めとするあらゆるレベルで常時意思疎通し、連携して地域と国際社会の平和と安定を堅持するため尽力している。日米両国はFOIPの実現に向けた協力を進め、また、中国や北朝鮮、ロシア・ウクライナ情勢及び中東情勢を含む地域の諸課題への対応に当たり連携を深めている。 2月、石破総理大臣は、ワシントンD.C.を訪問し、トランプ大統領と対面で初となる日米首脳会談を行った。両首脳は、厳しく複雑な安全保障環境に関する情勢認識を共有し、FOIPの実現に向けて緊密に協力し、日米同盟を新たな高みに引き上げていくことを確認し、日米同盟の抑止力・対処力を高めることで一致した。石破総理大臣からは、日本の防衛力の抜本的強化への揺るぎないコミットメントを表明し、トランプ大統領はこれを歓迎した。トランプ大統領は、米国による核を含むあらゆる能力を用いた、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメントを強調した。両首脳は、日米安全保障条約第5条が尖(せん)閣諸島に適用されることを改めて確認するとともに、辺(へ)野古における普天間飛行場代替施設の建設及び普天間飛行場の返還を含む沖縄統合計画に従った在日米軍再編の着実な実施へのコミットメントを確認した。さらに、両首脳は、中国をめぐる諸課題や核・ミサイル問題及び拉致問題を含む北朝鮮への対応といった地域情勢について意見交換を行った。 最後に、両首脳は、日米豪印、日米韓、日米比といった同志国連携を更に強化していくことの重要性を確認し、かつてなく強固になった日米関係を維持・強化するため、引き続き日米で緊密に連携していくことで一致し、日米首脳共同声明を発出した。 4月から6月にかけて、石破総理大臣はトランプ大統領と計4回にわたる電話会談を実施し(4月7日、5月23日、5月29日、6月13日)、2月の日米首脳会談の成果を踏まえ、外交・安全保障、経済にまたがる幅広い分野で日米の協力を一層前進させるため意見交換を重ねた。 6月、石破総理大臣はG7カナナスキス・サミット出席のためカナダを訪問した際、トランプ大統領と首脳会談を行った。両首脳は、FOIPを推進し、両国が世界の平和と繁栄に一層貢献するため、日米同盟を更に強化していくことを確認した。また、米国による一連の関税措置に関し、率直な議論を行い、担当閣僚に対し、更に協議を進めるよう指示することで一致した。 10月に発足した高市政権でも、日米同盟の強化は、政権の外交・安全保障政策上の最優先事項と位置付けられている。政権発足後間もない同月25日、高市総理大臣はトランプ大統領と初の電話会談を行い、両首脳は、日米同盟を更なる高みに引き上げていくために協力していくことを確認した。さらに、その直後の10月末にトランプ大統領が訪日した際には、高市総理大臣は、トランプ大統領と日米首脳会談や署名式などの一連の行事を行い、幅広い分野での率直な議論を通じて大きな成果を上げた。両首脳は日米同盟の抑止力・対処力を一層強化するため、幅広い安全保障協力を進めていくことで一致した。また、高市総理大臣からは、FOIPを、日本外交の柱として、引き続き力強く推進し、時代に合わせて進化させていく決意を示した上で、両首脳は、FOIPを力強く推進するために、緊密に連携していくことを確認した。さらに両首脳は、そのビジョンの下で、日米韓、日米比、日米豪印といった地域の同志国ネットワークを強化していく重要性を確認した。 また、10月に茂木外務大臣もルビオ国務長官との間で日米外相会談を行い、日米間で、具体的な安全保障協力を進め、日米同盟の抑止力・対処力を強化していくことで一致し、FOIPの実現に向け、日米韓、日米比、日米豪印などの同志国連携を更に進めていくことを確認した。高市総理大臣は11月末にもトランプ大統領と電話首脳会談を行い、両首脳は、日米同盟の強化やインド太平洋地域が直面する情勢や諸課題について、幅広く意見交換を行った。 また、両首脳は2026年1月2日にも電話首脳会談を行い、高市総理大臣から、米国が建国250周年を迎えることに対する祝意を伝え、この記念すべき年を日米同盟の新たな歴史を切り拓(ひら)く1年とするため、日米間の友好関係や、経済や安全保障を含む裾野の広い日米協力を一層深めていくことを確認した。 〈慰安婦問題についての日本の取組〉 (日韓間の慰安婦問題については、57ページ3(2)イ(ウ)参照) 慰安婦問題を含め、先の大戦に関する賠償並びに財産及び請求権の問題について、日本政府は、米国、英国、フランスなど45か国との間で締結したサンフランシスコ平和条約及びその他二国間の条約などに従って誠実に対応してきており、これらの条約などの当事国との間では、個人の請求権の問題も含め、法的に解決済みである。 その上で、日本政府は、元慰安婦の方々の名誉回復と救済措置を積極的に講じてきた。1995年には、日本国民と日本政府の協力の下、元慰安婦の方々に対する償いや救済事業などを行うことを目的として、財団法人「女性のためのアジア平和国民基金」(略称:「アジア女性基金」)が設立された。アジア女性基金には、日本政府が約48億円を拠出し、また、日本人一般市民から約6億円の募金が寄せられた。日本政府は、元慰安婦の方々の現実的な救済を図るため、元慰安婦の方々への「償い金」や医療・福祉支援事業の支給などを行うアジア女性基金の事業に対し、最大限の協力を行ってきた。アジア女性基金の事業では、元慰安婦の方々285人(フィリピン211人、韓国61人、台湾13人)に対し、国民の募金を原資とする「償い金」(一人当たり200万円)が支払われた。また、アジア女性基金は、これらの国・地域において、日本政府からの拠出金を原資とする医療・福祉支援事業として一人当たり300万円(韓国・台湾)、120万円(フィリピン)を支給した(合計金額は、一人当たり500万円(韓国・台湾)、320万円(フィリピン))。さらに、アジア女性基金は、日本政府からの拠出金を原資として、インドネシアにおいて、高齢者用の福祉施設を整備する事業を支援し、また、オランダにおいて、元慰安婦の方々の生活状況の改善を支援する事業を支援した。 個々の慰安婦の方々に対して「償い金」及び医療・福祉支援が提供された際、その当時の内閣総理大臣(橋本龍太郎内閣総理大臣、小渕恵三内閣総理大臣、森喜朗内閣総理大臣及び小泉純一郎内閣総理大臣)は、自筆の署名を付したお詫(わ)びと反省を表明した手紙をそれぞれ元慰安婦の方々に直接送った。 2015年の内閣総理大臣談話に述べられているとおり、日本としては、20世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を胸に刻み続け、21世紀こそ女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、リードしていく決意である。 このような日本政府の真摯な取組にもかかわらず、「強制連行」や「性奴隷」といった表現のほか、慰安婦の数を「20万人」又は「数十万人」と表現するなど、史実に基づくとは言いがたい主張も見られる。 これらの点に関する日本政府の立場は次のとおりである。 ●「強制連行」 これまでに日本政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった。 ●「性奴隷」 「性奴隷」という表現は、事実に反するので使用すべきでない。この点は、2015年12月の日韓合意の際に韓国側とも確認しており、同合意においても一切使われていない。 ●慰安婦の数に関する「20万人」といった表現 「20万人」という数字は、具体的な裏付けがない数字である。慰安婦の総数については、1993年8月4日の政府調査結果の報告書で述べられているとおり、発見された資料には慰安婦の総数を示すものはなく、また、これを推認させるに足りる資料もないので、慰安婦の総数を確定することは困難である。 日本政府は、これまで日本政府がとってきた真摯な取組や日本政府の立場について、国際的な場において明確に説明する取組を続けている。具体的には、日本政府は、国連の場において、2016年2月の女子差別撤廃条約に基づく第7回及び第8回政府報告審査(5)、2021年9月提出の同条約の実施状況に関する第9回政府報告、2024年10月の第9回政府報告審査及び2022年10月の市民的及び政治的権利に関する国際規約に基づく第7回政府報告審査(6)を始めとする累次の機会を捉え、日本の立場を説明してきている。 また、韓国のほか、一部の国・地域でも慰安婦像(7)などが設置されており、このような動きは日本政府の立場と相容(い)れない、極めて残念なものである。日本政府としては、引き続き、様々な関係者にアプローチし、日本の立場について説明する取組を続けていく。 慰安婦問題についての日本の取組に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page25_001910.html (1) ASEAN:Association of Southeast Asian Nations(東南アジア諸国連合) (2) ASEAN加盟国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、東ティモール及びベトナム)、日本、米国、インド、オーストラリア、カナダ、韓国、スリランカ、中国、ニュージーランド、パキスタン、パプアニューギニア、バングラデシュ、モンゴル、ロシアの25か国。このほか、1地域、1機関が参加(北朝鮮、EU) (3) 出典:国連人口基金 (4) 出典:世界銀行 (5) 詳細は以下ホームページ参照:https://warp.ndl.go.jp/web/20240702124320/https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page24_000733.html (6) 規約第40条(b)に基づく第7回報告(自由権規約委員会からの事前質問票に対する回答)(2020年3月)はこちら:https://warp.ndl.go.jp/web/20250903123913/https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100045760.pdf (7) 分かりやすさの観点から、便宜上、「慰安婦像」との呼称を用いるが、この呼称は、これらの像に係る元慰安婦についての描写が正しいとの認識を示すものでは決してない。