第4章 国民と共にある外交 第2節 海外における日本人への支援 1 海外における危険と日本人の安全 (1)2024年の事件・事故などとその対策 2024年は、年間延べ1,300万人(1)の日本人が海外に渡航し、同年10月時点で約129万人の日本人が海外に居住している。このような海外に渡航・滞在する日本人の生命・身体を保護し、利益を増進することは、外務省の最も重要な任務の一つである。 2020年以降、日本人が犠牲となるテロ事件は発生していなかったが、4月にカラチ(パキスタン)において日本人1人が負傷する襲撃事案が発生したほか、2024年も各地で多くのテロ事件が発生した。主なテロ事件としては、ケルマーン(イラン)における爆発事件(1月)、モスクワ(ロシア)での銃撃事件(3月)、カラチ(パキスタン)での国際空港付近における爆発事件(10月)、テルアビブ(イスラエル)における銃撃事件(10月)などが挙げられる。また、中東地域では、イラク、シリア、イスラエル、アフガニスタンを中心に、南西アジアではパキスタン、アフリカでは、ブルキナファソ、マリ、ニジェール、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、ソマリア、モザンビークなどにおいても多くのテロ事件が発生した。 近年、イスラム過激派の活動は世界各地に拡大しており、多くの日本人が渡航・滞在する欧米やアジアでもテロが発生している。欧米で生まれ育った者がインターネットなどを通じて過激思想に感化され実行するテロ(ホーム・グロウン型)や、組織的背景が薄い単独犯によるテロ(ローン・オフェンダー型)、不特定多数の人が集まる日常的な場所におけるテロが引き続き多く発生している。また、欧米では特定の人種や民族に対する憎悪を動機とした犯罪(ヘイトクライム)を始めとして極右・極左過激主義者による暴力的な活動も活発になっている。 2024年も世界各地で日本人が犯罪被害を受ける事件(無差別殺傷事件など含む。)、交通事故、登山中の事故などが発生し、支援を行ってきた。 自然災害は、世界各地で発生しており、台湾東部沖の地震(4月)や、各地での台風、ハリケーン、大雨、山火事などでは大きな被害が出た。 中南米のハイチでは、治安の急激な悪化を受け、日本政府は、フランス政府と協力し日本人のハイチからの出国を支援した(3月)。大洋州のフランス領ニューカレドニアでは、大規模な騒乱を受け、日本政府は、危険レベルを引き上げ、オーストラリア政府やフランス政府と協力し日本人のニューカレドニアからの出国を支援した(5月)。中東では、イスラエルとレバノンのヒズボッラー間の攻撃の応酬が激化したことを受け、イスラエル及びレバノンの危険レベルを引き上げ、自衛隊機及び政府チャーター船により日本人のレバノンからの出国を支援した(10月)。 また、地域情勢に応じ、渡航・滞在に当たって特に注意が必要と考えられる国・地域に関する海外安全情報を随時発出した。 外務省は、感染症など、健康・医療面で注意を要する国・地域についても随時関連の海外安全情報を発出し、流行状況や感染防止策などの情報提供及び渡航や滞在に関する注意喚起を行っている。 2024年には、アフリカ中部のコンゴ民主共和国を中心にエムポックスの新たなクレード(株)による流行が発生し、WHOがPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)を宣言したことなどを踏まえ、同国を含むアフリカ7か国に感染症危険情報を発出した。また、主に熱帯地域を中心に発生している蚊が媒介する感染症であるデング熱について、全世界を対象に感染症広域情報を発出し、渡航や滞在に関する注意喚起を行った。 (2)海外における日本人の安全対策 日本の在外公館及び公益財団法人日本台湾交流協会が2022年に対応した日本人の援護人数は、延べ1万6,895人、援護件数は1万4,454件であった。このような中で、世界各地の日本国大使館・総領事館などにおいて、日本人への各種支援や出入国・治安関連などの情報発信を、きめ細かな形で実施した。 2022年海外邦人援護統計の地域別件数内訳 日本人の安全を脅かすような事態は世界中の様々な地域で絶え間なく発生している。海外に渡航する日本人にとっては、感染症とテロが同時に発生する複合リスクに備えることが必要とされており、万が一海外でテロやその他事件・事故に遭遇した場合の対応は、従来にも増して困難となり、海外安全対策に万全を期すことがより一層求められている。 こうした観点から、外務省は、広く国民に対して安全対策に関する情報発信を行い、安全意識の喚起と対策の推進に努めている。具体的には、「海外安全ホームページ」で各国・地域について最新の安全情報を発出しているほか、在留届を提出した在留邦人及び外務省海外旅行登録「たびレジ」に登録した短期旅行者などに対して、渡航先・滞在先の最新の安全情報をメールで配信している。 海外安全ホームページに掲載されている主な海外安全情報(体系及び概要) 「たびレジ」の登録及び在留届の提出を促進するため、広報活動にも積極的に取り組んでおり、各旅券事務所で広報カードを配布したほか、広報動画を外務省公式YouTubeで公開した。海外旅行関連業者などに向けては、海外渡航者のデータを一括で登録することができる「たびレジ」連携インターフェイスも提供しており、企業にインターフェイスの活用を呼びかけている。9月に「ツーリズムEXPOジャパン」(東京)にブースを出展し、海外に渡航・滞在する日本人の安全のために情報提供や注意喚起を行った。なお、「たびレジ」は2014年7月の運用開始以降、利便性向上のための取組や登録促進活動などにより、その登録者数は2025年2月時点で累計1,070万人を突破した。 3か月未満の海外渡航者向け「たびレジ」と、3か月以上の海外滞在者向け「在留届」を、俳優の石田ひかりさんと森高愛さんが紹介 (動画) https://www.youtube.com/watch?v=TKjylf_moW4 (たびレジ) https://www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg/index.html (在留届) https://www.ezairyu.mofa.go.jp/RRnet/index.html これまで、在留届は在留国到着後に住所が確定して初めて提出が可能であったが、5月1日から、日本出発90日前から、住所が確定していなくても提出が可能となった。これにより、日本出発前でも、在外公館が発信する安全情報や海外生活に役立つ情報をメールで受け取ることが可能となった。 また、外務省は、セミナーや訓練を通じて海外安全対策・危機管理に関する国民の知識や能力の向上を図る取組も行っている。2024年は、外務省主催の海外安全対策セミナーをオンライン・対面で実施した(在外公館で11回、国内で5回)ほか、国内の各組織・団体などが日本全国各地で実施するセミナーにおいて外務省領事局職員が講師として講演を行った。また、音声プラットフォームを通した海外安全情報の定期的な配信も行った。 さらに、日本企業・団体関係者の参加を得て、「官民合同テロ・誘拐対策実地訓練」を国内外で実施した。特に、国外での「官民合同テロ・誘拐対策実地訓練」は、2019年9月以来、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の流行を受け実施を見合わせていたが、2023年は約3年半ぶりに実施し、2024年は1月にトルコで開催した。これらの取組は、一般犯罪やテロなどの被害の予防に役立つことはもちろん、万が一事件に巻き込まれた場合の対応能力向上にも資するものである。また、海外でも官民が協力して安全対策を進めており、各国の在外公館では、「安全対策連絡協議会」を開催し、在留邦人との間で情報共有や意見交換、有事に備えた連携強化を継続している。 加えて、2016年7月のダッカ襲撃テロ事件を契機に、安全に関する情報に接する機会が限られる中堅・中小企業などへの啓発の強化を目的として作成した「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」を活用した啓発や、LINEサービス上で、「デューク東郷からの伝言」との形でゴルゴ13を交えた安全対策に関する啓発メッセージや身を守るために役立つ知識の配信を引き続き推進した。 また、海外渡航する日本人を対象として、テロや誘拐に遭遇しないための留意点や、万が一巻き込まれた場合の対応、緊急連絡先を取りまとめた「海外渡航の安全対策」リーフレットを作成し、企業関係者などに配布した。 海外安全対策フライヤー(表面) 海外安全対策フライヤー(裏面) 海外に渡航する日本人留学生に関しては、多くの教育機関で安全対策及び緊急事態対応に係るノウハウや経験が十分に蓄積されていない実情を踏まえ、外務省員が大学などの教育機関での講演やオンライン形式も含めた安全対策講座を実施しているほか、在留届や「たびレジ」の登録率向上のための協力依頼を行った。今後も引き続き学生の安全対策の意識向上及び学内の危機管理体制の構築の支援に努めていく。一部の留学関係機関との間で「たびレジ」自動登録の仕組みを開始するなど、政府機関と教育機関、留学エージェント及び留学生をつなぐ取組を進めている。 (1) 出典:日本政府観光局(JNTO)