第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 4 日本企業の海外展開支援(日本の農林水産物・日本産食品の輸出促進を含む。) (1)外務本省・在外公館が一体となった日本企業の海外展開の推進 外国に進出している日本企業は、国内外の経済情勢やそのほかの事情の影響を受けつつも中長期的には増加傾向にある。これは、日本経済の発展を支える日本企業の多くが、海外市場の開拓を目指し、海外展開に積極的に取り組んできたことの現れである。グローバル・サウスなど、海外の経済成長の勢いを日本経済に取り込む観点からも、政府による日本企業支援の重要性は高まっている。 このような状況を踏まえ、外務省では、本省・在外公館が連携して日本企業の海外展開支援に取り組んでいる。在外公館では、「開かれた、相談しやすい公館」をモットーに、大使や総領事が自ら先頭に立ち、日本企業支援担当官を始めとする館員と共に、日本企業への各種情報提供や外国政府への働きかけなど、各地の事情に応じた支援を行っている。4月以降、第三国市場への進出など、国境を越えた活動を展開する日本企業を効果的に支援することを目的に、新たに経済広域担当官を指名しており、広域の視点に立った支援を開始している(2024年12月末時点、アフリカ、東南アジア、中央アジア、中南米市場などを念頭に14か国17公館で指名されている。)。そのほか、経済的威圧に関する相談対応や、アジア・アフリカ地域などの一部公館では、現地の法令事情に精通した日本人弁護士を活用し、現地の法制度に関するセミナーや法律相談なども実施している。 ビジネス上の課題に関する相談対応だけではなく、天皇誕生日祝賀レセプションや展示会を含む各種イベントで、日本企業の製品・技術・サービスや日本産農林水産物などの「ジャパンブランド」を広報することも、在外公館における日本企業支援の重要な取組の一環である。日本企業の商品展示会や試食・試飲会、ビジネス展開を目的としたセミナー、地方自治体の物産展など、日本製品や日本産食品を広報・宣伝する場として、あるいは現地企業・関係機関との交流・ネットワーキングの場として、大使館や大使公邸などの施設を積極的に活用してきている。 (2)インフラシステムの海外展開の推進 新興国を中心としたインフラ需要を取り込み、日本企業のインフラシステムの海外展開を促進するため、2013年に内閣官房長官を議長とし、関係閣僚を構成員とする「経協インフラ戦略会議」が設置され、2024年12月までに58回の会合が実施された。同会議では2013年に作成された「インフラシステム輸出戦略」を毎年改定し、フォローアップを行ってきたが、2024年12月には、世界のインフラ市場の構造的な変化などインフラ海外展開を取り巻く環境の変化を踏まえ、「インフラシステム海外展開戦略2030」を策定し、従来のインフラ概念を超え、新たな領域においても政策対応を講じつつ官民が連携して挑戦し、日本と相手国双方の成長につなげていく方向性が打ち出された。この戦略において、(ア)相手国との共創を通じた日本の「稼ぐ力」の向上と国際競争力強化、(イ)経済安全保障などの新たな社会的要請への迅速な対応と国益の確保、(ウ)GX(グリーントランスフォーメーション)・DX(デジタルトランスフォーメーション)などの社会変革をチャンスとして取り込む機動的対応の3本の柱につき具体的施策が明記され、2030年のインフラシステムの受注額を45兆円とすることが目標として掲げられた。外務省としては、首脳・外相レベルを始めとするトップセールスの推進に加え、在外公館を通じた支援や政府開発援助(ODA)の活用を通じた取組を進めている。 (3)日本の農林水産物・食品の輸出促進(東日本大震災後の日本産食品に対する輸入規制撤廃) 日本産農林水産物・食品の輸出拡大は政府の重要課題の一つであり、2020年12月に「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」を策定し、農林水産物・食品の輸出額目標の達成に向け、政府一体となって取り組んでいる。2021年と、2022年6月、同年12月及び2023年12月には本戦略を改訂し、更なる輸出拡大に向けて取組を加速化させている。外務省としても、関係省庁・機関、日本企業、地方自治体などと連携しつつ、輸出拡大に向けた取組を実施しており、特に63か国・地域の計85の在外公館では日本企業支援担当官(食産業担当)を指名、そのうち一部公館には現地事情に精通する農林水産物・食品輸出促進アドバイザーも設置するなどして重点的に取り組んでいる。また、在外公館などのネットワークやSNSも活用しながら、日本産農林水産物・食品の魅力を積極的に発信しているほか、各国・地域の要人を招待するレセプションや文化行事などの様々な機会を捉え、精力的なPR活動を行っている。加えて、一部都市では、在外公館・独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)海外事務所などで構成する輸出支援プラットフォームが、現地を拠点とする強みをいかし、国内事業者、品目団体、都道府県などに対し、現地発の有益な情報を提供するほか、これらの関係者と海外の事業者とをつなぎ、様々なプロモーション活動をオールジャパンで行うための企画立案を行う役割を果たしている。 輸出拡大の大きな障壁の一つとして、東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故後に諸外国・地域が導入した日本産農林水産物・食品に対する輸入規制措置がある。この規制の撤廃及び風評被害対策は政府の最重要課題の一つである。外務省も、関係省庁と連携しながら、1日も早くこうした規制が完全に撤廃されるように取り組んでいる。こうした取組の結果、累計で49か国・地域が規制を撤廃した。また、9月には、台湾が規制の更なる緩和を発表した。 一方、2024年末時点も6の国・地域が規制を維持している(輸入停止を含む規制:韓国、中国、香港(ホンコン)、マカオ、ロシア、検査証明書などの要求:台湾)。特に中国、香港、マカオ及びロシアは、2023年8月のALPS処理水の海洋放出の開始を受けて新たに強化した規制を現在も維持している。 このうち中国との間では、2024年9月に、ALPS処理水の海洋放出と日本産水産物の輸入規制について「日中間の共有された認識」を発表し、中国政府は、国際原子力機関(IAEA)の枠組みの下での追加的モニタリングを実施後、日本産水産物の輸入規制措置の調整に着手し、日本産水産物の輸入を着実に回復させることとなった。日本として、こうした発表を踏まえ、引き続き中国政府に対してあらゆるレベルで日本産水産物の輸入回復を早期に実現するよう求めていく。 また、日本はWTOにおいて、中国を含む各国・地域の規制につき早期の規制撤廃を一貫して強く働きかけ、SPS協定に基づき中国などに討議要請を行ったほか、WTOの関連委員会においても日本の立場を説明している。さらに、日中両国が締約国となっているRCEP協定の規定に基づき、中国政府に対して討議の要請を行い、中国が協定の義務にしたがって討議に応じるよう求めている。このように、引き続き、関係省庁、地方自治体、関係する国際機関などと緊密に連携しながら、科学的根拠に基づく規制の早期撤廃及び風評被害の払拭に向け、あらゆる機会を捉え、粘り強く説明及び働きかけを行っていく。 特集経済広域担当官の指名 近年、いわゆる「グローバル・サウス」と呼ばれる開発途上国・新興国の経済的な存在感が急速に高まっています。日本の経済を更に成長させていく観点から、この「グローバル・サウス」の活力を日本に取り込むことが一層重要になってきています。こうした認識の下、一部の日本企業は、海外に設けた生産拠点から将来の成長が期待できる第三国向けの輸出を視野に入れた生産活動を行っているほか、拠点国の現地企業と連携しながら成長著しい第三国市場への進出に向けた取組を進めるなど、国境・地域を越えた事業展開を加速させています。一方、こうしたビジネスを進める上で、日本企業は、進出/輸出先となる第三国の当局による突然の規制追加・変更、税制上のトラブル、不当利益(賄賂)供与依頼などへの対応、査証や労働許可の取得の遅延など、様々なリスクに直面します。また、第三国への進出/輸出を円滑に進める上では、その国に関する政治、経済、治安などに関する情報へのアクセスや、信頼できる他国のパートナー企業との連携も鍵となってきます。 こうした課題や実態を踏まえ、日本企業が抱えるそれぞれの事情やニーズに柔軟に呼応できるよう、外務省は、2024年を通じ、複数の在外公館において経済広域担当官を新たに指名しました。以前は、各国の大使館や総領事館の日本企業支援担当官が、主にそれぞれの国における事業活動に関する個別の相談・支援要請に対応してきていましたが、経済広域担当官は、「グローバル・サウス」への事業展開に関心を有し、広域の視点をもって戦略的に海外への事業展開を進めている日本企業のニーズに、より的確に、かつ積極的に応えていくことになります。具体的には、第三国市場への進出/輸出を進める企業に対して、その国のビジネス環境などに関する情報提供を行ったり、企業から個別に相談がある場合には、進出先となる国の政府に対する外交的働きかけを調整することになります。また、第三国でのビジネス環境を熟知している外国企業とのネットワーキングも積極的に行っていきます。 今後も、この経済広域担当官を効果的に運用しつつ、外務本省や関係省庁・機関と世界各地の在外公館の間のネットワークも活用しながら、オールジャパンでの日本企業支援を積極的に進めていきます。 経済広域担当官の指名地域 上川外務大臣と経済広域担当官とのオンラインによる意見交換の様子(7月12日)