第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 3 国際会議における議論の主導 (1)G7 G7は、国際社会が直面する諸課題に結束して対応している。ロシアによるウクライナ侵略の継続や、中東情勢の緊迫化などの新たな挑戦に直面する中、2023年のG7広島サミットで強調された、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の堅持やG7を超えた国際的なパートナーへの関与の強化という二つの視点はますます重要性を増しており、これらは2024年のG7イタリア議長下でも引き継がれた。 6月13日から15日まで開催されたG7プーリア・サミットでは、議長国イタリアが最優先課題に掲げるアフリカや移住問題への対応を始め、ウクライナ、中東、インド太平洋といった地域情勢、経済安全保障、AI、気候・エネルギー、開発などについて議論し、国際社会が直面する課題への対応をG7が主導していく姿勢を示した(21)。 G7プーリア・サミット (6月13日、イタリア・プーリア 写真提供:首相官邸ホームページ) また、ウクライナ情勢に関するセッションの一部にはゼレンスキー・ウクライナ大統領が参加した。 岸田総理大臣は、前年のG7広島サミットの成果も踏まえ、以下のとおり日本の立場や取組を発信した。 (ア)アフリカについては、アフリカ諸国の声に寄り添った協力の拡充の重要性に加え、グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)を始めとした取組をアフリカのニーズに沿う形で一層推進すべきであることを強調した。 (イ)イスラエル・パレスチナ情勢について、停戦及び事態の早期沈静化が最重要であり、即時停戦、人質の解放、人道状況の改善、及び持続的な停戦を作り上げていく必要があると強調した。 (ウ)ウクライナ情勢について、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」との考えの下、引き続き対露制裁とウクライナ支援を強力に推進すると述べた。G7首脳は、約500億ドル規模の「ウクライナのための特別収益前倒し融資」を立ち上げることで一致し、プーリア・サミット後の10月に同融資を実施するための方策について一致した。 (エ)インド太平洋情勢について、リードスピーカーとして日本の考え方を包括的に述べ、この地域の問題を引き続きG7の優先課題として取り組む必要性を強調した。G7首脳は、中国をめぐる諸課題への対応や、核・ミサイル問題、拉致問題を含む北朝鮮への対応において、引き続き緊密に連携していくことを確認した。 (オ)経済安全保障について、過剰生産や経済的威圧を含む経済安全保障上の課題への対応や国際連携の在り方に関する日本の立場を述べつつ、議論を主導した。 (カ)AIについて、安全、安心で信頼できるAIを利用できるためのガバナンスの形成が急務であり、前年に広島AIプロセスで策定した国際指針や行動規範を実践するとともに、G7を超えた取組を進めていくことの重要性を強調した。 (キ)エネルギーについて、エネルギー安全保障、気候危機、地政学リスクを一体的に捉え、経済成長を阻害せず、各国の事情に応じた多様な道筋の下で、ネット・ゼロという共通のゴールを目指すことが引き続き重要であると述べ、エネルギー移行に伴い需要が増す重要鉱物については産出国との協力の重要性を指摘した。 2024年のG7イタリア議長下では、6月のプーリア・サミットに加え、2月、4月及び10月にG7首脳テレビ会議及び電話会議が行われ、ロシアによるウクライナ侵略や緊迫化する中東情勢への対応などについて議論が行われた。また、12月には、G7イタリア議長年を締めくくるG7首脳テレビ会議も開催された。 G7外相会合は、2024年にオンライン形式も含めて計6回開催された。前年の日本議長年に続き、中東情勢、ウクライナ情勢に加えインド太平洋についても中心議題としてG7で緊密な意思疎通が行われた。4月17日から19日にカプリ島(イタリア)で開催されたG7外相会合では、G7外相が、法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋に対するコミットメントを再確認するとともに、中東情勢についてG7として緊密に連携して対応していくことで一致した。また長く厳しい状況の中にあるウクライナを支える揺るぎない決意を再確認した。 11月25日及び26日にフィウッジ(イタリア)で行われたG7外相会合では、分断が深刻化する現在の国際社会において、価値や原則を共有するG7がしっかりと連携を維持・強化すること、また、世界の多くの国々ときめ細かに連携し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持していく重要性について一致した。中東情勢については、安定を取り戻すための外交努力や人道状況改善のための連携の重要性について議論し、G7として国際社会と連携して対応していくことで一致し、ウクライナについては、ウクライナにおける公正かつ永続的な平和の実現に向けて引き続き取り組んでいくことで一致した。インド太平洋については、インド太平洋及び欧州の安全保障環境が、これまで以上に不可分となっていると指摘されるとともに、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守るため、引き続きG7を含む関係国で協力して対応していくことを再確認した。 G7外相会合(11月26日、イタリア・フィウッジ) G7貿易大臣会合については、2月7日に第1回会合がオンラインで開催され、第13回WTO閣僚会議(274ページ 2(2)ア(イ)参照)の成功に向けたG7の連携について確認した(22)。また、7月16日及び17日には、第2回会合がイタリアのレッジョ・カラブリアで開催され、WTOを中核とする自由で公正な多角的貿易体制の維持・強化、公平な競争条件(LPF)の確保、貿易と環境持続可能性、経済的強靱(じん)性及び経済安全保障などについて率直な議論が行われた(23)。 (2)G20 G20は、主要先進国・新興国が参画する国際経済協力のプレミア・フォーラムである。11月18日及び19日にブラジルで開催されたG20リオデジャネイロ・サミットでは、ロシアによるウクライナ侵略が継続し、中東情勢が一層緊迫化する中、持続可能な開発、飢餓・貧困対策、国連改革や国際開発金融機関(MDBs)改革を含むグローバル・ガバナンス改革、気候変動・エネルギー移行といった国際社会が直面する重要課題について議論が行われた(24)。 G20リオデジャネイロ・サミット(11月18日、ブラジル・リオデジャネイロ 写真提供:首相官邸ホームページ) 石破総理大臣からは、日本としてG20議長国ブラジルが最重視する「飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンス」に積極的に参加することを表明するとともに、気候変動・エネルギー移行、環境、防災など国際社会の課題に共に取り組む方針を強調した。G20が国際協調を主導していくべき分野は多く、その役割が一層重要になっていることから、石破総理大臣からは、対立を超え、全ての国が責任を共有するグローバル・ガバナンス構築の必要性を強く訴え、G20リオデジャネイロ首脳宣言にも「共通の責任の共有」が盛り込まれた。また、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を強調し、ロシアによるウクライナ侵略と中東情勢について日本の立場を明確に主張した。 2月21日及び22日、リオデジャネイロでG20外相会合が開催され、上川外務大臣が出席した。会合では、ウクライナ情勢や中東情勢への対応、また、安保理改革を含むグローバル・ガバナンス改革などについて議論が行われた。上川外務大臣からは、日本は「法の支配」及び「人間の尊厳」が守られる世界を実現するため積極的に取り組む考えを強調した。また、9月25日にも国連本部でグローバル・ガバナンス改革を議題としてG20外相会合が開催され、成果文書として「グローバル・ガバナンス改革への行動要請」が発出された。 (3)アジア太平洋経済協力(APEC) APECは、アジア太平洋地域の21の国・地域が参加する経済協力の枠組みである。 APECの中長期的な方向性を示す「プトラジャヤ・ビジョン2040」では、「全ての人々と未来の世代の繁栄のために、2040年までに、開かれ、ダイナミックで、強靱かつ平和なアジア太平洋コミュニティを実現すること」が明記されている。同ビジョンの下、地域の貿易・投資の自由化・円滑化や地域経済統合の推進、経済・技術協力などの活動を実施している。日本がAPECに積極的に関与し、協力を推進することは、日本の経済成長や日本企業の海外展開を後押しする観点からも大きな意義がある。 2024年はペルーが議長を務め、「エンパワーメント(Empower)、包摂(Include)、成長(Grow)」というテーマの下、優先課題として、包摂的で連結性のある成長のための貿易・投資、フォーマルかつグローバルな経済への移行を促進するイノベーション及びデジタル化、並びに強靱な発展のための持続可能な成長が掲げられ、様々な会合において議論が行われた。 11月15日及び16日にリマ(ペルー)で開催された首脳会議では、「マチュピチュ首脳宣言」が採択され、自由で開かれた、公正かつ無差別で、透明性があり、包摂的かつ予見可能な貿易・投資環境の実現、ルールに基づく多角的貿易体制及びWTO改革への支持、そして、女性の経済的地位向上などについて明記された。また、ウクライナ及び中東情勢に関する議長声明が発出された。 石破総理大臣は、首脳会議において、アジア太平洋地域の持続可能な成長と繁栄のために、ルールに基づく自由で開かれた、公正で透明性のある貿易・投資環境及びWTOを中核とする多角的貿易体制を維持・強化することの重要性を強調した上で、WTO改革や質の高いインフラ投資の推進、女性の経済的地位向上と能力構築支援を一層推進していくことを述べた。また、同地域における包摂的な成長のために、信頼性のある自由なデータ流通の実現に向けた国際枠組みを通じた国際ルールの策定、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の取組を含む脱炭素化に向けたエネルギー移行、食品ロス・廃棄の削減の重要性について主張した。 さらに、ロシアのウクライナ侵略は、法の支配に基づく国際秩序に対する明確な挑戦であり、北朝鮮とロシアの軍事協力の一層の進展について深刻な懸念を表明し、また、中東情勢について、全ての当事者に対し、最大限の自制と国際法の遵守を強く求めると述べた。 なお、2025年は、韓国が議長を務めることとなっている。 (21) 成果文書を含むG7プーリア・サミットの詳細については外務省ホームページ参照: https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/pageit_000001_00005.html (22) 成果文書を含むG7貿易大臣会合第1回会合(オンライン)の詳細については外務省ホームページ参照: https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_00309.html (23) 成果文書を含むG7貿易大臣会合第2回会合の詳細については外務省ホームページ参照: https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/it/pageit_000001_00843.html#section1 (24) 成果文書を含むG20リオデジャネイロ・サミットの詳細については外務省ホームページ参照: https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/pagew_000001_01126.html