第2章 地域別に見た外交 第6節 ロシア・ベラルーシと中央アジア・コーカサス 1 概観 2024年も、G7・欧州連合(EU)諸国を中心に、引き続き厳しい対露制裁、強力なウクライナ支援が続けられたが、ロシアによるウクライナ侵略(ロシア側は「特別軍事作戦」と呼称)という暴挙が止(や)むことはなかった。8月からはウクライナがロシア(クルスク州)へ進攻したが、同時にロシアはウクライナ領土の占領地域を少しずつ拡大していった。ロシアは、核による威嚇も継続した。11月には、2020年以来となる「核抑止分野におけるロシア連邦の国家政策の基本原則」を発表するとともに、新型の中距離弾道ミサイルとされるものを「実験」と称してウクライナに向けて発射した。 欧米諸国との関係が極めて限定的な中で、ロシアは引き続き、中国、インド、北朝鮮や「グローバル・サウス」と呼ばれる開発途上国・新興国との一層の連携強化を模索した。特に、通算5期目就任直後のプーチン大統領の中国訪問、約24年ぶりの北朝鮮訪問、議長国として開催した10月のロシアにおけるBRICS(1)首脳会合などが特筆される。ロシアは「世界の多数派」の努力を結集すると主張している。 ベラルーシについては、ロシア及びベラルーシ双方が、ロシアの戦術核兵器のベラルーシへの配備に言及するなど、ロシア支援の姿勢を維持している。 中央アジア・コーカサス諸国については、地政学的及び経済的にロシアと密接な関係にある中で、ロシアによるウクライナ侵略に対し、中立的な立場を維持する姿勢を示している(ウクライナ支持を表明しているジョージアを除く。)。一方、エネルギーを始めとする貿易品目の輸送路やロシアへの出稼ぎ労働者からの送金などへの影響が生じており、対応に苦慮している。 こうした状況の中で、中央アジア・コーカサス諸国に対する国際社会の注目が集まっている。2024年には米国、ドイツ、韓国を含む各国が中央アジア5か国との間の首脳級又は閣僚級の会合を開催するなど、中央アジアとの対話が活発に行われた。また、中国も中央アジアへの関与を年々深める中、首脳・閣僚級の往来を着実に積み上げており、12月には中国四川(しせん)省成都市において第5回「中国・中央アジア」外相会合が開催された。 コーカサス地域では、アゼルバイジャン・アルメニア間で、2023年9月のナゴルノ・カラバフ(2)をめぐる軍事活動以降も和平交渉及び国境画定交渉が断続的に行われ、一部国境画定が合意されるなど、前向きな動きは見られるものの、いまだ和平条約締結には至っていない。ジョージアでは、議会選挙における不正疑惑に加え、11月末にジョージア政府がEU加盟プロセスを2028年末まで開始しないと発表したことを受け、EU加盟を支持する市民などが大規模な抗議活動を実施して、治安部隊と衝突し、多くの逮捕者や負傷者が発生する事態となった。 (1) BRICS:ブラジル、ロシア、インド、中国及び南アフリカを指す用語。なお、2023年8月の首脳会合では、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の新規加盟招待を発表した(アルゼンチンはその後の政権交代により加盟申請を取り下げたほか、サウジアラビアは未加盟との情報もある。)。2024年10月の首脳会合ではBRICSパートナー国という新たなカテゴリーの創設に合意し、2025年1月から、ベラルーシ、ボリビア、キューバ、インドネシア、カザフスタン、マレーシア、タイ、ウガンダ及びウズベキスタンの9か国がパートナー国として加盟することを2024年議長国のロシアが発表した。2025年1月、2025年議長国のブラジルがインドネシアの正式加盟を発表した。 (2) ナゴルノ・カラバフ紛争:アゼルバイジャン領内でアルメニア系住民が居住するナゴルノ・カラバフをめぐるアルメニアとアゼルバイジャンの紛争。2023年9月、アゼルバイジャンが同地域において軍事活動を実施し、同地域全域がアゼルバイジャンの施政下に入るとともに、多くの避難民がアルメニアに流入する事態が生じた。