第2章 地域別に見た外交 第5節 欧州 1 概観 〈価値や原則を共有する欧州との連携の重要性〉 欧州連合(EU)(1)、北大西洋条約機構(NATO)(2)及び欧州各国は、日本にとり、自由、民主主義、法の支配及び人権などの価値や原則を共有する重要なパートナーである。ロシアによるウクライナ侵略が2年以上にわたり継続し、既存の国際秩序が脅かされ、地政学的な競争が激化する中、日本及び欧州が重視する価値や原則への挑戦に対応し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くためにはEU、NATO及び欧州各国との連携を強化していくことが一層重要になっている。特に、気候変動などの地球規模課題への対応において国際的な協調が求められる中、EU及び欧州各国との連携の必要性は一層高まっている。 欧州各国は、EUを含む枠組みを通じて外交・安全保障、経済、財政などの幅広い分野で共通政策をとり、国際社会の規範形成過程において重要な役割を果たしている。また、言語、歴史、文化・芸術活動、有力メディアやシンクタンクなどを活用した発信力により、国際世論に対して影響力を有している。欧州との連携は、国際社会における日本の存在感や発信力を高める上でも重要である。 〈ロシアによるウクライナ侵略と欧州〉 2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略に対し、日本は、ロシアによるウクライナ侵略を一日も早く止めるため、G7を始めとする国際社会と連携してウクライナ支援と対露制裁を強力に推進した。また、2月の日・ウクライナ経済復興推進会議の開催、4月及び9月の日・ウクライナ首脳会談、11月の岩屋外務大臣によるウクライナ訪問なども含め、日本は首脳・閣僚を含む様々なレベルでウクライナに対する連帯を示すとともに、ウクライナに寄り添った支援を行い、ウクライナと緊密に連携している。 欧州において、ロシアによるウクライナ侵略は最も重要な課題の一つとなっており、EU、NATO及び各国は一致してロシアを強く非難し、金融制裁、個人・団体の渡航禁止、輸出入の制限などの厳しい対露制裁を発動するとともに、ウクライナへの連帯・支援を継続している。 例えば、EUは、マクロ財政支援などの経済支援や欧州平和ファシリティ(3)を通じた防衛装備支援、ウクライナ軍事支援ミッション(EUMAM Ukraine)(4)を通じたウクライナ兵の訓練などの支援を行っている。また、NATOは、7月のNATO首脳会合で、対ウクライナ安全保障支援及び訓練組織(NSATU)の設立決定を発表し、ウクライナの将来はNATOにあることを表明するとともに、加盟国が同意し、条件が整えばウクライナにNATO加盟の招待を行う用意があることを再確認した。英国は、「ブリムストーンミサイル」90発を含む、総額125億ポンドの軍事的、人道的、経済的支援を実施しており、2030年まで必要な限り、年間30億ポンドのウクライナへの軍事支援を継続すると表明した。フランスは、2月にウクライナ支援会合を実施し、6月、ゼレンスキー大統領が訪仏した際、ミラージュ2000-5戦闘機の供与を発表した。引き続き軍事支援に加えて、人道的、経済的支援を実施している。ドイツは、6月にベルリンでウクライナ復興会議を開催した。侵略開始以降、総額約370億ユーロの支援を実施している。 〈重層的できめ細かな対欧州外交〉 欧州では、ロシアによるウクライナ侵略などを受け、自由、民主主義、法の支配及び人権といった価値や原則、法の支配・国際法の遵守などの重要性が一層認識されてきている。一方、欧州各国の多様性を踏まえ、各国の事情も踏まえたきめ細かなアプローチが求められる。日本は、強く結束した欧州を支持し、重層的かつきめ細かな対欧州外交を実施している。2024年は、首脳・閣僚の欧州訪問や要人訪日の機会を捉えた会談などを積極的に行い、欧州各国やEU、NATOなどとの緊密な連携を確認した。 岸田総理大臣は、7月には、訪問中の米国・ワシントンD.C.において、3年連続となるNATO首脳会合への出席を果たし、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識を各国と共有した。 2024年の1年間で、岸田総理大臣は、イタリア、ウクライナ、英国、オランダ、スウェーデン、スイス、ドイツ、フランス、フィンランド、ルクセンブルクの首脳との間で会談を実施するなど、欧州各国との連携を確認した。 また、外相レベルでも、岩屋外務大臣が初めての日・EU外相戦略対話を実施し「日・EU安全保障・防衛パートナーシップ」を発出するなど、安全保障分野においても連携を深めた。 安全保障分野における法的枠組みについては、ドイツとの間で日独物品役務相互提供協定(日独ACSA)(5)が1月に署名され、7月に発効した。 さらに、欧州から青年を招へいする人的・知的交流事業「MIRAI」や、講師派遣、欧州のシンクタンクとの連携といった対外発信事業を実施し、日本やアジアに関する正しい姿の発信や相互理解などを促進している。欧州各国・機関や有識者との間で、政治、安全保障、経済、ビジネスなど幅広い分野で情報共有や意見交換を行い、欧州との重層的な関係強化に取り組んでいる。 (1) EU:European Union (2) NATO:North Atlantic Treaty Organization 詳細については外務省ホームページ参照 https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nato/index.html (3) 欧州平和ファシリティ:2021年3月に創設された、EUの共通外交・安全保障政策の下で軍事又は防衛活動への資金提供を可能にし、紛争予防、平和構築、国際安全保障強化に対するEUの能力を高めることを目的とする制度 (4) EU Military Assistance Mission in support of Ukraine (EUMAM Ukraine):2022年10月に設置された、EUがウクラナを支援する軍事ミッション。ウクライナ軍に対し、訓練を提供する。 (5) Japan-Germany ACSA:Japan-Germany Acquisition and Cross-Servicing Agreement