第2章 地域別に見た外交 第4節 中南米 1 概観 (1)中南米情勢 法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が深刻な挑戦を受け、「グローバル・サウス」とも呼ばれる開発途上国・新興国の存在感が高まる中で、その多くが自由、民主主義、法の支配、人権などの価値や原則を共有する中南米諸国との連携は新たな重要性を帯びている。同時に、中南米地域は、約6億6,000万人の人口と、約6.5兆ドルの域内総生産を抱えた大きな経済的潜在力を有し、また、脱炭素化のために重要な鉱物資源やエネルギー、食料資源を豊富に有するなど、日本を含む国際社会のサプライチェーン強靱(じん)化や経済安全保障の観点からも重要性が増している。2024年のGDP成長率は2.1%と2022年以降プラス成長を続ける一方、貧富の格差や治安といった社会課題が依然多くの国の優先対処事項となっている。 中南米地域には、世界の日系人の約6割を占める約310万人から成る日系社会が存在しており、100年以上に及ぶ現地社会への貢献を通じて伝統的な親日感情を醸成してきた。一方、移住開始から100年以上を経て世代交代が進み、若い世代を含め日本とのつながりを今後どう深めていくかが課題となっている。この点、外務省は、若手日系人の招へいに加え、各国の若手日系人によるイベント開催を支援し、ネットワーク作りを後押しするなど、日系社会との連携強化に向けた施策を実施してきており、2023年1月には「中南米日系社会連携推進室」を設置した。また、5月の岸田総理大臣のパラグアイ及びブラジル訪問、11月の石破総理大臣のペルー及びブラジル訪問、並びに11月の岩屋外務大臣のペルー訪問時には日系人との懇談を行い、日系社会との連携を強化していくことを確認している。 (2)日本の対中南米外交 日本の対中南米外交は、2014年以来、「3つのJuntos!!(共に)」の理念の下で展開されてきた。5月、岸田総理大臣は、ブラジルにおいて、「中南米と共に拓(ひら)く「人間の尊厳」への道のり」と題した対中南米政策スピーチを行い、10年ぶりにその指針をアップデートした。スピーチでは、(ア)法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の確保、(イ)環境、気候変動など人類共通の課題の克服、(ウ)誰をも犠牲にせず、世界の全ての人々が共有できる繁栄の追求、という方向性を示し、国際社会及びその課題の変化を踏まえ、対話を通じて中南米諸国と共に新たな道のりを切り開いていく決意を明らかにした。また、2月、上川外務大臣は、パナマにおいて、従来の外交上の取組に、海洋、ジェンダー平等といった重要性を増すテーマ、日系社会といった日本独自の切り口を横串として通すことで、中南米諸国との新たな連携を追求する「中南米外交イニシアティブ」を発表した。新たな中南米外交の指針とその具体化のためのイニシアティブの下で、2024年の対中南米外交は新たな深化を見せた。 5月の岸田総理大臣によるパラグアイ及びブラジル訪問に続き、11月には、石破総理大臣がアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の機会にペルーを公式訪問するとともに、G20リオデジャネイロ・サミット出席のためブラジルを訪問し、ルーラ大統領と会談した。上川外務大臣も、2月に、G20外相会合の機会にブラジルを訪問し、ブラジル、ボリビア及びメキシコの外相と会談を行い、その後パナマを訪問してコルティソ大統領を表敬した。また、岩屋外務大臣も、11月にAPEC閣僚会議に出席するためペルーを訪問し、シアレル外相と会談を行った。さらに、柘植(つげ)芳文外務副大臣が4月にメキシコを訪問し、穂坂泰外務大臣政務官が1月にホンジュラス及びグアテマラを、6月にアンティグア・バーブーダ、ガイアナ及びエルサルバドルを、7月にブラジルを訪問するなど、多くの外務省や関係省庁の大臣などが中南米諸国を訪問した。東京においても、上川外務大臣、柘植外務副大臣及び穂坂外務大臣政務官は、中南米の在京大使との対話を継続的に行った。 経済分野においては、日系企業の中南米地域拠点数が、2023年には3,047となり増加傾向が継続するなど、サプライチェーンの結び付きが強化されている。日本は、メキシコ、ペルー、チリが参加する「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」(1)などを通じ、中南米諸国と共に自由貿易の推進に取り組んでいる。11月には、コスタリカの新規加入手続が開始された。 開発協力の分野においては、経済成長を遂げた一部の中南米地域では、経済協力開発機構・開発援助委員会(OECD/DAC)(2)のODA受取国リストからの「卒業国」、又は「卒業」を控えた国々により南南協力が進められており、日本はこれらの国々との間の三角協力を推進している。 (1) CPTPP:Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership (2) OECD/DAC:Organisation for Economic Co-operation and Development/Development Assistance Committee