第2章 地域別に見た外交 2 中国・モンゴルなど (1)中国 ア 中国情勢 (ア)内政 3月、第14期全国人民代表大会(以下、「全人代」という。)第2回会議が開催された。李強(りきょう)国務院総理が政府活動報告を読み上げ、前年の回顧として、外部からの圧力をしのぎ、内部の困難を乗り越え、年間主要目標・任務は無事達成、社会の安定は守られ、社会主義現代化国家の全面的建設は着実に進んだと述べた。一方、2024年の政策方向については、依然として、戦略的チャンスとリスク・課題が併存している、有利な条件が不利な要素に勝っているとして、GDP成長率を昨年の当初目標とはほぼ同じ(5%前後)としつつも2024年の所期目標を達成することは容易ではないとも述べた。なお、約30年続いた閉幕後の国務院総理による内外記者会見を今回から今後数年実施しないことが発表された。 第20期中央委員会第3回全体会議(以下「三中全会」という。)が7月に開催され、「改革を更に深め、中国式現代化を推進することに関する決定」(以下、「決定」という。)を可決した。「決定」では、複雑に入り組んだ国際・国内情勢、新しい科学技術革命及び産業変革、人民群衆の新しい期待に直面しており、中国式現代化の推進により、改革を全体的に更に深化させる必要があるとし、2029年の建国80周年までに「決定」が提起した改革任務を完成すると発表した。「改革の全面深化」は、2013年の第19期三中全会で提起され、今回の「決定」は2013年時に加えて、「国家全体系及び能力の現代化」、「外部環境の構築」についても追記された。なお、人事関連では、秦剛(しんごう)・前外交部長の辞職申請を受理し、中央委員の職を解任した。 9月の中央政治局会議では通例と異なり、経済をテーマに扱った。なお、12月には中央経済工作会議が例年どおり開催された。 2024年は中華人民共和国建国75周年であり、9月30日に人民大会堂で記念レセプションが開催された。習近平(しゅうきんぺい)国家主席は重要講話で、建国と発展に貢献した指導者、烈士・英雄への感謝を述べ、「中国式現代化」による強国建設を強調した。一方、「前途は平坦ではなく、困難や障害は必ずあり、強風や高波、更には猛(たけ)り狂う荒波といった大きな試練すら待ち受けているだろう」と述べ、今後、厳しい試練があるとの認識を示した。 2024年はマカオ返還25周年であり、習近平国家主席がマカオを訪問し、マカオ返還25周年大会及びマカオ特別行政区第6期政府就任式に出席した。 新疆(きょう)ウイグル自治区を始めとする中国の人権状況及び香港(ホンコン)をめぐる情勢について、国際社会の関心は引き続き高い。日本としては、自由、基本的人権の尊重、法の支配といった国際社会における普遍的価値や原則が中国においても保障されることが重要であると考えており、首脳会談や外相会談の機会も捉え、これらの状況について深刻な懸念を表明するなど、こうした日本の立場については中国政府に対して直接伝達してきている。6月のG7プーリア・サミット及び4月のG7外相会合のコミュニケでは、中国の人権状況に対して懸念を表明し続けることで一致した。また、国連では、中国の人権状況を懸念する有志国による共同ステートメントに、日本はアジアから唯一参加している。10月の国連総会第3委員会では、オーストラリアが15か国を代表して、新疆ウイグル自治区及びチベット自治区における人権侵害に関する共同ステートメントを読み上げ、日本はこれに参加した。日本政府として、引き続き国際社会と緊密に連携しつつ、中国側に強く働きかけていく。 (イ)経済 3月に行われた全人代では、2024年の成長率目標を前年同様の5.0%前後とするなど、手堅い目標設定となった。また、財政赤字の対GDP比についても前年同様の3.0%、新規地方専項債の発行上限額を3.90兆元(前年は3.80兆元)に微増設定として、李強総理は「今年の初期目標を達成するのは容易ではない」と明言した。結果として、2024年の実質GDP成長率は通年で前年比5.0%増と、目標を達成し、各四半期においては、第1四半期(1月から3月)は前年比5.3%増、第2四半期(4月から6月)に同4.7%増、第3四半期(7月から9月)に同4.6%増、第4四半期(10月から12月)に同5.4%増となった。 中国のGDPの推移 中国経済は、低迷する不動産市場と消費マインドの悪化により、足踏み状態が継続している。また、2023年に高まっていた若年者失業率についても、2024年に学生を除く形で公表を再開したものの、2024年8月には18.8%となり、依然として高止まりの傾向が続いている。なお、輸出入については、前年の低調な推移の反動や半導体や電気自動車(EV)などに関する各国の対中政策を警戒した駆け込み需要などにより、2023年と比較して高い推移となった。 7月には第20期三中全会が「中国式現代化」をテーマに開催され、(1)経済体制改革の牽引役としての役割、(2)全面的なイノベーションを支持する体制メカニズム、(3)全面的な改革、(4)発展と安全の統一的計画、(5)改革に対する党の指導強化を重点に挙げた。経済減速の原因である不動産は経済ではなく、民生の問題と位置付けられ、科学技術を核に据えた中長期発展をより重視する内容となった。7月後半には停滞した国内消費を刺激するために、およそ3,000億元を投じて乗用車や家電の買換えを促す補助金の拡充を発表した。習近平国家主席は、7月末に開催された党中央政治局会議において、経済状況が二分化しているとの認識を新たに示し、消費振興による国内需要の拡大と、農村の全面振興を独立した重点項目とした。また、前述のとおり9月の政治局会議では例年と異なり経済情勢を議論し、現状の認識を「ファンダメンタルズと広大な市場、強靱性、大きな潜在力など、有利な条件は変わっていないが、現下の経済運営には幾つかの新しい状況と問題が出現」していると示した上で、財政金融政策による景気変動対応や必要な財政支出の確保、困難に直面する企業支援、就職困難層、低所得者への支援・援助など民生のボトムライン確保などの諸施策を掲げ、通年目標達成に向けて努力するとした。その前後9月下旬から10月末にかけて、各部門が記者会見を開催し、金融(住宅ローン金利の引下げなど)、財政(貧困層に加え、学生層に対する奨学金などの増額による援助の強化)、不動産(いわゆる「ホワイトリスト」に掲載された不動産物件向けの融資規模を拡大)に関する施策を公表した。また、10月に開催された全国人民代表大会常務委員会において、地方政府の隠れ債務を置き換えることを目的に、地方政府の債務限度額の6兆元引上げを承認した。さらに、2024年以降、5年連続で新増される地方専項債から8,000億元を手配することにより、債務解消のための地方財源が10兆元増えることとなり、2028年までに地方の4.3兆元の隠れ債務総額を2.3兆元に減少させる見込みとした。 12月に開催された中央経済工作会議では、2024年は外部圧力と内部困難の増大という複雑で厳しい状況に直面した中で、経済運営は総じて安定しつつ、経済社会発展の主要目標と任務は円滑かつ成功裏に達成されるとの認識を示した。一方、現在、外部環境の変化がもたらす不利な影響が深まり、主に内需の不足により一部の企業の生産経営が困難になり、民衆の雇用と所得増収が圧力に直面し、リスクが依然として比較的多いとの認識も示した。 (ウ)外交 3月の全人代での外交部長記者会見において、王毅(おうき)・中央政治局委員兼外交部長は「大国関係を保持し、周辺国と連携し共に進み、グローバル・サウス諸国と共に振興を図る」と述べ、2024年も習近平国家主席を始めとするハイレベルを含め、様々なレベルによる外交活動が活発に行われた。 ロシアとの関係では2024年も頻繁に首脳間の直接の意思疎通が行われ、5月のプーチン大統領通算5期目の初の外遊としての訪中では、「外交関係樹立75周年に際する新時代の包括的戦略的連携パートナーシップの深化に関する共同声明」が発出され、パートナーシップの発展は両国の根本的利益に合致していると謳(うた)われた。 周辺国との関係では、ASEAN諸国との間で他の地域よりも頻繁な往来が行われており、2024年に就任したインドネシア大統領やベトナム国家主席は初の外遊先として中国を訪問した。 グローバル・サウス諸国との関係については、9月に「中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)」首脳会合が北京で行われた。同会合において習近平国家主席は、全ての外交関係を有するアフリカ諸国との二国間関係を「戦略的パートナーシップ」へ格上げし、アフリカ全体との関係を「新時代の全天候型の中国・アフリカ運命共同体」に格上げすると表明し、安全保障、文明・人的交流、グリーン開発、食糧支援など幅広い分野での協力を提案した。また、同会合において採択された「北京宣言」では、「人類運命共同体」、「一帯一路」、「グローバル発展イニシアティブ」、「グローバル安全保障イニシアティブ」、「グローバル文明イニシアティブ」、台湾・香港・新疆・チベットに関する中国の立場の支持、「デカップリング(分離)」や一国主義に対する牽制など、中国側の主張が多く書き込まれた。 7月にカザフスタン・アスタナで行われた上海協力機構(SCO)首脳会合では、ベラルーシの加盟が承認され、10月にロシアで行われたBRICS(8)首脳会合では、成果文書において「BRICSパートナー国」というカテゴリーを新たに設けるなど中国が重視しているマルチのプラットフォームは拡大傾向にある。また、11月にブラジルで行われたG20でも習近平国家主席はグローバル・サウス諸国と共に歩む姿勢を示した。 米中間では、特に2023年11月のサンフランシスコにおけるAPEC首脳会議の際の首脳会談以降、国防当局間の意思疎通、違法薬物対策、人工知能(AI)、気候変動などの分野を中心にハイレベルも含めて様々なレベルで意思疎通が行われ、11月のペルーにおけるAPEC首脳会議の際にも米中首脳会談が行われた。習近平国家主席は、過去4年間、米中関係は激動を経てきたが、対話と協力も行い、全体的に安定を実現したと総括し、台湾問題、民主・人権、道筋や制度、発展の権利は中国側のレッドラインであると示した。 一方、前年に引き続き経済安全保障を含む米中の経済面での対立は拡大した。中国は、輸出管理措置として2023年にガリウム、ゲルマニウム及び黒鉛を対象品目に追加し、更に9月には、アンチモン及び超硬材料関連品目を対象品目に追加した。同月、米国は通商法第301条に基づく対中関税を大幅に引き上げることを決定した。EVや半導体など一部の中国産品(総額180億ドル)を対象としており、バイデン大統領は、中国の不公正な貿易政策・慣行から米国の労働者を守るものであると述べた。これに対し中国は「断固たる反対と強烈な不満」を表明している。米国は10月に、半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、AIの分野における米国人による対中投資について、国家安全保障に特に深刻な脅威をもたらす場合には禁止する大統領令を2025年1月から発効させると発表した。一方、10月、中国ではレアアース管理条例が施行された。米国は12月に、中国向けの半導体及び半導体製造装置に関連する輸出管理規制を強化すると発表した。その後、同月、中国商務部は、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン及び超硬材料の関連汎用品の米国向け輸出規制を強化するなどの措置を発表した。米中両国間で安定的な関係が構築されることは、日本のみならず、国際社会全体にとって重要であり、引き続き今後の動向を注視していく。 (エ)軍事・安保 習近平国家主席は、第19回党大会(2017年)で、今世紀半ばまでに中国軍を世界一流の軍隊にすると述べた。また、2020年10月に発表された第19期党中央委員会第5回全体会議(以下「五中全会」という。)コミュニケでは、「2027年の建軍100周年の奮闘目標の実現を確保する」との新たな目標が示された。さらに、第20回党大会(2022年)では、「建軍100周年の奮闘目標を期限までに達成し、人民軍隊を早期に世界一流の軍隊に築き上げることは社会主義現代化国家の全面的建設の戦略的要請である」と改めて述べた。中国が公表している国防費は、予算の内訳、増額の意図については十分明らかにされておらず、実際に軍事目的に支出している額の一部にすぎないと見られる。こうした中、中国は「軍民融合発展戦略」の下、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心として、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化し、宇宙・サイバー・電磁波やAI、無人機といった新たな領域における優勢の確保も重視しており、「機械化・情報化・インテリジェント化の融合発展」による軍の近代化を推進している。 2024年は、8月に中国軍所属航空機による日本の領空侵犯、9月に中国海軍空母「遼(りょう)寧」による与那国島-西表島間の領海に近接した海域の航行が、いずれも初めて生じ、日本周辺における中露艦艇による共同航行及び中露爆撃機による共同飛行が前年に引き続き確認された。また、中国は5月の台湾総統就任式及び10月の「双十節」の後に台湾周辺の海空域において軍事演習を実施した。5月、10月及び11月に行われた日中首脳会談においても、岸田総理大臣及び石破総理大臣から、最近の軍事情勢を含む動向を注視していると伝えつつ、台湾海峡の平和と安定が日本を含む国際社会にとって極めて重要であると改めて強調した。南シナ海では、中国は、係争地形の一層の軍事化や沿岸国等に対する海上保安機関及び海上民兵の船舶並びに航空機の危険で威圧的な使用など、法の支配や開放性に逆行する力による一方的な現状変更やその既成事実化の試みや、地域の緊張を高める行動を継続・強化している。 近年、中国は、政治面、経済面に加え、軍事面でも国際社会で大きな影響力を有するに至っており、現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向などは、日本と国際社会の深刻な懸念事項であり、日本の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、日本の総合的な国力と同盟国・同志国などとの連携により対応すべきものである。中国の急速な軍事力の強化及び軍事活動の拡大に関しては、透明性などを向上させるとともに、国際的な軍備管理・軍縮などの努力に建設的な協力を行うよう同盟国・同志国などと連携し、強く働きかけを行う。また、日中間の信頼の醸成のため、日中安保対話などの対話や交流を始め、中国との安全保障面における意思疎通を強化する。加えて、日中防衛当局間の海空連絡メカニズムなど、中国との間における不測の事態の発生を回避・防止するための枠組みの構築を含む日中間の取組を進め、日中間の相互信頼関係を増進させながら、関係国と連携しつつ、透明性の向上について働きかけ、日本を含む国際社会の懸念を払拭していくよう、強く促していく。 イ 日中関係 (ア)二国間関係一般 隣国である中国との関係は、日本にとって最も重要な二国間関係の一つであり、両国は緊密な経済関係や人的・文化的交流を有している。日中両国間には、様々な可能性とともに、尖(せん)閣諸島情勢を含む東シナ海、南シナ海における力による一方的な現状変更の試みや、ロシアとの連携を含む中国による日本周辺での軍事的活動の活発化など、数多くの課題や懸案が存在している。また、台湾海峡の平和と安定も重要である。さらに、日本は、香港情勢や新疆ウイグル自治区の人権状況についても深刻に懸念している。同時に日中両国は、地域と世界の平和と繁栄に対して大きな責任を有している。「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、日本として、主張すべきは主張し、中国に対し責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案も含め、対話をしっかりと重ね、共通の諸課題については協力する、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築を双方の努力で進めていくことが重要である。 2024年は、前年に引き続き、首脳間を含むハイレベルでの意思疎通が継続的に行われ、両国間の様々な懸案を含め、二国間関係から地域・国際情勢に至る幅広い議題について意見交換を積み重ねた。 5月26日、日中韓サミットに出席するため韓国・ソウルを訪問中の岸田総理大臣は、李強国務院総理と首脳会談を行った。岸田総理大臣から、2023年11月に習近平国家主席と再確認した「戦略的互恵関係」の包括的な推進と「建設的かつ安定的な関係」の構築という大きな方向性に沿って、日中間にある様々な課題や懸案について様々なレベルで対話を重ねて進展を図り、両国の間に存在する様々な可能性を実現していきたいと述べ、李強国務院総理から同様の考えが示された。 7月26日、ASEAN関連外相会議に出席するためラオスを訪問中の上川外務大臣は、王毅外交部長と会談を行った。上川外務大臣から、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという大きな方向性の下、日中戦略対話の開催を含めて両国間の意思疎通・往来が実現していることを歓迎し、王毅外交部長から同様の考えが示された。両外相は、互いに招請を行っている外相の相互訪問を含め、引き続き重層的に、リズム良く、かつ、粘り強く意思疎通を積み重ねていくことを確認した。 9月23日、国連総会出席のためニューヨークを訪問中の上川外務大臣は、王毅外交部長と会談を行った。上川外務大臣から、中国の深圳(せん)日本人学校児童殺害事件に関し、事実解明や中国に在留する日本人の安全確保のための具体的措置、反日的なSNS投稿の取締りを求めた。これに対し、王毅外交部長から、中国側の立場はこれまで外交部報道官が述べているとおりであり、今回起きたことは、我々(中国側)も目にしたくない偶発的な個別事案であり、法律にのっとり処理をしていくとの反応があった。また、ALPS処理水(9)の海洋放出と中国による日本産水産物の輸入規制について、上川外務大臣から、これまでの科学的根拠に基づく一貫した取組を改めて説明の上、9月20日に発表された日中両国間で共有された認識を踏まえ、追加的なモニタリングを早期に実施し、規制の撤廃に向けた目に見える進展を確実に示していきたいと述べた。 10月10日、ASEAN関連首脳会議に出席するためラオスを訪問中の石破総理大臣は、李強国務院総理と首脳会談を行った。両首脳は、日中両国は、引き続き、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという大きな方向性を共有していることを確認し、具体的成果を出すため、双方が事務当局に指示を出すことで一致し、引き続き首脳レベルを含むあらゆるレベルで重層的に意思疎通を重ねていくことを確認した。その中で、石破総理大臣は、両国間には協力の潜在性と課題・懸案があるが、両政府の努力を通じて両国国民が関係発展の果実を得られるよう共に取り組んでいきたいと強調した。また、両首脳は、ALPS処理水の海洋放出と日本産水産物の輸入規制に関する両政府の発表を共に評価し、石破総理大臣は、日本産水産物の輸入回復を早期に実現するよう求めた。 11月15日、APEC首脳会議に出席するためペルーを訪問中の石破総理大臣は、習近平国家主席と首脳会談を行った。両首脳は、日中両国は、引き続き、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという大きな方向性を共有していることを確認し、日中間の四つの基本文書の諸原則と共通認識を堅持し、率直な対話を重ねられる関係を築いていくことを確認した。さらに、両首脳は、この大きな方向性の下で、首脳レベルを含むあらゆるレベルで幅広い分野において意思疎通をより一層強化し、課題と懸案を減らし、協力と連携を増やしていくために互いに努力することを確認した。石破総理大臣から、日中関係が発展して良かったと両国国民が実感できるような具体的成果を双方の努力で積み上げていきたいと強調した。 日中首脳会談(11月15日、ペルー 写真提供:首相官邸ホームページ) また、両首脳は、協力拡大と懸案解決に向け、外相の相互訪問及びそれに伴う日中ハイレベル人的・文化交流対話、日中ハイレベル経済対話を適切な時期に実現するため、調整を進めていくことを確認した。ALPS処理水の海洋放出と日本産水産物の輸入規制に関する発表を両国できちんと実施していくことを確認し、石破総理大臣から、中国による日本産水産物の輸入回復を早期に実現するよう求めた。さらに、石破総理大臣から、日本産牛肉の輸出再開、精米の輸出拡大に係る当局間協議の早期再開を求め、両首脳は、意思疎通を継続していくことを確認した。また、両首脳は、環境・省エネを含むグリーン経済や医療・介護・ヘルスケアなどの分野において、具体的な協力の進展を図っていくこと、及びグローバル課題で協働していくことで一致した。石破総理大臣から、尖閣諸島をめぐる情勢を含む東シナ海情勢や中国軍の活動の活発化につき、深刻な懸念を伝え、中国側の対応を求めた。また、石破総理大臣から、蘇(そ)州や深圳での日本人学校の児童などの殺傷事件に関し、在留邦人への安全対策強化を要請した。これに対し、習近平国家主席から、中国は法治国家であり、法に基づき事件を処理する、また、日本人を含む中国に滞在する外国人の安全を確保するとの発言があった。石破総理大臣から、台湾について、最近の軍事情勢を含む動向を注視していると伝えつつ、台湾海峡の平和と安定が、日本を含む国際社会にとって極めて重要であると強調し、南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区などの状況に対する深刻な懸念を表明した。また、石破総理大臣から、拘束されている邦人の早期釈放を求めた。両首脳は、拉致問題を含む北朝鮮情勢についても意見交換を行った。 12月25日、岩屋外務大臣は中国を訪問し、王毅外交部長との会談及び李強国務院総理への表敬を行った。また、岩屋外務大臣及びあべ俊子文部科学大臣は、王毅外交部長及び孫業礼(そんぎょうれい)文化旅遊部長などと第2回日中ハイレベル人的・文化交流対話を実施した。王毅外交部長との会談では、日中両首脳で確認した、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという大きな方向性の下、課題と懸案を減らし、協力と連携を増やしていくために互いに努力していくことを確認した。また、そのために、あらゆるレベルで幅広い分野において意思疎通をより一層強化し、必要な協議と作業を加速化し、首脳・外相を含むハイレベルの意思疎通・往来の機会も活用しながら具体的な成果を上げるために最大限努力することで一致した。李強総理への表敬では、日中間の人的交流や経済分野で協力を拡大していくことで一致し、あらゆるレベルでの交流・対話の促進を通じて、両国・両国民間の相互理解を推進し、互いの国に対する国民感情を改善するために努力することの重要性について一致し、日中両国は地域・世界に対して重要な責任を有する大国として、共にその責任を果たしていくことで一致した。また、第2回日中ハイレベル人的・文化交流対話では、日中双方向の人的・文化交流を活発化させるため、日中両国政府として両国間の交流を後押しすることを確認した。さらに、青少年交流及び有識者交流の機会を拡充し、個々のプログラムの質を向上させるべく、共に努力を重ねること、また、日中両国の地方創生に資するよう、交流の深化を図ることなどで一致した。 このほか、7月には日中戦略対話が、10月には、日中高級事務レベル海洋協議などの事務レベルの各種協議がそれぞれ対面で開催され、東シナ海情勢や中国による軍事活動の活発化などの諸懸案について率直な意見交換を行うなど、事務レベルでも日中間で緊密に意思疎通が継続された。 また、6月、11月には、日中防衛相会談も行われた。 2024年は、日中両国の議員間・政党間交流も活発化した1年であった。5月に劉建超(りゅうけんちょう)中国共産党中央対外連絡部長が来日し政党関係者を含む日本側関係者と交流したほか、7月には武見敬三厚生労働大臣、森山𥙿自民党総務会長、海江田万里衆議院副議長が訪中し、8月には二階俊博会長を団長とする日中友好議員連盟の代表団が5年ぶりに訪中したほか、岡田克也立憲民主党幹事長一行が訪中した。 (イ)日中経済関係 日中間の貿易・投資などの経済関係は、非常に緊密である。2023年の日中間の貿易総額(香港を除く。)は、約42.2兆円(前年比3.8%減)となり、中国は、日本にとって18年連続で最大の貿易相手国となった。 日中貿易額の推移 また、日本の対中直接投資は、中国側統計によると、2023年は約38億8,932万ドル(前年比15.5%増(投資額公表値を基に推計))と、中国にとって国として第3位(第1位はシンガポール、第2位はオランダ)の規模となっている。なお、国際収支統計によると、日本にとって中国は第14位の投資先国であり、約2.7兆円に上る直接投資収益の収益源となっている。 日本の対中直接投資 また、2024年は、日中間の民間レベルでの経済交流が一層活発に行われた。1月に経団連、日中経済協会及び日本商工会議所による合同訪中代表団の派遣が約4年ぶりに実現し、李強国務院総理や王文濤(おうぶんとう)商務部長らとの会見が行われたほか、7月には日本国際貿易促進協会、11月には経済同友会や関西財界代表団が訪中し、また、12月に第10回日中企業家及び元政府高官対話(日中CEO等サミット)が北京で開催された。 (ウ)両国民間の相互理解の増進 〈日中間の人的交流の現状〉 中国からの訪日者数は、2024年は約698.1万人(日本政府観光局(JNTO)推定値)に達し、前年の約242.5万人(JNTO確定値)から大幅に増加し、2019年比で約7割まで回復した。 日中両国の間では、文化、経済、教育、地方など幅広い分野で交流が積み重ねられている。 次世代を担う青少年交流については、新型コロナウイルス感染症の流行を経て再開された。対日理解促進交流プログラム「JENESYS」では、訪日した中国の高校・大学生が日本の若者との交流を通じて相互理解を深め、各分野の代表団も関連分野の視察やブリーフなどにより、日本の取組に対する理解・関心を深めた。また、「日中植林・植樹国際連帯事業」により、中国から青少年などを招へいし、環境及び防災意識の啓発と対日理解の一層の促進を図ることなどを目的に、植樹活動を始め、環境及び防災に関するセミナー、企業や関連施設の視察などを実施した。 そのほかにも、中央・地方の政・経・官・学など各界の様々なレベル・分野の人材を日本に招へいし、幅広い関係構築・強化に努めている。こうした交流を通じ、被招へい者と日本の関係者との間に良好な関係が構築され、日本に対する正確な理解が促進されることが期待されている。 (エ)個別の懸案事項 〈東シナ海情勢〉 東シナ海では、尖閣諸島周辺海域における中国海警船による領海侵入が継続しており、また、中国軍も当該海空域での活動を質・量とも急速に拡大・活発化させている。 尖閣諸島は、歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、現に日本はこれを有効に支配している。したがって、尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない。日本が1895年に国際法上正当な手段で尖閣諸島を日本の領土に編入してから、東シナ海に石油埋蔵の可能性が指摘され尖閣諸島に対する注目が集まった1970年代に至るまで、中国は、日本による尖閣諸島の領有に対し、何ら異議を唱えてこなかった。中国側は、それまで異議を唱えてこなかったことについて、何ら説明を行っていない。その後、2008年に、中国国家海洋局所属船舶2隻が尖閣諸島周辺の日本の領海内に初めて侵入した(10)。 2024年の尖閣諸島周辺海域における中国海警船による年間の領海侵入の件数は39件に上り(2023年は34件、2022年は28件)、また、2024年の接続水域内における中国海警船の年間確認日数は過去最多の355日を記録した。さらに、2020年5月以降、中国海警船が尖閣諸島の日本の領海に侵入し、当該海域において日本漁船に近づこうとする動きが頻繁に発生しており、2023年4月にはこれに伴う領海侵入時間が過去最長となる80時間以上となる事案が発生するなど、依然として情勢は厳しい。尖閣諸島周辺の日本の領海で独自の主張をする中国海警船の活動は、国際法違反であり、このような中国の力による一方的な現状変更の試みに対しては、外交ルートを通じて厳重に抗議し、日本の領海からの速やかな退去及び再発防止を繰り返し求めてきている。引き続き、日本の領土・領海・領空を断固として守り抜くとの決意の下、冷静かつ毅然と対応していく。 中国軍の艦艇・航空機による東シナ海を含む日本周辺海空域での活動も活発化している。2024年は、8月に中国軍所属航空機による領空侵犯、9月に中国海軍空母「遼寧」による与那国島-西表島間の領海に近接した海域の航行が、いずれも初めて生じたほか、前年に引き続き、屋久島周辺での中国海軍測量艦による日本の領海内航行が確認された。特に、領空侵犯事案については、中国側に対して、様々なレベルで然るべき説明を速やかに行うよう強く求めてきたところ、中国側から、本件事案の事実関係を認め、類似の事案の再発防止に努めるなどの説明があった。政府としてはこの点に留意し、今後の中国側の行動を注視していく。日本の周辺における中露軍事連携について、11月には中露戦略爆撃機による共同飛行、7月と10月に中露艦艇による共同航行が前年に引き続き確認された。また、中国海軍艦艇による尖閣諸島周辺を含む海域での航行も複数回確認された。中国軍による日本周辺海空域における最近の動向を踏まえ深刻な懸念を有しており、また、中露両国の軍による日本周辺での共同行動は日本の安全保障上重大な懸念であることから、それぞれの事案について、中国側に対しこうした日本の立場をしかるべく申し入れてきている。 無人機を含む航空機の活動も引き続き活発であり、2013年以降、航空自衛隊による中国軍機に対する緊急発進の回数は高い水準で推移している。このような最近の中国軍の活動全般に対して、日本は外交ルートを通じ繰り返し提起してきている。 東シナ海における日中間の排他的経済水域(EEZ)及び大陸棚の境界が未画定である中で、中国側の一方的な資源開発は続いている。政府は、日中の地理的中間線の西側において、中国側が東シナ海の資源開発に関する「2008年合意」(11)以前に設置した4基に加え、2013年6月から2016年5月にかけて新たな12基の構造物が、さらに2022年5月以降、新たに2基が設置され、これまでに合計18基の構造物が16か所に設置されていることを確認している(16か所のうち2か所では、二つの構造物が一つに統合されている状態)。このような一方的な開発行為は極めて遺憾であり、日本としては、中国側による関連の動向を把握する度に、中国側に対して、一方的な開発行為を中止し、東シナ海の資源開発に関する「2008年合意」に基づく国際約束締結交渉再開に早期に応じるよう強く求めてきている。なお、2019年6月に大阪で行われた安倍総理大臣と習近平国家主席との首脳会談においては、両首脳は資源開発に関する「2008年合意」を推進・実施し、東シナ海を「平和・協力・友好の海」とするとの目標を実現することで一致している。 日中中間線付近において設置が確認された中国の海洋構造物(写真提供:防衛省) 詳細は、https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/higashi_shina/tachiba.html参照 また、東シナ海を始めとする日本周辺のEEZにおいて、中国による日本の同意を得ない海洋調査活動も継続しており、その都度、外交ルートを通じて中国側に申入れを行っている。 加えて、2023年7月、東シナ海の日本のEEZにおいて、中国が設置したと考えられるブイの存在が確認された。政府としては、首脳・外相を含むあらゆるレベルで、様々な機会を捉え、中国側に対して抗議し、ブイの即時撤去を累次にわたって強く求めてきた。2025年2月、当該ブイについて、日本のEEZ内に存在していないことが確認された。2024年12月、与那国島南方の日本のEEZにおいて新たに確認されたブイについても、政府としては、同月の日中外相会談を始め、中国側に対して即時撤去を求めている。 日中両国は、海洋・安全保障分野の諸懸案を適切に処理するため、関係部局間の対話・交流の取組を進めている。例えば、2018年6月に運用開始した日中防衛当局間の「海空連絡メカニズム」は、両国の相互理解の増進及び不測の衝突を回避・防止する上で大きな意義を有するものであり、同メカニズムの下での「日中防衛当局間のホットライン」の運用が2023年5月に開始された。 日中首脳会談を含む累次の機会に日本側から述べているように、東シナ海の安定なくして日中関係の真の改善はない。日中高級事務レベル海洋協議や他の関係部局間の協議を通じ、両国の関係者が直接、率直に意見交換を行うことは、信頼醸成及び協力強化の観点から極めて有意義である。日本政府としては、引き続き個別の懸案に係る日本の立場をしっかりと主張すると同時に、一つ一つ対話を積み重ね、意思疎通を強化していく。 〈大和堆(やまとたい)〉 日本海の大和堆周辺水域における違法操業中国漁船への対応について、海上保安庁巡視船及び水産庁取締船による退去警告隻数は、2023年57隻、2024年32隻となっており、中国漁船による違法操業が依然として確認されている。こうした状況を踏まえ、中国側に対し、日中高級事務レベル海洋協議などの機会を捉えて日本側の懸念を繰り返し伝達するとともに、漁業者への指導などの対策強化を含む実効的措置をとるよう強く申入れを行ってきている。 〈日本産食品輸入規制問題〉 中国による日本産食品に対する輸入規制については、首脳・外相レベルを含む様々なレベルで早期撤廃を繰り返し強く求めている。 2023年8月、ALPS処理水の海洋放出開始を受けて、中国政府は日本産水産物の全面的な一時輸入停止を発表した。中国がこれまでの輸入規制に加えて、新たな措置を導入したことは科学的根拠に基づくものではなく、全く受け入れられない。 中国との間では、9月に、ALPS処理水の海洋放出と日本産水産物の輸入規制について「日中間の共有された認識」(12)を発表し、中国側は、国際原子力機関(IAEA)の枠組みの下での追加的モニタリングを実施後、日本産水産物の輸入規制措置の調整に着手し、日本産水産物の輸入を着実に回復させることとなった。10月、この追加的モニタリングの一環として、東京電力福島第一原子力発電所近傍海域において、IAEAの枠組みの下で中国を含む参加国の分析機関による採水が実施された。2025年1月には、中国政府から、中国の分析機関による分析が完了し、その結果が正常であったと公表された。 11月のペルーにおける日中首脳会談において、石破総理大臣と習近平国家主席は、ALPS処理水の海洋放出と日本産水産物の輸入規制に関する発表を両国できちんと実施していくことを確認し、石破総理大臣から、中国による日本産水産物の輸入回復を早期に実現するよう求めた。12月の中国における日中外相会談において、岩屋外務大臣と王毅外交部長は、日中両首脳で確認したとおり、ALPS処理水の海洋放出と日本産水産物の輸入規制に関する9月の発表を両国できちんと実施していくことで一致し、岩屋外務大臣から、日本産水産物の輸入規制の撤廃を早期に実現するよう求めた。 また、世界貿易機関(WTO)においては、2023年8月に中国が「衛生植物検疫の適用に関する協定(SPS協定)」に基づく通報を行ったことを受け、日本政府は、WTOに対して、中国の主張に反論する書面を提出したほか、SPS委員会など関連する公式会合において日本の立場を説明してきている。さらに、中国政府に対して、SPS協定及び地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の規定に基づく討議の要請を行っている。 日本としては、中国との間で9月に発表した「日中間の共有された認識」を踏まえ、引き続き中国側に対して首脳・外相を含むあらゆるレベルで日本産水産物の輸入回復を早期に実現するよう求めていく。 〈邦人拘束事案〉 中国の「国家安全」に係る罪により、2015年5月以降、17人の邦人が拘束されている。一連の邦人拘束事案については、日本政府として、これまで首脳・外相会談など、日中間の様々な機会に早期釈放に向けた働きかけを行ってきている。これまで5人が逮捕前に解放され、1人が服役中に病死、6人が刑期を満了し帰国し、2024年末現在、5人が拘束中(3人が服役中、2人が公判中)である。 一連の邦人拘束事案については、日本政府として、これまで首脳・外相会談など、日中間の様々な機会に早期釈放に向けた働きかけを行ってきており、これまで5人が逮捕前に解放され、6人が刑期を満了し帰国した。2023年3月、北京市において1人の邦人が拘束された。政府としては、2024年10月及び11月の日中首脳会談及び9月の日中外相電話会談、12月の日中外相会談を始め、首脳・外相レベルを含む様々なレベル・機会を通じて、早期釈放、改訂反スパイ法を含め拘束理由を始めとする法執行及び司法プロセスにおける透明性の向上、邦人の権利の適切な保護、公正公平の確保並びに人道的な取扱いを中国政府に対して強く求めてきており、引き続きそのような働きかけを粘り強く継続していく。また、邦人保護の観点から、領事面会や御家族との連絡など、できる限りの支援を行っている。 一連の邦人拘束事案発生を受け、在留邦人などに対しては、外務省や在中国日本国大使館・総領事館のホームページなどにおいて、「国家安全に危害を与える」とされる行為は、取調べの対象となり、長期間の拘束を余儀なくされるのみならず、有罪となれば懲役などの刑罰を科されるおそれがあるので注意するよう呼びかけている。また、2023年7月の改訂反スパイ法の施行を受け、外務省海外安全ホームページにおける注意喚起の内容を更新し、より詳細かつ具体的な形で注意喚起を行っている(13)。 〈蘇州・深圳における日本人学校児童等殺傷事件〉 6月、江蘇省蘇州市で、バス停に停車した蘇州日本人学校のスクールバスを男が襲撃し、日本人母子が負傷し、添乗員の中国人女性が殺害された。また、9月には、広東省深圳市で、登校中だった深圳日本人学校の児童が男に襲われ殺害された。これらの事件の犯人はいずれもその場で拘束され、2025年1月にそれぞれ裁判において死刑判決を受けた。 これらの大変痛ましい事件の発生を受け、在上海総領事館及び在広州(こうしゅう)総領事館から、被害に遭われた方及びその御家族に対して支援を行うとともに、累次の首脳・外相レベルの会合の機会に、石破総理大臣から習近平国家主席及び李強国務院総理に対し、上川外務大臣及び岩屋外務大臣から王毅外交部長に対し、動機を含む真相の解明、中国に渡航・生活する日本人、とりわけ子どもたちの安心・安全確保のための具体的な措置、反日的なソーシャルメディアの投稿に対する早急な取締りの徹底などを求めた。また、外務省として、必要な予算措置を講じた上で、スクールバス同乗を含む警備員の増強など、中国各地の日本人学校の安全対策の強化を支援してきているほか、中国各地の日本大使館・総領事館などと現地当局との間で、再発防止に向けた情報交換、連携の強化などに努めている。 海外に渡航・滞在する邦人の安全の確保は、政府の最も重要な責務の一つであり、日本政府としては、中国における邦人の安全確保を中国側に対し引き続き強く求めていくとともに、必要な注意喚起その他の取組を進めていく。 〈遺棄化学兵器問題〉 日本政府は、化学兵器禁止条約に基づき、中国における旧日本軍の遺棄化学兵器の廃棄処理事業に着実に取り組んできている。2024年は、吉林(きつりん)省敦化(とんか)市ハルバ嶺(れい)地区で発掘・回収及び廃棄処理事業を実施し、黒竜江(こくりゅうこう)省ハルビン市及び湖北(こほく)省武漢(ぶかん)市での廃棄処理事業を実施した。加えて、その他中国各地における遺棄化学兵器の現地調査及び発掘・回収事業を実施した(2024年12月時点の遺棄化学兵器廃棄数は累計約11.9万発)。 (2)台湾 ア 内政・経済 2024年1月13日、総統選挙及び立法委員選挙が実施され、総統選挙では、民進党の公認候補である頼清徳(らいせいとく)副総統が、得票率40.05%で当選した。立法委員選挙では、国民党が15議席増の52議席を獲得し第1党に、民進党は改選前から11議席減の51議席に、また、2019年に結成された民衆党は3議席増の8議席を獲得したが、過半数を得た政党はなかった。なお、民衆党の柯文哲(かぶんてつ)主席は8月、汚職容疑で身柄を拘束され、12月に起訴され、翌月主席を辞任した。 5月20日には総統就任式が行われ、頼清徳氏が第16代総統に就任した。頼総統は6月、台湾の発展戦略として「気候変動対策委員会」、「全社会防衛強靭性委員会」及び「健康台湾推進委員会」を設置すると発表した。 台湾経済は、AIや情報通信機器関連への需要が堅調であったことなどにより、年間実質GDP成長率が2023年のプラス1.31%から2024年のプラス4.6%(予測値)へ上昇した。 イ 両岸関係・対外関係 頼清徳総統就任式直後の5月23日から24日まで、中国人民解放軍東部戦区は「「台湾独立」分裂勢力の「独立」を謀(はか)る行動に対する力強い懲戒及び外部勢力の干渉と挑発に対する重大な警告」として、台湾島周辺で軍事演習「連合利剣-2024A」を実施したほか、26日には、「台独分子」による「国家分裂罪・国家分裂扇動罪」に関する「意見」を発表し、30日には、海峡両岸経済協力枠組協定(ECFA)による台湾の潤滑油など輸入ゼロ関税134品目を6月15日から取り消すと発表した。 また、9月25日には、34品目の農水産品のゼロ関税を停止したほか、10月10日に台湾で行われた双十節祝賀行事後の14日、中国人民解放軍東部戦区は台湾海峡、台湾島北部、台湾島南部、台湾島以東において、軍事演習「連合利剣-2024B」を実施し、台湾国防部によると、台湾周辺では、1日の確認機数としては過去最多となる延べ153機の中国軍機が確認された。 頼清徳総統は11月30日から一週間、台湾承認国であるマーシャル諸島、ツバル、パラオを訪問し、途中ハワイとグアムに立ち寄った。外遊終了後の12月9日、台湾国防部は、「中国軍の艦隊及び海警船が台湾海峡周辺及び西太平洋地域に進入し、遠海長距離航行などの活動を行っている」と発表した。中国による軍事演習の発表は行われていない。 台湾海峡の平和と安定は日本の安全保障はもとより、国際社会全体の安定にとっても重要であり、G7においては、2024年のプーリア・サミットを含め、首脳コミュニケにおいて、2021年以来一貫して、台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認し、両岸問題の平和的解決を呼びかけることで一致している。 台湾は、2009年から2016年までは世界保健機関(WHO)総会にオブザーバー参加していたが、2017年以降は参加できていない。日本は従来、国際保健課題への対応に当たっては、地理的空白を生じさせるべきではないと一貫して主張してきており、こうした観点から台湾のWHO総会へのオブザーバー参加を一貫して支持してきている。G7プーリア・サミット首脳コミュニケでは「国家性が前提条件でない場合はメンバーとして、前提条件である場合はオブザーバー又はゲストとして、世界保健総会及びWHOの技術会合を含む国際機関への台湾の意義のある参加を支持する」ことがG7の首脳レベルの成果文書の中で初めて言及された。 また、2025年2月7日の石破総理大臣とトランプ米国大統領との首脳会談の際に発出した日米首脳共同声明において、「両首脳は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を強調した。両首脳は、両岸問題の平和的解決を促し、力又は威圧によるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対した。また、両首脳は、国際機関への台湾の意味ある参加への支持を表明した。」ことが確認された。 ウ 日台関係 台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である。日本と台湾との関係は、1972年の日中共同声明を踏まえ、非政府間の実務関係として維持されている。1月の台湾総統選挙後には、民主的な選挙の円滑な実施と頼清徳氏の当選に祝意を表する外務大臣談話を発表したほか、5月20日の総統就任式には、日本から国会議員や友好団体を含め約170名が出席した。 2月26日、Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社(JASM)の熊本第一工場の開所式が行われ、岸田総理大臣からのビデオメッセージで日本政府による第二工場への支援が発表されるなど、半導体サプライチェーン分野での日台協力も進展が見られた。 日本は6月5日、台湾産ドラゴンフルーツ(紫赤肉種及び赤肉種)の輸入を、10月30日には、台湾産の高級魚である龍虎(りゅうこ)ハタの輸入を解禁した。また、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う輸入規制については、9月25日に台湾が緩和を発表し、日本国内で流通する食品は全て輸出が可能となった。一方、証明書添付などの輸入規制措置は依然残されており、日本側は、これらが科学的根拠に基づいて早期に撤廃されるよう、引き続き台湾側に粘り強く働きかけている。 日本と台湾は共に大規模な自然災害が多く、これまでも発災時には互いに支援の手を差し伸べてきた。2024年においても、1月1日、日本で能登半島地震が発生すると、台湾当局から6,000万円の義援金が寄贈されたほか、特別支援金口座などを通じて、台湾の方々から多大な支援が寄せられた。また、4月3日に台湾で花蓮(かれん)地震が発生した際には、日本台湾交流協会を通じ、日本政府から台湾側に対し100万ドルの緊急無償資金協力を行ったほか、民間レベルでも、多くの義援金が集められ被災地へと寄附された。 人的往来についても、日本からの海外渡航者数は回復途上であるものの、台湾からの訪日客数は604万人に達し、2019年の498万を大幅に超えて過去最高となった。 (3)モンゴル ア 内政 モンゴルは、1月頃以降、雪害により死者を含む多数の被災民と物的被害が生じ、同国の牧民にとって死活的な生活基盤である家畜が大量に死亡した。これを受けて国連を始め、日本を含む各国が緊急援助を行った。 6月、第9回国家大会議総選挙が、改憲により大幅拡大した定数126議席、大選挙区と比例代表の並立制の下で実施された。その結果、改選前与党の人民党は単独過半数(68議席)を得て勝利したが、野党第一党の民主党は善戦し42議席を、また、第三極の人間党も8議席を獲得した。7月、再任したオヨーンエルデネ首相は、野党の政権参加を呼びかけ、人民党・民主党・人間党による大連立内閣を発足させた。 新政権は8月、社会・経済発展に向けた喫緊の課題を迅速かつ効果的に解決すべく協力するとの連立与党間の契約の下、2024年から2028年の政府行動計画を策定した。この行動計画を通じてモンゴル政府は、「ビジョン2050」や「新再生政策」など既存の中・長期的な開発政策を効果的に実現することを目指し、インフラのメガ・プロジェクト14件の実施を含む計620の政策目標を掲げて取り組んだ。 イ 外交 中国とロシアに挟まれ、経済・エネルギー面で両国への依存を深めているモンゴルは、両国との良好な関係維持を最優先課題としつつも、「第三の隣国」と位置付ける日本や欧米諸国を始めとする諸外国との関係を強化することでバランスを維持する外交政策を従前から推進している。 2024年も、9月にベトナム、10月にカザフスタンの国家元首のモンゴル訪問がそれぞれ行われたほか、フレルスフ大統領、オヨーンエルデネ首相及びバトツェツェグ外相がそれぞれ諸外国を積極的に訪問するなど、活発な要人外交を展開した。 両隣国との関係では、9月、ノモンハン事件戦勝85周年に際し、プーチン・ロシア大統領、韓正(かんせい)中国国家副主席のモンゴル訪問がそれぞれ行われた。また、10月、オヨーンエルデネ首相が、パキスタンでの上海協力機構(SCO)首脳会合に際し、モ中露3か国首脳会談で3か国協力に関する協議を行った。 ウ 経済 2024年、モンゴル経済は、引き続き石炭及び銅などの鉱物資源の対中輸出が堅調となり、プラス成長が継続した。また、物価上昇率は6.8%となり、2023年より安定的に推移した。2024年第3四半期の経済成長率は、前年同期比で5.0%増となった。また、2024年の貿易額は、前年比で輸出3.9%増、輸入25.5%増となった。 エ 日・モンゴル関係 日本との関係では、2024年もハイレベルの往来や対話が行われた。また、日・モンゴル文化交流取極締結50周年を迎え、両国で様々な周年行事が行われた。なお、1月の能登半島地震による被害の発生を受け、モンゴル政府から10万ドルの支援が行われたほか、数多くのモンゴル国民から支援やお見舞いのメッセージが寄せられた。 5月、ザンダンシャタル国家大会議議長が日経フォーラム 第29回「アジアの未来」に出席するため訪日した。また、8月に予定されていた岸田総理大臣のモンゴル訪問は日本での地震への対応のため延期となったが、9月の国連総会の際に岸田総理大臣とフレルスフ大統領との首脳会談を実施した。同会談で両首脳は、国際社会が対立と分断を深めている中、2022年の「共同声明」で打ち出した、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化などの原則がますます重要性を増していることを再確認した。また、両首脳は「平和と繁栄のための特別な戦略的パートナー」である両国の協力関係を政治・経済の両面でより一層強化・拡大していくことで一致した。 特に、二国間協力の関連では、経済交流促進に向け、11月、第11回日・モンゴル官民合同協議会、及び日・モンゴル経済連携協定に基づく「協力に関する小委員会」第2回会合を、それぞれモンゴルで実施した。また、12月には、日・モンゴル防衛装備品・技術移転協定の署名がモンゴルにおいて行われた。 (8) BRICS:ブラジル、ロシア、インド、中国及び南アフリカを指す用語。なお、2023年8月の首脳会合では、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の新規加盟招待を発表した(アルゼンチンはその後の政権交代により加盟申請を取り下げたほか、サウジアラビアは未加盟との情報もある。)。2024年10月の首脳会合ではBRICSパートナー国という新たなカテゴリーの創設に合意し、2025年1月から、ベラルーシ、ボリビア、キューバ、インドネシア、カザフスタン、マレーシア、タイ、ウガンダ及びウズベキスタンの9か国がパートナー国として加盟することを2024年議長国のロシアが発表した。2025年1月、2025年議長国のブラジルがインドネシアの正式加盟を発表した。 (9) ALPS処理水とは、ALPS(多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System))などにより、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を確実に下回るまで浄化した水。ALPS処理水は、その後十分に希釈され、トリチウムを含む放射性物質の濃度について安全に関する規制基準値を大幅に下回るレベルにした上で、海洋放出されている。 (10) 尖閣諸島に関する日本政府の立場については外務省ホームページ参照: https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/senkaku/index.html (11) 「2008年合意」については外務省ホームページ参照: https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/higashi_shina/press.html (12) 2024年9月20日に発表された「日中間の共有された認識」については、外務省ホームページ参照: https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_01181.html (13) 外務省海外安全ホームページにおける注意喚起の掲載箇所はこちら(「滞在時の留意事項」10): https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcsafetymeasure_009.html