第4章 国民と共にある外交 2 外交実施体制の強化 日本が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している中、普遍的価値に基づいた国際秩序の維持・発展のための外交を強力に推進するためには、外交実施体制の抜本的な強化が不可欠である。そのため外務省は、在外公館の数と質の両面の強化や外務本省の組織・人的体制の整備を進めている。 大使館や総領事館などの在外公館は、海外で国を代表し、外交関係の処理に携わり、外交の最前線での情報収集・戦略的な対外発信などの分野で重要な役割を果たしている。同時に、邦人保護、日本企業支援や投資・観光の促進、資源・エネルギーの確保など、国民の利益増進に直結する活動も行っている。 こうした中、2024年1月には、新たにセーシェルに大使館、イタリアに在ローマ国際機関日本政府代表部(兼館)を新設した。 セーシェルは、インド洋の安全保障及び経済的に重要なシーレーン上に位置しており「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現のためにも重要な国である。また、日本が開発を進める東アフリカ最大の商業港であるケニアのモンバサ港やモザンビークのナカラ港、マダガスカルのトアマシナ港と日本をつなぐ海洋ルート上に位置し、豊富な水産資源を有している。セーシェルは重要な国際選挙などで日本を支持している国でもあり、現地に大使館を設けることで、今後も引き続き良好な関係を維持、強化していくほか、海洋安全保障分野を始めとする様々な情報収集や緊急事態における各種支援などを一層効果的に行う体制を強化していくことが重要である。 ローマには、国連食糧農業機関(FAO)1、国連世界食糧計画(WFP)2、国際農業開発基金(IFAD)3という食料・農業関連の国際機関があり、これら3国際機関は、相互密接に連携しながらグローバルな食料市場の安定化の取組、特に食料市場の不安定化のあおりを受けやすい脆(ぜい)弱な国への食料支援、農産物の生産及び流通の改善といった取組を通じて、世界の食料安全保障の確保や飢餓人口の減少に取り組んでいる。新型コロナウイルス感染症拡大による食料サプライチェーンの途絶、ロシアのウクライナ侵略による穀物供給の不安定化などの影響を受けて食料価格が高騰している中、日本の食料安全保障を確保し、特に影響を受けやすい脆弱国の食料へのアクセスを始めとするグローバルな食料市場の安定化は、日本の外交を進める上で不可欠である。食料及び農業を扱うローマ3機関との連携はますます重要になっており、日本政府代表部を設置することは、日本のプレゼンス強化及び3機関との密なネットワーク形成・連携に向けた体制作りに寄与するものであり重要である。 在外公館の増設と併せて、外務本省及び各在外公館で、外交を支える人員を確保・増強することが重要である。2023年度においては、政府全体での厳しい予算・定員事情の中で、二国間関係・地域情勢への対応、経済安全保障の推進、地球規模課題への貢献、在外邦人保護・安全対策などに取り組むため、外務省の定員数は2022年度から100人増の6,604人となった。しかし、他の主要国と比較して人員は依然十分とはいえず、引き続き日本の国力・外交方針に合致した体制の構築を目指すための取組を実施していく。なお、2024年度も、外交・領事実施体制の強化が引き続き不可欠との考えの下、70人4の定員増を行う予定である。 国家間競争の時代において普遍的価値に基づく国際秩序を維持・強化するため、外務省は2023年度予算で7,560億円を計上した(G7広島サミット開催経費を含む。うち125億円はデジタル庁予算に計上)。また、2023年度補正予算に関しては2,701億円を計上した(うち43.6億円はデジタル庁予算に計上)。同補正予算においては、「人間の尊厳」が確保された国際社会の平和と安定の実現に向け、対ウクライナ支援、対グローバル・サウス(新興国・途上国)支援、FOIPの実現に向けた取組を中心に、喫緊の課題に対して機動的で力強い外交を実施するための施策、並びに物価高に対応するための施策も計上した。 2024年度当初予算政府案では、(ア)国家安全保障戦略の実施、(イ)海外での邦人保護・危機管理体制の強化、(ウ)日本の経済成長の促進を重点項目として、7,417億円を計上している(うち160億円はデジタル庁予算に計上)。この中には、価値を共有する同盟国・同志国などとの連携のための予算、FOIPのための新たなプランの具現化のための予算、ウクライナ及び影響を受ける国への支援強化のための予算、イスラエル・パレスチナ情勢への対応のための予算、政府安全保障能力強化支援(OSA)5のための予算、偽情報対策を含む情報力の抜本的強化のための予算、在外公館の強靱(じん)化のための予算、日本企業の海外展開支援強化のための予算などが含まれている。 日本の国益増進のため、引き続き、一層の合理化への努力を行いつつ外交実施体制の整備を戦略的に進め、一層拡充していく。 在外公館数の推移 主要国(P5+独)との在外公館数の比較 主要国外務省との職員数比較 外務省職員数の推移 1 FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations 2 WFP:World Food Programme 3 IFAD:International Fund for Agriculture Development 4 定年引上げに伴う新規採用のための特例的な定員(1年時限)6人を含む。 5 OSA:Official Security Assistance