第3章 世界と共創し、国益を守る外交 5 資源外交と対日直接投資の促進 (1)エネルギー・鉱物資源の安定的かつ安価な供給の確保 ア エネルギー・鉱物資源をめぐる内外の動向 (ア)世界の情勢 近年、国際エネルギー市場には、(1)需要(消費)構造、(2)供給(生産)構造、(3)資源選択における三つの構造的な変化が生じている。(1)需要については、世界の一次エネルギー需要が、中国、インドを中心とする非OECD諸国へシフトしている。(2)供給については、「シェール革命」29により、石油・天然ガスともに世界最大の生産国となった米国が、2015年12月に原油輸出を解禁し、また、米国産の液化天然ガス(LNG)の更なる輸出を促進するなど、エネルギー輸出に関する政策を推進している。(3)資源選択については、エネルギーの生産及び利用が温室効果ガス(GHG)の排出の約3分の2を占めるという事実を踏まえ、再生可能エネルギーなどのよりクリーンなエネルギー源への移行に向けた動きが加速している。また、気候変動に関するパリ協定が2015年12月に採択されて以降、企業などによる低炭素化に向けた取組が一層進展している。加えて、2021年に入り、世界各国において、今世紀後半のカーボンニュートラル宣言が相次いでおり、世界の脱炭素化へのモメンタム(勢い)は高まりを見せている。2021年から上昇傾向にあったエネルギー価格は、2022年には、ロシアのウクライナ侵略が引き起こしたエネルギー危機の中で、大きな変動を経験した。国際社会はエネルギー市場の安定化、脱炭素化の実現をいかに達成していくかという課題に直面している。 (イ)日本の状況 東日本大震災以降、日本の発電における化石燃料が占める割合は、原子力発電所の稼働停止に伴い、震災前の約60%から2012年には約90%に達した。石油、天然ガス、石炭などのほぼ全量を海外からの輸入に頼る日本の一次エネルギー自給率(原子力を含む。)は、2011年震災前の20%から2014年には6.3%に大幅に下落し、2019年には12.1%まで持ち直したものの、ほかのOECD諸国と比べると依然として低い水準にある。日本の原油輸入の約90%が中東諸国からである。一方、LNGや石炭については、中東への依存度は原油に比べて低いものの、そのほとんどをアジアやオセアニアからの輸入に頼っている。このような中、エネルギーの安定的かつ安価な供給の確保に向けた取組がますます重要となっている。同時に、気候変動への対応も重要となっている。日本は、2020年10月に2050年カーボンニュートラル、2021年4月に、2030年度の46%削減、更に50%を目指して挑戦を続ける新たな削減目標を表明した。こうした状況を背景に、2021年10月に閣議決定された、「第6次エネルギー基本計画」では、エネルギー源の安全性(Safety)、安定的供給の確保(Energy Security)、エネルギーコストの経済的効率性の向上(Economic Efficiency)、気候変動などの環境への適合性(Environment)を考慮した、「S+3E」の原則を引き続き重視しながら、2030年までの具体的な取組を示している。 イ エネルギー・鉱物資源の安定的かつ安価な供給の確保に向けた外交的取組 エネルギー・鉱物資源の安定的かつ安価な供給の確保は、活力ある日本の経済と人々の暮らしの基盤を成すものである。外務省として、これまで以下のような外交的取組を実施・強化してきている。 (ア)在外公館などにおける資源関連の情報収集・分析 エネルギー・鉱物資源の獲得や安定供給に重点的に取り組むため、在外公館の体制強化を目的とし、2023年末時点で計53か国60公館に「エネルギー・鉱物資源専門官」を配置している。また、エネルギー・鉱物資源の安定供給確保の点で重要な国を所轄し、業務に従事する一部在外公館の職員を招集して、「エネルギー・鉱物資源に関する在外公館戦略会議」を開催している。 (イ)エネルギー市場安定化に向けた取組 2022年2月に起きたロシアのウクライナ侵略により、石油価格は1バレル当たり130ドルを超え、欧州ガス市場では100万BTU当たり70ドルを突破するなどエネルギー価格は大きく高騰し、エネルギー市場は大きく不安定化した。 この状況下、日本は、同年2月と3月に、欧州での天然ガスの需給逼(ひっ)迫を緩和するため、日本企業が取り扱うLNGの一部を欧州に融通し、また国際エネルギー機関(IEA)30加盟国として、同年3月から4月に2回にわたる石油備蓄の協調放出を実施し、過去最大の放出量となる計2,250万バレルの石油備蓄を放出した。 こうしたエネルギーをめぐる情勢の中で、資源生産国に対して、エネルギー市場の安定化や増産の働きかけも行っている。2023年4月の林外務大臣とファイサル・サウジアラビア外相との電話会談、7月の岸田総理大臣とムハンマド・サウジアラビア皇太子兼首相及びムハンマド・アラブ首長国連邦大統領との会談、9月の林外務大臣とファイサル・サウジアラビア外相との会談及び湾岸協力理事会(GCC)各国閣僚との会合、岸田総理大臣とムハンマド・サウジアラビア皇太子兼首相との懇談、上川外務大臣とジャーベル・アラブ首長国連邦産業・先端技術相兼日本担当特使との会談など、産油国との間の首脳・閣僚レベルの累次の会談の機会に産油国に対する働きかけを行ったほか、在外公館や関係省庁を通じて様々なレベルで産油国に対する働きかけを行った。 (ウ)エネルギー・鉱物資源に関する国際機関との連携 エネルギーの安定供給や重要鉱物資源のサプライチェーン強靭化に向けた国際的な連携・協力のため、日本は、国際的なフォーラムやルールを積極的に活用している。エネルギー安全保障を確保しつつ、脱炭素化に向けて現実的なエネルギー移行を図るために、エネルギーの安定供給の確保と供給源の多角化及びエネルギー移行に不可欠な重要鉱物資源の安定的確保が重要であることを国際社会に発信している。 1月、髙木啓外務大臣政務官は、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)31第13回総会(アラブ首長国連邦・アブダビ)に出席し、再生可能エネルギーがエネルギー安全保障確保のための最も重要な選択肢であることを強調した上で、各国・地域の事情を踏まえた現実的なエネルギー移行を通じて、世界規模での脱炭素社会の実現を追求すべきことを指摘した。また、脱炭素社会の実現に向けた課題として、再生可能エネルギー関連機器及びそれに必要な重要鉱物資源のサプライチェーンの問題や再生可能エネルギー関連機器の廃棄の問題などを挙げて、「環境・社会・ガバナンス(ESG)32」などの公正で実効的なルール作りの必要性について指摘し、IRENAの場で議論して、加盟各国で協調して課題を解決していきたいと述べた。 7月、髙木外務大臣政務官は、インドを議長国として開催されたG20エネルギー移行大臣会合に出席した。髙木外務大臣政務官からは、エネルギー・アクセスについて、廉価なエネルギーへのアクセスは人々の生活の基盤を成すものと考えると述べた。また、G7広島サミットでの成果を説明し、エネルギー移行期におけるエネルギー・アクセスの在り方について、G20でも連携を進めていきたいと発言した。 9月、高村正大外務大臣政務官は、IEA重要鉱物・クリーンエネルギー・サミット(フランス・パリ)に出席し、重要鉱物の安定供給の確保に向けては、高いESG基準の遵守、ESG投資の浸透及び市場の透明性向上が必要であり、今後、国際社会の一致した行動が求められると指摘した上で、引き続き世界中のパートナーとの協力を深化させていきたいと発言した。 10月、小野外務審議官は、鉱物安全保障パートナーシップ(MSP)33副大臣級会合(英国・ロンドン)に出席し、重要鉱物分野におけるG7広島サミットの成果に触れつつ、高いESG基準の浸透に向けた国際的な支援の必要性を指摘した上で、日本としてMSPメンバー国及び資源国との連携を強化していく立場を示した。 (エ)エネルギー・鉱物資源に関する在外公館戦略会議 外務省では、2009年度から、主要資源国に設置された大使館・総領事館、関係省庁・機関、有識者、企業などの代表者を交えた会議を定期的に開催し、日本のエネルギー・鉱物資源の安定供給確保に向けた外交的取組について議論を重ね、政策の構築と相互の連携強化を図ってきた。 (オ)エネルギー憲章条約の近代化に係る交渉の実質合意 エネルギー憲章に関する条約(ECT)34は、ソ連崩壊後の旧ソ連及び東欧諸国におけるエネルギー分野の市場原理に基づく改革の促進、世界のエネルギー分野における貿易・投資活動を促進することなどを宣言した「欧州エネルギー憲章」の内容を実施するための法的枠組みとして定められ、1998年4月に発効した多数国間条約である(日本は2002年に発効)。欧州及び中央アジア諸国を中心とした49か国・機関が本条約を締結している(2024年1月時点)。2020年から条約改正に向けた議論が行われ、2022年6月に締約国交渉当事者間で実質合意に達した。日本はECTの最大の分担金拠出国であり、2016年には東アジア初となるエネルギー憲章会議の議長国を務め、東京でエネルギー憲章会議第27回会合を開催するなど、ECTの発展に貢献してきている。なお、2021年9月から、ECTの運営組織であるエネルギー憲章事務局の副事務局長に廣瀬敦子氏が日本人として初めて副事務局長に就任している。 (カ)エネルギー・鉱物資源に関する広報分野での取組 1月、外務省は、「エネルギー危機:脱炭素と地政学」をテーマに、対面でのセミナーを開催した。本セミナーでは、グルドIEAチーフエコノミストが基調講演を行ったほか、第一線で活躍する学術関係者、メディア関係者、ビジネス関係者などがパネリストとして登壇し、エネルギー安全保障、脱炭素、地政学リスクについて、活発な議論が行われた。 (2)食料安全保障の確保 世界の食料安全保障の状況は、新型コロナ、エネルギー価格の高騰、気候変動、紛争などによる複合的リスクにより、サプライチェーンの混乱や途絶といった農業・食料システムへの影響が顕在化していたところに、ロシアのウクライナ侵略によって、特にアフリカや中東を中心に食料安全保障をめぐる状況が世界規模で急激に悪化した。さらに、食料の生産のための土地利用、気候変動に適応した農業生産、効率的な肥料の利用などといった持続可能で強靱な農業・食料システムの構築に向けた課題は山積している。 2023年の「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」35によると、新型コロナの世界的蔓(まん)延の影響からの経済回復により2022年の栄養不足人口は前年比で約380万人減少し、世界人口の約8%程度となる約7億3,500万人程度まで減ったと推定されている。一方、ロシアのウクライナ侵略によって引き起こされた食料やエネルギー価格の上昇が状況改善の負の要素となっていることは間違いないとしている。 ア 食料安全保障に関する国際的枠組みにおける協力 このようなグローバルな食料危機に対応するため、日本は2023年のG7議長国として、人間一人一人に安全な栄養のある食料への手頃な価格でのアクセスを確保するというアプローチを中心に据え、食料安全保障を優先課題の一つとして取り組んできた。5月のG7広島サミットにおいて、日本はG7各国に加え、招待国(オーストラリア、ブラジル、コモロ、クック諸島、インド、インドネシア、韓国及びベトナム)と共に発出した「強靱なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明」において、食料安全保障の危機に関する喫緊の課題への対処と、強靱でグローバルな農業・食料システムの構築に向けた中長期的な取組を包括的に取りまとめた。 また、6月には、広島行動声明を踏まえ、日本は国際穀物理事会(IGC)36と「食料危機における行動に関する対話」を共催した。この対話では、各国政府、国際機関及び企業などからの幅広い参加を得て、食料安全保障の危機時に、危機の悪化を避けるために輸出国及び輸入国を始めとする市場関係者が取るべき行動について議論した。この対話の結果を「食料安全保障の危機に際しての輸出者及び輸入者のための行動原則」として取りまとめた。このほか、G20やAPECといった様々な国際的な枠組みにおいて食料安全保障の確保と、持続可能で強靱な農業・食料システムの構築に向けた取組に関しての議論が行われ、日本は積極的にこの議論に参加してきた。 イ 日本が参加した主なイニシアティブ 8月3日、米国のイニシアティブにより、ニューヨークの国連本部で「飢饉と紛争に起因するグローバルな食料不安」と題する国連安全保障理事会公開討論が開催され、山田外務副大臣が出席した。会合の中で、日本は、飢饉(きん)や紛争起因の食料不安への対処に当たっては、緊急食料支援などの短期的取組に加え、食料システムのレジリエンス(強靱性)強化など人間の安全保障の理念に立脚した中長期的な観点からの取組が必要であること、また、食料不安の根本原因たる紛争を予防する取組も重要であり、人道・開発・平和の連携(ネクサス)によるアプローチを通じて包括的に対処することの重要性を強調した。 ウ 食料安全保障に関する国際機関との連携強化 日本は、国際社会の責任ある一員として、食料・農業分野における国連の筆頭専門機関である国連食糧農業機関(FAO)37の活動を支えている。特に、日本は第3位の分担金負担国であり、主要ドナー国の一つとして、食料・農業分野での開発援助の実施や、食品安全の規格などの国際的なルール作りなどを通じた世界の食料安全保障の強化に大きく貢献している。また、日・FAO関係の強化にも取り組んでおり、年次戦略協議の実施なども行っている。 (3)漁業(マグロ・捕鯨など) 日本は世界有数の漁業国及び水産物の消費国であり、海洋生物資源の適切な保存管理及び持続可能な利用に向け、国際機関を通じて積極的に貢献している。 日本は、鯨類は科学的根拠に基づき持続的に利用すべき海洋生物資源の一つであるとの立場から、国際捕鯨委員会(IWC)38が「鯨類の保護」と「捕鯨産業の秩序ある発展」という二つの役割を有していることを踏まえ、30年以上にわたり、収集した科学的データを基に誠意を持って対話を進めてきた。しかし、持続的利用を否定し保護のみを主張する国々との共存は極めて困難であることが明らかとなったため、日本は2019年にIWCを脱退し、商業捕鯨を再開した。 日本は、領海と排他的経済水域(EEZ)39に限定し、科学的根拠に基づき、IWCで採択された方式により算出された、100年間捕獲を続けても資源に悪影響を与えない捕獲可能量の範囲内で商業捕鯨を行っている。 国際的な海洋生物資源の管理に積極的に貢献するといった日本の方針は、IWC脱退後も変わることはない。日本は、IWC総会やIWC科学委員会へのオブザーバー参加を始め、北大西洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)40といった国際機関に積極的に関与し協力を積み重ねている。また、日本は非致死性の鯨類資源科学調査を展開し、その一部はIWCと共同で実施している。その成果は、鯨類資源の持続的利用及び適切な管理の実現の基礎となる重要なデータとして、IWCを始めとする国際機関に提供している。 違法・無報告・無規制(IUU)漁業は、持続可能な漁業に対する脅威の一つである。日本は、寄港国がIUU漁船に対して入港拒否などの措置をとることについて規定する「違法漁業防止寄港国措置協定」(PSMA)41への加入を未締結国に対して呼びかけており、G7広島サミットにおいて、PSMAへの加入を奨励することを確認したほか、IUU漁業を終わらせるため、更なる行動を取ることで一致した。このほか、日本は、開発途上国に対してIUU漁業対策を目的とした能力構築支援も行っている。 中央北極海では、地球温暖化に伴う一部解氷によって、将来的に無規制な漁業が行われる可能性が懸念されている。このような懸念を背景として、2021年6月、北極海沿岸5か国に日本などを加えた10か国・機関が参加する「中央北極海における規制されていない公海漁業を防止するための協定」が発効した。2023年6月に開催された第2回締約国会合へは、日本を含む10か国・地域が参加し、中央北極海における科学的な調査やモニタリング計画の骨子が採択されたほか、試験漁業に係る保存管理措置の策定などに向けた議論が行われた。 日本は、まぐろ類の最大消費国として、まぐろ類に関する地域漁業管理機関(RFMO)42に加盟し、年次会合などにおいて保存管理措置の策定に向けた議論を主導しており、近年、国際的な資源管理を通じた積極的な取組の成果が上がりつつある。太平洋クロマグロについては、12月、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)43の年次会合において、小型魚の漁獲上限の一部を1.47倍して大型魚の漁獲上限に振り替える際の上限の引上げが認められたことにより、管理の柔軟性が増加した。大西洋クロマグロについては、2022年11月に開催された大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)44の年次会合において、近年の資源量回復を受けて大西洋東水域の総漁獲可能量(TAC)45は前年比12.7%の増加が認められ、2023年にはこの水準を踏まえた操業が行われた。ミナミマグロについては、10月に開催されたみなみまぐろ保存委員会(CCSBT)46において、科学委員会からの勧告を踏まえ、2024年から2026年の間の毎漁期のTACの約17%の増加が認められた。 サンマについては、資源が過去にない水準に低迷しており、それに伴う不漁が問題となっている。3月、札幌で開催された北太平洋漁業委員会(NPFC)47の年次会合において、漁獲枠を25%削減する措置に合意したほか、漁獲努力量の削減を目的として実操業隻数の削減又は操業日数の制限を導入することが初めて合意された。また、小型魚保護のための措置が強化された。引き続き、今後の会合に向けて資源管理を一層充実させていくことが重要となっている。 遡河(さくか)性魚類(さけます類)については、北太平洋遡河性魚類委員会(NPAFC)48において資源の保存のための議論が行われている。5月に開催された第30回年次会合において、近藤喜清氏(水産大学校校務部長)が同委員会事務局長に選出され、9月に就任した。 ニホンウナギについては、5月、ウナギに関する第2回科学者会合が日本主導の下で開催され、ウナギ類の資源管理に関する科学的知見が共有された。また、7月に、東京で、第16回非公式協議が対面形式で開催され、日本、韓国、中国、台湾の間で、シラスウナギの養殖池への池入れ上限の設定、ニホンウナギの共同研究における協力を促進することなどについて議論及び確認が行われた。 (4)対日直接投資 対日直接投資の推進については、2014年から開催されている「対日直接投資推進会議」が司令塔として投資案件の発掘・誘致活動を推進し、外国企業経営者の意見を吸い上げ、外国企業のニーズを踏まえた日本の投資環境の改善に資する規制制度改革や支援措置など追加的な施策の継続的実現を図っていくこととしている。2015年3月の第2回対日直接投資推進会議で決定した「外国企業の日本への誘致に向けた5つの約束」に基づき、2016年4月以降、外国企業は「企業担当制」49を活用し、担当副大臣との面会を行っている。また、2023年6月には、経済財政諮問会議において「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針2023)が閣議決定され、対日直接投資残高の目標を従来の80兆円から拡大し、2030年に100兆円を目指すこととされた。 外務省は、対日直接投資推進会議で決定された各種施策を実施するとともに、外交資源を活用し、在外公館を通じた取組や政府要人によるトップセールスも行い、対日直接投資促進に向けた各種取組を戦略的に実施している。2022年度には、126の在外公館に設置した「対日直接投資推進担当窓口」を通じ、日本の規制・制度の改善要望調査、在外公館が有する人脈を活用した対日直接投資の呼びかけ、対日直接投資関連イベントを開催するなど、活動実績は700件以上となった。また、2023年5月には、海外における人材・投資誘致体制を抜本強化するため、在外公館長・JETRO海外事務所長レベルでの連携による「FDIタスクフォース」を5拠点(ニューヨーク、ロンドン、デュッセルドルフ、パリ、シドニー)に設置することが決定され、拠点公館での活動強化に取り組んでいる。 さらに、日本国内では、2023年3月に外務省主催でグローバル・ビジネス・セミナーを開催し、対日直接投資の推進をテーマに、昨今の日本への投資傾向や海外から見た日本のビジネス環境、日本国内の対日投資促進に向けた取組や方針について、政府・地方自治体関係者やビジネス界の代表、企業関係者が講演を行ったほか、国内外企業関係者、在京大使館、駐日経済団体・商工会議所関係者、政府・地方自治体関係者など約120人が参加し、活発な議論が行われた。 (5)2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)開催に向けた取組 2020年12月、博覧会国際事務局(BIE)50総会で大阪・関西万博の登録申請が承認され、日本は正式に各国・国際機関に対する参加招請を開始し、多数の国・地域、国際機関に参加してもらえるよう招請活動に取り組んできており、2024年1月時点で160か国・地域及び9国際機関の参加表明を得ている。 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(以下「日本国国際博覧会協会」という。)は、2023年6月に「International Planning Meeting(国際企画会議)」、11月に「International Participants Meeting(国際参加者会議)」を開催し、大阪・関西万博に参加予定の国・地域、国際機関を大阪市に招き各種情報の提供を行った。 大阪・関西万博は、国内外から多数の来場が見込まれる万博を通じて、世界に日本の魅力を発信し、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマの下、2030年を目標年とするSDGs達成への取組を加速化するよい機会となる。海外パビリオン建設の遅れを含む各種課題に対し、外務省としても外交ルートや在外公館経由での働きかけなどを含め、関係省庁・日本国国際博覧会協会とも緊密に連携し、大阪・関西万博の成功のために引き続きオールジャパンで取り組んでいく。 29 シェール革命:2000年代後半、米国でシェール(Shale)と呼ばれる岩石の層に含まれる石油や天然ガスを掘削する新たな技術が開発され、また経済的に見合ったコストで掘削できるようになったことから、米国の原油・天然ガスの生産量が大幅に増加し、国際情勢の多方面に影響を与えていること 30 IEA:International Energy Agency 31 IRENA:International Renewable Energy Agency 32 ESG:Environment, Social, Governance 33 MSP:Minerals Security Partnership 34 ECT:Energy Charter Treaty エネルギー原料・産品の貿易及び通過の自由化、エネルギー分野における投資の保護などを規定した本条約は、供給国から需要国へのエネルギーの安定供給の確保に寄与し、エネルギー資源の大部分を海外に頼る日本にとって、エネルギー安全保障の向上に資するほか、海外における日本企業の投資環境の一層の改善を図る上で重要な法的基盤を提供している。 35 世界の食料安全保障と栄養の現状報告(SOFI:The State of Food Security and Nutrition in the World):SOFIは、国連食糧農業機関(FAO)、国連児童基金(UNICEF)、国連世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)及び世界保健機関(WHO)が共同発行する世界の食料不足と栄養に関する年次報告書 36 IGC:International Grains Council 37 FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations 38 IWC:International Whaling Commission 39 EEZ:Exclusive Economic Zone 40 NAMMCO:North Atlantic Marine Mammal Commission 41 PSMA:Agreement on Port State Measures to Prevent, Deter and Eliminate Illegal, Unreported and Unregulated Fishing 42 RFMO:Regional Fisheries Management Organization 43 WCPFC:Western and Central Pacific Fisheries Commission 44 ICCAT:International Commission for the Conservation of Atlantic Tunas 45 TAC:Total Allowable Catch 46 CCSBT:Commission for the Conservation of Southern Bluefin Tuna 47 NPFC:The North Pacific Fisheries Commission 48 NPAFC:North Pacific Anadromous Fish Commission 49 日本に重要な投資を実施した外国企業が日本政府と相談しやすい体制を整えるため、当該企業の主な業種を所管する省の副大臣などを相談相手につける制度 50 BIE:Bureau International des Expositions