第2章 しなやかで、揺るぎない地域外交 5 西部アフリカ地域 (1)ガーナ 2017年に発足し、2021年から2期目を務めるアクフォ=アド政権は、「援助を超えるガーナ」構想を掲げ、投資促進や産業の多角化を進めているほか、引き続き債務状況を含む国内経済の立て直しに力を入れている。5月に、岸田総理大臣が日本の総理として17年ぶりにガーナを訪問し、アクフォ=アド大統領との首脳会談や、日本がODAを通じ長年にわたり支援してきた野口記念医学研究所の視察などを実施した。同研究所は、地域の感染症対策において重要な役割を果たしている。2月には、林外務大臣とアムプラトゥン=サルポン外務・地域統合副相との会談を実施した。 日・ガーナ首脳会談後の共同記者会見の様子 (5月1日、ガーナ・アクラ 写真提供:内閣広報室) (2)カーボベルデ カーボベルデは民主主義が定着しており、アフリカ諸国の中でも高い政治的安定を誇っている。1月には林外務大臣がソアレシュ外務・協力・地域統合相と米国・ニューヨークで会談を行い、双方は二国間での連携を強化していくことで一致した。また、9月には食糧援助に関する無償資金協力に関する書簡の交換を行うなど、日本は同国の経済開発への協力を行っている。 日・ガーボベルデ外相会談(1月12日、米国・ニューヨーク) (3)ガンビア 2017年にバロウ大統領が就任して以降、民主主義や法の支配などの基本的価値と原則に基づく改革が推進されている。一方、農業依存型の脆(ぜい)弱な経済構造及び深刻な貧困などの社会課題を抱えている。日本は同国に対する食糧援助を通じて、同国の安定化に貢献している。 (4)ギニア ギニアでは、2021年9月に発生したギニア国軍の一部兵士による権力掌握事案を経て暫定政府(ドゥンブヤ暫定大統領)が発足し、2024年末を期限として民政移管が進行中である。ギニアは豊富な水資源と肥沃な土地を有し、農業や水産業の開発潜在力は高く、ボーキサイト、鉄などを産出する鉱物資源大国である。 日本はギニアと長年にわたり友好関係を築いており、同国の持続可能な開発を後押しするため、食料安全保障、経済インフラの整備、基礎的社会サービスの向上などの分野での支援を実施している。 (5)ギニアビサウ ギニアビサウは、水産資源や鉱物資源などに恵まれた豊かな土地をいかし、貧困と政情不安からの脱却を目指している。6月には国民議会選挙が平和裡に実施され、マルティンス新首相が就任した。日本はギニアビサウに対し、法の支配と民主的ガバナンス強化に向けた制度構築支援などを引き続き実施している。11月にはセネガルで開催された「アフリカの平和と安定に関するダカールフォーラム」において、堀井外務副大臣がマルティンス首相を表敬し、両国間の関係を一層強化していくことで一致した。 (6)コートジボワール コートジボワールは「国家開発計画」の下で農業生産システムの促進・強化に取り組んでいる。日本は、これを支援するため、4月に農業土木関連機材供与及び肥料供与を実施する総額11.5億円となる2件の無償資金協力「経済社会開発計画」に関する書簡を交換し、6月には無償資金協力「稲作分野における機械化サービス向上計画」に関する書簡を交換した。さらに、北部地域における公共サービスの不足や難民の流入増加を受け、日本は同国と10月に「北部地域における地方政府社会インフラ改善計画(UNDP連携)」に関する書簡を交換した。2月にはアミシア投資促進庁長官が訪日し、髙木外務大臣政務官との会談の中で、コートジボワールへの日本企業による投資の促進について議論し、二国間ビジネス環境改善委員会などを通じ、引き続き活発な議論を継続することで一致した。 (7)シエラレオネ シエラレオネでは、6月に大統領選挙が行われ、2期目を目指したビオ大統領が再選された。ビオ政権は、安定的かつ平和で開かれた多元的な民主主義を構築することに焦点を当て、食料安全保障、人材育成、若者支援、技術促進などを優先分野として継続的に取り組んでいる。日本は、同国に対して、保健、人材育成、農業や基礎インフラ整備などの分野で開発協力を実施している。9月に、米国・ニューヨークで上川外務大臣はカッバ外務・国際協力相と外相会談を行い、国際場裡での協力などを確認した。 カッバ・シエラレオネ外相と会談する上川外務大臣 (9月19日、米国・ニューヨーク) (8)セネガル サル大統領は、西部アフリカの安定勢力として、アフリカの平和と安定に向けて積極的に取り組み、6月にはウクライナ和平ミッションに参加してウクライナ及びロシアを訪問したほか、11月には第9回アフリカの平和と安全に関するダカール国際フォーラムをホストした。また、内政面においても、サル大統領は憲法の規定に基づき、2024年2月に実施予定の次回大統領選挙への不出馬を表明し、セネガルが憲法に基づく政権運営が行われ、民主主義が定着している国であることを改めて国際社会に示した。 11月のダカール国際フォーラムには、堀井外務副大臣が出席し、アフリカの平和と安定を後押しする日本の取組を紹介しつつ、国際社会におけるアフリカ諸国の役割が増大していることを踏まえ、日本がアフリカと共に考え、より良い解決策を共創するパートナーとして取り組んでいくことを呼びかけた。また、サル大統領への表敬やファル外相との会談などを実施し、二国間協力及び日・アフリカ関係の更なる強化に向けた連携や、国際場裡における協力を強化していくことを確認した。 (9)トーゴ 日本は、トーゴの食料安全保障の改善及び開発課題の解決のため、ロシアによるウクライナ侵略の影響を受けて価格が高騰している肥料の供与を実施する無償資金協力「経済社会開発計画」に関する書簡を4月に交換したことに加え、9月には無償資金協力「食糧援助」に関する書簡を交換した。また、ロジスティックス(物流)回廊を整備することで地域の物流拠点となることを目指すトーゴを後押しするため、11月に無償資金協力「ソコデ市バイパス道路建設計画」に関する書簡の交換を実施した。 (10)ナイジェリア 2月の大統領選挙の結果、与党全進歩会議(APC)のティヌブ候補が当選し、8年ぶりに新大統領が誕生した。5月の大統領就任式には、日本から田中和徳衆議院議員が総理特使として出席した。同大統領は、憲法と法の支配に基づく統治、治安対策、貧困撲滅、雇用創出、資本へのアクセス改善、汚職との闘いなどを基本政策に掲げており、特に、就任後間もなく、長年にわたり国の財政を圧迫してきた燃料補助金の撤廃を始めとする経済改革に着手した。 治安面では、北東部を中心にボコ・ハラムなどによるテロ・襲撃などが依然として続いている。日本は経済社会開発や国際機関経由の人道支援を実施している。 (11)ニジェール ニジェールは、マリ及びブルキナファソとの国境地帯を中心に高まるテロの脅威に直面しながらも、バズム大統領の下、国際社会と連携し、テロ対策と開発課題の克服に堅実に取り組んできたが、7月にニジェール軍の一部兵士がバズム大統領を拘束する事案が発生した。日本はニジェール軍の一部兵士による同行動を強く非難しつつ、バズム大統領の安全確保を求め、憲法に基づく秩序が堅持されるよう呼びかける外務報道官談話を発出した。引き続き、バズム大統領の安全確保及び憲法秩序の早期回復に向けた西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)8及びAUなどの外交的取組を後押ししていく。 (12)ブルキナファソ 2022年1月及び同年9月に発生したブルキナファソ国軍の一部兵士による権力掌握事案の後、暫定政府(トラオレ暫定大統領)が発足し、民政移管に向けて取り組んでいる。北部のマリ及びニジェールとの国境地帯を中心にテロや襲撃が頻発するなど治安の悪化が深刻であり、多数の国内避難民が発生している。サヘル地域及びギニア湾沿岸諸国の平和と安定の要であるブルキナファソの平和と安定の確保は喫緊の課題となっている。 日本は、人道状況改善に貢献するため、10月に無償資金協力「食糧援助」に関する書簡の交換を行い、ブルキナファソの食料安全保障の改善を目的として、日本の政府米による食糧援助を実施し、国内避難民への支援に関する協力も進めている。 (13)ベナン サヘル地域の不安定化に伴うテロ組織の南下によりベナン北部の治安対策の強化が喫緊の課題になっている中で、日本は10月に無償資金協力「経済社会開発計画」に関する書簡の交換を実施し、テロ・治安対策機材の供与を決定した。6月にはワダニ経済・財務相が訪日し、山田外務副大臣との会談の中で、二国間関係を一層発展させていくとともに、サヘル地域とギニア湾沿岸諸国の平和と安定に向けて取り組んでいくことで一致した。 (14)マリ 2020年8月及び2021年5月に発生したマリ国軍の一部兵士による権力掌握事案を経て、暫定政府(ゴイタ暫定大統領)が発足し、民政移管に向けて取り組んでいる。北部及び東部を中心にテロや襲撃、衝突等が頻発するなど治安及び人道状況の悪化が深刻である。6月には、マリ暫定政府による撤収要請などを受け、国連安保理は国連マリ多面的統合安定化ミッション(MINUSMA)9の撤収決議を全会一致で採択した。サヘル地域及びギニア湾沿岸諸国の平和と安定の要素であるマリの平和と安定の確保は喫緊の課題となっている。 日本は、マリの平和と安定及び持続的成長を支援している。10月には無償資金協力「脆弱な地域における『みんなの学校』モデルに基づく児童の教育推進計画(UNICEF連携)」に関する書簡の交換を行い、ユニセフ(UNICEF国連児童基金)と連携してマリの初等教育の就学促進と学習環境の改善を後押ししている。 (15)リベリア 1989年に勃発した内戦と2014年に隣国から拡大したエボラ出血熱により、甚大な人道被害が発生したリベリアでは、ウェア大統領が貧困対策に力を入れている。インフラ、教育、保健なども優先課題であり、日本は首都モンロビアの幹線道路(ジャパン・フリーウェイ)の拡充・改修の支援や食糧援助を通じて、同国の持続的成長を支援している。大統領選挙の第1回投票が10月に、また、決選投票が11月に実施され、元副大統領のボアカイ候補が当選した。 (16)モーリタニア モーリタニアは、政治・治安情勢の不安定化が進むサヘル地域にあって、2011年以降テロが発生しておらず、比較的安定した政権運営を続けている。一方、世界情勢及び周辺国の治安悪化に起因する難民流入の増加などにより食料不足は深刻である。日本は食糧援助などの支援を継続的に行っている。また、長年協力してきた水産分野に加え、農業分野への協力を行い、同国の発展を後押ししている。 8 ECOWAS:Economic Community of West African States 9 MINUSMA:United Nations Multidimensional Integrated Stabilization Mission in Mali