第2章 しなやかで、揺るぎない地域外交 第8節 アフリカ 1 概観 アフリカは、54か国に約14億人を擁し、若い人口構成、豊富な鉱物資源、比較的高い経済成長率により、世界の関心を集めている。一方、一部のアフリカ諸国は深刻な債務状況に陥っており、国内法の執行・運用の不透明性など、投資環境上の課題も多い。同時に、紛争やテロ、武力による政権奪取を含む政治的混乱が平和と安定を脅かしている地域が存在し、依然として深刻な貧困を含む開発課題を抱えている。 ロシアのウクライナ侵略は、引き続きアフリカの政治・社会情勢に影響を与えている。アフリカも首脳級のウクライナ和平ミッション派遣などを通じて、解決に向けて積極的に関与している。また、南アフリカが開催した8月のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国及び南アフリカ)サミットでのエジプト及びエチオピアのBRICS加盟、9月のG20ニューデリサミットにおけるアフリカ連合(AU)のG20加盟決定など、国際社会におけるアフリカのプレゼンスはますます向上している。 スーダンでは、4月に国軍と準軍事組織の即応支援部隊(RSF)1との間で武力衝突が発生し、国内外に数百万人の難民及び避難民が発生し、人道上の危機を招いているほか、周辺国の安定への影響も無視できない。西アフリカでは、マリ、ギニア、ブルキナファソに続き、7月にニジェールでも武力による政権奪取が生じた。ガボンでは、8月に実施された大統領選後に、その結果の不正と無効を主張する軍・治安部隊による政変が発生した。紛争や干ばつなどの影響で多くの難民が発生している「アフリカの角」2地域では、食料不安が拡大している。大湖地域、特にコンゴ民主共和国東部地域では、「3月23日運動(M23)3」など、武装勢力の動きが活発化し、多くの国内避難民及び難民が発生、人権・人道状況の悪化が懸念される状況にある。一方、ナイジェリア、シエラレオネ、ジンバブエ、マダガスカル、リベリア及びコモロではおおむね平和裡(り)に大統領選挙が実施された。 2023年は日本とアフリカの間で要人往来が活発に行われた。3月、岸田総理大臣は、訪日したロウレンソ・アンゴラ大統領と会談した。また、4月29日から5月4日、岸田総理大臣はエジプト、ガーナ、ケニア及びモザンビークを訪問し、各国首脳と会談を行った(167ページ 特集参照)。5月、山田賢司外務副大臣を団長とするアフリカ貿易・投資促進官民合同ミッションはモザンビーク及びモーリシャスを訪問した。7月31日から8月3日、林外務大臣は、南アフリカ、ウガンダ及びエチオピアを訪問した。そのほか、国際会議の機会を捉えて、林外務大臣が6月にマダガスカル及びニジェール、上川外務大臣が9月にシエラレオネとの間で、それぞれ首脳や外相と会談した。11月、上川外務大臣は訪日したマカモ・モザンビーク外務協力相と会談した。また、11月に堀井巌外務副大臣は、セネガルを訪問し、「第9回アフリカの平和と安全に関するダカール国際フォーラム」に出席したほか、セネガル及びモーリタニア、ギニアビサウ要人への表敬・会談などを行った。 また、日本は、5月のG7広島サミットではアフリカからAU議長国のコモロを招き、首脳共同コミュニケでは、アフリカ諸国とのパートナーシップを強化し、多国間フォーラムにおいてアフリカがより代表されるように支援すること表明した。 8月、日本は、アフリカ開発会議(TICAD)30周年記念行事「TICAD30年の歩みと展望」を東京で開催した。岸田総理大臣がビデオメッセージを発出し、林外務大臣、国会議員、駐日アフリカ大使館、民間企業など約400人が参加し、活発な議論が行われた。 2024年には東京でTICAD閣僚会合を、2025年には横浜でTICAD9を開催する予定である。日本はTICADプロセスを通じ、TICADが、30年にわたって積み上げた成果を踏まえ、アフリカが直面する様々な課題について、解決策の共創に向けたパートナーシップの精神で、共に取り組んでいく。また、「人への投資」などの日本らしい取組を通じて、アフリカ諸国との一層の関係強化に努めていく。 特集岸田総理大臣のアフリカ訪問 4月29日から5月4日の間、岸田総理大臣はエジプト(北アフリカ)、ガーナ(西アフリカ)、ケニア(東アフリカ)、モザンビーク(南部アフリカ)を訪問しました。岸田総理大臣は、このアフリカ諸国歴訪に際し、三つのテーマを持って臨みました。一つ目は、「グローバル・サウス」と呼ばれる途上国・新興国の国々とG7との間の橋渡しを行うこと、二つ目は、2022年8月に開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD18)で示した、アフリカと「共に成長するパートナー」である日本としてのコミットメントを推進すること、そして三つ目は、スーダンの安定化に向けた連携を確認することです。 エジプトでは、エルシーシ大統領との間で会談を実施し、両首脳は、日・エジプト関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げし、二国間関係を深化させていくことで一致しました。また、岸田総理大臣は、「日・エジプト・ビジネスフォーラム」に出席し、日本企業のエジプト進出を後押ししたほか、日本の総理大臣として初めてアラブ連盟事務局を訪問し、法の支配に基づく国際秩序の維持・強化に向け、日・アラブ間の連携を深めていくことを確認しました。 大エジプト博物館を視察する岸田総理大臣 (4月30日、エジプト・カイロ 写真提供:内閣広報室) ガーナでは、アクフォ=アド大統領との間で会談を実施しました。岸田総理大臣は、力による一方的な現状変更は世界のどこであれ認められないことを訴え、両首脳は、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性で一致しました。そのほか、保健分野での取組や国際場裡(り)での連携を通じた二国間関係の発展で一致したほか、岸田総理大臣は、サヘル地域とギニア湾沿岸諸国の平和と安定に寄与し、持続可能な成長を促進するため、今後3年間で約5億ドルの支援を行うことを表明しました。 また、日本が長年にわたり支援してきた野口記念医学研究所を視察しました。 岸田総理大臣による野口記念医学研究所視察 (5月1日、ガーナ・アクラ 写真提供:内閣広報室) ケニアでは、地域の平和と安定の面でも、国際場裡でも、積極的にリーダーシップを発揮するルト大統領と会談を行い、スーダン情勢の安定化に向けた協力を確認したほか、ロシアのウクライナ侵略を念頭に、法の支配の推進のために連携していくことで一致しました。また、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のための新たなプランの下、東アフリカの物流拠点であるモンバサにおける各種インフラ事業計画での協力を確認しました。 日・ケニア首脳会談 (5月3日、ケニア・ナイロビ 写真提供:内閣広報室) モザンビークでは、ニュシ大統領と会談を実施し、アフリカ最大規模の液化天然ガス(LNG)開発事業の早期再開に向けて後押しすることで一致しました。また、両首脳は、同訪問に合わせて派遣されたアフリカ貿易・投資促進官民合同ミッションを契機として、具体的なビジネスの芽が開花するよう協力していくことを確認しました。ニュシ大統領からは、G7議長国である日本が、G7とアフリカ連合(AU)の連携などを通じて、アフリカの様々な課題に取り組むことへの期待が表明されました。 日・モザンビーク首脳会談 (5月4日、モザンビーク・マプト 写真提供:内閣広報室) 今回、アフリカの主要な経済拠点であるこれら4か国を訪問し、三つのテーマに基づく協議をしっかりと重ねつつ、各国との二国間関係の一層の強化を図ることができました。 日本政府が主導するTICADが設立されてから、2023年で30年となります。これまで積み上げてきた成果を踏まえ、2024年には東京でTICAD閣僚会合を、また、2025年には横浜でTICAD9を開催予定です。これらの機会を活用しながら、日本は引き続き、アフリカの様々な課題について、アフリカと同じ目線に立って、共に取り組んでいくことを目指しています。 1 TICAD:Tokyo International Conference on African Development 1 RSF:Rapid Support Forces 2 「アフリカの角(Horn of Africa)」とは、アフリカ大陸の北東部のインド洋と紅海に向かって「角」のように突き出た地域の呼称で、エチオピア、エリトリア、ジブチ、ソマリア、ケニアの各国が含まれる地域のこと 3 コンゴ(民)東部で活動を活発化させている、ツチ族系住民からなる反コンゴ(民)政府武装勢力