第2章 しなやかで、揺るぎない地域外交 2 欧州地域情勢 (1)欧州連合(EU) EUは、総人口約4億4,800万人を擁し、27加盟国から成る政治・経済統合体であり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化し、国際社会の共通の課題に共に取り組む、日本の戦略的パートナーである。 〈EUの動き〉 ロシアのウクライナ侵略を受け、EUは2022年2月以降、12回にわたり対露制裁パッケージを採択し、1,900以上の個人・団体に対する資産凍結・渡航制限のほか、金融、運輸、エネルギー、防衛、原材料など、サービス分野での経済制裁、メディアへの制限などを実施した。このうち12月の欧州理事会で発表された第12次制裁パッケージでは、制裁対象者の追加指定に加え、ロシア産ダイヤモンドの輸入禁止など輸出入禁止項目の追加、ロシア産石油製品に係るプライスキャップ制度(上限価格措置)の履行強化などの措置を決定した。また、ウクライナ支援として、EUは、EU加盟国分と合わせて総額約405億ユーロ(うちEUによる支援は約310億ユーロ)の支援をマクロ財政支援、予算支援、緊急支援、危機対応・人道支援などの形式で実施している(2023年11月時点)。2024年2月、欧州理事会は、2024年から2027年までに最大500億ユーロの財政支援を決定した。さらに、軍事支援として、EU加盟国分と合わせて総額270億ユーロ超を拠出しており、うちEUとしては欧州平和ファシリティを通じ、ウクライナ軍に対し防衛目的の殺傷力を有する軍事装備支援を行っているほか、2022年11月に立ち上げたウクライナ軍事支援ミッション(EUMAM Ukraine)を通じて4万人のウクライナ兵の訓練を行っている。ミシェル欧州理事会議長及びフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は2月にキーウを訪問し、第24回EU・ウクライナ首脳会合を開催し、ウクライナに対する支援を必要な限り継続すると表明した。ウクライナのEU加盟に関し、12月、欧州理事会はウクライナの加盟交渉開始を決定した。 また、10月7日以降のイスラエルとハマスなどパレスチナ武装勢力の武力衝突を受け、11月、欧州委員会はパレスチナに対する人道支援を1億ユーロ超まで増額することを決定した。 〈EU・中国関係〉 ミシェル欧州理事会議長及びフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は12月に訪中し、北京で第24回EU・中国首脳協議に出席した。 〈日・EU関係〉 日本とEUは、2019年に発効した日・EU経済連携協定(日EU・EPA)7及び暫定的に適用が開始された日・EU戦略的パートナーシップ協定(日EU・SPA)8の下、協力を強化している。7月、岸田総理大臣はベルギー・ブリュッセルを訪問し、ミシェル欧州理事会議長及びフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長と第29回日・EU定期首脳協議を行った。同首脳協議では、ロシアによるウクライナ侵略、東アジア情勢及び北朝鮮情勢を中心とした国際・地域情勢、安全保障、経済安全保障、デジタル・パートナーシップ、グリーン・エネルギーなどについて意見交換を行い、幅広い分野での日本とEUの連携・協力で一致した。また、EUが日本産食品輸入規制撤廃を決定したことを歓迎し、安全保障分野における協力を新たな段階に引き上げるため、外相級戦略対話の立ち上げを発表した。 岸田総理大臣は、3月、6月及び10月にフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長と電話会談を行った。また、10月に欧州委員会が開催したグローバル・ゲートウェイ・フォーラム9にビデオメッセージを送る形で参加した。 林外務大臣は、5月、2023年前半のEU議長国であるスウェーデンとEUが共催する「インド太平洋閣僚会合」に出席し、欧州とインド太平洋の安全保障を分けて論じることはできず、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するため、同志国が地域の枠を超えた結束を維持していくことが重要であると述べた。また、林外務大臣は、4月のベルギー・ブリュッセルにおけるNATO外相会合の機会に、また、上川外務大臣は11月の東京におけるG7外相会合の機会に、ボレルEU外務・安全保障政策上級代表と日・EU外相会談を行った。 EUは、米国・中国に次ぐ経済規模を有し、日本の輸入相手の第4位、輸出相手の第3位、対日直接投資残高の第2位の位置を占めるなど、経済面でも日本にとって重要なパートナーである。2019年に日EU・EPAが発効したことにより誕生した世界のGDPの約2割を占める巨大な経済圏の下、日・EU間のつながりは一層強いものとなっている。これまで日EU・EPAに基づく合同委員会(2023年4月、林外務大臣とドムブロウスキス欧州委員会上級副委員長との間で開催)や専門委員会・作業部会を通じて協定の各分野における着実な実施及び運用を確保してきている。さらに、6月、EUとのより幅広い戦略的連携を推進する枠組みとして、林外務大臣は、西村康稔経済産業大臣、ドムブロウスキス欧州委員会上級副委員長と共に日・EUハイレベル経済対話を開催し、日・EU経済政策協力、経済安全保障、ルールに基づく公正公平な貿易枠組みなどについて、日本とEUがより一層連携していくことを確認した。また、10月にも、G7大阪・堺貿易大臣会合の機会を捉えて、上川外務大臣は、西村経済産業大臣、ドムブロウスキス欧州委員会上級副委員長と共に同年2回目となる日・EUハイレベル経済対話を開催し、日EU・EPAに「データの自由な流通に関する規定」を含めることに関する交渉が大筋合意に至ったことを確認し、早期署名に向けた作業の加速化について一致した。さらに、直近の懸案事項として、経済的威圧への対処や強靱(じん)なサプライチェーンの構築、輸出管理などについても意見交換を行い、G7や同志国間の連携の重要性を確認した。今後も、日・EU経済関係の更なる発展を目指し、日EU・EPAの着実な実施の確保や、日・EUハイレベル経済対話を含むその他の対話枠組みを活用していく。さらに、日・EU間の航空関係の安定的な発展に向けた基盤を整備するための二国間航空協定に関する日・EU協定について、2月に署名が行われ、10月1日に効力が発生した。 日・EUハイレベル経済対話に出席する林外務大臣(オンライン会議形式)(6月27日、東京) (2)英国 1月、スナク首相は、年初の演説において、五つの公約(2023年中のインフレ率の半減、経済成長、政府債務の削減、国民保健サービスの改善、不法移民対策)を掲げ、その実現に向けた取組を推進する方針を表明した。2月、スナク首相とフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、英国のEU離脱協定の一部を成す北アイルランド議定書に関し、英国本土と北アイルランド間の物品輸送の手続の簡素化などについての新たな合意(「ウィンザー枠組み」)を発表し、英国のEU離脱(BREXIT)以降難しい関係にあった英・EU協力関係の転換点となるものと位置付けた。3月、英国政府は「統合的見直しの刷新」を発表し、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のビジョンを支持し、英国のインド太平洋への「傾斜」を達成したとした上で、同地域への関与を英国の国際政策の恒久的な柱と位置付けた。 日英の政府間では、首脳・外相を始め様々なレベルで対話が活発に行われた。岸田総理大臣は、1月に英国を訪問し、スナク首相との間で会談を行い、その際に日英部隊間協力円滑化協定(RAA)に署名した(その後、同協定は、10月に発効した。)。また、5月、G7広島サミットの際、日英首脳会談を実施し、両首脳は「強化された日英のグローバルな戦略的パートナーシップに関する広島アコード」を発出した。 日英首脳会談(5月18日、広島県 写真提供:内閣広報室) 外相間では、林外務大臣とクレバリー外務・英連邦・開発相との間で、3月に電話会談、4月のNATO外相会合の際には懇談を行い、同月のG7長野県軽井沢外相会合及び6月の英国でのウクライナ復興会議の際には会談を行った。上川外務大臣とクレバリー外務・英連邦・開発相との間では、9月の国連総会の際に会談を行い、10月にも電話会談を行った。11月のG7外相会合の際、上川外務大臣は、木原稔防衛大臣と共に、クレバリー外務・英連邦・開発相とシャップス国防相の間で、約2年9か月ぶりとなる第5回日英外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を実施した。加えて、上川外務大臣とクレバリー外務・英連邦・開発相との間で、日英人的交流に関する協力覚書が署名され、若者交流を含む様々な分野において両国間の人的交流を促進していくことが確認された。上川外務大臣とキャメロン外務・英連邦・開発相との間では11月に電話会談を行った。 (3)フランス 2月、フランス政府が提出した年金改革法案に反対するデモがフランス全土で行われ、多くの逮捕者を出す事態となった。支持率が伸び悩むマクロン大統領は、7月に内閣改造を行ったものの、小規模なものにとどまった。9月には上院議員選挙が実施され、右派が微減、左派が微増したものの、大勢は変わらない結果となった。 外政面では、フランスは、マクロン大統領のイニシアティブとして、6月に「新たな国際的開発資金取決めのための首脳会合」をパリで開催し、日本から林外務大臣が出席したほか、11月にはパリ平和フォーラム及び各種関連会合を開催し、地球規模課題に関する国際社会の議論を喚起する役割を果たした。また、フランスは、ウクライナ情勢について、対露制裁とウクライナ支援を継続したほか、中東情勢に関し、事態の沈静化などに向けて積極的な外交活動を実施し、マクロン大統領及びコロンナ欧州・外務相は中東諸国を訪問し、11月には「ガザ市民のための国際人道会合」を主催し、日本から深澤陽一外務大臣政務官が出席した。アフリカとは、マクロン大統領は、駐留仏軍を縮小して経済関係を強化するなど、同地域との新しいパートナーシップの構築を目指しているが、旧植民地における反仏感情の高まりや、ロシアの進出に直面している。 日仏関係については、日本政府は、1月1日、インド太平洋地域における地政学上の要衝であるフランス領ニューカレドニアに在ヌメア領事事務所を開設した。 2023年は、首脳・外相を始め様々なレベルで対話が行われた。1月の岸田総理大臣のフランス訪問に始まり、4月、林外務大臣は、G7長野県軽井沢外相会合への出席のため訪日したコロンナ欧州・外務相との間で外相会談を行い、インド太平洋での日仏協力を一層進めていくことで一致した。5月には、林外務大臣は、浜田靖一防衛大臣と共に、コロンナ欧州・外務相及びルコルニュ軍事相との間で第7回日仏外務・防衛閣僚会合(「2+2」)をテレビ会議形式で開催した。同月、岸田総理大臣は、G7サミットのため訪日したマクロン大統領と広島で会談し、安全保障・経済分野を含め、幅広い分野で両国の連携を一層深化させることで一致した。また、5年間で100人の日本の起業家をフランスに派遣することを含むスタートアップ分野での協力や、民生原子力に関する協力を進展させることで一致した。6月、林外務大臣は、「新たな国際的開発資金取決めのための首脳会合」に出席するためパリを訪問した際、コロンナ欧州・外務相と会談し、外交分野における経済安全保障に関する作業部会を立ち上げることで一致した。9月、国連総会の際、上川外務大臣は、コロンナ欧州・外務相と両外相間では初めてとなる外相会談を行った。10月、岸田総理大臣及び上川外務大臣は、それぞれマクロン大統領、コロンナ欧州・外務相と電話会談を実施し、中東情勢に関して意見交換を行った。11月、上川外務大臣は、G7外相会合に出席するため訪日したコロンナ欧州・外務相との間で会談を実施した。12月、岸田総理大臣は、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)に出席するためアラブ首長国連邦・ドバイを訪問中、マクロン大統領と電話会談を行い、「特別なパートナーシップ」の下での日仏協力のロードマップを発出した。 日仏首脳会談(5月19日、広島県 写真提供:内閣広報室) (4)ドイツ 社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)による三党連立(いわゆる「信号連立」)政権は、外交面では、ウクライナ情勢に関して、1月に「レオパルド2」戦車の供与を決定するなど、引き続きその対応に集中的に取り組んだ。また、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐっては、ショルツ首相やベアボック外相がイスラエルを訪問して同国への連帯を示しつつ、ガザ地区の人道状況の改善に向けて働きかけるなど、情勢の緩和に向けて対応した。ドイツ国内では、エネルギー価格・物価高騰、移民問題などを背景に与党三党の合計支持率が5割を切る状況が常態化する中、政権批判を強める野党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)に加え、極右「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が大きく上昇した。4州(ベルリン州、バイエルン州、ヘッセン州、ブレーメン州)において州議会選挙が実施され、SPD、FDP、緑の党は多くの州で苦戦を強いられた一方で、AfDが多くの州で伸張した。11月、連邦政府が新型コロナ緊急事態対応のため計上した600億ユーロを2023年以降に国内の気候変動対策に使用することを内容とする2021年第二次補正予算に対し、ドイツ憲法裁判所が違憲とする判決を下したことで、政府が予算の成立に向けた対応に窮する状況が発生した。内政における不確実性が高まっており、今後の動向が注目される。 日本との関係では、3月に経済安全保障を中心テーマとして、初となる日独政府間協議が実施され、ショルツ首相、ハーベック副首相兼経済・気候保護相、リントナー財務相、ベアボック外相、フェーザー内務・故郷相、ピストリウス国防相、ヴィッシング交通・デジタル相が一挙に訪日し、日独首脳会談を始めとする各閣僚間での二国間会談や、両国の関係閣僚が一堂に会する全体会合などが行われた。また、日本が議長国を務めたG7プロセスの中でもドイツ要人の訪日が相次ぎ、例えば、5月の広島サミットの機会にはショルツ首相が、4月及び11月に開催されたG7外相会合の機会にはベアボック外相が訪日し、二国間会談において、FOIPの実現やウクライナ情勢への対応などにおいて引き続き緊密に連携することを確認するなど、基本的価値を共有する重要なパートナーとしての日独関係が一段と強化された。また、9月には、自衛隊とドイツ軍隊との間の共同活動を促進するための法的枠組みとして、日独物品役務相互提供協定(日独ACSA)の締結に向けた日独政府間の正式交渉を開始し、11月に実質合意に至った。 第1回日独政府間協議(3月18日、東京 写真提供:内閣広報室) (5)イタリア メローニ政権は、発足直後から、ロシアによるウクライナ侵略に関し、ウクライナに対する支持及び支援継続を明言し、EUと建設的な関係を維持して復興・強靱化国家計画の追加資金の獲得につなげるなど、外交・経済面では欧米協調路線を打ち出した。内政面では、国民生活を直撃する物価の高騰や、非正規移民の急増もあり、発足当初50%台であった政権支持率は徐々に低下しているものの、40%台を維持している。近年左派が州政を担っていたラツィオ州(州都:ローマ)においても、連立与党である中道右派の統一候補が勝利するなど、中道右派が地方レベルでも議席を増やしている。 日本との関係では、1月の岸田総理大臣のイタリア訪問において、日伊関係が戦略的パートナーシップに格上げされたことを踏まえ、首相・外相を始め様々なレベルで対話が行われた。林外務大臣は、2月、ウクライナに関する国連総会緊急特別会合及び国連安全保障理事会(安保理)閣僚級討論に出席するため訪問したニューヨークで、及び4月のG7長野県軽井沢外相会合の際、タヤーニ外務・国際協力相と会談し、G7議長国を引き継ぐ日本とイタリアが、戦略的パートナーとして連携を一層強化していくことの重要性を確認した。 岸田総理大臣は、5月、G7広島サミットに出席するため訪日したメローニ首相と会談を行い、防衛・安全保障、経済分野を含め、幅広い分野で両国の連携を一層深化させることで一致した。さらに、両首相は、映画共同製作協定の交渉妥結を歓迎し、6月には、林外務大臣が、訪日したサンジュリアーノ文化相との間で同協定に署名した。 日伊首脳会談(5月18日、広島県 写真提供:内閣広報室) 11月、上川外務大臣は、G7外相会合に出席するため訪日したタヤーニ外務・国際協力相と懇談する中で、中東情勢を始めとする喫緊の国際情勢について意見交換を行い、様々なレベルでG7議長国としての引継ぎを行うことを確認した。12月、岸田総理大臣は、COP28に出席するためアラブ首長国連邦・ドバイを訪問中、メローニ首相との間で会談を行い、イタリア議長国下のG7においても、2023年のG7での議論を継続していくため、両国間で緊密に連携していくことで一致した。さらに、2024年2月にはメローニ首相が訪日し、岸田総理大臣と会談を行い、イタリアが議長を務める2024年のG7の成功に向けた連携や、近年飛躍的に進展している日伊関係の更なる推進を念頭に、二国間関係、地域情勢、国際社会の諸課題への対応について議論し、幅広い分野で緊密に協力していくことで一致した。 (6)スペイン 7月23日に上下両院議員選挙が実施され、野党国民党(PP)が第一党になったが、PPのフェイホー党首は、9月の下院での首相信任投票で所定の票数を獲得できなかった。しかし、10月に与党社会労働者党(PSOE)のサンチェス暫定首相が次期首相候補に指名され、11月にカタルーニャ州やバスク州の地域主義政党を含む左派政党の支持を得て、下院で信任され、首相に再任された。 日本との関係では、2018年に両国の首脳間で格上げに一致した戦略的パートナーシップの下、連携を強化している。2月には、ニューヨークでのウクライナに関する国連特別会合に出席した林外務大臣が、アルバレス外相との間で会談を実施し、2023年にG7議長国及び安保理非常任理事国を務める日本と、同年後半にEU議長国を務めるスペインの、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くための連携などについて議論を行った。また、11月にはスペイン・サラマンカで第23回日本・スペイン・シンポジウムが開催されるなど、官民双方における協力が進展した。 日・スペイン外相会談(2月23日、米国・ニューヨーク) (7)ポーランド 10月に総選挙が行われ、与党「法と正義(PiS)」は下院で第一党となったものの過半数には届かず、12月に「市民プラットフォーム(PO)」党首であるトゥスク氏を首班とする新連立政権が成立した。 ロシアによるウクライナ侵略に対しては、ポーランドがウクライナの隣国として積極的に対応し、対ウクライナ支援のハブとして大きな役割を果たしている。この侵略の長期化により、多くのウクライナ避難民を受け入れているポーランドの負担や脆(ぜい)弱性が高まっているため、日本は、これを軽減し、ウクライナへの人道、復旧・復興支援を効果的に行うとの観点から、2月、ポーランドに直接、政府開発援助(ODA)を供与することを決定した。 日本との関係では、ハイレベルでの往来が頻繁に行われた。3月、日本の総理大臣としては10年ぶりにポーランドを訪問した岸田総理大臣は、ドゥダ大統領及びモラヴィエツキ首相とそれぞれ首脳会談を実施し、自身のウクライナ訪問に当たってのポーランドの協力に謝意を表明し、ウクライナ情勢や二国間関係の更なる進展に向けた方途などについて率直な意見交換を行った。4月、NATO外相会合に出席するためベルギーを訪問した林外務大臣は、ラウ外相と会談を実施した。5月にはラウ外相が訪日し(6年ぶりの外相訪日)、林外務大臣との間で会談などを行った。7月にも、岸田総理大臣はポーランドを訪問し、モラヴィエツキ首相と首脳会談を行い、経済関係を更に強化していくことやウクライナやインド太平洋の地域情勢についても両国間で連携を進めることで一致した。さらに、9月、林外務大臣がポーランドを訪問し、ラウ外相との間で2023年3度目となる会談を行った。2024年1月、上川外務大臣は、新政権発足後のポーランドを訪問した。ドゥダ大統領への表敬及びシコルスキ外相との間での初の外相会談を実施し、新政権との間でも引き続き戦略的パートナーシップ関係を強化していくことを確認した。 ドゥダ大統領との日・ポーランド首脳会談 (3月22日、ポーランド・ワルシャワ 写真提供:内閣広報室) (8)ウクライナ 2022年2月に開始されたロシアによるウクライナ侵略が続く中、2023年1月6日に日・ウクライナ首脳電話会談を実施し、岸田総理大臣からゼレンスキー大統領に対して、日本は同年のG7議長国として積極的な役割を果たしていくことを伝達した。さらに、2月18日、ミュンヘン安全保障会議に出席するためドイツを訪問した林外務大臣は、クレーバ外相と外相会談を行った。 侵略開始から1年に当たる2月24日には、岸田総理大臣はG7首脳テレビ会議を主催した。会議の冒頭にはゼレンスキー大統領が発言し、その後、G7首脳間で議論が行われ、会合後にG7首脳声明を発出した。また、林外務大臣は、ニューヨークで開催されたウクライナに関する国連総会緊急特別会合(同月23日)及び安保理閣僚級討論(同月24日)に出席した。 3月21日、岸田総理大臣は、ウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領との首脳会談を行い、両首脳は、連携をこれまで以上に強化することで一致し、「特別なグローバル・パートナーシップに関する共同声明」を発出した。また、同日、岸田総理大臣は、キーウ市郊外のブチャ市を訪問し、戦死者慰霊記念碑への献花を行った。 日・ウクライナ首脳会談 (3月22日、ウクライナ・キーウ 写真提供:内閣広報室) 4月4日、NATO外相会合に出席するためベルギーを訪問した林外務大臣は、クレーバ外相と外相会談を行った。また、5月12日、日本の官民によるウクライナ復興の促進について関係省庁の緊密な連携を図ることを目的としたウクライナ経済復興推進準備会議が設置され、2023年に3回開催された。 5月19日から21日まで開催されたG7広島サミットでは、G7首脳はウクライナ情勢についても議論し、「ウクライナに関するG7首脳声明」を発出した。また、同月20日から21日までゼレンスキー大統領が訪日し、G7首脳とのウクライナに関するセッションに参加したほか、G7首脳及び招待国首脳と共に平和と安定に関するセッションに参加した(2ページ 巻頭特集、及び286ページ 第3章第3節3(1)参照)。また、岸田総理大臣は、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行い、ウクライナとの協力を一層拡大・深化させていきたい、G7広島サミット及び同首脳会談の成果を踏まえ、G7議長国としてリーダーシップを発揮していくと述べた。そのほか、ゼレンスキー大統領は、広島平和記念資料館を訪問し、岸田総理大臣と共に原爆死没者慰霊碑への献花を行った。 6月9日の日・ウクライナ首脳電話会談では、同月発生したウクライナのカホフカ水力発電所ダム決壊の影響などについて意見交換を行った。また、6月15日から20日、クブラコフ復興担当副首相兼地方自治体・国土・インフラ発展相が訪日し、G7三重・伊勢志摩交通大臣会合に出席し、関係者との意見交換を行った。同月21日、林外務大臣は、ウクライナ復興会議(英国・ロンドン)に出席し、シュミハリ首相への表敬を行った。 7月に開催されたNATO首脳会合(リトアニア・ビリニュス)においては、「ウクライナ支援に関する共同宣言」が発表され、岸田総理大臣を含むG7首脳及びゼレンスキー大統領が出席し発出式が開催された(10月7日、同「共同宣言」に基づく日・ウクライナ間の二国間文書の作成に係る初回交渉を実施)。これに続き、8月29日にも日・ウクライナ首脳電話会談を実施した。 9月9日、林外務大臣が日本企業関係者と共にウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領及びシュミハリ首相への表敬、並びに外相会談を行った。ゼレンスキー大統領表敬に際しては、林外務大臣から、今回、企業関係者が同行したことを契機に、2024年初めに予定される日・ウクライナ経済復興推進会議も念頭に、官民を挙げてウクライナの復旧・復興を支援していきたいと述べた。同訪問において、林外務大臣は、キーウ市郊外のブチャ市を訪問するとともに、ウクライナ非常事態庁へのクレーン付トラック供与式に出席した。さらに、9月20日、国連総会出席のためニューヨーク訪問中の岸田総理大臣が、効果的な多国間主義とウクライナ情勢に関する国連安保理首脳級会合に出席(上川外務大臣同席)したほか、上川外務大臣がクレーバ外相と外相会談を行った。10月3日、岸田総理大臣は、バイデン米国大統領の呼びかけを受けて、ほかの同志国と共にウクライナ情勢に関する首脳電話会議に出席した。 ゼレンスキー大統領を表敬する林外務大臣(9月9日、ウクライナ・キーウ) 11月8日の日・ウクライナ首脳電話会談において、両首脳は、日・ウクライナ経済復興推進会議を2024年2月19日東京で開催することで一致した。また、11月20日、辻󠄀清人外務副大臣及び岩田和親経済産業副大臣は、日本企業関係者と共にウクライナを訪問し、シュミハリ首相など政府関係者及び商工会などのウクライナの企業関係者と復旧・復興に関する取組を中心に意見交換を実施した。 12月6日、岸田総理大臣はG7首脳テレビ会議を主催した。会議の冒頭にはゼレンスキー大統領が発言し、その後G7首脳間で議論が行われ、G7のウクライナに対する揺るぎない連帯を改めて確認し、G7首脳は、引き続き結束して対露制裁とウクライナ支援を強力に推進していくことで一致した。 2024年1月7日、上川外務大臣がウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領及びシュミハリ首相への表敬、並びにクレーバ外相との外相会談を行った。上川外務大臣から、ウクライナに寄り添う姿勢は揺るがないとの日本の基本的な立場を直接伝達した。また上川外務大臣は、NATO信託基金に新たに約3,700万ドルを拠出し対無人航空機検知システムなどを供与することを表明したほか、越冬支援として可動式ガスタービン発電機5基の供与及び大型変圧器7基の輸送支援に係る供与式に出席した。同訪問において、上川外務大臣は、ブチャ市訪問及び同市付近にあるイルピニ川に架かる橋の視察を行った。また、キーウ駅構内に国際連合児童基金(UNICEF)10により設置された女性や子どもたちへの支援を行う施設を視察し、ウクライナに常駐する国際機関代表など関係者との間で意見交換を行った。 日・ウクライナ外相共同記者会見。空襲警報発令のため、急遽、地下シェルターで行われた。(2024年1月7日、ウクライナ・キーウ) 2024年2月19日、シュミハリ首相の参加も得て、日・ウクライナ経済復興推進会議を東京で開催した。同会議首脳セッションにおいて、岸田総理大臣は、ウクライナ支援を両国及び世界の未来への投資と位置付けた上で、ウクライナが復興を成し遂げることは、日本、そして国際社会全体の利益であることを強調し、日本として、官民一体となってウクライナの復旧・復興を支えていくことを表明した。同会議では、その成果として、官民合わせて56本の協力文書を成果として打ち出した。また、同会議では、上川外務大臣が女性・平和・安全保障(WPS)11セッションを主催し、復旧・復興に女性・子どもの視点を組み込むため、ウクライナ政府、企業、市民社会の現場で活躍する女性と有機的な議論を実施した。同会議は、国際社会に対して、対ウクライナ支援継続の必要性に関する力強いメッセージを発出する機会となった。同日、シュミハリ首相は、岸田総理大臣との会談、林官房長官との夕食会及び上川外務大臣との懇談を行った。岸田総理大臣から同首相に、同会議は官民合わせて50本を超える協力文書を発表するなど目覚ましい成果を挙げたと述べ、両者は、同首相の訪日及び同会議の成果をしっかりとフォローアップしていくことで一致した。また、上川外務大臣と同首相の間でも、二国間関係及び国際場裡(り)での協力を一層強化するため、政府間で連携していくことで一致した(26ページ 特集参照)。 今後も、日本政府として、一日も早くロシアの侵略を止め、ウクライナに公正かつ永続的な平和を実現するため、厳しい対露制裁及び強力なウクライナ支援を継続するとともに、日・ウクライナ経済復興推進会議の成果を踏まえ、ウクライナの復旧・復興に係る官民一体となった取組を加速化していく。 7 日EU・EPA:Japan-EU Economic Partnership Agreement 8 日EU・SPA:Japan-EU Strategic Partnership Agreement 9 グローバル・ゲートウェイ:2021年12月、EUは世界全体の持続可能な開発に向けた資金不足解消のため、インフラ開発投資のための新たな連結性戦略「グローバル・ゲートウェイ」を発表した。 10 UNICEF:United Nations Children's Fund 11 WPS:Women, Peace and Security