第2章 しなやかで、揺るぎない地域外交 2 中国・モンゴルなど (1)中国 ア 中国情勢 (ア)内政 3月、第14期全国人民代表大会(以下「全人代」という。)第1回会議が開催された。李克強(りこくきょう)国務院総理が政府活動報告を読み上げ、現在の中国経済の抱える問題について列挙しつつ、引き続き「安定を保ちつつ前進を求める」ことを堅持すると示した。また、脱貧困と小康社会(ややゆとりのある社会)を実現して一つ目の100周年(2021年の中国共産党創立100周年)の奮闘目標を達成し、二つ目の100周年の奮闘目標(2049年の建国100周年までの「社会主義現代化強国」の全面的建設)に向かって進み始めたと言及した。今後5年の国家機関指導部人事も行われ、習近平(しゅうきんぺい)総書記が3期目となる国家主席に選出された。 秦剛(しんごう)国務委員兼外交部長は、6月末から動静不明となり、7月下旬、外交部長職を解任された。後任には、党中央外事工作委員会弁公室主任(以下「中央外弁主任」という。)の王毅(おうき)前外交部長が再び就任した。また、李尚福(りしょうふく)国務委員兼国防部長も8月末から動静不明となり、10月下旬、国防部長職を解任された。 10月初旬、全国宣伝思想文化工作会議において初めて「習近平文化思想」が提起された。習近平総書記は、2017年の第19回党大会において、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」を提起し、その後、同思想の重要な構成思想として軍事、経済、エコ文明、外交、法治の思想が提起されている。 10月には6年ぶりに中央金融工作会議が、12月には5年ぶりに中央外事工作委員会が開催された。12月には中央経済工作会議も例年どおり開催されたが、通常秋に開催される中央委員会全体会議は年内に開催されなかった。 新疆(きょう)ウイグル自治区を始めとする中国の人権状況及び香港をめぐる情勢について、国際社会の関心は引き続き高い。日本としては、自由、基本的人権の尊重、法の支配といった国際社会における普遍的価値や原則が中国においても保障されることが重要であると考えており、首脳会談や外相会談の機会も捉え、これらの状況について深刻な懸念を表明するなど、こうした日本の立場については中国政府に対して直接伝達してきている。日本が議長国となった5月のG7広島サミット及び外相会合のコミュニケでは、中国の人権状況に対して懸念を表明し続けることで一致した。また、国連では、中国の人権状況を懸念する有志国による共同ステートメントに、日本はアジアから唯一参加している。10月の国連総会第3委員会では、英国が50か国を代表して、新疆ウイグル自治区における深刻な人権侵害に関する共同ステートメントを読み上げ、日本はこれに参加した。日本政府として、引き続き国際社会と緊密に連携しつつ、中国側に強く働きかけていく。 (イ)経済 3月に行われた全人代では、2023年の成長率目標を前年の2022年より0.5%引き下げ、5.0%前後とするなど、手堅い目標設定となった。また、「積極的な財政政策を一層強化してその効果を高める」とし、財政赤字の対GDP比を3.0%(前年は2.8%)、新規地方専項債の発効上限額を3.80兆元(前年は3.65兆元)に緩和した。結果として、2023年の実質GDP成長率は通年で前年比5.2%増と、目標を達成し、各四半期においては、第1四半期(1月から3月)は前年比4.5%増、第2四半期(4月から6月)に同6.3%増、第3四半期(7月から9月)に同4.9%増、第4四半期(10月から12月)に同5.2%増となった。 中国のGDPの推移 中国経済は、2022年末に「ゼロコロナ」政策による外出制限措置などが解除されたことで、一時的にサービス消費を中心として高い回復をみせた。しかし、低迷する不動産市場と、米国及び欧州の利上げを背景とした外需の低迷といった要因により、回復は次第に緩やかなものとなった。また、「ゼロコロナ」政策による経済活動の抑制により、多くの企業で業績が悪化したことで、雇用が抑制され、16歳から24歳の若年者失業率は20%を超えるまでに高まった。 習近平総書記は、7月に開催された党中央政治局会議において、「中国経済は現在、新たな困難と課題に直面」しているとの認識を示した上で、国内需要の不足、企業の経営難、重点分野におけるリスク、厳しく複雑な外部環境を主たる要因として指摘した。一方、「中国経済は大きな回復力と潜在的な成長力があり、長期的な成長ファンダメンタルズに変化はない」とし、下半期の経済政策について、引き続き積極的な財政政策と穏健な貨幣政策を維持する方針を示した。その上で、需要の拡大に向け、収入増による消費の拡大、自動車、電子製品、家具、スポーツレジャー、旅行などの消費振興、地方専項債の発行及び使用の加速といった方針を示した。また、不動産市場について、「不動産市場の需要と供給に重大な変化が生じたという新たな情勢に対応し、不動産政策を適時調整・最適化する」との方針を示し、住宅の買い換え促進に向け、頭金及び住宅ローン金利の引下げなどの政策が実施された。また、10月に開催された全国人民代表大会常務委員会において、災害復旧や水害防止を目的とした1兆元の特別国債の発行が承認され、財政赤字の対GDP比は、3%から3.8%まで高められる見込みとなった。 12月に開催された中央経済工作会議では、2023年を、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)への対策後の「経済回復と発展の年」と位置付けた。また、経済回復に向けた課題について指摘しつつも、「全体として見ると、中国の発展が直面している有利な条件は不利な要素よりも強く、経済回復や長期的改善の基本的趨(すう)勢は変わらない」と評価した。 (ウ)新型コロナへの対応 従来の「ゼロコロナ」政策の完全な撤廃による2022年末の全国的な感染者及び重症患者の急増は、2023年1月の時点で既に全国的に落ち着きを見せ、同月、中国衛生当局は「我が国の今回の感染は既に収束に向かっている」と発表した。 5月、「第2波」と見られる感染者数の一時的な急増が見られたが、2022年末と比較して全体的に医療体制のひっ迫や企業活動への影響などの大きな混乱は見られなかった。 中国衛生当局による陽性者数などのデータの公表は、5月の連休以降一時的に止まり、その後6月以降は月1回の頻度でデータが公表されている。 (エ)外交 2023年は習近平国家主席を始めとするハイレベルを含めた各レベルによる対面形式での外交活動が活発に行われた。 3月の全人代での外交部長記者会見において、秦剛国務委員兼外交部長は、「元首外交をリードとして、第1回『中国+中央アジア5か国』サミットと第3回『一帯一路』国際協力ハイレベルフォーラムという二つの『ホームグラウンド外交』の開催を全力を挙げて成功させ、中国外交が持つ風格を示し続けていく」と述べた。 元首外交として3月、習近平国家主席は、国家主席に就任以降9回目となるロシア訪問を行い、中露首脳会談を実施したほか、8月には南アフリカを訪問しBRICS首脳会議に出席した。同会議ではBRICSにアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の新たな加盟招待が発表された。9月、李強国務院総理がASEAN関連首脳会合(インドネシア・ジャカルタ)、G20サミット(インド・ニューデリー)に出席し、李希(りき)中央紀律検査委員会書記はハバナで開催されたG77+中国サミットに出席し、「中国は終始グローバルサウスの固有の一員である」と発言した。 「ホームグラウンド外交」としては、5月に陝西(せんせい)省西安市で第1回「中国+中央アジア5か国」サミットを開催した。習近平国家主席及び中央アジア5か国の首脳が出席し、西安宣言が採択された。10月には第3回「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムが北京市で4年ぶりに対面で行われた。 米中間では、2月に中国の高高度監視気球が米国領空を侵犯したことを受けて、米中間の相互往来が一時途絶えたものの、6月のブリンケン国務長官の訪中以降、7月のイエレン財務長官及びケリー気候問題担当米国大統領特使の訪中、さらにサリバン大統領補佐官と王毅中央外弁主任との複数回の会談などを通じて、ハイレベルの交流は徐々に再開した。 一方、経済分野では、前年に引き続き経済安全保障分野における対立が拡大した。中国は7月に、中国が主要な供給国となっている重要鉱物であるガリウム及びゲルマニウムの関連品目について、最終用途の証明などの提出を義務付ける輸出管理を発表した。また、米国のバイデン政権は中国に対し、サプライチェーンにおける過度の依存を低減するデリスキング政策を掲げ、限定された先端技術を厳重に管理する取組を進め、8月に、半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、人工知能の分野における対中投資について、国家安全保障上の懸念がある場合に禁止する大統領令を発表し、さらに10月には、2022年10月に実施した先端半導体に関する輸出規制措置の規制対象品目の拡大などを含む改定を実施した。 11月には米国・サンフランシスコでのAPEC首脳会合の際に米中首脳会談が実施され、ハイレベルの国防当局間の対話の再開やフェンタニルなどの違法薬物の製造・取引への対応に向けた協力などについて合意した。米中両国間で安定的な関係が構築されることは、日本のみならず、国際社会全体にとって重要であり、引き続き今後の動向が注目される。 中東情勢をめぐっては、3月に北京で中国、イラン、サウジアラビアの3か国による政治対話が行われ、イラン及びサウジアラビアの国交正常化が発表された。 10月以降のイスラエル・パレスチナ情勢をめぐっては、王毅中央外弁主任・外交部長や翟隽(てきしゅん)中国政府中東問題特使がイスラエル・パレスチナ双方及び周辺関係諸国と頻繁に意思疎通を行う動きが見られた。 中国は引き続きBRICSや上海協力機構(SCO)などの協力枠組みや、G77に代表される新興市場国や開発途上国との連携を強化する動きを示しており、今後の中国外交への影響が注目される。 (オ)軍事・安保 習近平国家主席は、第19回党大会(2017年)で、今世紀半ばまでに中国軍を世界一流の軍隊にすると述べた。また、2020年10月に発表された第19期党中央委員会第5回全体会議(「五中全会」)コミュニケでは、「2027年の建軍100周年の奮闘目標の実現を確保する」との新たな目標が示された。さらに、第20回党大会(2022年)では、「建軍100周年の奮闘目標を期限までに達成し、人民軍隊を早期に世界一流の軍隊に築き上げることは社会主義現代化国家の全面的建設の戦略的要請である」と改めて述べた。中国が公表している国防費は過去30年間で約37倍に増加しているが、予算の内訳、増額の意図については十分明らかにされておらず、実際に軍事目的に支出している額の一部に過ぎないとみられる。こうした中、中国は「軍民融合発展戦略」の下、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心として、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化し、宇宙・サイバー・電磁波やAI、無人機といった新たな領域における優勢の確保も重視しており、「機械化・情報化・智能化の融合発展」による軍の近代化を推進している。 2023年は、屋久島周辺での中国海軍測量艦による日本の領海内航行、日本周辺における中露艦艇による共同航行及び中露戦略爆撃機による共同飛行が前年に引き続き確認された。また、中国は4月、台湾周辺の海空域において、空母を含む多数の艦艇や航空機を参加させ、2022年8月に引き続き大規模な軍事演習を実施した。南シナ海では、中国は、係争地形の一層の軍事化や沿岸国などに対する威圧的な活動など、法の支配や開放性に逆行する力による一方的な現状変更やその既成事実化の試み、地域の緊張を高める行動を継続・強化している。 近年、中国は、政治面、経済面に加え、軍事面でも国際社会で大きな影響力を有するに至っており、現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向などは、日本と国際社会の深刻な懸念事項であり、日本の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、日本の総合的な国力と同盟国・同志国などとの連携により対応すべきものである。中国の急速な軍事力の強化及び軍事活動の拡大に関しては、透明性などを向上させるとともに、国際的な軍備管理・軍縮などの努力に建設的な協力を行うよう同盟国・同志国などと連携し、強く働きかけを行う。また、日中間の信頼の醸成のため、日中安保対話などの対話や交流を始め、中国との安全保障面における意思疎通を強化する。加えて、日中防衛当局間の海空連絡メカニズムなど、中国との間における不測の事態の発生を回避・防止するための枠組みの構築を含む日中間の取組を進め、日中間の相互信頼関係を増進させながら、関係国と連携しつつ、透明性の向上について働きかけ、日本を含む国際社会の懸念を払拭していくよう、強く促していく。 イ 日中関係 (ア)二国間関係一般 隣国である中国との関係は、日本にとって最も重要な二国間関係の一つであり、両国は緊密な経済関係や人的・文化的交流を有している。日中両国間には、様々な可能性とともに、尖閣諸島情勢を含む東シナ海、南シナ海における力による一方的な現状変更の試みや、ロシアとの連携を含む中国による日本周辺での軍事的活動の活発化など、数多くの課題や懸案が存在している。また、台湾海峡の平和と安定も重要である。さらに、日本は、香港情勢や新疆ウイグル自治区の人権状況についても深刻に懸念している。同時に日中両国は、地域と世界の平和と繁栄に対して大きな責任を有している。「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、日本として、主張すべきは主張し、中国に対し責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案も含め、対話をしっかりと重ね、共通の諸課題については協力する、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築を双方の努力で進めていくことが重要である。 2023年は、前年に引き続き、首脳間を含むハイレベルでの意思疎通が継続的に行われ、両国間の様々な懸案を含め、二国間関係から地域・国際情勢に至る幅広い議題について意見交換を積み重ねた。 2月2日、林外務大臣は、秦剛外交部長と電話会談を行い、林外務大臣から、両首脳間の重要な共通認識である「建設的かつ安定的な関係」の構築という大きな方向性の実現のため、秦剛部長と連携していきたいと述べ、同部長から同様の考えが示された。また、同月18日、林外務大臣は、ミュンヘン安全保障会議の際に、王毅中央外弁主任と会談を行った。 4月1日から2日、林外務大臣は、日本の外務大臣として約3年3か月ぶりに中国を訪問し、秦剛外交部長、王毅中央外弁主任との会談のほか、李強国務院総理への表敬を行った。秦剛部長との会談では、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築という首脳間の共通認識を実施に移していくため、双方が努力を続けていきたいと述べ、秦剛部長から同様の考えが示された。また林外務大臣から、邦人拘束事案への抗議、東シナ海・南シナ海情勢や中国の軍事活動の活発化、中国の人権状況などに対する深刻な懸念を表明し、東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水6の海洋放出について日本の立場を明確に伝達した。 7月14日、林外務大臣は、ASEAN関連外相会議(インドネシア)の際に、王毅中央外弁主任と会談を行い、ALPS処理水の海洋放出について日本の立場を改めて明確に述べ、科学的観点からの対応を改めて強く求め、また、邦人拘束事案への日本の厳正な立場や東シナ海情勢、軍事活動の活発化についての重大な懸念を改めて表明した。 9月6日、インドネシアのジャカルタ訪問中の岸田総理大臣は、ASEAN+3首脳会議開始前に、李強国務院総理と短時間立ち話を行った。岸田総理大臣から、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築の重要性につき述べ、また、ALPS処理水についての日本の立場を改めて明確に述べた。 11月16日、APEC首脳会議に出席するためサンフランシスコ(米国)を訪問中の岸田総理大臣は、習近平国家主席と首脳会談を行った。岸田総理大臣から、2023年は日中平和友好条約締結45周年の節目に当たり、両国の多くの先人達が幅広い分野において友好関係の発展に尽力してきたことに両国国民が思いを馳(は)せ、今後の日中関係を展望する良い機会となった、日中両国が地域と国際社会をリードする大国として、世界の平和と安定に貢献するため責任を果たしていくことが重要であると述べた。両首脳は、日中間の四つの基本文書の諸原則と共通認識を堅持し、「戦略的互恵関係」を包括的に推進することを再確認し、日中関係の新たな時代を切り開くため、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築という大きな方向性を確認した。その観点からも、両首脳は、2023年に入り、外務、経済産業、防衛、環境分野の閣僚間の対話が成功裡(り)に開催されたことを歓迎した上で、引き続き首脳レベルを含むあらゆるレベルで緊密に意思疎通を重ねていくことで一致した。また、岸田総理大臣から、経済や国民交流の具体的分野で互恵的協力を進めていきたいと述べ、正当なビジネス活動が保障されるビジネス環境を確保した上で、日中経済交流の活性化を後押ししていきたいと述べた。両首脳は、環境・省エネを含むグリーン経済や医療・介護・ヘルスケアを始めとする協力分野において具体的な成果を出せるよう、日中ハイレベル経済対話を適切な時期に開催することで一致し、日中輸出管理対話の立ち上げを歓迎したほか、マクロ経済についての対話を強化することで一致し、日中協力の地理的裾野が世界に広がっていることを確認した。また、両首脳は、共に責任ある大国として、気候変動などのグローバル課題についても協働していくこと、様々な分野において、国民交流を一層拡大していくこと、日中ハイレベル人的・文化交流対話を適切な時期に開催することで一致した。加えて、岸田総理大臣から、5月の日中防衛当局間の海空連絡メカニズムの下でのホットラインの運用開始を歓迎し、安全保障分野における意思疎通の重要性を述べた。また、尖閣諸島をめぐる情勢を含む東シナ海情勢について深刻な懸念を改めて表明し、日本の排他的経済水域(EEZ)に設置されたブイの即時撤去を求めたほか、ロシアとの連携を含む中国による日本周辺での軍事活動の活発化などについても深刻な懸念を改めて表明した。岸田総理大臣は、台湾海峡の平和と安定が日本を含む国際社会にとっても極めて重要であると改めて強調し、中国側からの台湾に関する立場の主張に対して、日本の台湾に関する立場は、1972年の日中共同声明にあるとおりであり、この立場に一切の変更はないと述べた。さらに、岸田総理大臣から、中国における邦人拘束事案について、邦人の早期解放を改めて求めた。ALPS処理水の海洋放出については、科学的根拠に基づく冷静な対応を改めて強く求め、日本産食品輸入規制の即時撤廃を改めて求めた。双方は、お互いの立場に隔たりがあると認識しながら、建設的な態度をもって協議と対話を通じて問題を解決する方法を見いだしていくこととした。両首脳は、拉致問題を含む北朝鮮、中東、ウクライナなどの国際情勢についても議論を行い、国際情勢について緊密に意思疎通していくことを確認した。 11月25日、上川外務大臣は、日中韓外相会議(韓国・釜山(プサン))の際に王毅外交部長と会談を行い、11月16日の日中首脳会談で確認された大きな方向性に沿った日中関係の発展に向け、外相間で緊密に連携していくことで一致し、双方は、あらゆるレベルで緊密に意思疎通を行っていくことを確認した。また、上川外務大臣から、日本産食品輸入規制の即時撤廃を強く求め、東シナ海情勢などの諸懸案についての深刻な懸念を表明し、日本のEEZに設置されたブイについて即時撤去を求めた。また双方は、グローバルな課題や北朝鮮情勢などについても意見交換を行った。 このほか、2月には日中安保対話及び日中外交当局間協議が、4月と10月には、日中高級事務レベル海洋協議などの事務レベルの各種協議がそれぞれ対面で開催され、東シナ海情勢や中国による軍事活動の活発化などの諸懸案について率直な意見交換を行うなど、事務レベルでも日中間で緊密に意思疎通が継続された。 また、6月3日にはシンガポールで開催されたシャングリラ・ダイアローグに際し、浜田靖一防衛大臣と李尚福国務委員兼国防部長との日中防衛相会談も行われた。 (イ)日中経済関係 日中間の貿易・投資などの経済関係は、非常に緊密である。2023年の日中間の貿易総額(香港を除く。)は、約3,007億ドル(前年比10.4%減)となり、中国は、日本にとって17年連続で最大の貿易相手国となった。 日中貿易額の推移 また、日本の対中直接投資は、中国側統計によると、2022年は約46.1億ドル(前年比17.7%増(投資額公表値を基に推計))と、中国にとって国として第3位(第1位はシンガポール、第2位は韓国)の規模となっている。また、国際収支統計によると、日本にとっても中国は米国、オーストラリアに次ぐ第3位の投資先国であり、約3.2兆円に上る直接投資収益の収益源となっている。 日本の対中直接投資 新型コロナによる往来の制限が緩和される中、日中間の経済対話は引き続き行われた。4月には日中外相会談、7月には王毅中央外弁主任との会談が行われ、首脳・外相レベルを含めあらゆるレベルで緊密に意思疎通を行っていくことが確認された。11月16日の日中首脳会談では、環境・省エネを含むグリーン経済や医療・介護・ヘルスケアを始めとする協力分野において具体的な成果を出せるよう、日中ハイレベル経済対話を適切な時期に開催することで一致した。また、同月25日の日中外相会談では、16日の日中首脳会談で一致した環境・省エネを含むグリーン経済や医療・介護・ヘルスケアを始めとする二国間協力の推進、さらには様々な分野における国民交流の拡大に向け、適切な時期に開催する日中ハイレベル経済対話と日中ハイレベル人的・文化交流対話を活用していくため調整を進めることで一致した。このほか、2月には日中経済パートナーシップ協議がオンラインで実施された。また、官民の経済交流としては、11月に第9回日中企業家及び元政府高官対話(日中CEO等サミット)が対面形式で開催され、外務省から堀井巌外務副大臣が歓迎レセプションに出席した。 (ウ)両国民間の相互理解の増進 〈日中間の人的交流の現状〉 中国は、2023年1月8日、入国後のPCR検査や隔離措置を撤廃するなど水際措置を緩和したが、前年末に日本が発表した中国本土での感染拡大に係る水際措置に対する措置として、同月10日、日本国民に対する一般査証の発給を一時停止することを発表した。同月29日、中国は一般査証の発給を再開したが、従来から停止していた観光査証などの一部査証及び中国短期滞在(15日以内)の査証免除措置などは再開されなかった。3月15日、中国は、観光査証を含む各種訪中査証の発給を再開したが、日本人に対する中国短期滞在の査証免除措置は引き続き停止している(2023年12月時点)。 中国からの訪日者数は、2023年は約242.5万人(日本政府観光局(JNTO)推定値)と、前年の約18.9万人(JNTO確定値)に比べ大幅に増加したが、2019年の約959.4万人(JNTO確定値)と比較すると、新型コロナ流行以前の水準には至っていない。 日中両国の間では、文化、経済、教育、地方など幅広い分野で交流が積み重ねられている。2023年は日中平和友好条約締結45周年に当たり、これを記念した行事・イベントも数多く実施された。 条約発効日に当たる10月23日には、東京において日中交流促進実行委員会(委員長:十倉雅和経団連会長)が主催する「日中平和友好条約45周年レセプション」が開催され、岸田総理大臣と李強国務院総理、上川外務大臣と王毅外交部長との間でそれぞれ交換した条約締結45周年を記念するメッセージが紹介された。また、同日、北京においても中国人民対外友好協会及び中国日本友好協会主催の記念レセプションが開催された。 次世代を担う青少年交流については、新型コロナが収束に向かう中で約3年ぶりに国境を越える往来が再開され、対面での交流事業が実施された。対日理解促進交流プログラム「JENESYS」などにより、両国の学生や研究者の相互理解及び対日理解が促進されることが期待される。 (エ)個別の懸案事項 〈東シナ海情勢〉 東シナ海では、尖閣諸島周辺海域における中国海警船による領海侵入が継続しており、また、中国軍も当該海空域での活動を質・量とも急速に拡大・活発化させている。 尖閣諸島は、歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、現に日本はこれを有効に支配している。したがって、尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない。日本が1895年に国際法上正当な手段で尖閣諸島を日本の領土に編入してから、東シナ海に石油埋蔵の可能性が指摘され尖閣諸島に対する注目が集まった1970年代に至るまで、中国は、日本による尖閣諸島の領有に対し、何ら異議を唱えてこなかった。中国側は、それまで異議を唱えてこなかったことについて、何ら説明を行っていない。その後、2008年に、中国国家海洋局所属船舶が尖閣諸島周辺の日本の領海内に初めて侵入した。7 2023年の尖閣諸島周辺海域における中国海警船による年間の領海侵入の件数は34件に上り(2022年は28件、2021年は34件)、また、2023年の接続水域内における中国海警船の年間確認日数は過去最多の352日を記録した。さらに、2020年5月以降、中国海警船が尖閣諸島の日本の領海に侵入し、当該海域において日本漁船に近づこうとする動きが頻繁に発生しており、2023年4月にはこれに伴う領海侵入時間が過去最長となる80時間以上となる事案が発生するなど、依然として情勢は厳しい。尖閣諸島周辺の日本の領海で独自の主張をする中国海警船の活動は、国際法違反であり、このような中国の力による一方的な現状変更の試みに対しては、外交ルートを通じ、厳重に抗議し、日本の領海からの速やかな退去及び再発防止を繰り返し求めてきている。引き続き、日本の領土・領海・領空は断固として守り抜くとの決意の下、冷静かつ毅(き)然と対応していく。 中国軍の艦艇・航空機による東シナ海を含む日本周辺海空域での活動も活発化している。2023年は、前年に引き続き、屋久島周辺での中国海軍測量艦による日本の領海内航行が複数回確認された。6月と12月には中露戦略爆撃機による共同飛行、7月から8月にかけては中露艦艇による共同航行が前年に引き続き確認された。また、中国海軍艦艇による尖閣諸島周辺を含む海域での航行も複数回確認された。中国海軍艦艇による日本領海内の航行については、政府として、日本周辺海域における中国海軍艦艇などのこれまでの動向を踏まえ強い懸念を有しており、また、中露両国の軍による日本周辺での共同行動は日本の安全保障上重大な懸念であることから、それぞれの事案について、中国側に対しこうした日本の立場をしかるべく申し入れてきている。 無人機を含む航空機の活動も引き続き活発であり、2012年秋以降、航空自衛隊による中国軍機に対する緊急発進の回数は高い水準で推移している。このような最近の中国軍の活動全般に対して、日本は外交ルートを通じ繰り返し提起してきている。 東シナ海における日中間のEEZ及び大陸棚の境界が未画定である中で、中国側の一方的な資源開発は続いている。政府は、日中の地理的中間線の西側において、中国側が東シナ海の資源開発に関する「2008年合意」8以前に設置した4基に加え、2013年6月から2016年5月にかけて新たな12基の構造物が、さらに2022年5月以降、新たに2基が設置され、これまでに合計18基の構造物が16か所に設置されていることを確認している(16か所のうち2か所では、二つの構造物が一つに統合されている状態)。このような一方的な開発行為は極めて遺憾であり、日本としては、中国側による関連の動向を把握するたびに、中国側に対して、一方的な開発行為を中止し、東シナ海の資源開発に関する「2008年合意」に基づく国際約束締結交渉再開に早期に応じるよう強く求めてきている。なお、2019年6月に行われた安倍総理大臣と習近平国家主席との首脳会談においては、両首脳は資源開発に関する「2008年合意」を推進・実施し、東シナ海を「平和・協力・友好の海」とするとの目標を実現することで一致したほか、2023年4月に行われた日中外相会談においても、東シナ海の資源開発に関する「2008年合意」を推進・実施していくことで一致した。 日中中間線付近において設置が確認された中国の海洋構造物(写真提供:防衛省) 詳細は、https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/higashi_shina/tachiba.html参照 また、東シナ海を始めとする日本周辺のEEZにおいて、中国による日本の同意を得ない海洋調査活動も継続しており、その都度、外交ルートを通じて中国側に申入れを行っている。 加えて、2023年7月、東シナ海の日本のEEZにおいて、中国が設置したと考えられるブイの存在が確認された。政府としては、11月の日中首脳会談や日中外相会談を含め、首脳・外相を含むあらゆるレベルで、様々な機会を捉え、中国側に対して抗議し、ブイの即時撤去を累次にわたって強く求めている。 日中両国は、海洋・安全保障分野の諸懸案を適切に処理するため、関係部局間の対話・交流の取組を進めている。例えば、2018年6月に運用開始した日中防衛当局間の「海空連絡メカニズム」は、両国の相互理解の増進及び不測の衝突を回避・防止する上で大きな意義を有するものであり、同メカニズムの下での「日中防衛当局間のホットライン」の運用が2023年5月に開始された。 日中首脳会談を含む累次の機会に日本側から述べているように、東シナ海の安定なくして日中関係の真の改善はない。日中高級事務レベル海洋協議や他の関係部局間の協議を通じ、両国の関係者が直接、率直に意見交換を行うことは、信頼醸成及び協力強化の観点から極めて有意義である。日本政府としては、引き続き個別の懸案に係る日本の立場をしっかりと主張すると同時に、一つ一つ対話を積み重ね、意思疎通を強化していく。 〈大和堆(やまとたい)〉 日本海の大和堆周辺水域においては、2023年も中国漁船による違法操業が依然として確認されており、中国側に対し、日中高級事務レベル海洋協議などの機会も利用しつつ様々なレベルで日本側の懸念を繰り返し伝達し、漁業者への指導などの対策強化を含む実効的措置をとるよう強く申入れを行った。 〈日本産食品輸入規制問題〉 中国による日本産食品に対する輸入規制については、11月の日中首脳会談を始め、首脳・外相レベルを含む様々なレベルで規制の早期撤廃を繰り返し強く求めている。 8月24日、ALPS処理水の海洋放出を受けて、中国政府は日本産水産物の全面的な一時輸入停止を発表した。中国がこれまでの輸入規制に加えて、新たな措置を導入したことは何ら科学的根拠のない対応であり、首脳・外相を含むあらゆるレベルで様々な機会を捉え、措置の即時撤廃を求める申入れを行っている。また、世界貿易機関(WTO)においては、中国が「衛生植物検疫の適用に関する協定(SPS協定)」に基づく通報を行ったことを受け、日本政府は、WTOに対して、中国の主張に反論する書面を提出したほか、SPS委員会など関連する委員会において日本の立場を説明してきている。さらに、中国政府に対して、SPS協定及び地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の規定に基づく討議の要請を行い、中国が協定の義務に従って討議に応じるよう求めている。 中国に対しては、科学的な根拠に基づいた議論を行うよう強く求め、引き続きあらゆる機会を捉え、日本産食品の輸入規制の即時撤廃に向けて働きかけを行っていく。 〈邦人拘束事案〉 一連の邦人拘束事案については、日本政府として、これまで首脳・外相会談など、日中間の様々な機会に早期解放に向けた働きかけを行ってきており、これまで5人が逮捕前に解放され、6人が刑期を満了し帰国した。3月、北京市において新たに1人の邦人が拘束された。政府としては、11月の日中首脳会談及び日中外相会談を始め、首脳・外相レベルを含むあらゆるレベル・機会を通じて、早期解放、改訂反スパイ法に関するものを含めた法執行及び司法プロセスにおける透明性、邦人の権利の適切な保護、公正公平の確保並びに人道的な取扱いを中国政府に対して強く求めてきており、引き続きそのような働きかけを粘り強く継続していく。また、邦人保護の観点から、領事面会や御家族との連絡など、できる限りの支援を行っている。 一連の邦人拘束事案発生を受け、在留邦人などに対しては、外務省や在中国日本国大使館のホームページなどにおいて、「国家安全に危害を与える」とされる行為は、取調べの対象となり、長期間の拘束を余儀なくされるのみならず、有罪となれば懲役などの刑罰を科されるおそれがあるので注意するよう呼びかけている。また、7月の改訂反スパイ法の施行を受け、外務省海外安全ホームページにおける注意喚起の内容を更新し、より詳細かつ具体的な形で注意喚起を行っている。9 〈遺棄化学兵器問題〉 日本政府は、化学兵器禁止条約に基づき、中国における旧日本軍の遺棄化学兵器の廃棄処理事業に着実に取り組んできている。2023年は、吉林(きつりん)省敦化(とんか)市ハルバ嶺(れい)地区で発掘・回収及び廃棄処理を実施し、また、黒竜江(こくりゅうこう)省ハルビン市での廃棄処理を実施した。加えて、その他中国各地における遺棄化学兵器の現地調査及び発掘・回収事業を実施した(2023年12月時点の遺棄化学兵器廃棄数は累計約8.8万発)。 (2)台湾 ア 内政・経済 2024年1月13日、4年に1度の総統選挙及び立法委員選挙が実施された。2022年11月の統一地方選挙において与党・民進党は大敗していたが、総統選挙では、民進党の公認候補である頼清徳(らいせいとく)副総統が、得票率40.05%で当選した。2位の野党・国民党の候補との差は6.56ポイントであった。同時に行われた立法委員選挙では、民進党は改選前62議席から11減らし51議席となり、議会第2党となった(定数113)。第1党となった国民党は15増やし52議席、2019年に結成された新規政党の民衆党は3増やし8議席を獲得したが、過半数を得た政党はなかった。このため、民衆党が立法院のキャスティング・ボートを握る(2大政党が拮(きっ)抗し、いずれも過半数を制することができない場合、少数政党が事実上の決定権を握ること)形となった。 台湾経済は、2022年下半期以降、米中対立、ロシアによるウクライナ侵略などに起因するインフレ圧力や外需低迷の影響を受け成長率が低下し、2023年の年間実質GDP成長率予測はプラス1.61%にとどまった。 イ 両岸関係・対外関係 2023年3月29日から4月7日、蔡英文(さいえいぶん)総統は、台湾と外交関係を有する中米のグアテマラとベリーズを訪問し、往路に米国・ニューヨーク、復路にロサンゼルスに立ち寄った。ロサンゼルスでは、マッカーシー下院議長が主催する米国超党派議員と、レーガン図書館で会談などを行った。中国はこれを受け、蕭美琴(しょうびきん)駐米代表やレーガン図書館責任者などに対して、訪中禁止などの制裁措置を発表したほか、8日から10日にかけて台湾周辺で軍事演習を実施した。また5日には、空母山東(さんとう)を含む艦隊が南シナ海から西太平洋に進出した。 なお、蔡英文総統の外遊直前の3月26日、中米のホンジュラスが台湾と断交し、中国と国交を樹立した。 8月12日から18日、頼清徳副総統は、台湾と外交関係を有する南米のパラグアイを訪問、ペニャ大統領は「5年間の任期中、必ず台湾と共にある」と述べた。往路のニューヨーク、復路のサンフランシスコへの立寄りに際しては、要人との会見などは行われなかった。中国はこれを受け、19日に台湾周辺で軍事演習を行った。なお、中国は15日に台湾のポリカーボネートに対する反ダンピング関税を、21日に台湾のマンゴーの輸入停止を発表した。 台湾は、9月に初の独自製造となる潜水艦の進水式を実施した。また、2024年度の防衛予算は過去最高の6,068億台湾元となり、同年から兵役期間を4か月から1年間へと戻すなど抑止力強化の取組を進めた。 12月21日、中国は、台湾の対中貿易制限措置が「海峡両岸経済協力枠組協定(ECFA)」に違反するとして、2024年1月1日からパラキシレンなど台湾製品12品目につき、同協定で定めた税率の適用を中止すると公表した。 台湾の総統選挙直前の12月、中国は両岸間の取決めに基づく台湾からの一部化学物質の輸入に対する関税優遇措置を取り消した。 2024年1月の総統選挙で民進党の頼清徳氏が当選したことに対し、中国の王毅外交部長は「『一つの中国』原則という国際社会の普遍的共通認識は変えられない」「中国は最終的に完全な統一を実現する」などとコメントし、台湾を担当する国務院台湾事務弁公室は、「選挙結果は、民進党が島内の主流民意を代表できないことを示す」との談話を発表した。選挙直後の1月15日には、太平洋島嶼(しょ)国のナウルが台湾と断交し、台湾承認国は計12となった。 台湾海峡の平和と安定は、日本の安全保障はもとより、国際社会全体の安定にとっても重要であり、G7広島サミットにおいても、その重要性を再確認し、両岸問題の平和的解決を呼びかけることで一致した。 2023年も各国議会関係者などの活発な訪台は続き、特に欧米からは2023年より31組多い61組が訪台した。 台湾は、2009年から2016年には世界保健機関(WHO)総会にオブザーバー参加していたが、2017年以降は参加できていない。日本は従来、国際保健課題への対応に当たっては、地理的空白を生じさせるべきではないと一貫して主張してきており、こうした観点から台湾のWHO総会へのオブザーバー参加を一貫して支持してきている。 ウ 日台関係 台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である。日本と台湾との関係は、1972年の日中共同声明に従い、非政府間の実務関係として維持されている。日台双方の市民感情は総じて良好であり、10月10日に台北で行われた「雙十(そうじゅう)国慶節」祝賀行事には、日華議員懇談会から42人が出席したほか、2年連続で日本の高校の吹奏楽部が招待され、ゲスト演奏を行った。6月には経済会合のため29年ぶりに行政院副院長が訪日、8月には麻生太郎自民党副総裁が訪台しシンポジウムに出席するなど、要人往来も活発に行われた。2023年の日台間の人的往来は、台湾から日本へは延べ420万人が渡航した。 日本によるALPS処理水放出に対し、台湾は、科学的根拠に基づき対応している。一方、一部の日本産食品に対する輸入停止及び証明書添付などの輸入規制措置は依然残されており、日本側は、これらが科学的根拠に基づいて早期に撤廃されるよう、引き続き台湾側に粘り強く働きかけている。 3月、日本台湾交流協会と台湾日本関係協会は「法務司法分野における交流と協力に関する覚書」に署名するなどし、両協会間の取決めは計64本となった。 (3)モンゴル ア 内政 オヨーンエルデネ内閣は、長期開発計画に係る総合調整機能を強化するため、経済・開発相を副首相級に位置付け、新型コロナ後の経済的自立を目指す政策パッケージである「新再生政策」の柱の一つである「通関所の再生」(輸出入の拠点となるインフラ整備など)の担当大臣ポストを創設するなど、同政策の推進体制の強化を行った。また、2022年に開発銀行の乱脈融資問題やタバン・トルゴイ石炭鉱山の不正輸出疑惑をめぐるデモが頻発したことなどを受けて、2023年を「汚職対策の年」と定めたが、石炭汚職で疑惑を受けた一部の閣僚や複数の現職議員の進退問題に発展したほか、首都ウランバートル市のバス調達をめぐる不正疑惑も持ち上がり、ウランバートル市長や首都問題担当相が辞任する事態が発生した。 5月には、国家大会議の定数と選挙制度を変更する憲法改正案が可決され(2024年1月施行)、2024年の次回総選挙では、選挙区制に加え比例代表制を導入し、また、1992年の創設以来維持されてきた国家大会議の76議席が、選挙区78議席及び比例代表48議席の計126議席に大幅拡大されることとなった。 イ 外交 中国とロシアに挟まれ、経済・エネルギー面で両国への依存を深めているモンゴルは、両国との良好な関係維持を最優先課題としつつも、「第三の隣国」と位置付ける日本や欧米諸国を始めとする諸外国との関係を強化することでバランスを維持する外交政策を従前から推進している。 2023年も、マクロン・フランス大統領(5月)やローマ教皇フランシスコ台下(9月)など多くの要人がモンゴルを訪問したほか、フレルスフ大統領、オヨーンエルデネ首相及びバトツェツェグ外相がそれぞれ諸外国を積極的に訪問し、活発な要人外交を展開した。さらに、6月にはバトツェツェグ外相が首都ウランバートルで女性外務大臣会合を主催し、フランス、ドイツ及びインドネシアなどの外相らが出席した。 また、中国との関係では、バトツェツェグ外相(5月、11月)、オヨーンエルデネ首相(6月)、フレルスフ大統領(10月、「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラム、バトツェツェグ外相同行)がそれぞれ訪中したほか、ロシアとの関係でも、ザンダンシャタル国家大会議議長がロシアを訪問(6月)するとともに、ロシアからゴルデーエフ国家院副議長(1月)、ヴォロージン国家院議長(9月)及びアブラムチェンコ副首相(10月)がモンゴルを訪問した。さらに、国際会議の機会においても中国・ロシア両国との首脳会談が複数回行われるなど、両隣国との関係維持にも引き続き努力が払われた。 ウ 経済 2023年、モンゴル経済は、中国からの外需拡大やそれに伴う内需拡大により、回復基調が継続し、特に石炭を含む鉱物資源の中国需要が輸出を牽(けん)引した。一方で、鉱業以外の産業の回復は遅く、特に畜産物と農作物の生産が冬から春にかけての悪天候によりマイナス成長となった。また、物価上昇率は2022年よりはやや改善されたが10.4%と上昇傾向が継続したことも、経済回復を鈍化させた。2023年7月から9月のモンゴルの経済成長率は、前年同期比で6.9%となった。また、2023年の貿易額は、前年比で輸出12.1%増、輸入6.3%増となった。 エ 日・モンゴル関係 日本との関係では、2023年もハイレベルの往来や対話が続いた。 3月にはザンダンシャタル国家大会議議長が参議院招待で訪日したほか、7月のASEAN関連外相会議で林外務大臣とバトツェツェグ外相との会談、9月の国連総会ハイレベルウィークで岸田総理大臣とフレルスフ大統領との首脳会談をそれぞれ実施し、2022年のフレルスフ大統領訪日時に発出した「平和と繁栄のための特別な戦略的パートナーシップのための日本とモンゴルの行動計画(2022年~2031年)」に基づいて各分野の協力案件が着実に進展していることを確認した。 具体的には、フレルスフ大統領が気候変動及び砂漠化対策の一環として提唱・実施している「『10億本の植樹』国民運動」への協力として、日本が5年間で5万本規模の植林を行う計画の第1号案件をモンゴルで開始したほか、2022年の外交関係樹立50周年を機に立ち上げられた外務省主催行事「日本・モンゴル学生フォーラム」(3日間のオンライン学習会及び2泊3日の合宿)の第2回が7月から10月にかけて行われ、両国関係の次代を担う学生が相互理解と交流を深めた。 6 ALPS処理水とは、ALPS(多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System))などにより、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を確実に下回るまで浄化した水。ALPS処理水は、その後十分に希釈され、トリチウムを含む放射性物質の濃度について安全に関する規制基準値を大幅に下回るレベルにした上で、海洋放出されている。 7 尖閣諸島に関する日本政府の立場については外務省ホームページ参照:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/senkaku/index.html 8 「2008年合意」については外務省ホームページ参照:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/higashi_shina/press.html 9 外務省海外安全ホームページにおける注意喚起の掲載箇所はこちら:https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo_2023T054.html#ad-image-0