第4章 国民と共にある外交 2 外交実施体制の強化 国家間競争の時代に本格的に突入する中、ロシアがウクライナを侵略し、国際秩序の根幹を揺るがした。また、インド太平洋地域においても、力による一方的な現状変更やその試みが生じており、日本は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。普遍的価値に基づいた国際秩序の維持・発展のための外交を強力に推進するためには、外交実施体制の抜本的な強化が不可欠である。そのため外務省は、在外公館の数と質の両面の強化や外務本省の組織・人的体制の整備を進めている。 大使館や総領事館などの在外公館は、海外で国を代表し、外交関係の処理に携わり、外交の最前線での情報収集・戦略的な対外発信などの分野で重要な役割を果たしている。同時に、邦人保護、日本企業支援や投資・観光の促進、資源・エネルギーの確保など、国民の利益増進に直結する活動も行っている。 2023年1月には、新たに在キリバス日本国大使館を開設した。その結果、2022年度の日本の在外公館(実館)数は、231公館(大使館154、総領事館67、政府代表部10)となっている。 キリバスは、太平洋島嶼(しょ)国中最大、世界第12位の面積の排他的経済水域(EEZ)を有する南太平洋の要衝であり、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、協力関係の深化が不可欠である。また、国際場裡(り)において日本の立場を数多く支持するなど、重要なパートナーであり、現地に大使館を設けることで、今後も引き続き良好な関係を維持、強化していくほか、様々な情報収集や緊急事態における各種支援などを一層効果的に行う体制を強化していくことが重要である。 2023年度には、セーシェルに大使館、イタリアに在ローマ国際機関日本政府代表部(兼館)を新設し、北大西洋条約機構(NATO)日本政府代表部(兼館)を実館化する予定である。 セーシェルは、インド洋の安全保障及び経済的に重要なシーレーン上に位置しておりFOIPの実現のためにも重要な国である。また、日本が開発を進める東アフリカ最大の商業港であるケニアのモンバサ港やモザンビークのナカラ回廊、マダガスカルのトアマシナ港をつなぐ海洋ルート上に位置し、豊富な水産資源を有していることから、日本企業も進出に関心を示している。セーシェルは重要な国際選挙などで日本を支持している国でもあり、現地に大使館を設けることで、今後も引き続き良好な関係を維持、強化していくほか、様々な情報収集や緊急事態における各種支援などを一層効果的に行う体制を強化していくことが重要である。 ローマには、国連食糧農業機関(FAO)、国連世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)という食料・農業関連の国際機関があり、これら3国際機関は、相互密接に連携しながらグローバルな食料市場の安定化の取組、特に食料市場の不安定化のあおりを受けやすい脆(ぜい)弱な国への食料支援、農産物の生産及び流通の改善といった取組を通じて、世界の食料安全保障の確保や飢餓人口の減少に取り組んでいる。新型コロナウイルス感染症拡大による食料サプライチェーンの途絶、ロシアのウクライナ侵略による穀物供給の不安定化などの影響を受けて食料価格が高騰している中、日本の食料安全保障を確保し、特に影響を受けやすい脆弱国の食料へのアクセスを始めとするグローバルな食料市場の安定化は、日本の外交を進める上で不可欠である。食料及び農業を扱うローマ3機関との連携はますます重要になっており、日本政府代表部を設置することは、日本のプレゼンス強化及び3機関との密なネットワーク形成・連携に向けた体制作りに寄与するものであり重要である。 NATO日本政府代表部は、これまで在ベルギー日本国大使館が兼館しNATOとの関係を段階的に強化してきたが、NATO側においても、2021年6月のNATO首脳会合において日本を含むアジア太平洋のパートナーとの協力拡大で一致するなど、インド太平洋地域への関心が高まっていた。そうした中、2022年2月に開始されたロシアによるウクライナ侵略は、欧州とインド太平洋地域の安全保障は一体不可分であることを明確化し、日本としても4月のNATO外相会合及び6月のNATO首脳会合への林外務大臣及び岸田総理大臣の出席などを通じてこの点を発信した。法の支配に基づく国際秩序が挑戦を受ける中、基本的価値を共有する同志国の連携強化は極めて重要であり、こうした日・NATO協力を更に強化していく必要性の高まりを受け、多岐にわたる協力分野における具体的な協力の実施など、FOIPの実現にも貢献する日・NATO協力の機会が一層増大することが予想されることから、同代表部の実館化は重要である。 在外公館の増設と併せて、外務本省及び各在外公館で、外交を支える人員を確保・増強することが重要である。政府全体で厳しい財政状況に伴う国家公務員総人件費削減の方針がある中で、二国間関係・地域情勢への対応、平和と安定の確保及び戦略的対外発信、経済外交の推進、地球規模課題への貢献、在外邦人保護・安全対策などに取り組むため、外務省の2022年度の定員数は6,504人となった(2021年度は6,430人)。しかしながら、依然として他の主要国と比較して人員は十分とはいえず、引き続き日本の国力・外交方針に合致した体制の構築を目指すための取組を実施していく。なお、2023年度も、外交実施体制の強化が引き続き不可欠との考えの下、100人の定員増を行う予定である。 国際社会における普遍的価値を守り抜き、対応力の高い、「低重心の姿勢」での日本外交を展開するため、外務省は2022年度予算で7,074億円を計上した(うち170億円はデジタル庁予算に計上)。また、2022年度補正予算に関しては2,673億円を計上した(うち25.7億円はデジタル庁予算に計上)。同予算においては、2023年に日本がG7議長国・国連安保理非常任理事国としてリーダーシップを発揮するため、対ウクライナ支援、FOIP実現を中心に、機動的で力強い外交を実施するための施策を計上した。さらに、厳しい円安・物価高に対応するための施策も計上している。 2023年度当初予算政府案では、(1) 国家間競争時代における、普遍的価値に基づく国際秩序の維持・発展、(2) 情報戦を含む「新しい戦い」への対応の強化、(3) 人間の安全保障の推進、地球規模課題への取組の強化、(4) 外交・領事実施体制の抜本的強化を重点項目とし、7,560億円を計上している(うち125億円はデジタル庁予算に計上)。この中には、G7広島サミットや日・ASEAN友好協力50周年記念行事を開催するための予算、同志国の安全保障能力強化支援を含むFOIPの実現のための予算、ウクライナ及び影響を受ける国への支援強化のための予算、経済安全保障の推進のための予算、AIも活用した国際情勢分析能力強化のための予算、機動的・積極的な外交実施のための予算などが含まれている。 日本の国益増進のため、引き続き、一層の合理化への努力を行いつつ外交実施体制の整備を戦略的に進め、一層拡充していく。 ■ 在外公館数の推移 ■ 主要国(P5+独)との在外公館数の比較 ■ 主要国外務省との職員数比較 ■ 外務省職員数の推移