第4章 国民と共にある外交 2 領事サービスと日本人の生活・活動支援 (1)領事サービスの向上とデジタル化の推進 ア 領事サービスの向上 海外の日本人に良質な領事サービスを提供できるよう、在外公館の領事窓口・電話での職員の対応や業務実施状況などが在留邦人にどのように受け止められているかについてのアンケート調査を毎年実施している。2023年1月の142公館を対象とした調査では、1万6,857人からの有効な回答が得られ、在外公館が提供する領事サービスにおおむね満足しているとの評価が示された。一方、言葉遣いや態度が事務的に感じる、利用者の事情に対し配慮や理解が不足しているなどの意見も寄せられており、このような利用者の声を真摯に受け止め利用者の視点に立ったより良い領事サービスを提供できるよう、サービスの向上・改善に引き続き努めていく考えである。 イ デジタル化の推進 また、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2022年6月閣議決定)に基づき、旅券、査証及び証明申請のオンライン化など領事手続のデジタル化を進め、これらの手数料のキャッシュレス化を図り、利用者の利便性向上に努めていく。具体的には、2022年4月に旅券法を改正し、2023年3月27日から旅券のオンライン申請を開始したほか、同年3月27日から一部の在外公館において証明の電子申請の受付、一部の査証の電子申請及び電子査証の交付、これらの領事手数料のオンライン上のクレジットカード納付を開始した。加えて、同年4月1日には、外務省領事局内に領事デジタル化推進室を設置した。 (2)旅券(パスポート):信頼性の維持と利便性向上・業務効率化 2020年2月以降、新型コロナの感染拡大のため世界的に海外渡航者が減少したことにより、日本の旅券の発行数は低迷していたが、2022年末現在、回復傾向にある。2022年の旅券発行数は約137万冊であり、2021年比で約2.2倍となった。有効な旅券の総数は2022年12月末時点で約2,440万冊であり、2021年比で約11%減少した。 2023年3月27日に開始した旅券の電子申請は、国内においては原則として切替発給申請を対象とし、政府が運営するオンライン行政サービスであるマイナポータル上の旅券のサイトから申請ができるため、申請時に窓口に赴く必要がなくなる。顔写真や署名はスマートフォンなどで撮影して提出することができる。また、2024年度から法務省の戸籍情報連携システムとの連携により戸籍電子証明書の参照が可能になるため、現在は窓口での戸籍謄本の提出が必要な旅券の新規発給の電子申請についても取り組んでいく。 2020年に旅券のICチップ内の個人情報の不正読取防止機能を強化し、査証ページに葛飾北斎の「冨嶽(ふがく)三十六景」のデザインを取り入れたことにより、偽変造など旅券の不正使用は困難になっているが、他人になりすますなどの方法によって旅券を不正取得する事案は引き続き発生している2。今後も国際民間航空機関(ICAO)での検討を踏まえ、熱可塑性プラスチック基材にレーザー印字を行う次世代旅券の導入など、旅券の更なる信頼性の向上に向けて検討を行っていく。 2023年1月に発表された英国民間会社のパスポート指標(査証(ビザ)を必要としない渡航先国数)において日本の旅券は109位中の第1位となった。引き続き、旅券の信頼性を維持しつつ、申請者の利便性向上及び旅券業務の効率化に取り組んでいく。 ■ 領事サービス利用者へのアンケート調査結果(2022年度:142公館) ■ 旅券発行数の推移 (3)在外選挙 在外選挙制度は、海外に在住する有権者が国政選挙で投票するための制度である。在外選挙制度を利用して投票するためには、事前に市区町村選挙管理委員会が管理する在外選挙人名簿への登録を申請の上、在外選挙人証を入手する必要がある。2018年6月から、国外転出後に在外公館を通じて申請する従来の方法に加え、国外転出の届出と同時に市区町村窓口で申請することが可能になった。これにより、国外転出後に在外公館に赴く必要がなくなるなど、手続の簡素化が図られた。投票は「在外公館投票」、「郵便投票」又は「日本国内における投票」のいずれか一つを選択することができる。 在外公館では、管轄地域での在外選挙制度の広報や遠隔地での領事出張サービスなどを通じて、制度の普及と登録者数の増加に努めているほか、選挙が実施される際は、事前の広報を含め、在外公館投票事務も担う。2022年は第26回参議院議員通常選挙の実施に伴い、16回目となる在外公館投票を234公館・事務所で実施した。2023年においても、引き続き登録者数増加や在外公館投票に向けた広報活動などに取り組んでいく。 また、2022年5月の最高裁判所大法廷判決において、在外国民に対して最高裁判所裁判官国民審査における投票を認めていないことに対し違憲であると判示されたことを受け、最高裁判所裁判官国民審査法の一部が改正され(2023年2月17日施行)、在外国民審査制度が創設されたことにより、在外日本国民による国民審査が可能となる。 ■ 在外選挙 (4)海外での日本人の生活・活動に対する支援 ア 日本人学校、補習授業校 海外で生活する日本人にとって、子供の教育は大きな関心事項の一つである。外務省では、義務教育相当年齢の児童・生徒が海外でも日本と同程度の教育を受けられるよう、文部科学省と連携して日本人学校への支援(校舎借料、現地採用教師謝金、安全対策費などへの一部支援)を行っている。また、主に日本人学校が存在しない地域に設置されている補習授業校(国語などの学力維持のために設置されている教育施設)に対しても、日本人学校と同様の支援を行っている。 2022年6月、「在外教育施設における教育の振興に関する法律」が成立・公布されたことにより、在外教育施設における教育の振興に関する基本理念が定められ、国の責務が明らかにされた。また、同法に基づき文部科学省と共に在外教育施設に関する施策の推進に係る基本方針を策定している。 イ 医療・保健対策 外務省は、海外で流行している感染症などの情報を収集し、海外安全ホームページや在外公館ホームページ、メールなどを通じ、広く提供している。さらに、医療事情の悪い国に滞在する日本人に対する健康相談を実施するため、国内医療機関の協力を得て巡回医師団を派遣している。また、感染症や大気汚染が深刻となっている地域を対象に専門医による健康安全講話も実施している。 ウ 海外在留邦人・日系人への支援 日本政府は、日本国内に住民票を有しない海外在留邦人などを対象に、2021年8月から成田・羽田の両空港でワクチン接種事業を実施し、これまでに約5万1,000件(2023年1月末時点)の接種を行っている。 外務省は、2021年3月から12月の間、新型コロナの感染拡大により生活に支障が出ている海外の在留邦人・日系人を支援するため、感染拡大防止を目的としたPCR検査事業、マスク・消毒薬の配付を含む啓発事業や、ビジネス環境作りを目的とした法務・税務相談窓口事業など、在外の日本人会、日本商工会議所、日系人団体などが実施する事業への支援として、海外在留邦人・日系人の生活・ビジネス基盤強化事業を実施した。さらに、在留邦人などへの医療及び精神カウンセリングの提供事業については2022年3月まで実施した。 エ その他のニーズへの対応 外務省は、海外に在住する日本人の滞在国での各種手続(運転免許証の切替え、滞在・労働許可の取得など)の煩雑さを解消し、より円滑に生活できるようにするため、滞在国の当局に対する働きかけを継続している。 例えば、外国の運転免許証から日本の運転免許証へ切り替える際、外国運転免許証を持つ全ての人に対し、自動車などを運転することに支障がないことを確認した上で、日本の運転免許試験の一部(学科・技能)を免除している。一方、在留邦人が滞在国の運転免許証を取得する際に試験を課している国・州もあるため、日本と同様に手続が簡素化されるよう働きかけを行っている。 また、日本国外に居住する原子爆弾被爆者が在外公館を経由して原爆症認定及び健康診断受診者証の交付を申請する際の手続の支援も行っている。 さらに、在外邦人の孤独・孤立対策についても、国内NPOと連携しながら海外の個別案件にきめ細やかに対応し、内閣府との共催により孤独・孤立に関する駐日大使会合を開催するなど、同問題に関する国際的理解の増進に努めた。 2 2018年は35冊、2019年は42冊、2020年は15冊、2021年は12冊、2022年は34冊の不正取得事案を把握