第4章 国民と共にある外交 2 国際社会で活躍する日本人 (1)国際機関で活躍する日本人 国際機関は、国際社会共通の利益のために設立された組織である。世界中の人々が平和に暮らし、繁栄を享受できる環境作りのために、様々な国籍の職員が集まり、それぞれの能力や特性をいかして活動している。ロシアによるウクライナ侵略や新型コロナの世界的流行を始め、環境、気候変動、持続可能な開発、軍縮・不拡散、紛争予防・平和構築、食糧、エネルギー、防災、教育、労働、人権・人道、ジェンダーの平等など、それぞれの国が一国では解決することのできない地球規模の課題に対応するため、多くの国際機関が活動している。 国際機関が業務を円滑に遂行し、国際社会から期待される役割を十分に果たしていくためには、専門知識を有し、世界全体の利益に貢献する能力と情熱を兼ね備えた優秀な人材が必要である。日本は、これら国際機関の加盟国として政策的貢献を行うほか、分担金や拠出金を拠出しているが、日本人職員の活躍も広い意味での日本の貢献といえる。また、より多くの優秀な日本人が国際機関で活躍することによって、国際社会における日本のプレゼンスが顔の見える形で一層強化されることが期待される。各日本人職員が担当する分野や事項、また、赴任地も様々であるが、国際社会が直面する諸課題の解決という目標は共通している(318、319ページ、コラム参照)。さらに、国際機関において職務経験を積み、世界を舞台に活躍できる人材が増加することは、日本の人的資源を豊かにすることにもつながり、日本の発展にも寄与する。 現在、国連(UN)を含む国際機関の要職で日本人が貢献している。2022年1月に目時(めとき)政彦氏がトップに就任した国連専門機関の万国郵便連合(UPU)を始め、世界税関機構(WCO)やアジア開発銀行(ADB)など多くの国際機関において、日本人が組織の長として活躍している。さらに、日本は、長年にわたり、国際司法裁判所(ICJ)、国際海洋法裁判所(ITLOS)、国際刑事裁判所(ICC)といった国際裁判所に日本人判事を輩出している。グローバルな課題に取り組む上での国際機関の重要性を踏まえれば、日本と国際機関の連携強化につながる国際機関の長を含む要職の獲得は重要な課題である。一方、国際機関の長を含む要職は、一朝一夕に獲得できるものではなく、長期的視野に立ち、ふさわしい人材を育成し、きめ細かい対応をしていく必要がある。 現在、956人(2021年末時点、外務省調べ)の日本人が専門職以上の職員として世界各国にある国連関係機関で活躍しており、過去最多となった。日本人職員の更なる増加を目指し、日本政府は2025年までに国連関係機関で勤務する日本人職員数を1,000人とする目標を掲げており、その達成に向けて、外務省は、関係府省庁、大学や団体などと連携しつつ、世界を舞台に活躍・貢献できる人材の発掘・育成・支援を積極的に実施している。その取組の一環として、国際機関の正規職員を志望する若手の日本人を原則2年間、国際機関に職員として派遣し、派遣後の正規採用を目指すジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)の派遣制度(360ページ 資料編参照)や、将来の幹部候補となり得る日本人に中堅以上の職務経験を提供し昇進を支援するための派遣制度を設けている。これらを通じて日本人職員を増やしていくことに加え、日本人職員の一層の採用・昇進に向けた国際機関との協議や情報収集にも取り組んでいる。 ■ 国連機関の国別職員数(国連調べ、専門職以上) 国際機関勤務を志望する日本人に対しては、国際機関人事センターのホームページ3やメーリングリスト、ソーシャルメディア(フェイスブック、ツイッター、リンクトインなど)、動画配信などを通じて国際機関の空席情報などの有用な情報を随時提供しているほか、応募に関する支援にも力を入れている。国際機関で働く魅力や就職方法を説明するセミナーのほか、国際機関の幹部職員や人事担当者を招いた説明会をオンラインで実施4するなど、広報に努めている。 外務省は、地球規模課題の解決に貢献できる高い志と熱意を持った優秀な日本人が一人でも多く国際機関で活躍できるよう、日本人職員の増加及び昇進支援に今後もより積極的に取り組んでいく。 (2)非政府組織(NGO)の活躍 ア 開発協力分野 開発途上国などに対する支援活動の担い手として、開発協力及び人道支援においてNGOが果たし得る役割は大きい。外務省は、政府以外の主体の力をいかした総合的な外交を展開する観点から、それらNGOによる取組を支援している。 外務省は、日本のNGOが開発途上国・地域で実施する経済・社会開発事業に対する無償の資金協力(「日本NGO連携無償資金協力」)によりNGOを通じた政府開発援助(ODA)を積極的に行っており、事業の分野も保健・医療・衛生、農村開発、障害者支援、教育、防災、地雷・不発弾処理など、多岐にわたる。2021年度は、アジア、アフリカ、中東、中南米など35か国・1地域で日本NGO連携無償資金協力事業を実施する日本のNGO(51団体)に対し、96件の資金供与を行った(322ページ 特集参照)。さらに、NGOの事業実施能力や専門性の向上、NGOの事業促進に資する活動支援を目的とする補助金(「NGO事業補助金」)を交付している。 また、政府、NGO、経済界との協力や連携により、大規模自然災害や紛争発生時に、より効果的かつ迅速に緊急人道支援活動を行うことを目的として2000年に設立されたジャパン・プラットフォーム(JPF)には、2022年12月現在、45のNGOが加盟している。JPFは、2022年には、ウクライナ人道危機対応支援(同国及び周辺国における避難民への支援)、ウクライナ情勢に起因する食料・燃料・飼料価格の高騰などの影響を受けた食料危機への対応支援、ミャンマー人道危機支援(同国避難民に対する支援)、アフガニスタン東部地震被災者支援、パキスタン水害被災者支援に向けたプログラムなどを立ち上げたほか、バングラデシュ、エチオピア、モザンビーク、南スーダン及び周辺国、ウガンダ、イエメン、ベネズエラ、アフガニスタン、パレスチナ、イラク、シリア及び周辺国における難民・国内避難民支援を実施した。 このように、開発協力及び人道支援の分野において重要な役割を担っているNGOを国際協力のパートナーとして位置付け、NGOがその活動基盤を強化して更に活躍できるよう、外務省と国際協力機構(JICA)は、NGOの能力強化、専門性向上、人材育成などを目的として、様々な施策を通じてNGOの活動を側面から支援している(2022年、外務省は、「NGO相談員制度」「NGOスタディ・プログラム」「NGOインターン・プログラム」「NGO研究会」の4事業を実施した。)。 NGOとの対話・連携の促進を目的とした「NGO・外務省定期協議会」については、11月に全体会議を実施した。また、ODA政策全般に関する意見交換を行うODA政策協議会を3月、7月、11月に、NGO支援や連携策について協議する連携推進委員会を1月、7月、12月にそれぞれオンライン形式で開催した。さらに、9月に開発協力大綱改定に関する臨時全体会議が行われた。また、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けては、あらゆるステークホルダーとの連携が不可欠であるとの観点から、2016年9月に設置した「SDGs推進円卓会議」においてNGOを含めた多様なステークホルダーとの活発な意見交換がなされてきている。 コラム国連の舞台を支えてきた日本人の声 激動の時代の安全保障 ─国連の軍縮活動をリードして─ 国連事務次長・軍縮担当上級代表 中満 泉(なかみついずみ) 2月に始まったロシアによるウクライナ侵略は、国連憲章に基づく国際秩序への大きな挑戦となりました。ウクライナ侵略の影響は地域にとどまらず、世界中に食料、エネルギー、金融の三重の危機をもたらし途上国を圧迫しています。世界の更なる分断をもたらしかねない大国間の緊張関係、増加を続ける紛争や軍事クーデター、待ったなしの気候危機、国際NGO団体であるオックスファム・インターナショナルが「経済的暴力」と呼ぶほどの格差と不平等、深刻度を増す人権侵害、規範の整備を待たずに加速度的に進むテクノロジーの進化など、私たちの世界は今、いくつもの危機が連鎖する激動の時代にあります。 国連で私が担当する軍縮は安全保障に関わる問題であって、特に緊張関係が高まる国際情勢では、ポスト冷戦期に見られたような大きな進展を見ることが困難になりました。軍縮分野の課題は多岐にわたります。人類全体の存続を脅かしかねない核兵器や化学兵器、生物兵器といった大量破壊兵器の廃絶。紛争の現場で現在も多くの犠牲者を生んでいる小型武器などの通常兵器の制限と効果的な管理。宇宙空間やサイバー空間という人類の新たな活動領域を平和に保つための努力。そして人工知能やあらゆるタイプの新興科学技術の安全保障への悪影響を防ぐといった新しい課題。特に新興技術は、核兵器がそうであったように、世界の紛争の構図を現在想像ができない形で根本から変えるかもしれないと予想され、国連を軸にした多国間での規範作りがこれまでにないほど早急に必要になっています。 そんな中、私たち国連軍縮部の役割は、加盟国の議論・交渉を支援することです。新たな課題を洗い出し、分析し、専門的見地から解決方法のオプションを提言していくこと。そしてマルチ議論(多国間による議論)の中で議長や加盟国をサポートし、アドバイスし、時として対立関係にある加盟国の間での議論を働きかけ取り持つこと。全ての加盟国と対話を保ち、それぞれの立場を理解し、共通項を探し出すこと。そして合意が形成されたら、全ての加盟国がそれを実施することができるように支援すること。多くの努力を日夜、舞台裏で続けています。 国際安全保障環境が悪化する中で軍縮は可能なのでしょうか。8月に行われた核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議では、残念ながらただ一国の反対で最終成果文書を採択することがかないませんでした。しかし、現在のような国際環境の中でも、核軍縮、不拡散そして原子力の平和利用に関する議論に全ての締約国が真剣に関わり、一国以外は合意を形成していたという事実は、国際安全保障にはマルチ(多国間)の軍縮交渉が必要なのだという共通認識の現れだと思います。軍縮や軍備管理交渉は決して理想主義の理念ではなく、安全保障のツールであるからです。現に12月に行われた第9回生物兵器禁止条約運用検討会議は、困難な交渉を経てコンセンサス(全会一致)で最終文書を採択しました。条約強化のため合意されたステップとしては、過去20年間で最も重要なものになりました。 筆者が国連安全保障理事会に対し、国際の平和と安全への脅威について報告を行っているところ (12月、米国・ニューヨーク 写真提供:国連軍縮部) グテーレス国連事務総長は2021年9月に「私たち共通の課題」という、未来に向けての提言を発表しました。私たちはそのフォローアップの一環として、激変した国際環境の中での軍縮への新たなビジョンを含む「平和への新たな課題」という事務総長報告書の作成を進めています。 私の尊敬するハマーショルド元国連事務総長の「国連は私たちを天国に導くためにではなく、私たちを地獄から救うために創設された」という言葉は有名です。激動の時代の今こそ、安全な未来のためにも国連の活動が必要とされているのではないでしょうか。 写真展「女性は生物化学兵器から世界の平和を守る:生物兵器条約50周年にあたって」のオープニング (筆者右から4番目)(11月、スイス・ジュネーブ 写真提供:国連軍縮部) 核兵器禁止条約の署名・批准式典セレモニー(筆者中央)(9月、米国・ニューヨーク 写真提供:国連軍縮部) コラム国連の舞台を支えてきた日本人の声 国連職員=ファシリテーターとは? 国際民間航空機関(ICAO)(注)気候変動課長 田中鉄也 国際民間航空機関(ICAO、本部:カナダ・モントリオール)では、国際航空の秩序ある発展を目的として各種の国際ルールを策定しており、日本を含む193の加盟国(シカゴ条約締約国)の政府代表者により、大臣級のハイレベル会合から専門家レベルの委員会・ワーキンググループ会合まで、様々な会議を通じた議論を経て、合意文書が作成されていきます。ICAOで合意された国際ルールは、各締約国の国内法令(航空法など)に基づいて実施されます。 航空の安全といった分野に比べ、私が担当している環境対策、特に気候変動対策というトピックはICAOでも比較的新しい分野で、私がICAO事務局に入った2008年はまだ白いキャンバスに絵を描くような仕事でした。CO2削減目標もなければ、削減対策やその支援策、さらにはフォローアップの仕組みといったものがほぼ皆無の状態でした。その後、3年ごとのICAO総会で継続的な進捗があり、2010年に国際航空セクターの中期CO2削減目標と国別行動計画の策定に向けた合意、2013年に中期目標達成のための市場メカニズム策定に向けた合意、2016年に具体的な国際航空カーボンオフセット制度(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation(CORSIA))の合意、2019年に長期目標策定に向けた合意、そして直近の2022年総会ではセクター長期目標としての「ネットゼロ2050」の合意がなされました。 筆者。 国土交通省航空局勤務を経て、2008年からICAO事務局で勤務、2015年から現職。ICAO本部・理事会会議場(Council Chamber)において 2016年ICAO総会で国際航空カーボンオフセット制度が合意された瞬間のスタンディング・オベーション 気候変動の議論で国際ルールの合意形成を難しくしている大きな理由は二つあります。一つ目は、航空の成長を阻害することなく、気候変動対策の主眼である排出ガスを減らすという拮抗(きっ)する目的を如何(いか)に達成するかという課題です。二つ目は、いわゆる京都議定書やパリ合意における先進国の気候変動に対する歴史的な責任という原則と、排出ガス自体が国を越えている国際航空分野において市場歪曲(わい)を起こすことなく各国を非差別的に取り扱うべきというICAOの原則をどのように融合させるかという課題です。 上記二つの課題をめぐって、193か国政府のポジションは常に大きく割れます。先進国と開発途上国の二分論という単純な話でもありません。いわゆる先進国と呼ばれている国が横並びで同じ立場かといえばそうでもなく、環境先進国の欧州とそれ以外では時としてポジション(立場)が全く異なり、また、開発途上国の中には先進国よりも排出削減やICAOでの合意形成に積極的な立場を示す国もあります。 ICAO事務局として、そして議論の「ファシリテーター(進行役)」である私の立場として、多様な国の立場に耳を傾けつつ議長をサポートし、議論を前に進めていくことが最も苦労する点であり、逆にいうと最もエキサイティングな点でもあります。各国のポジションの距離感が遠い場合には、誰もが正面から提案しにくいミドル・ポジションを提案し、支持層を増やしながら最終的には大多数の支持を取り付けるため、議論を促進し提案を修正していく必要があります。かつ、そういう議論の流れをつくるための各種シナリオを事前に用意しておく必要もあります。 今後は、先般の総会で合意された国際航空セクターの長期目標「ネットゼロ2050」の達成に向けて、2023年冒頭から議論が活発化していきます。事務局は何も決められませんが、最終的に締約国が決めるための議論を促し、案を提供することは可能であり、各国のポジションを知りどこまで前に進める妥協案が合意可能なのか、冷静に先を読む嗅覚が問われる仕事でもあります。ICAOにおける国際航空の気候変動問題への取組が実質的に前に進み、最終的に本件をリードし続ける組織として世界から認識されるために事務局が担う役割は大きいものがあると信じております。 (注)ICAO:International Civil Aviation Organization イ そのほかの主要外交分野での連携 人権に関する諸条約に基づいて提出する政府報告や「ビジネスと人権」に関する行動計画、子どもに対する暴力撲滅行動計画、国連安保理決議第1325号及び関連決議に基づく女性・平和・安全保障に関する行動計画とその実施についても、日本政府はNGO関係者や有識者を含む市民社会との対話を行っている。 また、通常兵器の分野では、地雷・不発弾被害国での地雷や不発弾の除去、危険回避教育プロジェクトの実施に際して、NGOと協力している。 さらに、核軍縮の分野でも、様々なNGOや有識者と対話を行っており、「非核特使」及び「ユース非核特使」の委嘱事業などを通じて、被爆者などが世界各地で核兵器使用の惨禍の実情を伝えるためのNGOなどの活動を後押ししている。2022年12月までに、102件延べ302人が非核特使として、また、42件延べ569人がユース非核特使として世界各地に派遣されている。 国際組織犯罪対策では、特に人身取引の分野において、NGOなどの市民社会との連携が不可欠であるとの認識の下、政府は、近年の人身取引被害の傾向の把握や、それらに適切に対処するための措置について検討するため、NGOなどとの意見交換を積極的に行っている。 ウクライナ西部3州における避難民への心理的応急処置 (写真提供:認定NPO法人IVY、提携団体STEP-IN) (3)JICA海外協力隊・専門家など JICA海外協力隊(JICAボランティア事業)は、技術・知識・経験などを有する20歳から69歳までの国民が、開発途上国の地域住民と共に生活し、働き、相互理解を図りながら、その地域の経済及び社会の発展に協力・支援することを目的とするJICAの事業である。本事業が発足した1965年以降、累計で98か国に5万4,772人の隊員を派遣し(2022年3月末時点)、計画・行政、商業・観光、公共・公益事業、人的資源、農林水産、保健・医療、鉱工業、社会福祉、エネルギーの9分野、約190職種にわたる協力を展開している。 帰国した協力隊経験者は、その経験を教育や地域活動の現場、民間企業などで共有するなど、社会への還元を進めており、日本独自の国民参加による活動は、受入国を始め、国内外から高い評価と期待を得ている。 新型コロナ感染拡大の影響により、派遣を一時見合わせる状況もあったが、2020年11月以降、感染状況などを考慮し、派遣条件が整った国から隊員活動を再開している(323ページ コラム参照)。 JICA専門家の活動は、専門的な知識、知見、技術や経験を有した人材を開発途上国の政府機関や協力の現場などに派遣し、相手国政府の行政官や技術者に対して高度な政策提言や必要な技術及び知識を伝え、協働して現地に適合する技術や制度の開発、啓発や普及を行う事業である。JICA専門家は、保健・医療や水・衛生といったベーシック・ヒューマン・ニーズ(人間としての基本的な生活を営む上で最低限必要なもの)を満たすための分野や、法制度整備や都市計画の策定などの社会経済の発展に寄与する分野など、幅広い分野で活動しており、開発途上国の経済及び社会の発展と日本との信頼関係の醸成に寄与している。 2021年度に新規で派遣された専門家は2,583人、活動対象国・地域は95か国・地域に上り、新型コロナの世界的な感染拡大による影響から回復傾向にある。なお、現地への渡航が困難なため国内に待機している専門家は、遠隔で現地と連絡をとりながら、業務を遂行している。 特集日本NGO連携無償資金協力20周年 ─次の20年に向けて─ 日本NGO連携無償資金協力は、草の根無償資金協力(現在の「草の根・人間の安全保障無償資金協力」)のうち日本のNGOを対象としたものと、その他のプログラムを整理統合するかたちで2002年に設立された制度です。2022年には20周年を迎えました。この制度を通じて、外務省は、日本のNGOが開発途上国・地域で実施する経済社会開発事業に対して、政府開発援助(ODA)資金を供与しています。誰一人取り残さないことを目標とし、日本のNGOは、政府や国際機関による支援だけでは手の届きにくい貧困層、女性、高齢者、難民、国内避難民などの最も脆(ぜい)弱な人々に対し、効果的な支援を行っています。NGOによる支援活動は、開発途上国それぞれの地域に密着し、現地住民の支援ニーズにきめ細かく対応することが可能であり、草の根レベルでの支援を実現することができる、まさに「顔の見える開発協力」の代表格です。 2002年度から2021年度までに、74か国・1地域に対し、総額約619億円の資金を供与してきました。事業分野も教育、農林業、医療・保健、防災、水・衛生、地雷・不発弾処理など、幅広いものとなっています。2021年度には、96件、約57億円の資金供与を実施しました。その実績額は、2002年度開始時と比べて約10倍に増加しています。 外務省は、今後もNGOの活動を支援するとともに、「開発協力における政府の重要なパートナー」であるNGOとの連携を一層強化し、その知見を活用することで、より効果的・効率的なODAを実現していきたいと考えます。 ネパールでの開校式 (写真提供:公益社団法人シャンティ国際ボランティア会) イラクのPC教室で学ぶ学生 (写真提供:認定NPO法人IVY) ミャンマー事業で建設したインフラについて話し合う維持管理委員会(写真提供:認定NPO法人地球市民の会) コラム柔道で国際協力 ─任国の大統領勲章を受章─ 国際協力機構(JICA)青年海外協力隊員(職種:柔道) 岩堀睦宗(ともかず) 私は4歳から柔道を始めましたが、大学時代に大きな転機を迎えました。柔道での海外研修に参加し、外国の子どもたちの学ぶ姿勢や物怖(お)じしない姿勢に感銘を受けたのです。その後、社会人となり、長年やってきた柔道で何か恩返しをしたいとの思いが募り、JICA海外協力隊へ応募しました。新型コロナの感染拡大の影響で約1年派遣が遅れましたが、2021年12月、ようやくマダガスカルの地に降り立つことができました。 私は、マダガスカル柔道連盟に所属し、柔道の普及及びナショナルチームの指導を行っています。派遣当初は、柔道場には畳がなく、選手が破れた柔道着で練習する姿を目の当たりにし、日本との柔道に取り組む環境の違いに衝撃を受けました。しかし、よく観察していると、選手が日本と同じく、柔道の礼法である道場への「入出時に一礼」する光景も見られ、大変嬉(うれ)しくなりました。また、同時に嘉納(かのう)治五郎師範が築き上げた柔道が、遠く離れたマダガスカルで、ここまで浸透していることにも感動し、自分がこの国で活動を続けていく力になりました。 派遣から5か月が過ぎ、徐々に任国での生活にも慣れたころ、所属先からアフリカ選手権に出場するナショナルチームを指導してほしいとの依頼がありました。約1か月の強化合宿に付添い、4人の選手がアルジェリアで開催された本選に出場しました。入賞はできませんでしたが、これまでは初戦敗退が多かった国際大会で、全員が1回戦を勝ち上がることができました。次の大会に向けて継続して指導することになり、これらの指導が評価された結果、連盟からの依頼により7月にケニアで開催されたアフリカ選手権ジュニア大会に、コーチとして2人の選手に同行することになりました。この大会では、男子73キロ級では第3位、女子70キロ級では優勝という結果に貢献することができました。 この国際大会での輝かしい成績を受け、マダガスカル共和国大統領からスポーツ功労章という大統領勲章を選手と共に受章しました。自身の今までの指導が間違っていなかったと実感することができたと同時に、厳しい環境の中で練習し、国際大会で活躍するマダガスカルの選手を誇らしく思いました。 今後は、2024年パリオリンピック・パラリンピック競技大会出場を目標にナショナルチームを指導するとともに、マダガスカルの若者が柔道の礼節を学び、相手を想(おも)いやることができる人に育ってほしいと願い、柔道の普及にも取り組む予定です。 そして、柔道を通し、日本の国際協力に貢献していきたいと思います。 マダガスカル共和国大統領勲章を選手と共に受章(筆者右) 福井県及び特定非営利活動法人JUDOsから寄贈された柔道着の贈与セレモニー(筆者右から3番目) 3 https://www.mofa-irc.go.jp/ 4 前掲脚注3のサイトの「お知らせ」に掲載