第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 2 自由で開かれた国際経済システムを強化するためのルール作りの推進 (1)経済連携の推進 近年、経済のグローバル化が進展する一方、新型コロナの感染拡大により保護主義的な動きが一層顕著となり、さらにはロシアによるウクライナ侵略を原因として世界経済全体が混乱に見舞われている。そうした中で日本は、物品の関税やサービス貿易の障壁などの削減・撤廃、貿易・投資のルール作りなどを通じて海外の成長市場の活力を取り込み、日本経済の基盤を強化する経済連携協定(EPA/FTA)3を重視し、これを着実に推進してきている。2021年1月1日には、日英包括的経済連携協定(日英EPA)が発効し、2022年1月1日には、日本、ブルネイ、カンボジア、ラオス、シンガポール、タイ、ベトナム、中国、オーストラリア及びニュージーランドについてRCEP協定が発効した。こうした取組の結果、日本の貿易のEPA/FTA比率(日本の貿易総額に占める発効済み・署名済みの経済連携協定相手国との貿易額の割合)は約78.0%に至った(出典:2023年財務省貿易統計)。 ■ 日本の貿易総額に占めるEPA相手国・地域の貿易額割合 また、2023年1月には、米国産牛肉についての農産品セーフガードの適用の条件を修正するための日米貿易協定改正議定書が発効した。 日本は、引き続き、自らの平和と繁栄の基礎となる自由で公正な経済秩序を広げるため、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)の高いレベルの維持や、RCEP協定の完全な履行の確保、その他の経済連携協定交渉などに積極的に取り組んでいく。 ア 多国間協定など (ア)環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP) CPTPPは、関税、サービス、投資、電子商取引、知的財産、国有企業など、幅広い分野で21世紀型の新たな経済統合ルールを構築する取組である。日本にとっても、日本企業が海外市場で一層活躍する契機となり、日本の経済成長に向けて大きな推進力となる重要な経済的意義を有している。さらに、CPTPPを通じて、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有する国々と共に自由で公正な経済秩序を構築し、日本の安全保障やインド太平洋地域の安定に大きく貢献し、地域及び世界の平和と繁栄を確かなものにするという大きな戦略的意義を有している。日本、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国及びベトナムの12か国は、2016年2月、環太平洋パートナーシップ(TPP12)協定に署名したが、2017年に米国がTPP12協定からの離脱を表明したことから、11か国でTPPを早期に実現するため、日本は精力的に議論を主導した。2017年11月のTPP閣僚会合で大筋合意に至り、2018年3月にCPTPPがチリで署名された。協定の発効に必要な6か国(メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア)が国内手続を終え、同協定は2018年12月30日に発効した。2019年1月にベトナムが、2021年9月にペルーが、2022年11月にマレーシアが締約国となり、同協定は9か国について発効した。 CPTPPの発効後、閣僚級を含めTPP委員会が6回開催されている。2021年6月の第4回TPP委員会では、同年2月に加入を正式に申請した英国の加入手続の開始と英国の加入に関する作業部会(AWG)の設置が決定され、同年9月に同作業部会の会合が開始された。2022年7月には東京で同作業部会の会合が開催され、CPTPP参加国及び英国の間で、協定のハイスタンダードなルール及び市場アクセスを維持しつつ、加入プロセスが適切に進められるよう、様々な課題について議論を深めた。英国の加入手続の進展は、自由貿易を更に推進するとの世界に向けた力強いメッセージであり、自由で公正な21世紀型の貿易・投資ルールを広げていくためにも重要となる。英国の加入手続が、CPTPPの高いレベルを維持しつつ円滑に進むよう、日本が議長を務めるAWGにおいてしっかりと議論していく。また、10月には第6回TPP委員会がシンガポールで開催された。本会合は、第1回会合以来、3年ぶりに対面かつ閣僚級で開催され、パンデミックの影響を受けたサプライチェーンの強靱(じん)化といった地域における重要な貿易事項に対処すること、不当な貿易制限措置や経済的威圧に対抗することなどを確認した。また、各小委員会の活動成果の報告や、デジタル経済及びグリーン経済の分野における協力の進展の報告がなされた。また、英国の加入プロセスについて加入作業部会議長の日本から報告するなど、出席した閣僚間で活発な議論が行われた。2021年9月16日に中国が、同月22日に台湾が、同年12月17日にエクアドルが、2022年8月10日にコスタリカが、同年12月1日にウルグアイが加入を正式に申請した。日本は、加入申請を行ったエコノミーが市場アクセス及びルールの面でCPTPPの高いレベルを完全に満たすことができるかどうかについてしっかりと見極めつつ、戦略的観点や国民の理解も踏まえながら対応していく。 (イ)日・EU経済連携協定(日EU・EPA) EUは、日本にとって第三位の輸出相手(全体の9.2%)かつ第二位の輸入相手(全体の11.1%)であり、日・EUの経済規模はGDP(国内総生産)で合計22.1兆ドル、貿易総額で14.6兆ドルに上る(いずれも2021年時点)。2019年2月に発効した日EU・EPAは、世界GDPの約4分の1、世界貿易の約3分の1を占める自由な先進経済圏を構成するものであり、日・EU間の貿易は新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵略の影響を受けつつも、本協定を基礎として堅調に推移している。 協定発効後は、その着実な実施を確保するため、合同委員会及び12分野別の専門委員会などを通じて継続的に議論を行っている。3月に実施した合同委員会第3回会合では、協定の効果的な運用のための議論を行い、経済分野の諸課題に対する日・EU間協力について確認した。また10月には「データの自由な流通に関する規定」を本協定に含めることにつき正式交渉を開始した。今後も本協定を基盤に日・EU経済関係の更なる発展を目指していく。 (ウ)日英包括的経済連携協定(日英EPA) 2021年1月に発効した日英EPAは、英国のEU離脱後の日系企業のビジネス継続性を確保し、良好な日英関係を更に発展させるための重要な基盤である。日EU・EPAを基礎とし全24章で構成される日英EPAは、電子商取引や金融サービスなどの分野で日EU・EPAより先進的かつハイレベルなルールを規定するほか、鉄道車両・自動車部品など一部品目で英国市場へのアクセスを改善した。また、日本が結ぶEPAで初めて、貿易により創出される機会や利益への女性のアクセス促進のための日英協力に関する章を設けている。現在は13分野別の専門委員会・作業部会を通じて継続的に協定の実施などに関する情報交換を行っている。2月には合同委員会第1回会合を開催し、協定の運用状況の確認や、デジタル貿易や気候変動などの分野での日英間の連携強化について確認した。今後も日英経済関係の一層の深化を目指し、緊密に協力していく。 (エ)日中韓FTA 日中韓FTAは、日本の主要な貿易相手国である中国及び韓国を相手とするFTAであり、2013年3月に交渉を開始し、2022年12月までに計16回の交渉会合を行った。 (オ)地域的な包括的経済連携(RCEP)協定 RCEP協定は、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国と日本、オーストラリア、中国、韓国及びニュージーランドの計15か国が参加する経済連携協定である。RCEP協定参加国のGDPの合計、参加国の貿易総額、人口はいずれも世界全体の約3割を占める。この協定の発効により、日本と世界の成長センターであるこの地域とのつながりがこれまで以上に強固になり、日本の経済成長に寄与することが期待される。2012年11月に、プノンペン(カンボジア)で開催されたASEAN関連首脳会合の際、RCEP交渉立上げ式が開催されて以来、4回の首脳会議、19回の閣僚会合及び31回の交渉会合が開催されるなど約8年の交渉を経て、2020年11月15日の第4回RCEP首脳会議の機会に署名に至った。インドは、交渉開始当初からの参加国であったが、2019年11月の第3回首脳会議において、以降の交渉への不参加を表明し、RCEP協定への署名にも参加しなかった。しかしながら、RCEP協定署名の際、署名国は、同協定がインドに対して開かれていることを明確化する「インドのRCEPへの参加に係る閣僚宣言」を日本の発案により発出し、インドの将来的な加入円滑化や関連会合へのオブザーバー参加容認などを定めた。インドがRCEP協定に参加することは、経済的にも戦略的にも極めて重要であり、日本は、インドのRCEP協定への将来の復帰に向けて、引き続き主導的な役割を果たしていく。 RCEP協定は、2022年1月1日に発効し、4月26日及び27日にオンライン形式で第1回合同委員会が開催され、9月17日にシェムリアップ(カンボジア)で協定発効後初の閣僚会合が開催された。日本としては、RCEP協定の完全な履行の確保を通じ、自由で公正なルールに基づく経済活動を地域に根付かせるべく、関係各国と緊密に連携しながら取り組んでいく。 ■ インド太平洋地域の多国間経済協定とIPEF (カ)アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想 2016年アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議で採択された「FTAAPに関するリマ宣言」では、(1)FTAAPは質が高く包括的で次世代貿易・投資課題を組み込み、TPP11協定やRCEP協定などを道筋として構築されるべきこと、(2)その能力構築を支援する作業計画に着手することなどを確認した。2022年にAPEC議長を務めたタイは、「FTAAPアジェンダに関する作業計画」を取りまとめ、2023年のAPEC閣僚会議で、その実行の進捗を報告することを求めた。 日本は2017年以降FTAやEPAにおける「競争章」や投資政策に関する政策対話などを行い、能力構築支援に継続的に取り組んでいる。またTPP11協定が2018年12月末に発効したこと、RCEP協定が2022年1月に発効したことは、質が高く包括的なFTAAPを実現する観点からも重要な意義がある。 イ 二国間協定 (ア)日・トルコEPA トルコは、欧州、中東、中央アジア・コーカサス地域、アフリカの結節点に位置する重要な国であり、高い経済的潜在性を有し、周辺地域への輸出のための生産拠点としても注目されている。トルコは、これまでに20以上の国・地域とFTAを締結しており、日本としても、EPA締結を通じて日本企業の競争条件を整備する必要がある。 また、両国の経済界からも日・トルコEPAの早期締結に対する高い期待感が示されていることから、2014年1月の日・トルコ首脳会談において交渉開始に一致し、2022年12月末までに17回の交渉会合が開催された。 (イ)日・コロンビアEPA 豊富な資源を有し、高い経済成長を遂げているコロンビアとは、2012年12月からEPA交渉を開始した。コロンビアは各国(米国、カナダ、EU、韓国など)とFTAを締結していることから、日本も競争環境を整える必要性が高まっているほか、EPA締結による二国間関係の強化は、国際場裡(り)における協力強化や太平洋同盟(メキシコ、コロンビア、ペルー、チリ)との協力促進にもつながることが期待されており、引き続き交渉を行っている。 ウ その他の発効済みの経済連携協定(EPA) 発効済みのEPAには、協定の実施の在り方について協議する合同委員会に関する規定や、発効から一定期間を経た後に協定の見直しを行う規定がある。また、発効済みのEPAの円滑な実施のために、発効後も様々な協議が続けられている。 また、EPAに基づき、インドネシア、フィリピン、及びベトナムから看護師・介護福祉士候補者の受入れを実施しており、インドネシア(2008年開始)、フィリピン(2009年開始)及びベトナム(2014年開始)の累計受入数はそれぞれ3,633人(2022年度まで)、3,384人(2022年度まで)及び1,696人(2022年度まで)となっている。また、2021年度までの累計国家試験合格者数は、看護師は573人、介護福祉士は2,136人である。 エ 投資関連協定 投資関連協定(投資協定及び投資章を含むEPA/FTA)は、投資家やその投資財産の保護、規制の透明性向上、投資機会の拡大、投資紛争解決手続などについて共通のルールを設定することで、投資家の予見可能性を高め、投資活動を促進するための重要な法的基盤である。海外における日本企業の投資環境を整備するだけでなく、日本市場への海外投資の呼び込みにも寄与すると考えられることから、日本は投資関連協定の締結に積極的に取り組んできている。 2022年には、日・モロッコ投資協定が発効し(4月)、日・バーレーン投資協定に署名した(6月)。2023年1月末時点で、発効済みの投資関連協定が52本(投資協定35本、EPA17本)、署名済み・未発効となっている投資関連協定が3本(投資協定 2本、EPA 1本)あり、これらを合わせると55本となり、80の国・地域をカバーすることとなる。これらに現在交渉中の投資関連協定を含めると、94の国・地域、日本の対外直接投資額の約95%をカバーすることとなる4。 ■ 投資関連協定の現状(2022年7月) オ 租税条約/社会保障協定 (ア)租税条約 租税条約は、国境を越える経済活動に対する国際的な二重課税の除去(例:配当などの投資所得に対する源泉地国課税の減免)や脱税・租税回避の防止を図ることを目的としており、二国間の健全な投資・経済交流を促進するための重要な法的基盤である。日本政府は、日本企業の健全な海外展開を支援するため、これに必要な租税条約ネットワークの質的・量的な拡充に努めている。 2022年には、モロッコとの租税条約(4月)、コロンビアとの租税条約(9月)及びスイスとの租税条約の改正議定書(11月)が発効した。さらに、5月にはアゼルバイジャンとの間で新租税条約(全面改正)が、6月にはアルジェリアとの間で租税条約が実質合意に至っている。2022年12月時点で、日本は84本の租税条約などを締結しており、151か国・地域との間で適用されている。 (イ)社会保障協定 社会保障協定は、社会保険料の二重負担や年金保険料の掛け捨ての問題を解消することを目的としている。海外に進出する日本企業や国民の負担が軽減されることを通じて、相手国との人的交流の円滑化や経済交流を含む二国間関係の更なる緊密化に資することが期待される。2022年12月時点で日本と社会保障協定を締結又は署名している国は23か国である。 (2)国際機関における取組 ア 世界貿易機関(WTO) (ア)第12回WTO閣僚会議(MC12)の開催 6月12日から17日まで、ジュネーブにおいて第12回WTO閣僚会議(MC12)が開催された。本会議は、3度にわたる延期を経て4年半ぶりに開催されたものであり、WTO閣僚会議としては約6年半ぶりとなる閣僚宣言の採択に合意するなどの成果を達成した。外務省からは、三宅伸吾外務大臣政務官が出席し、各国と個別の会談を積極的に行い、合意に向けた意見調整に貢献した。さらに、MC12の機会に開催されたEU主催のウクライナとの連帯会合や英国主催ウクライナ支援に向けた貿易面での取組についての会合に参加し、ウクライナへの連帯を表明し、ロシアの侵略を非難した。 MC12では、新型コロナ危機やロシアによるウクライナ侵略に伴う食料供給問題といった、現在国際社会が直面する課題に対し、WTOが貿易機関として果たすべき役割を確認したほか、将来の危機への対応や経済回復の過程における貿易の果たす役割についての議論や、漁業補助金などの分野についてのルール形成に向けた議論などが行われた。当初予定していた会期を延長して深夜に及ぶ粘り強い議論が行われた結果、閣僚宣言に加え、パンデミック対応、食料不安への対応、輸出禁止・制限から世界食糧計画(WFP)による食料購入を除外、電子的送信に対する関税不賦課モラトリアムの次回WTO閣僚会議(MC13)までの延長などの個別分野の閣僚決定・宣言が採択された。さらに、20年以上に及ぶ交渉を経て漁業補助金協定交渉が妥結(281ページ 特集参照)するなど、多くの成果を得ることができた。 有志国の取組である電子商取引交渉については、共同議長国である日本、オーストラリア及びシンガポールが、世界的なデジタル貿易ルールの合意に向けて、引き続きコミットしていく意思を示す、共同議長国閣僚声明を発出した。日本は、本交渉の共同議長国として、多くの参加国を包摂していく形で、高い水準のルールを形成するため、引き続き議論を主導していく。 (イ)オコンジョ=イウェアラWTO事務局長の訪日 10月18日から20日、オコンジョ=イウェアラWTO事務局長は、事務局長就任後初めて日本を訪問し、岸田総理大臣への表敬や林外務大臣とのワーキング・ディナーなど政府要人との会談のほか、与党や経団連幹部との意見交換、日本国際問題研究所での講演など、日本の政財界や学術関係者と幅広く交流した。政府要人との会談ではオコンジョ事務局長から、日本のこれまでのWTOへの貢献に謝意が示されると共に、2023年にG7議長国となる日本への強い期待が示された。これに対し、岸田総理大臣からは、オコンジョ事務局長のリーダーシップを支持しWTOでの議論に積極的に貢献していくと述べた。また林外務大臣からは、貿易を取り巻く国際環境が大きく変化する中で、多角的貿易体制の中核であるWTOが時代に即した機能を十分に発揮することが重要であると述べ、オコンジョ事務局長との間で次回WTO閣僚会議に向け緊密に連携していくことで一致した。 オコンジョ事務局長は、2021年2月の事務局長就任以来、日本を含む主要国を歴訪した。さらに、各種国際会議に精力的に参加し、漁業補助金協定交渉やWTO改革などを始めとする、WTOが抱える課題について加盟国との連携を強力に推進してきた。2022年には、G7やG20を始めとする貿易関連の会合だけでなく、8月にチュニジアで開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)や、11月にエジプトで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)など貿易関連以外の国際会議にも参加し、グローバルな課題と国際貿易の関係などにつき、積極的な発信を行っている。 (ウ)紛争処理 WTOの紛争解決手続5は、WTO加盟国間の経済紛争をルールに基づき解決するための制度であり、多角的貿易体制に安定性と予見可能性を与える柱として位置付けられている。2019年12月以降、第2審(最終審)に相当する上級委員会は審議に必要な委員数を確保できず「機能停止中」にあるが、紛争解決制度自体は引き続き加盟国に利用されている。2022年には8件の紛争が付託され、WTO設立以降の27年の間に、現在付託されている日本の当事国案件6件6を含む615件の案件が申し立てられている。 イ 経済協力開発機構(OECD) (ア)特徴 OECDは、経済・社会の広範な分野について調査・分析を実施するほか、加盟国などに対し、具体的な政策提言を行っている。また、約30の委員会で行われる議論などを通じて、国際的なスタンダードやルールを形成している。日本は、1964年にOECDに加盟して以降、各種委員会での議論や、財政・人的な貢献を通じて、OECDの取組に積極的に関わってきている。 特集第12回世界貿易機関(WTO)閣僚会議 ─漁業補助金協定に関するWTO協定改正議定書の採択─ 6月にスイスのジュネーブで開催された第12回世界貿易機関(WTΟ)閣僚会議で、164の全加盟国・地域のコンセンサス(意見の一致)を得て、新たに漁業補助金協定をWTO協定に追加するための改正議定書が採択されました。 第12回WTO閣僚会議 (6月、スイス・ジュネーブ 写真提供:世界貿易機関) 漁業補助金協定は、違法・無報告・無規制(IUU:illegal, unreported and unregulated)漁業などへの補助金を禁止することで、海洋生物資源の持続可能な利用の実現を目指しています。これまでも、IUU漁業を効果的に抑止するには国際協力が必要との観点から、地域漁業管理機関(RFMO)や国連食糧農業機関(FAO)において様々な取組が行われてきています。日本が2017年に加入した違法漁業防止寄港国措置協定(PSMA)では、FAOの枠組みの下、寄港国による、IUU漁業を行う船舶に対する入港拒否、港の使用の拒否などが定められています。これに対し、漁業補助金協定は、各国の交付する漁業補助金について、IUU漁業につながる補助金の禁止、濫獲された資源の枯渇を助長する補助金の原則禁止などを規定しています。 2015年に採択された国連の持続可能な開発目標(SDGs)では、IUU漁業につながる補助金の撤廃が掲げられており、本協定の締結はこの目標の達成に寄与するものであるとともに、2017年に発効したWTO貿易円滑化協定以降初めて、WTOの全加盟国・地域が参加・交渉して作成された新しい協定となり、WTOのルール策定機能の健在を示したという点でも重要です。 WTO協定は、新しい協定については、加盟国・地域の3分の2が受諾した時に、当該加盟国・地域について効力が生じ、その後は、その他の加盟国・地域について、それぞれによる受諾の時に効力が生じることになっています。世界的な漁業資源管理の促進や海洋生物資源の持続可能な利用の実現に貢献することが期待される本協定の早期発効が望まれます。 (イ)2022年OECD閣僚理事会 2022年の閣僚理事会は、6月9日及び10日、議長国のイタリア、副議長国のメキシコ及びノルウェーの下、「我々が望む未来:次世代及び持続可能な移行に向けたより良い政策」をテーマにパリ(フランス)で議論が行われた。日本からは、山際大志郎経済財政政策担当大臣、三宅外務大臣政務官などが対面で出席し、三宅政務官から、ロシアによるウクライナ侵略は力による一方的な現状変更の試みであると厳しく非難すると述べた上で、OECDが「共通の価値」の下で結束して行動し続ける必要性を述べた。また、OECDのルールやスタンダードを非加盟国に普及していくことが重要で、特に、東南アジア諸国の新規加盟を実現していくことが重要であり、OECD東京センターが地域のハブとなることを期待すると発言した。 閣僚会合の最後には、ロシアによるウクライナ侵略、気候変動などの課題について各国の立場や見解を踏まえた「閣僚声明」が採択された。閣僚声明では、ロシアによるウクライナ侵略への非難、経済的威圧への対抗、非加盟国によるOECDのスタンダードの遵守の促進、炭素削減アプローチに関する包摂的フォーラム(IFCMA)の立上げ、サプライチェーンに関する国際協力の強化、コーポレート・ガバナンス及び責任ある企業行動(RBC)の強化、ガバメント・アクセスに関する原則策定や「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」に関する協力の継続なども盛り込まれた。 (ウ)各分野での取組 OECDは、G20、G7、APECなど、ほかの国際フォーラムとの連携を深めており、国際課税制度の見直しの議論を主導するほか、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」の普及・実施や鉄鋼の過剰生産能力問題への対処、コーポレート・ガバナンスに関する原則の改定、援助協調などの取組を行っている。 (エ)東南アジア地域へのアウトリーチ OECDは、世界経済の成長センターとしての東南アジアの重要性の高まりを受け、東南アジア地域プログラム(SEARP)を通じた政策対話などを行い、同地域との関係強化に取り組んでいる。2月には、SEARP閣僚会合が韓国・ソウルにおいてハイブリッド形式で開催され、日本からは、林外務大臣がビデオメッセージを発出した。10月にはハノイ(ベトナム)で開催されたOECD東南アジア閣僚フォーラムに髙木啓外務大臣政務官が対面で出席し、OECDと東南アジアとの橋渡し役として、日本は引き続き、東南アジア各国の取組を支援していくと述べた。日本は今後も、OECD東京センターを活用しながら、同地域からの将来的な加盟を後押ししていく。 (オ)財政的・人的貢献 2022年現在、日本は、OECDの本体予算(分担金)の9.2%(米国(19.9%)に次ぎ全加盟国中第2位)を負担している。また日本は代々事務次長(4ポストあり)の1ポストを輩出しているほか(現在は武内良樹事務次長)、事務局には2021年末時点で85人の邦人職員が勤務している。 (3)知的財産の保護 知的財産保護の強化は、技術革新の促進、ひいては経済の発展にとって極めて重要である。日本は、APEC、WTO(TRIPS)7、世界知的所有権機関(WIPO)8などで多国間の議論に積極的に参画し、日本の知的財産が海外で適切に保護され、活用されるための環境整備を行っている。EPAなどでも、知的財産に関する規定を設け、知的財産の十分で効果的な保護が達成されるよう努めており、TPP11協定、日EU・EPA、RCEP協定にも、知的財産の保護と利用の推進を図る内容が規定されている。また、海外で模倣品・海賊版被害など知的財産についての問題に直面する日本企業を迅速かつ効果的に支援することを目的として、ほぼ全ての在外公館で知的財産担当官を指名し、日本企業への助言や相手国政府への照会、働きかけなどを行っている。さらに、知的財産担当官会議を地域ごとに毎年開催し、各国における被害や在外公館の対応状況の把握、適切な体制構築に関する意見交換やベスト・プラクティスの共有を行い、知的財産権侵害への対応の強化を行っている。2022年は中南米(3月)及び中国(11月)を対象に行った。 3 EPA:Economic Partnership Agreement, FTA:Free Trade Agreement 4 財務省「直接投資残高地域別統計(資産)(全地域ベース)」(2021年末時点) 5 詳細については外務省ホームページ参照:https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ds/page24_000710.html 6 インドによる鉄鋼製品に対するセーフガード措置、韓国による日本製ステンレス棒鋼に対するダンピング防止措置、韓国による自国造船業に対する支援措置、インドによるICT製品に対する関税上の取扱い、日本の韓国向け輸出管理の運用見直し及び中国による日本製ステンレス製品に対するダンピング防止措置 7 TRIPS:Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定) 8 WIPO:World Intellectual Property Organization