第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 第3節 経済外交 1 経済外交の概観 国際社会においては、政治・経済・軍事の各分野における国家間の競争が顕在化する中、パワーバランスの変化がより加速化・複雑化し、既存の国際秩序をめぐる不確実性が高まっている。新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)は、経済活動の抑制を通じて世界的に急速な景気の悪化をもたらした。その後、新型コロナの影響の緩和に伴い、世界経済全体としては緩やかな持ち直しの動きが見られるものの、足元では需要回復やウクライナ情勢の影響なども相まって、物価の高騰が進行している。先行きについても、金融資本市場の変動を始め、新型コロナ対策で膨らんだ政府債務、海運を始めとする物流コスト増、エネルギーやコモディティ価格の上昇などにより、依然として不透明感が漂っている。 こうした中、日本は、経済連携による貿易自由化とルール作りの努力を継続した。2022年1月には地域的な包括的経済連携(RCEP)1協定が発効した。多角的貿易体制の礎である世界貿易機関(WTO)2については、これまでに3度にわたり延期されてきた第12回閣僚会議が6月に開催され、約6年半ぶりとなる閣僚宣言の採択に合意し、新型コロナ対応や漁業補助金協定交渉を始めとする重要なテーマについて成果を出すことに成功した。また、有志国の取組である電子商取引交渉については、共同議長国である日本、オーストラリア及びシンガポールが、世界的なデジタル貿易ルールの合意に向けて、引き続きコミットしていく意思を示す、共同議長国閣僚声明を発出した。 以上の認識も踏まえ、日本は、(1)経済連携協定の推進や多角的貿易体制の維持・強化といった、自由で開かれた国際経済システムを強化するためのルール作りや国際機関における取組、(2)官民連携の推進による日本企業の海外展開支援及び(3)資源外交とインバウンドの促進の三つの側面を軸に、外交の重点分野の一つである経済外交の推進を加速するため取組を進めてきた。 1 RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership 2 WTO:World Trade Organization