第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 2 日米安全保障(安保)体制 (1)日米安保総論 日本を取り巻く安全保障環境がこれまで以上に急速に厳しさを増している中、日米安保体制を強化し、日米同盟の抑止力・対処力を向上させていくことは、日本の平和と安全のみならず、インド太平洋地域の平和と安定にとって不可欠である。日米両国は、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)及び平和安全法制の下で、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化しており、ミサイル防衛、サイバー、宇宙、海洋安全保障などの幅広い分野における協力を拡大・強化している。同時に、これらの取組を進めつつ、普天間飛行場の移設や在沖縄米海兵隊約9,000人のグアムなどへの国外移転を始めとする在日米軍再編についても、沖縄を始めとする地元の負担を軽減するため、日米で緊密に連携して取り組んできている。 (2)日米安保各論 ア 日米安保・防衛協力の概観 2015年に策定された日米防衛協力のための指針(ガイドライン)は、日米両国の防衛協力について、一般的な大枠及び政策的な方向性を見直し、更新したものである。同ガイドラインの下で設置された同盟調整メカニズム(ACM)などを通じて、日米両国は緊密な情報共有及び共通情勢認識の構築を行い、平時から緊急事態まで「切れ目のない」対応と取組を重ねてきている。バイデン政権は発足直後から現在まで、日米同盟を重視する姿勢を鮮明にしている。 1月、日米「2+2」が初めてテレビ会議形式で開催され、日本側からは、林外務大臣及び岸信夫防衛大臣が、米国側からは、ブリンケン国務長官及びオースティン国防長官がそれぞれ出席した。日米同盟をいかに進化させ、現在、そして将来の挑戦に効果的に対処し続けるかについて率直かつ重要な議論を行うことができ、大きく以下の3点の成果があった。第一に、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」へのコミットメントを確認し、ルールに基づく秩序を損なう中国の取組や北朝鮮の核・ミサイル活動を含め、変化する地域の戦略環境に関する突っ込んだ議論を行い、認識をすり合わせた。第二に、日米同盟の抑止力・対処力を抜本的に強化するための具体的な議論を進めることを確認した。さらに、宇宙・サイバー分野や新興技術を含め、日米同盟の優位性を将来にわたって維持するために投資を行っていくことにつき一致した。第三に、日米同盟の抑止力を維持しつつ、沖縄を始めとする地元の負担軽減を図る観点から、在日米軍再編を着実に推進することや適時の情報共有といった連携の重要性について一致した。 日米「2+2」(2023年1月、米国・ワシントンD.C.) 2023年1月には、日米両国の戦略文書発表後のタイミングを捉え、米国ワシントンD.C.で「2+2」が行われ、日本側からは、林外務大臣及び浜田靖一防衛大臣が、米国側からは、ブリンケン国務長官及びオースティン国防長官がそれぞれ出席した。それぞれの国家安全保障戦略及び国家防衛戦略の公表を歓迎し、両国のビジョン、優先事項及び目標がかつてないほど整合していることを確認した。また、大きく以下3点の成果があった。第一に、最大の戦略的挑戦である、自らの利益のために国際秩序を作り変えることを目指す中国の外交政策に基づく行動や北朝鮮の前例のない数の弾道ミサイル発射、ロシアによるウクライナ侵略などの地域の戦略環境に関する認識について丁寧なすり合わせを行った。第二に、一層厳しさを増す安全保障環境における日米同盟の抑止力・対処力強化に向けた今後の取組を確認した。米国による日本を含むインド太平洋地域における戦力態勢を最適化するとの決意を歓迎し、在日米軍再編計画の再調整を含め、日本における米国の戦力態勢を一層最適化するための方策について緊密な協議を継続することを決定した。また、拡大抑止1を議題の一つとして閣僚レベルで時間を割いて突っ込んだ議論を行い、米国の核を含むあらゆる種類の能力に裏打ちされた、日本防衛に対する米国の力強いコミットメントを再確認した。さらに、宇宙への、宇宙からの又は宇宙における攻撃が、一定の場合には、日米安全保障条約第5条の発動につながることがあり得ることを確認した。第三に、沖縄を始めとする地元の負担軽減を図ることの重要性について改めて確認し、林外務大臣から、地元への影響に最大限配慮した安全な運用、早期の通報を含む事件・事故での適切な対応、環境問題などについても米国側に改めて要請した。その上で、同月に行われた日米首脳会談では、バイデン大統領から、日本の防衛に対する揺るぎないコミットメントが改めて表明された。また、両首脳は、日米両国の国家安全保障戦略が軌を一にしていることを歓迎し、日米両国の戦略を実施するに当たって相乗効果を生み出すようにすることを含め、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくとの決意を新たにした。さらに、「2+2」でのやり取りも踏まえつつ、安全保障分野での日米協力に関する具体的協議を更に深化させるよう指示した。 また、2022年も米国国防当局高官との人的往来が継続的に行われた。8月にケンドール米国空軍長官、9月にバーガー米国海兵隊総司令官、フリン米国太平洋陸軍司令官、10月にアクイリノ米国インド太平洋軍司令官、12月にはジャーニー米国太平洋海兵隊司令官が相次いで訪日した。また4月、林外務大臣は、米国側からの招待を受け、エマニュエル駐日米国大使とともに米空母「エイブラハム・リンカーン」を視察した。加えて、6月には米国で、11月には東京で日米拡大抑止協議を実施した。本協議は2010年に設立され、日米安全保障・防衛協力の一つとして、地域の安全保障情勢、日米同盟の防衛態勢、核及びミサイル防衛政策並びに軍備管理について意見交換した上で、日米同盟の中核にある拡大抑止を維持し、強化する方策について率直な議論を行い、相互理解を深める場として機能している。本協議の一部として、協議参加者は、6月にはオハイオ級潜水艦「メリーランド」を、11月には日米共同統合演習「キーン・ソード23」を視察した。このような多層的な取組を通じ、米国との間で安全保障・防衛協力を引き続き推進し、同盟の抑止力・対処力を一層強化していく。 イ ミサイル防衛 日本は、2006年以降実施している能力向上型迎撃ミサイル(SM-3ブロックIIA)の日米共同開発及び共同生産の着実な実施を始め、米国との協力を継続的に行いつつ、弾道ミサイル防衛(BMD)システムの着実な整備に努めており、いかなる事態においても日本に対する弾道ミサイルの脅威から国民の生命・財産を守るため、万全の態勢をとっている。また、極超音速兵器を含む新たな経空脅威への効果的な対処を図るための取組も進めており、2023年1月の日米「2+2」においては、極超音速技術に対抗するための共同分析の進展を踏まえ、先進素材及び極超音速環境での試験を含む重要な要素に関する共同研究を開始することや、将来のインターセプターの共同開発の可能性について議論を開始することで一致した。 ウ サイバー 2023年1月の日米「2+2」では、更に高度化・常続化するサイバー脅威に対抗するため、協力を強化することで一致した。日米両国は、政府横断的な取組の必要性を踏まえ、日米サイバー対話などの枠組みを通じ両国の関係者が幅広い分野における日米協力について議論し、日本のサイバーセキュリティ戦略や米国のサイバー政策も踏まえつつ、両国間の政策面での協調や体制及び能力の強化、インシデント情報の交換などを推進し、サイバーに関する協力を引き続き行っている。 エ 宇宙 2023年1月の日米「2+2」では、宇宙関連能力に係る協力の深化にコミットするとともに、宇宙への、宇宙からの又は宇宙における攻撃が、同盟の安全に対する明確な挑戦であると考え、一定の場合には、当該攻撃が、日米安全保障条約第5条の発動につながることがあり得ることを確認した。また、同月の日米首脳会談では、宇宙分野での日米協力を一層推進していくことで一致した。日米両国は、宇宙領域把握情報などの相互提供、ホステッド・ペイロード(人工衛星へのミッション機器の相乗り)協力など、安全保障分野での宇宙協力を引き続き進めている。 オ 情報保全 情報保全は、同盟関係における協力を進める上で決定的に重要な役割を果たすものである。こうした観点から、5月の日米首脳会談や2023年1月の日米「2+2」でもその重要性が確認されたように、日米両国は、情報保全に係る協力を強化するため、引き続き協議を行っている。 (3)在日米軍再編 政府は、上記のような取組を進めながら、普天間飛行場の辺野古(へのこ)移設を含む在日米軍再編を着実に進め、沖縄を始めとする地元の負担軽減に引き続き全力で取り組んでいく。 2022年1月の日米「2+2」共同発表においても、このような在日米軍再編について、二国間の取組を加速化させる重要性を確認した。2023年1月の「2+2」では、日本の南西諸島の防衛のためのものを含め、向上された運用構想及び強化された能力に基づいて同盟の戦力態勢を最適化する必要性を確認した。また、日本における米軍の前方態勢が、同盟の抑止力及び対処力を強化するため、強化された情報収集・警戒監視・偵察能力、対艦能力及び輸送力を備えた、より多面的な能力を有し、より強靱(じん)性があり、そして、より機動的な戦力を配置することで向上されるべきであることを確認し、2012年4月の日米「2+2」で調整された再編の実施のための日米ロードマップは再調整され、第3海兵師団司令部及び第12海兵連隊は沖縄に残留し、第12海兵連隊は2025年までに第12海兵沿岸連隊に改編されることを確認した。この取組は、地元の負担に最大限配慮した上で、2012年の再編計画の基本的な原則を維持しつつ進められる。また、日米双方は、沖縄における移設先施設の建設及び土地返還並びに2024年に開始される米海兵隊要員の沖縄からグアムへの移転を含む、米軍再編に係る二国間の取組を加速化させる重要性を確認した。 特に、沖縄における土地返還の取組については、2017年12月の北部訓練場の過半(約4,000ヘクタール)の引渡し以降も、2013年4月の「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」に基づいて各種返還案件が進められ、2020年3月のキャンプ瑞慶覧(ずけらん)の施設技術部地区の一部返還により、統合計画の中で「速やかに返還」とされている全ての区域の返還が実現した。また、2020年12月には普天間飛行場の佐真下(さました)ゲート付近の土地の返還が行われたほか、2021年5月には牧港補給地区(国道58号線沿いの土地)のランドリー工場地区の返還が実現した。沖縄の本土復帰から50周年の節目となった2022年5月には、キャンプ瑞慶覧のロウワー・プラザ住宅地区について、返還に先立って、緑地公園として地元住民などの利用を可能にすることに日米間で合意した。2023年度中の利用開始に向けて必要な準備を進めている。 ■ 米軍再編の全体像 (4)「同盟強靱(じん)化予算(在日米軍駐留経費負担)」(HNS)2 日本は、日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、在日米軍の効果的な活動を確保するため、日米地位協定で定められた範囲内で、提供施設の整備(FIP)費などを負担している。このほか、日米地位協定の特則を定める特別協定を締結した上で在日米軍従業員の労務費、光熱水料等及び訓練移転費を負担してきた。1月7日に署名、4月1日に発効した新たな特別協定においては、これらに加え、在日米軍の即応性の確保のみならず、自衛隊と米軍の相互運用性の向上にも資する訓練資機材の調達に関連する経費を負担することとなった。日本政府は、日米地位協定及び新たな特別協定に基づき、2022年度から2026年度まで、在日米軍駐留経費(HNS)を負担することとなっている。 なお、新たな特別協定に関する協議において、日本側の経費を用いて日米同盟を一層強化する基盤を構築することで一致したことを受け、日本側としては「在日米軍駐留経費負担」の通称を「同盟強靱化予算」とすることとした。 新たな特別協定の対象期間(2022年4月1日から2027年3月31日)における「同盟強靱化予算」は年平均で約2,110億円となる。 (5)在日米軍の駐留に関する諸問題 日米安保体制の円滑かつ効果的な運用とその要である在日米軍の安定的な駐留の確保のためには、在日米軍の活動に伴う周辺の住民への負担を軽減し、米軍の駐留に関する住民の理解と支持を得ることが重要である。日本政府は2015年の環境補足協定や、2017年の軍属補足協定の着実な実施を含め、米軍関係者による事件・事故の防止・対応、米軍機による騒音の軽減、在日米軍の施設・区域における環境問題などの具体的な問題について、地元の要望を踏まえ、改善に向けて最大限の努力を払ってきている。例えば、9月に厚木飛行場で、大雨により有機フッ素化合物の一種であるPFOSなどを含む泡消火薬剤が放出され、当該薬剤を含む水の流出が発生した際には、環境補足協定に基づく立入りを行い、現場の確認などを実施した。また新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)などの感染症を含む保健・衛生上の課題については、1月28日、日米合同委員会の下に設置されていた検疫部会を改組し、これを格上げする形で、日米双方の保健当局も参加する「検疫・保健分科委員会」を新たに設立し、日米間で緊密に連携している。引き続き、感染防止対策の徹底及び地元の不安解消に向けて、日米間の連携をより一層強化していく。 沖縄の高校生・大学生が同盟国・米国のありのままの姿や国際社会における日本の役割を目の当たりにする機会を設け、日米の相互理解の増進を図ることを目的とする「アメリカで沖縄の未来を考える」(TOFU:Think of Okinawa's Future in the United States)プログラムについては、新型コロナの影響により、2021年度も3月に東京派遣プログラム3の形で実施した。また、2020年度から、米国防省教育部(DoDEA)と共催している、日米の中高生が文化・教育交流を行う「日米交流の促進・相互理解の増進のためのプロジェクト」についても、2022年度には規模を拡大して実施している(189ページ コラム参照)。 コラム日米交流の促進・相互理解の増進のためのプロジェクト 外務省は、2020年から米国防省教育部(DoDEA)との共催で、在日米軍施設・区域が所在する地域において、地元の中高生と米軍人の子女との交流プログラムを実施しています。このプログラムは、日米の中高生が文化・教育交流を通じて相互理解を深めるとともに、国際社会で活躍する人材を育成することを目的とするものです。 2022年は岩国飛行場(山口県)、キャンプ桑江(沖縄県)、佐世保海軍施設(長崎県)、三沢飛行場(青森県)及びキャンプ座間(神奈川県)で事業を実施しました。このコラムでは、沖縄県のキャンプ桑江で実施されたプログラムに参加した日米両生徒の感想を紹介します。 ●レスター中学校 ユイナ・ポープさん 今回このプログラムに参加することができ、嬉(うれ)しく思います。参加学生間では、会話での意思疎通にはあまり苦労しなかったものの、今回のプログラムを通じて、言語だけが乗り越えなければいけない壁ではないことを実感しました。今回の経験を通じて、これまでに気が付かなかった小さな文化の違いを学ぶことができました。初めのうちはコミュニケーションの取り方がまるで壁を隔てたように感じましたが、同じグループの仲間たちと一緒に時間を過ごすうちに、私たちは友達になれるのだということに気が付きました。今回のプログラム自体は短い時間でしたが、今回得た経験は、これからもずっと私の物の見方に影響を与え続けると思います。 ●琉球大学教育学部附属中学校 知念杏幸(ちねんあみ)さん 私は、10月1日、2日にこのプログラムに参加し、基地内のレスター中学校の生徒たちと交流をしてきました。交流会では、お互いの文化の特徴を知るために、日米の中学生を混ぜた四つのグループで、各国の特徴を演じたミニ劇やご当地キャラクター作りをしました。ミニ劇の中の一つに、日本のトイレに入ったとき、ボタンが沢山ありすぎてどれが流すボタンか分からなくて困ったという演技を見て驚きました。また校内見学では、図書室が私たちの学校の4倍くらいの大きさもあり、様々な形のリラックスできるソファーが多くあったり、3Dプリンターで物創りができる部屋や演劇の部屋があったりなど、日本の学校とは大きく違うことを感じました。日本にもアメリカにもそれぞれに良いところが多くあると感じました。今回のことをきっかけに今後も日本とアメリカの生徒同士の交流を増やし、お互いの文化の良いところを取り入れて理解し合える交流会ができたらいいと思いました。 学生と交流する吉川ゆうみ外務大臣政務官と松川正則宜野湾市長(10月2日、沖縄県宜野湾市) グループプレゼンテーションを行う学生たち (10月2日、沖縄県宜野湾市) (6)朝鮮国連軍と在日米軍 1950年6月の朝鮮戦争の勃発に伴い、同月の国連安保理決議第83号の勧告に基づき、同年7月に朝鮮国連軍が創設された。1953年7月の休戦協定成立を経た後、1957年7月に朝鮮国連軍司令部が韓国・ソウルに移されたことに伴い、日本に朝鮮国連軍後方司令部が設立された。現在、同後方司令部は、横田飛行場に設置され、司令官始め軍人4人の常駐ポストが存在しているほか、9か国の駐在武官が朝鮮国連軍連絡将校として在京各国大使館に常駐している。朝鮮国連軍は、日本との国連軍地位協定第5条に基づき、朝鮮国連軍に対して兵たん上の援助を与えるため必要な最小限度の在日米軍施設・区域を使用できる。現在、朝鮮国連軍には、キャンプ座間、横須賀海軍施設、佐世保海軍施設、横田飛行場、嘉手納(かでな)飛行場、普天間飛行場及びホワイトビーチ地区の7か所の使用が認められている。 2019年7月には、合同会議が日本政府と国連軍との間で開催され、朝鮮半島情勢について議論し、日本における国連軍に係る事件・事故発生時における通報手続に合意した。引き続き国連軍と緊密に連携していく。 1 ある国が有する抑止力をその同盟国などにも提供すること 2 HNS:Host Nation Support 3 沖縄から参加者を東京に招へいし、日米関係に携わる実務者や国際社会で活躍する有識者などへの面会(オンライン含む。)及び各種視察を実施した。