第2章 地域別に見た外交 第8節 アフリカ 1 概観 アフリカは、54か国に約14億人の人口を擁し、世界の成長の原動力となり得る高い潜在性と豊富な天然資源により国際社会の関心を集めている。同時に、アフリカにおいては、紛争や政治的混乱、テロ、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)などが平和と安定を脅かし、持続可能な成長を阻害しており、依然として深刻な貧困を含む開発課題を抱えている。 新型コロナは、2022年においても、アフリカの経済・社会に引き続き影響を及ぼしているが、1日の新規感染者数はピーク時の28万人以上(2021年12月時点)から5,000人以下まで減少し(2022年12月時点)、アフリカ全体におけるワクチン接種率は2021年同時期の11%から25%(2022年12月時点)まで増加するなど、進展も見られた。 2022年も、アフリカの複数の地域において、不安定な政治・治安情勢が見られる年となった。サヘル地域においては、2020年のマリ、2021年のギニアに続き、2022年にはブルキナファソにおいて武力による政権奪取が2度発生した。大湖地域においては、コンゴ民主共和国とルワンダとの間での緊張が高まりを見せている。「アフリカの角」地域においては、エチオピア政府とティグライ人民解放戦線(TPLF)との間の紛争が継続していたが、11月に和平合意が発表され、その着実な履行が望まれている。 また、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵略がアフリカの政治・社会情勢に与える影響も甚大である。アフリカは、気候変動、新型コロナ、紛争などにより食糧不足に直面していたが、ウクライナ情勢は食料及び燃料の価格高騰を更に悪化させ、約3.5億人に深刻な食料危機をもたらしている。 8月にチュニジアで開催した第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)では、これらのアフリカが抱える課題を念頭に、日本がアフリカと「共に成長するパートナー」として、アフリカ自身が目指す強靱(じん)なアフリカを実現するための方策について議論を行った。TICAD 8には、20人の首脳級を含むアフリカ48か国に加え、日本・アフリカ連合(AU)友好議員連盟、国際機関、民間企業、市民社会などが参加し、「経済」、「社会」、「平和と安定」の三つの柱の下、アフリカの開発に関する議論を行った(167ページ 特集参照)。また、「人」に着目した日本らしいアプローチの下、「人への投資」や「成長の質」を重視し、今後3年間で官民総額300億ドル規模の資金を投入していくことを表明した。一つ目の柱の「経済」では、新型コロナやウクライナ情勢を受け、深刻な影響を受けるアフリカの経済・社会に対し、民間投資の促進、公正で透明な開発金融の確保、グリーン経済の促進、食料安全保障の強化を通じ、強靱なアフリカ経済の実現に向け、貢献していくと発表した。また、不公正・不透明な開発金融により、アフリカの開発が妨げられてはならないとの認識で一致した。 二つ目の「社会」では、アフリカの成長を堅実なものとする上でも、質の高い生活環境を整えることが必須であり、保健、教育、環境に重点的に取り組んでいくと発表した。また、新型コロナなどの感染症対策や気候変動など、人類共通の課題に対して、国際社会が連帯して立ち向かう必要性を改めてアフリカ諸国と共有した。 三つ目の「平和と安定」では、司法・行政分野の制度構築・ガバナンス強化を通じた法の支配の推進や、憲法秩序への回復・民主主義の定着に向けたアフリカ自身の取組を力強く後押しする考えを発表し、行政サービス改善に向けた取組を含むコミュニティ基盤強化への貢献も表明した。 TICADフォローアップを念頭に、10月には、山田賢司外務副大臣がダカール(セネガル)で行われた「第8回アフリカの平和と安全に関するダカール国際フォーラム」に出席した。また、12月には、サル・セネガル大統領が実務訪問賓客として訪日した。 特集第8回アフリカ開発会議(TICAD 8) 8月27日から28日までの2日間、第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)(注)をチュニジアの首都チュニスで開催しました。会議には、岸田総理大臣及び林外務大臣のほか、首脳級20人を含むアフリカ48か国の代表などが参加しました。岸田総理大臣はオンラインやビデオメッセージ形式で全てのセッションにおいて発言し、林外務大臣は、総理大臣特使として対面で全てのセッションに参加しました。 TICAD 8の開会式でスピーチを行う岸田総理大臣 (8月27日、チュニジア・チュニス) TICAD 8では、「経済」、「社会」、「平和と安定」の三つの柱の下でそれぞれ全体会合を開催したほか、ビジネスフォーラム及び第4回野口英世アフリカ賞授賞式を実施しました(三つの全体会合については166ページ 1.概観参照)。 第4回野口英世アフリカ賞授賞式の集合写真 (8月28日、チュニジア・チュニス) ビジネスフォーラムでは、日本企業、アフリカ企業からそれぞれ約100人、アフリカ経済閣僚、開発金融機関、日本の公的機関などからの参加者も合わせ約300人が参加し、日本とアフリカとのビジネス関係強化を議論しました。 第4回野口英世アフリカ賞授賞式においては、医学研究分野では、HIV/AIDSや新型コロナウイルス感染症などの感染症対策・治療に貢献した南アフリカのカリム博士夫妻が、医療活動分野では、寄生虫感染症撲滅に貢献した米国の「ギニア虫症撲滅プログラム」が、それぞれ受賞しました。 日本は、TICAD 8において、今後3年間で官民合わせて総額300億ドル規模の資金を投入し、グリーン成長、スタートアップ支援を含む投資促進、開発金融、保健・公衆衛生、人材育成、地域の安定化、食料危機対応・農業生産支援などの取組を行うことを表明しました(日本の取組については、254ページ 第3章第2節1(5)キ参照)。参加したアフリカ各国からは、日本のアフリカ開発への変わらぬコミットメントへの謝意が示されました。 TICAD 8の成果文書として、日・アフリカの首脳間で「チュニス宣言」を採択し、幅広い分野における今後の日・アフリカ協力について一致しました。ウクライナ情勢に対しても深刻な懸念を表明するとともに、国連憲章を含む国際法及び全ての国の主権と領土の一体性の尊重の原則の下での協働、国際法による紛争の平和的解決の追求を強調しています。 今回のTICAD 8において、岸田総理大臣は、サイード・チュニジア大統領、サル・セネガル大統領(アフリカ連合(AU)議長)、ファキ・アフリカ連合委員会(AUC)委員長(共催者)など、計10の国・国際機関の代表と、また、林外務大臣は、8人の首脳級を含む計21か国の代表と二国間会談を実施し、アフリカ諸国が抱える課題やアフリカを取り巻く複雑な国際情勢について議論を行いました。ロシアによるウクライナ侵略については、アフリカ諸国に対し、国際秩序の根幹を揺るがすものであり、国際社会で一致して対応していく必要があることを強調し、日本として、アフリカの食料安全保障強化に力強く取り組むことを伝達し、具体的支援を打ち出しました。また、開発金融については、透明で公正な開発金融の重要性について伝達し、問題意識の更なる共有を図り、透明・公正な開発金融のため共に取り組んでいくことを確認しました。 TICAD 8の2日間の議論においては、日・アフリカの関係者の間で様々な分野について、活発かつ双方向の議論を行い、今後のアフリカ開発の方針を打ち出すことができました。次回のTICAD 9は2025年に日本で行われます。TICAD 8で得られた推進力をいかし、今後の対アフリカ外交を一層推進していきます。 閉会式で議事進行を行う林外務大臣 (8月28日、チュニジア・チュニス) (注)TICAD:Tokyo International Conference on African Development