第2章 地域別に見た外交 3 欧州地域機関との協力及びアジア欧州会合(ASEM) (1)北大西洋条約機構(NATO)との協力 NATO8は加盟30か国の集団防衛を目的とする組織であり、欧米の加盟30か国の防衛のほか、治安維持活動、テロ対策など、加盟国の領土及び国民の安全保障上の直接の脅威となり得る域外の危機管理や、域外国・機関との協力による協調的安全保障に取り組んでいる。 2月からのロシアによるウクライナ侵略により、中立政策を掲げていたフィンランドとスウェーデンがNATO加盟申請を行うなど、欧州の安全保障環境は変化している。また、既存の国際秩序が重大な挑戦を受けている中、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識の下、NATOによるインド太平洋地域への関心が高まり、日・NATO間協力が一層重要性になっている(130ページ 特集参照)。 このような状況において、4月に開催されたNATO外相会合には、林外務大臣が日本の外務大臣として史上初めて出席し、力による一方的な現状変更はどの地域においても許されず、FOIPの実現のため、NATOと日本を含むアジア太平洋のパートナーとの連携を強化していきたいと述べた。 また、6月に開催されたNATO首脳会合では、岸田総理大臣が日本の総理大臣として史上初めて出席し、岸田総理大臣から、NATOのインド太平洋地域への関与拡大を歓迎し、サイバー、新興技術、海洋安全保障といった分野での協力を進展していきたいと発言した。同首脳会合で採択されたNATOの新たな戦略概念においては、インド太平洋は欧州・大西洋の安全保障に直接影響し得る地域であり、NATOとして、地域横断的な挑戦や共通の安全保障上の関心に応えるため対話を強化することが明記された。 2023年1月には、6年ぶりにストルテンベルグNATO事務総長が訪日し、岸田総理大臣との間で共同声明を発出し、現下の安全保障環境を踏まえて日・NATO協力を更なる高みに引き上げていくことを確認した。また、林外務大臣との会談では、インド太平洋地域の情勢について意見交換を行い、日・NATO間で緊密に連携することで一致した。 日本とNATOは、国別パートナーシップ協力計画(IPCP)(2014年策定、2018年5月及び2020年6月に改訂)に基づき具体的な協力を進めてきており、NATOのサイバー演習への参加や、NATO本部への女性自衛官の派遣、「平和のためのパートナーシップ(PfP)信託基金」などへの拠出を通じた貢献などを行ってきているが、6月の岸田総理大臣とストルテンベルグNATO事務総長の会談においては、IPCPを新時代にふさわしいものにアップグレードし新たな協力文書の早期合意に向けて作業を加速することが確認された。 (2)欧州安全保障協力機構(OSCE)との協力 OSCE9は、欧州、中央アジア・コーカサス、北米地域の57か国が加盟し、包括的アプローチにより紛争予防、危機管理、紛争後の復興・再建などを通じて、加盟国間の相違を橋渡しし、信頼醸成を行う地域安全保障機構である。日本は、1992年以降、「協力のためのアジア・パートナー」としてOSCEと協力しており、アフガニスタン及び中央アジア諸国の国境管理強化によるテロ防止や税関職員の能力強化、選挙監視及び女性の社会進出支援プロジェクトなどへの支援を行っている。また、2月のロシアによるウクライナ侵略以前から、OSCEはウクライナの状況改善のため重要な役割を果たしており、日本はOSCE特別監視団(SMM)に財政支援及び専門家の派遣を行ってきた(専門家は2015年8月から断続的に派遣、2022年2月に派遣終了)。 2022年は日本とOSCEのパートナーシップ30年の節目であり、7月には日・OSCEパートナーシップ30周年を記念したアジア・パートナー・グループ会合が開催された。同会合には鈴木貴子外務副大臣がビデオ・メッセージを投稿し、国際社会が歴史的な岐路に立つ状況において、国際社会が連携して対処することの重要性について触れつつ、日本は引き続き平和構築の実現に取り組んでいくと述べた。さらに、日本は、OSCEの外相理事会に毎年出席してきており、12月にポーランドで開催された同理事会には武井俊輔外務副大臣が参加した。同理事会において武井副大臣は、日・OSCEパートナーシップ30周年を節目にウクライナを含むOSCE地域に対する日本の貢献を発信し、引き続きOSCEとの協力を継続すると述べた。 特集飛躍的に重要性の高まる日・NATO関係 2022年は日本と北大西洋条約機構(NATO)との関係の重要性が飛躍的に高まる歴史的な年となりました。 2月に開始されたロシアによるウクライナ侵略は欧州とインド太平洋の安全保障を切り離して考えることができないことを改めて示しました。 NATOは日本が重視する自由や民主主義といった基本的価値を共有し、法の支配に基づく国際秩序を守ろうとする同志国の集まりです。こうした国際情勢であるからこそ、NATOとの協力は大変重要です。4月にベルギーで開催されたNATO外相会合には、林外務大臣が招待を受け、日本の外務大臣として史上初めて出席しました。林外務大臣はそのスピーチの中で、法の支配に基づく国際秩序を確立するため、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けて、NATOとの連携を強化していきたいと述べ、NATO及びその加盟国などから強い賛同を得ました。 NATO外相会合でストルテンベルグNATO事務総長と握手を交わす林外務大臣(4月7日、ベルギー・ブリュッセル) 6月にスペインで開催されたNATO首脳会合には、岸田総理大臣が日本の総理大臣として初めて出席しました。岸田総理大臣は、スピーチの中で力による一方的な現状変更の試みに対して、国際社会が結束することの重要性に触れた上で、NATOのインド太平洋地域への関与拡大や、サイバー、新興技術、海洋安全保障といった分野での協力を進展していきたいと述べ、地理的に離れている日本とNATOが更に結束することの重要性について発言しました。また、この首脳会合で約12年ぶりに更新されたNATOの戦略概念において、インド太平洋地域との協力が初めて明記されました。NATO自身が、北大西洋・欧州の安全保障を確保する上でインド太平洋地域との協力が重要であると認識している表れと見られます。岸田総理大臣の出席に加え、NATO自身の考えが大きく変わったことからも、6月のNATO首脳会合は歴史的な会合であったと言えます。 NATO首脳会合パートナー国セッションに出席した岸田総理大臣(6月29日、スペイン・マドリード 写真提供:内閣広報室) さらに2023年1月には、6年ぶりにストルテンベルグNATO事務総長が訪日し、岸田総理大臣との間で共同声明を発出し、現下の安全保障環境を踏まえて日・NATO協力を更なる高みに引き上げていくことを確認しました。具体的には、サイバーなどでの協力を一層進展させること、さらに、安全保障の含む範囲が広がる中、重要・新興技術、宇宙、偽情報などの分野でも今後協力していく重要性を再確認しました。また、林外務大臣との会談では、インド太平洋地域の情勢について意見交換を行い、日・NATO間で緊密に連携することで一致しました。 ストルテンベルグNATO事務総長訪日の際に握手を交わす岸田総理大臣(2023年1月、東京 写真提供:内閣広報室) 日本は、FOIPの実現、さらには法の支配に基づく国際秩序の維持・強化のため、国際情勢においてその重要性が飛躍的に高まっている日・NATO関係を強化していきます。 (3)欧州評議会(CoE)との協力 CoE10は、民主主義、人権、法の支配の分野での国際基準の策定に重要な役割を果たす、欧州46か国が加盟する国際機関である。1996年に加盟したロシアは、ウクライナ侵略を受けて3月16日に除名された。日本は、1996年以来アジア唯一のオブザーバー国として専門的知見の提供及び会合開催協力により貢献しており、5月にはCoEが作成したサイバー犯罪条約第二追加議定書に署名した。さらに、世界初のAI条約の起草を目指す「AIに関する委員会(CAI)」の総会に参加したほか、11月の「世界民主主義フォーラム」で政策発信を行った。また、ペイチノビッチ=ブリッチ事務局長が12月に訪日し、国際女性会議WAW! 2022に参加した。 (4)アジア欧州会合(ASEM)における協力 ASEM11は、アジアと欧州との対話と協力を深める唯一のフォーラムとして、1996年に設立され、51か国・2機関を参加メンバーとして首脳会合、外相会合を始めとする各種閣僚会合及び各種セミナーの開催などを通じて、(1)政治、(2)経済及び(3)文化・社会その他を3本柱として活動している。 ASEMにおける唯一の常設機関であるアジア欧州財団(ASEF)12はシンガポールにあり、柱の一つである社会・文化分野の活動を担っている。 日本はASEFの感染症対策のための医療用個人防護具(PPE)及び抗ウイルス剤などの備蓄事業を支援し、ASEM参加国への備蓄物資の緊急輸送や、緊急対応能力構築のためのワークショップ及び公衆衛生ネットワーク事業の実施に協力しており、9月にはASEFの備蓄物資がモンゴルに提供されたほか、10月には英国で公衆衛生の危機におけるリスクコミュニケーションに関するハイレベル会合が開催された。また、日本の拠出金によるASEFの新型コロナなど感染症の感染拡大防止のための支援事業の下、世界保健機関(WHO)を通じて、ウクライナ及びウクライナ避難民を受け入れている周辺国(ASEM参加国のポーランド、ルーマニア、ハンガリー、スロバキア、チェコ及び非ASEM参加国モルドバ)に対し、感染症対策のための医薬品、医療用個人防護具及び医療機器などを提供した。 また、ASEFとの共催によるクラスルーム・ネットワーク会議(9月から12月)のオンライン形式での実施、ASEFへの拠出金の支出などを通じて、ASEMの活動に貢献した。 特集欧州諸国との安全保障・防衛協力 国際社会は今、パワーバランスの歴史的変化と地政学的競争の激化に直面しています。一部の国家が、独自の歴史観・価値観に基づき、既存の国際秩序を修正しようとする動きを見せている中で、基本的価値や原則を紐帯(ちゅうたい)として結び付く日本と欧州諸国が、地理的な距離を超えて、安全保障・防衛協力を推進していくことが重要となっています。 2021年には、フランスの練習艦隊「ジャンヌ・ダルク」、英国の空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群、ドイツのフリゲート「バイエルン」が日本に寄港し、二国間及び多国間の共同訓練が実施されるなど、インド太平洋における日本と欧州諸国の具体的な協力が進展しました。 2022年2月、ロシアによるウクライナへの侵略の開始は、国際社会に大きな衝撃を与えました。戦後の国際法秩序の中心にある武力不行使原則に、国連安保理常任理事国の一角を占めるロシアが明白な形で違反したことは、法の支配に基づく国際秩序への信頼を根底から揺るがすものとなりました。 力による一方的な現状変更の試みを前にして、日本及び欧州各国は、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であることを改めて強く認識するに至り、安全保障協力を一層強化する方向へと進みました。4月、林外務大臣が日本の外務大臣として初めて北大西洋条約機構(NATO)外相会合に、6月には岸田総理大臣が日本の総理大臣として史上初めてNATO首脳会合に出席し、NATO及びパートナー国・機関とグローバルな安全保障認識を共有し、具体的な協力を進めていくことで一致しました。10月、リトアニアとの間で戦略的パートナーシップに関する共同声明を発出して安全保障政策対話を立ち上げ、11月には第2回日独外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を開催し、自衛隊とドイツ連邦軍の具体的な協力の方向性について確認しました。12月、スウェーデンとの間で防衛装備品・技術移転協定に署名し、また、日本・英国・イタリアの3か国で次期戦闘機の共同開発を進めていくことに合意しました。この共同開発は、高度な防衛力及び技術的優位を加速させ、防衛協力、科学技術協力、統合されたサプライチェーンを強化させ、防衛産業基盤を一層強化する意義を持つものです。 日本政府が12月に発表した国家安全保障戦略においても、同盟国・同志国間のネットワークを重層的に構築し、またそれを拡大し、抑止力を強化していくために、欧州諸国、NATO、EUなどとの安全保障上の協力を強化していく方針が改めて示されました。 2023年1月、岸田総理大臣はフランス、イタリア及び英国を訪問し、各国首脳と会談を行いました。英国との間では、自衛隊と英国軍との間の共同訓練や災害救助などの協力活動を円滑にする日英部隊間協力円滑化協定(RAA)に署名しました。RAAは、より頻繁に、より大規模・複雑な協力活動を実施することに資する新たな法的基盤となるものです。また、日仏首脳会談では、両国のアセットの往来や日仏共同訓練など、実質的な協力が進展していることを歓迎し、両国の連携を深めていくことで一致しました。さらに、イタリアとの間では、日伊関係を「戦略的パートナー」に格上げすることで一致したほか、外務・防衛当局間の協議を立ち上げ、安全保障分野での連携を更に推進することを確認しました。同月末には6年ぶりに訪日したストルテンベルグNATO事務総長と岸田総理大臣との間で共同声明を発出し、日・NATO関係の強化を新たな高みに引き上げていくことで一致しました。 今後も、基本的価値を共有するパートナーとして、自由で開かれた安定的な国際秩序を維持・拡大するために、日本は、欧州諸国との安全保障・防衛協力を一層強化していきます。 日英部隊間協力円滑化協定署名式で握手を交わす岸田総理大臣とスナク英国首相(2023年1月11日、英国・ロンドン 写真提供:内閣広報室) ■ 欧州の主要な枠組み ■ その他の欧州地域 【北欧諸国】 アイスランド:12月、岸田総理大臣は国際女性会議WAW! 2022において基調講演を行うため訪日したヨハネソン大統領と会談し、北極分野や海洋生物資源の持続的な利用などに関して引き続き協力することを確認した。 スウェーデン:6月、NATO首脳会合出席のためスペインを訪問した岸田総理大臣は、アンデション首相と会談し、基本的価値を共有するパートナーであるスウェーデンとの関係を一層強化することを確認した。12月、日・スウェーデン防衛装備品・技術移転協定の署名及び外相電話会談が実施された。 デンマーク:4月、鈴木貴子外務副大臣は、訪日したラナ・フェロー諸島自治政府外相と会談を行い、日本政府とフェロー諸島自治政府との間の協力覚書に署名した。 ノルウェー:林外務大臣は、3月にヴィットフェルト外相とテレビ会談を、また9月に故安倍晋三国葬儀参列のため訪日した同外相と会談を行い、二国間関係の一層の発展のために協力の可能性を探っていくことで一致した。 フィンランド:5月、岸田総理大臣は、訪日したマリン首相と会談を行い、二国間関係及び地域情勢に関し意見交換をし、ワーキング・ホリデー協定に署名を行った。9月、林外務大臣は、故安倍晋三国葬儀参列のため訪日したハーヴィスト外相と会談を行った。 【ベネルクス三国】 オランダ:2月、林外務大臣は、フックストラ副首相兼外相と電話会談を実施した。さらに、7月及び11月、同副首相兼外相と会談を行い、FOIPの実現に向けた連携強化などを確認した。11月、3年ぶりとなる日本・オランダ平和交流事業を実施した。 ベルギー:12月、アストリッド王女殿下が経済ミッションを率いて訪日し、岸田総理大臣は、同王女殿下と会談を行った。林外務大臣は、4月にウィルメス外相と会談し、9月には新任のラビブ外相と電話及び対面で会談を実施した。12月にも同外相と会談し、FOIPの実現や地域情勢について連携していくことを確認した。 ルクセンブルク:ベッテル首相は、9月の故安倍晋三国葬儀参列に続き、10月にも訪日した。岸田総理大臣は、同首相と会談を行い、FOIPの実現や地域情勢について連携していくことを確認した。 【バルト三国】 エストニア:9月、岸田総理大臣は、故安倍晋三国葬儀参列のため訪日したラタス国会議長と会談を行った。10月、吉川ゆうみ外務大臣政務官がエストニアを訪問し、レインサル外相を表敬した。また、第3回日・バルト協力対話に出席し、日本とバルト三国との協力を引き続き推進することで一致した。 ラトビア:10月、吉川外務大臣政務官は、ラトビアを訪問し、リンケービッチ外相と会談を行い、日・NATO間の連携や二国間経済関係の強化で一致した。また、エスクロンス内相との間でワーキング・ホリデー協定の署名を行った。 リトアニア:6月、鈴木外務副大臣は訪日したランズベルギス外相と会談を行った。8月、林外務大臣は、ランズベルギス外相と電話会談を行った。10月、岸田総理大臣は訪日したシモニーテ首相と会談し、両首脳は日・リトアニア戦略的パートナーシップに関する共同声明を発出した。12月、林外務大臣は、日・リトアニア友好100周年の機会に、ランズベルギス外相との間で100周年を祝賀する書簡の交換を行った。 アイルランド:7月、岸田総理大臣は、訪日したマーティン首相と会談を行い、グリーンやデジタル分野における経済関係や人的交流の活性化など、二国間関係を更に発展させていくことで一致し、両首脳は首脳共同声明を発出した。 アンドラ:2023年1月、内閣改造が実施され、ウバック・フォン外相は留任となった。 サンマリノ:サンマリノの国家元首として、4月にミーナ執政とロンデッリ執政が就任し、10月にベルティ執政とチャヴァッタ執政が就任した。 バチカン:5月、岸田総理大臣はバチカンを訪問し、ローマ教皇フランシスコ台下に謁見し、パロリン国務長官と会談を行った。日・バチカン外交関係樹立80周年の節目に当たり、二国間関係の強化に加え、「核兵器のない世界」に向けた努力を含め人類共通の諸課題に対応するため協力することで一致した。 ポルトガル:6月、鈴木外務副大臣は、訪日したアンドレ副外務・国際協力担当相と会談した。7月、三宅伸吾外務大臣政務官が第2回国連海洋会議出席のためポルトガルを訪問し、同副外務・国際協力担当相と会談した。 マルタ:9月、林外務大臣は、国連総会の際にボージュ外務・欧州・貿易相と会談し、2023年から安保理非常任理事国を務める国同士、幅広い分野で協力を強化していくことで一致した。また同月、同外務・欧州・貿易相は故安倍晋三国葬儀参列のため訪日した。2023年度には、在マルタ兼勤駐在官事務所を新設する予定であり、同事務所の設置により、日マルタ間の一層緊密な関係の構築及び連携の推進に向けた環境が整備されることとなる。 モナコ:9月、ガメルダンジェ駐日大使が着任し、吉川外務大臣政務官を表敬した。 【V4】 日本とV4各国(スロバキア、チェコ、ポーランド、ハンガリー)との二国間関係は長い歴史があり、伝統的に良好である。ウクライナの近隣国であり自由、民主主義、法の支配や人権といった基本的価値や原則を共有するV4との連携は重要。5月に第11回「V4+日本」政策対話を開催し、幅広い分野での連携強化を確認した。 スロバキア(7月からV4議長国):7月にスイスで鈴木外務副大臣とブロツコヴァー外務・欧州問題副相との会談を行い、ウクライナ避難民支援や復興に関する枠組み作り、地域情勢において更なる連携を確認した。 チェコ:7月にスイスで鈴木外務副大臣がコザーク第一外務副相との会談し、9月の国連総会ハイレベル・ウィークの機会に林外務大臣がリパフスキー外相と会談を実施した。そのほか、同月のスコペチェク下院副議長の故安倍晋三国葬儀出席、11月のコザーク第一外務副相訪日など、2022年後半にEU議長国を務めたチェコと対面外交が活発化した。 ポーランド:※127ページ 第5節欧州2(7)ポーランド参照 ハンガリー:12月にグヤーシュ・ハンガリー首相府長官が訪日し、松野博一内閣官房長官及び林外務大臣と会談を実施した。ウクライナ情勢をめぐる対応や中国、北朝鮮などの地域情勢について意見交換を行い、法の支配に基づく国際秩序を維持していくことの重要性を確認した。 【西バルカン諸国】 西バルカン地域では、セルビア・コソボ間の緊張関係など、民族間の対立が依然として残っているものの、各国はEU加盟に向けた改革に取り組むなど、全体として、安定と発展に向けて進展した。「西バルカン協力イニシアティブ」(注)の一環で、西バルカン諸国政府により設立された西バルカン基金との協力事業として、3月に西バルカン各国からの参加者を得た「西バルカン地域内での寛容と相互尊重の文化の促進」に係る地域間会合を開催したほか、西バルカン地域青年協力機構との協力事業として、平和構築をテーマとするオンライン青年交流を実施した。 また、同イニシアティブの下、活発なハイレベルの対話が実現した。5月には、林外務大臣は、オスマニ・北マケドニア外相訪日時に会談を、9月には、国連総会ハイレベル・ウィークの機会にジャチカ・アルバニア欧州・外相と会談を実施した。9月の故安倍晋三国葬儀に参列のため訪日したクルティ・コソボ首相及びブルナビッチ・セルビア首相が訪日し、岸田総理大臣は、両首相とそれぞれ会談を実施した。 (注)2018年1月、安倍総理大臣が日本の総理大臣として初めてセルビアを訪問し、EU加盟を目指す西バルカン諸国(アルバニア、北マケドニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ及びモンテネグロ)との協力を進める「西バルカン協力イニシアティブ」を発表し、青年交流、経済交流などの分野で西バルカン地域全体との協力を促進した。 スロベニア:2022年に外交関係樹立30周年を迎え、3月には、岸田総理大臣とヤンシャ首相、及び林外務大臣とロガル外相との間で外交関係樹立を祝賀する記念書簡を交換したほか、林外務大臣とロガル外相との間で外相電話会談を実施した。 ルーマニア:2月に林外務大臣は、ドイツでのG7外相会合の際にアウレスク外相と会談を実施したほか、9月には、岸田総理大臣が故安倍晋三国葬儀に参列のため訪日したチウカ首相と首脳会談を実施した。 ブルガリア:日本の総理大臣による史上初のブルガリア訪問が実現した2018年以降、二国間協力は「西バルカン協力イニシアティブ」の下で新たな分野へと拡大しており、防災や中小企業振興などの分野でブルガリアとの協力による対西バルカン支援を推進している。 クロアチア:2023年の外交関係樹立30周年に向けて、経済分野を含む二国間関係の一層の進展が期待される中、11月には、日・クロアチア航空協定が実質合意に至った。 オーストリア:9月、社会保障協定締結に向けた当局間協議が政府間協議に格上げされたほか、12月には「将来の課題のための日・オーストリア委員会」第24回会合が対面形式としては3年ぶりに開催された。 スイス:4月、カシス大統領兼外相が訪日し、岸田総理大臣が首脳会談を、林外務大臣が外相会談を実施した。また、10月には在福岡スイス名誉領事館が新設されたほか、11月には日・スイス租税条約改正議定書が発効した。 ギリシャ:4月にデンディアス外相が訪日し、林外務大臣と会談を実施した。 キプロス:2022年、日・キプロスは外交関係樹立60周年を迎えた。故安倍晋三国葬儀にはデミトリウ国会議長が参列した。日・キプロス政務協議も行われ、様々なレベルでの交流が活性化した。 モルドバ:9月、故安倍晋三国葬儀のためガブリリツァ首相が訪日、また、12月に国際女性会議WAW! 2022参加のためサンドゥ大統領が訪日し、それぞれ岸田総理大臣との間で首脳会談を行った。 特集欧州への統合に向けて進むモルドバ 旧ソ連の国の一つであるモルドバは、東の国境をウクライナに、西の国境を北大西洋条約機構(NATO)及びEU加盟国であるルーマニアに接した国です。ソ連時代に公用語であったロシア語も広く通じますが、歴史的にはルーマニアとのつながりが強く、国語はルーマニア語です。旧ソ連の崩壊とともに独立国となりましたが、1989年の独立以来、世論は親ロシア派と親EU派との間で分断されてきました。2020年まで大統領を務めたドドン大統領は親ロシア派でしたが、同年11月に行われた大統領選挙で、親EU・反汚職を掲げたサンドゥ候補が勝利し、続いて行われた2021年7月の総選挙ではサンドゥ大統領が立ち上げた「行動と連帯」党が単独過半数を獲得しました。 日・モルドバ首脳会談 (12月3日、東京 写真提供:内閣広報室) サンドゥ大統領は2019年に首相を務めていましたが、親EU派の政党も一枚岩ではなく、その時は在任期間僅か5か月で退陣したため、大統領選挙及び総選挙の結果は、サンドゥ大統領が率いる親EU派にとって悲願の達成ともいえるものでした。 しかしながら、その後、サンドゥ大統領らは苦難に見舞われます。まずは新型コロナの影響による財政への負担増がありました。2022年2月に始まったロシアによる隣国ウクライナへの侵略で、それまで重要な収入源だったロシアへの出稼ぎ労働や、ロシア、ウクライナ市場への輸出が減少しました。また、モルドバは天然ガス輸入のほぼ100%をロシアに依存しています。ロシアとのガス契約は交渉難航の末に妥結したものの、ガス料金は9月時点で前年同期比6倍以上となっており、供給量も減少しています。モルドバの主要な発電所は、ロシア軍が駐留しモルドバ政府の実効支配が及ばないトランスニストリア地域にあり、同発電所からの電力供給も低減しています。さらに、人口の2割を超えるウクライナ避難民が大量に流入し、その結果、ロシアによるウクライナ侵略後、インフレ率は前年同期比30%を超えることになったのです。 このように、国内が困難に直面する中でも、モルドバ政府は欧州統合路線を堅持し、国際社会は同国への支援を次々と表明しています。日本も、ウクライナに加え、モルドバを含む周辺国に対し、ジャパン・プラットフォーム(JPF)を通じた日本のNGOによるものを含め、各種緊急人道支援を表明しました。モルドバに調査団を派遣し、各国の緊急医療チーム間の活動の調整や医療データ管理の支援、保健医療分野などのニーズの把握を行いました。その後、調査団の報告を踏まえて、避難民の流入による医療システムへの負担を軽減するため、10億円を限度とする医療分野の無償資金供与を決定しました。また、モルドバへの連帯を示すため、日本は、首都の呼称をロシア語に基づく「キシニョフ」から、ルーマニア語に基づく「キシナウ」に変更しました。 日本政府の避難民支援の一環としてWHOを通じた 医療機材の引渡し式(11月1日、モルドバ・キシナウ) 同国は2021年3月にウクライナに次いでEU加盟を申請、6月にウクライナと共に加盟候補国のステータスを得ています。しかし、EU加盟への道のりは平坦(たん)ではなく、実際の加盟までには10年以上を要している国もあります。 ウクライナに隣接し、歴史に翻弄(ろう)されるモルドバは、現在、民主主義、平和といった基本的価値に基づいて、EU加盟への道を歩み始めました。日本は責任ある国際社会の一員として、ロシアによるウクライナ侵略の影響を顕著な形で受けているモルドバへの支援に関与していくことが求められています。 8 NATO:North Atlantic Treaty Organization 詳細については外務省ホームページ参照 https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nato/index.html 9 OSCE:Organization for Security and Cooperation in Europe 10 CoE:Council of Europe 11 ASEM:Asia-Europe Meeting 12 ASEF:Asia-Europe Foundation