第2章 地域別に見た外交 第5節 欧州 1 概観 〈基本的価値や原則を共有する欧州との連携の重要性〉 欧州連合(EU)1及び欧州各国は、日本にとり、自由、民主主義、法の支配及び人権などの基本的価値や原則を共有する重要なパートナーである。ロシアによるウクライナ侵略を始めとして、既存の国際秩序が脅かされ、地政学的な競争が激化する中、また、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)対策や気候変動対策などの地球規模課題への対応において、国際的な協調が求められる中、EU及び欧州各国との連携の重要性は一層増している。 欧州各国は、EUを含む枠組みを通じて外交・安全保障、経済、財政などの幅広い分野で共通政策を採り、国際社会の規範形成過程において重要な役割を果たしている。また、言語、歴史、文化・芸術活動、有力メディアやシンクタンクなどを活用した発信力により、国際世論に対して影響力を有している。欧州との連携は、国際社会における日本の存在感や発信力を高める上で重要である。 〈ロシアによるウクライナ侵略と欧州〉 2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略を受け、対露制裁及びウクライナ支援が欧州にとって最も重要な課題の一つとなった。EU及びNATOの加盟国は一致してロシアを強く非難し、金融制裁、個人・団体の渡航禁止、輸出入の制限などの厳しい対露制裁を矢継ぎ早に発動した。また、ウクライナへの限りない連帯を表明し、軍事、人道から財政に至るまで国際的な支援を主導する姿勢を示し、これを随時実施している。また、東欧諸国を中心にウクライナ避難民が大量に流入したことを受け、直接の影響を受けるウクライナ周辺国への支援も実施されたほか、ポーランド、チェコ、スロベニアの首相によるキーウ訪問(3月)を皮切りに、欧州の首脳レベルによる連帯表明が相次いだ。 欧州各国は、これまでそれぞれエネルギーや経済面を中心にロシアとの深い相互依存関係にあったが、ドイツにおける完工済みのロシア産天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の認可手続停止の決定など、欧州各国はエネルギーのロシア依存を低下させる方向へと舵(かじ)を切ったほか、多くの欧州企業がロシアビジネスからの撤退を表明した。 EU・NATO加盟各国は紛争の直接の当事者とならないよう注意深く行動しつつ、戦力でロシアに劣るウクライナへの軍事支援を継続的に実施してきている。そのような中には、対戦車ミサイルや多連装式ロケットランチャーなどの現代的な装備も含まれた。2023年1月末には、ドイツが主力戦車「レオパルト2」供与の方針を決定するなど、更なる支援強化への動きがみられる。 〈重層的できめ細やかな対欧州外交〉 欧州では、ロシアによるウクライナ侵略への対応の中で、自由、民主主義、法の支配及び人権といった基本的価値や原則、また、法の支配・国際法の遵守などの重要性が一層認識される一方、欧州各国の多様性を踏まえ、各国の事情も踏まえた、きめ細かなアプローチが求められる。日本は、強く結束した欧州を支持するとともに、重層的かつきめ細やかな対欧州外交を実施している。2022年は、新型コロナの制約はありつつも要人往来が活発化し、テレビ会議や電話会談も活用することで欧州各国との緊密な連携を確認した。 特に、ミュンヘン安全保障会議(2月)やNATO外相会合(4月)及び同首脳会合(6月)、ドイツ議長下で開催されたG7エルマウ・サミット(6月)やG7外務大臣会合(5月及び11月)などへの岸田総理大臣及び林外務大臣の対面出席の機会を捉え、欧州各国との首脳会談や外相会談を行い、ウクライナ情勢への対応における連携の確認、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現や気候変動、新型コロナ対応などのグローバルな課題に関する協力や東アジア情勢に関する意見交換などを実施した。また、複雑化する国際情勢を受けて、2022年は欧州各国との安全保障・防衛協力が更に深化した年でもあった。1月にはオンラインで第6回日仏外務・防衛閣僚会合(「2+2」)の実施、5月には日英部隊間協力円滑化協定(RAA)の大枠合意、9月にはユーロファイターを含むドイツ軍用機の訪日、11月には第2回日独外務・防衛閣僚会合(「2+2」)の実施、12月にはスウェーデンとの防衛装備品・技術移転協定への署名及び日本・英国・イタリア3か国による次期戦闘機の共同開発への合意、そして2023年1月には岸田総理大臣による欧州訪問の際、日英RAAの署名や日伊関係の「戦略的パートナー」への格上げ、日伊間の外務・防衛当局間協議の立上げなどが実現した。 岸田総理大臣は、2022年の1年間で、ポーランド(3月)、スイス(4月)、イタリア、バチカン、英国及びフィンランド(5月)、スペイン及びスウェーデン(6月)アイルランド(7月)、英国(9月)並びにリトアニア及びルクセンブルク(10月)の首脳との間で対面で会談を実施するなど、欧州各国との具体的な連携を確認した。バルト三国との間では、10月に3年ぶりとなる第3回日・バルト協力対話を開催し、V42との間では、5月に東京において、対面では4年ぶりとなる第11回「V4+日本」政策対話を開催した。西バルカン諸国3との間では、3月に西バルカン各国からの参加者を得た「西バルカン地域内での寛容と相互尊重の文化の促進」に係る地域間会合を開催したほか、北マケドニア、アルバニア、コソボ、セルビアといった国々と首脳・閣僚級で会談を行った。 さらに、欧州から青年を招へいする人的・知的交流事業「MIRAI」や、講師派遣、欧州のシンクタンクとの連携といった対外発信事業を実施し、日本やアジアに関する正しい姿の発信や相互理解などを促進している。オンライン形式での交流を活用して、欧州各国・機関や有識者との間で、政治、安全保障、経済、ビジネス、科学技術、教育、文化、芸術など幅広い分野で、情報共有や意見交換を行い、欧州との関係強化に取り組んでいる。 1 EU:European Union 2 V4:スロバキア、チェコ、ポーランド、ハンガリー。詳細については「その他の欧州地域」136ページを参照 3 西バルカン諸国:アルバニア、北マケドニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ及びモンテネグロ