第2章 地域別に見た外交 3 中南米各国 (1)メキシコ 2018年12月に就任したロペス・オブラドール大統領は、政権発足以来、自由貿易を継続しながら、汚職撲滅、格差是正、治安改善などの内政を重視した政策を推進してきている。新型コロナの感染拡大時に移動や経済活動の制限を最小限に抑えたことにより、比較的早期に経済回復に転じたことから2022年に入っても引き続き国民からの高い支持率を維持している。 日本との関係では、近年経済関係が強化され、メキシコには中南米地域で最多の約1,300社の日系企業が進出している。2月には、日・メキシコ経済連携協定に基づき設置された第12回ビジネス環境整備委員会を開催し、ビジネス環境に係る課題や問題意識について議論・意見交換を行ったほか、5月には、小田原潔外務副大臣がメキシコを訪問し、日本人メキシコ移住125周年記念式典及び全メキシコ日系人大会開会式に出席し、また、メキシコ政府関係者との間で、両国の政治・経済関係の強化、ウクライナ情勢を含む国際社会における諸課題での協力などについて議論を行い、緊密に連携することを確認した。 9月には、故安倍晋三国葬儀参列のために訪日したエブラル外相との間で外相会談を実施し、メキシコとの戦略的連携の一層の強化を確認したほか、安保理改革を始め国連全体の機能強化を含め、国際場裡における緊密な連携を確認した。また、ビジネス環境の整備、法的安定性の重要性、CPTPPのハイスタンダードの維持を確認し、メキシコが議長国を務める太平洋同盟と日本の間で協力を進めることで一致した。 日・メキシコ外相会談(9月26日、東京) 米国との関係では、米国主催の6月の米州首脳会議で一部の国が招待されていないことを批判し大統領は欠席した一方、7月には米国との間で首脳会談が行われ経済や国境・移民問題、気候変動などについて協議した。9月及び10月には、メキシコ・米国ハイレベル経済対話及び治安対話(閣僚レベル)がそれぞれ開催され、2023年1月には、第10回北米首脳会合が開催された。また、メキシコ政府は国内で関心が高いエネルギー・発電分野において、電力産業法を改正した。また、国家の権限を強化する憲法改正を試みたが、議会で否決された。一方、米国及びカナダはこれらの政策が米国・カナダの民間企業を不当に害しUSMCA(米国・メキシコ・カナダ)協定に違反しているとして、同協定に基づいてメキシコと協議を実施している。 コラム半世紀続く伝統の架け橋 ─日墨(にちぼく)戦略的グローバル・パートナーシップ研修計画─ 半世紀にわたり日本とメキシコの橋渡しをしている研修プログラムが存在していることを御存じですか。その研修プログラムとは、日本とメキシコの間で実施している「日墨戦略的グローバル・パートナーシップ研修計画」です。様々な国との人的交流がある中で、この研修計画は50年以上の間、日本とメキシコの結び付きを支え続けるユニークなプログラムです。 この研修計画は、両国で相互に研修生を派遣し合い、言葉や文化など幅広い分野で知識を得ることにとどまらず、人的交流の実現を目的として、当時のエチェベリア・メキシコ大統領が発案したものです。日本政府もこれに呼応する形で、1971年、両国政府間で現在の研修計画の前身となる「日墨研修生・学生等交流計画」が発足しました。以来、同計画は草の根レベルで互いの国に対する関心や交流を促すだけでなく、友好の象徴的事業として実施され、これまで49回の派遣を通じて、双方合わせて4,800人を超える日本人とメキシコ人が研修に参加しています。 学生、公務員、団体関係者、姉妹都市在住者など多様なバックグラウンドを有する参加者たちの関心は、語学の習得から政治経済、歴史、文化、工学、公衆衛生、IT、教育まで幅広い分野に及びます。それぞれの専門分野にとどまらず、様々なことを学び、研修生同士で協力し合い、地元の人々との関係を築いていくことで、研修生たちは代々、互いの文化への理解を深めながら、交流を続けています。研修中はそれぞれの国の代表者として、そして帰国後は親墨家、親日家、さらにはあらゆる分野における応援団または牽(けん)引役として、日・メキシコ関係の強化に大いに貢献しています。 また、語学を習得することで、活躍の場は日本とメキシコだけでなく、同じくスペイン語が公用語である中南米の国々へと広がりを見せています。元研修生の多くは、研修を通じて得た語学力や専門知識、海外経験をいかして、様々な業界において第一線で活躍しています。 この計画は、2019年に発生した新型コロナウイルス感染症の蔓(まん)延により、実施を見合わせていましたが、2022年度は約3年ぶりに派遣を再開しました。そして、2023年度は開始から数えて50回目の派遣を迎えます。今後も伝統あるこの研修プログラムをより多くの人々が経験し、研修生の活躍により日本とメキシコや中南米各国との交流が一層活発となり、日本とメキシコが基本的価値を共有するパートナーとして更に強固で緊密な関係を築くことが期待されます。 日本の研究室で学ぶメキシコ人研修生 メキシコ国立自治大学キャンパスで記念写真を撮る 日本人研修生 (2)中米(エルサルバドル、グアテマラ、コスタリカ、ドミニカ共和国、ニカラグア、パナマ、ベリーズ、ホンジュラス) 7月のホンジュラス外相訪日の際に外相会談を実施したほか、9月には故安倍晋三国葬儀参列のため訪日した各国要人との間で、日・エルサルバドル外相会談、日・パナマ外相会談、日・ホンジュラス外相会談が行われた。また、11月にはコスタリカ外相及び貿易相の訪日の際、外相会談を実施した。これらの会談を通じ、伝統的に友好関係にある中米各国との間で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化のための連携や新型コロナ対策など国際社会が直面する課題への対応について意見交換を行った。 日・ホンジュラス外相会談(7月4日、東京) 日・エルサルバドル外相会談(9月26日、東京) 日・コスタリカ外相会談(11月8日、東京) また、1月のホンジュラス大統領就任式には宇都隆史特派大使(参議院議員)、5月のコスタリカ大統領就任式には西村康稔特派大使(衆議院議員)がそれぞれ出席した。6月には上杉外務大臣政務官がベリーズを訪問し、政府要人との会談を実施したほか、無償資金協力による医療機材引渡式へ出席した。また、8月にはコスタリカがCPTPPへの加入申請を提出した。さらに、10月のホンジュラスにおける長期の降雨被害、グアテマラにおけるハリケーン・フリア及び11月のベリーズにおけるハリケーン・リサなどの被害に対し、日本は両国に緊急支援物資の供与を行った。 (3)キューバ 新型コロナの世界的拡大を受け、主要産業の観光業を始め国内経済は引き続き打撃を受け、国民生活は厳しさを増した。米国との関係では、6月の第9回米州首脳会議にはニカラグア及びベネズエラと共に招待を受けなかった一方、5月に入国制限措置の一部緩和の発表があった。9月には故安倍晋三国葬儀参列のために訪日したマレーロ首相との間で日・キューバ首脳会談を実施し、二国間関係及び国際場裡における取組や地域情勢について議論した。また、10月のハリケーン・イアン被害に対し、日本は緊急援助物資の供与を行った。 (4)ブラジル ボルソナーロ大統領は、新型コロナ対策をめぐって批判を受けつつも、就任以来掲げる経済重視の姿勢を変えず、税制改革法案の審議や民営化などの改革を進めてきた。10月には大統領選挙が実施され、ルーラ元大統領がボルソナーロ大統領を決選投票で破り、2023年1月に新大統領に就任することとなった。 日本との関係では、1月に同国で発生した洪水被害に対し、日本は緊急援助物資の供与を行った。5月には、小田原外務副大臣がブラジルを訪問し、ウクライナ情勢、地域情勢、経済安全保障などについて政府関係者との間で意見交換を行い、国際場裡における両国間の戦略的連携を一層推進していくことを確認した。また、9月に国連総会の機会に林外務大臣がフランサ外相との間で会談を行い、法の支配の徹底が重要となる中、2023年に共に安保理非常任理事国を務める日本とブラジルが、安保理改革を含む国連全体の機能強化に関し連携していくことを確認したほか、日・ブラジル経済関係には大きなポテンシャルがあり、5Gや脱炭素に向けた取組について議論していくことで一致した。さらに、7月に日伯戦略的経済パートナーシップ賢人会議、9月に日本ブラジル経済合同委員会、領事当局間協議及び科学技術協力合同委員会が開催されるなど、両国間での対話が再活性化されている。 日・ブラジル外相会談(9月22日、米国・ニューヨーク) (5)アルゼンチン フェルナンデス政権は、懸案の対外債務編成において、3月に国際通貨基金(IMF)との新プログラムを成立させ当面の資金繰りに目処(めど)をつけたほか、10月にはパリクラブと延滞債務再編に合意した。引き続き輸出振興による外貨収入及び投資増大が課題であり、国民が実感できる経済成長の実現が重要となっている。 日本との関係では、6月のG7サミットの際に首脳立ち話を実施し、日系社会などを通じた二国間関係強化の重要性について確認し、基本的価値を共有する「戦略的パートナー」として緊密に連携していくことで一致した。7月にはG20外相会合の際に外相会談を実施し、二国間関係を一層強化するため、様々な分野で緊密に協力していくことで一致したほか、ロシアによるウクライナ侵略、東アジア情勢などについて連携していくことを確認した。10月には、武井外務副大臣がアルゼンチンを訪問し、カフィエロ外相を表敬した。11月には、外相電話会談及びG20サミットの際の首脳立ち話を実施し、二国間関係の強化及び国際場裡での協力を確認した。 日・アルゼンチン外相会談(7月7日、インドネシア・バリ) (6)ペルー 2021年7月に発足したカスティージョ政権は、社会主義経済政策、制憲議会の招集(憲法改正)、新型コロナ対策、政治的安定の回復などを掲げていたが、首相を始めとする閣僚の交代が相次ぎ、12月には大統領が罷免され、ボルアルテ副大統領が大統領に就任した。 日本との関係では、11月のAPEC閣僚会議の際に外相立ち話を実施し、2023年が外交関係樹立150周年であることを踏まえ、強い絆で支えられた二国間関係の重要性を確認した。また、今後の更なる関係強化に向けて外相間でも緊密に連携していくことで一致した。 (7)チリ 3月、左派のボリッチ候補が大統領に就任した。ボリッチ政権は、格差縮小を目指し、富裕層への課税強化、鉱業ロイヤルティ導入などの税制改革、国民皆保険制度創設、リチウム国営企業の創設などに取り組む方針を表明している。外交面では、人権、ジェンダー、環境、多国間主義、中南米やアジア太平洋との関係を重視する姿勢を打ち出している。CPTPPについては、12月、発効のための国内手続を完了した。 制憲議会が1年かけて作成した新憲法案は、9月に国民投票が実施され不承認となったが、新たに新憲法制定プロセスが開始されることになった。 日本との関係では、2022年に日・チリ外交関係樹立125周年を迎えた。2月には、林外務大臣がウレホラ次期外相とテレビ会談を行った。3月のボリッチ大統領就任式に小田原外務副大臣が特派大使として出席したほか、三宅伸吾外務大臣政務官が5月にアマウダ外務省国際経済関係次官、6月にフエンテス外務次官と会談を行った。9月には国連総会で外相会談、11月にはAPEC首脳会議の際に首脳会談が行われ、基本的価値を共有する重要な戦略的パートナーとして、国際社会の諸課題への対応を含め両国関係を深化させていくことを確認した。 日・チリ首脳会談(11月17日、タイ・バンコク 写真提供:内閣広報室) (8)ウルグアイ 2020年3月に発足したラカジェ・ポウ政権は、高いワクチン接種率の達成などにより、就任当初から高い支持率を維持している。経済政策では、自由貿易主義を堅持し、市場の拡大・解放を重視しており、12月にはCPTPPへの加入申請を提出した。対外政策では、民主主義、法の支配、人権擁護の価値に基づく外交を展開している。 日本との関係では、2月に外相テレビ会談が行われ、2021年に両国が外交関係樹立100周年を迎えたことを踏まえ、2022年は新たな100年の幕開けの年に当たり、二国間関係の一層の強化のために協力することで一致した。 10月には、実務訪問賓客としてラカジェ・ポウ大統領が訪日し、首脳会談を行った。両首脳は、二国間経済関係を中心に議論する合同委員会の立上げや、デジタル分野における官民協力を促進することで一致したほか、ワーキングホリデー制度の開始を歓迎した。両首脳は、ウクライナ情勢や東アジア情勢への連携についても確認した。さらに、両首脳は、次の100年に向けた二国間関係強化のための共同声明を発出した。林外務大臣は、ラカジェ・ポウ大統領に同行したブスティージョ外相と外相会談を行い、一層連携を強化していくことで一致した。 日・ウルグアイ首脳会談(10月28日、東京 写真提供:内閣広報室) (9)パラグアイ 2018年8月に発足したアブド・ベニテス政権は、自由で開放的な経済政策を引き続き推進し、貧困対策、治安・麻薬対策、汚職対策を重要課題として取り組んでいる。 日本との関係では、10月にECLAC総会出席のためアルゼンチンを訪問した武井外務副大臣がアリオラ外相と会談し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化や地域情勢において引き続き緊密に連携していくことで一致した。 (10)コロンビア 6月の大統領選挙決選投票で勝利したペトロ候補が8月に大統領に就任した。ペトロ政権は、2016年の和平合意9の履行に参加しない武装勢力も含めた「全面和平」の実現、税制改革、ベネズエラとの関係正常化などに向けた取組を進めている。 日本との関係では、ペトロ大統領就任式に山口俊一総理特使(衆議院議員)が出席し、同大統領と会談し、引き続き二国間関係を強化していくことを確認した。9月には、新政権発足後初めての日・コロンビア外相会談が国連総会の際に行われたほか、故安倍晋三国葬儀参列のためアルコセル大統領夫人が訪日し、岸田総理夫人との懇談が行われた。また、9月には日・コロンビア租税条約が発効した。 日・コロンビア外相会談(9月21日、米国・ニューヨーク) (11)ベネズエラ 2018年5月に実施された大統領選挙の正当性に疑義がある中、2019年1月にマドゥーロ大統領の就任式が実施された。2020年12月、主要野党不在のままベネズエラ国会議員選挙が実施され、マドゥーロ政権側が勝利を宣言したが、主要野党を含むベネズエラ国内及び国際社会は、選挙が正当性を欠くとして反発した。日本もベネズエラにおける自由で公正な選挙の早期実施による民主主義の回復を求めている。 2021年8月から、ノルウェーの仲介の下、メキシコで与野党対話が開始されたものの、同年10月に一時中断し、2022年11月に再開された。 国内の経済・社会情勢及び人道状況の悪化によりベネズエラ国民が避難民として引き続き周辺国に流入し、その受入れが地域的課題となっている。日本は、避難民を含むベネズエラ国民及び周辺国に対する支援を実施している。 (12)ボリビア 2020年11月に発足したアルセ政権は、新型コロナ対策や司法改革に注力している。また、経済面では公共事業への投資に力を入れており、特にエネルギー、リチウム及びバイオディーゼルプラント建設を始めとする輸入代替産業の強化を目指している。一方、汚職対策や各種社会問題に対する対応、2025年に予定されている公正な総選挙の実施などが課題となっている。 (13)エクアドル 2021年5月に発足したラッソ政権は、米国、EUなど西側諸国及びIMFなど国際金融機関との関係強化を図るほか、自由貿易促進と海外投資誘致を通した経済活性化を目指している。一方、与党である機会創造党は12議席(一院制全137議席)に過ぎず、連立や連携もままならず、円滑な議会運営が引き続き課題となっている。 日本との関係では、6月に外相テレビ会談、また、10月にECLAC総会出席のためアルゼンチンを訪問した武井外務副大臣がオルギン外相と会談を実施し、二国間関係の一層の進展を図り、国際場裡において緊密に連携して対処することで一致した。 (14)日系社会との連携 日系社会は、中南米諸国の親日感情の基礎を築いてきたが、移住開始から100年以上を経て世代交代が進んでおり、若い世代を含め日本とのつながりを今後どう深めていくかが課題となっている。そうした中、日本は、若手日系人の訪日招へいに加え、各国の若手日系人によるイベント開催を支援し、若手日系人同士のネットワーク作りを後押しするなど、日系社会との連携強化に向けた施策を実施している。 3月にはこれまでの外務省被招へい者によるOB会(外務省研修生OB会ラテンアメリカ会合)及びブラジル日本青年会議所(JCI Brasil-Japao)との共催により中南米若手日系人国際会議がオンライン開催され、上杉外務大臣政務官がビデオメッセージを発出した。10月には中南米4か国から次世代日系人指導者7人が訪日し、木原誠二内閣官房副長官への表敬などを行った。また、同月にはOB会がパラグアイで開催され、秋本外務大臣政務官がメッセージを寄せるなど、国を越えた日系社会の連携にも力を入れている。12月には、中南米の日系社会と連携した「新しい資本主義」の実現のための事業への支援のための費用をJICAにより助成するため、補正予算で6.4億円を計上しており、日本の持続可能な経済発展と親日派育成に資することを目指している。 9 サントス大統領(当時)は半世紀以上に及ぶ国内紛争を終結させるため、2012年にコロンビア最大のゲリラ組織であるコロンビア革命軍(FARC)との間で和平交渉を開始。2016年、和平合意を発表