第4章 国民と共にある外交 3 地方自治体などとの連携 外務省は、内閣の最重要課題の一つである地方創生にも積極的に取り組み、地方との連携による総合的な外交力を強化するための施策を展開している。 日本国内では、外務大臣が各都道府県知事と共催し、各国の駐日外交団や商工会議所・観光関係者などを外務省の施設である飯倉公館に招き、レセプションの開催やブースでの展示を通じて地方の多様な魅力を内外に広く発信する地方創生支援事業を展開している。しかしながら、2021年は、新型コロナの影響により実施を見送った。 また、外務省は地方自治体などと協力して、各国の駐日外交団や商工会議所、観光関連企業などの関係者に対して各地域の産業、観光、投資、企業誘致などの特徴や利点・魅力を発信する「地域の魅力発信セミナー」を、2008年以降2021年までに27回実施している。参加者からは、東京にいながらにして地方の魅力を直接体験できる貴重な場であるとして好評を得ており、地方自治体と外交団などの外国関連団体関係者とのネットワーク作りの促進にもつながっている。2021年は新型コロナの影響により、10月に初めてオンライン形式で実施し、約150名の参加を得た。奈良県橿原(かしはら)市、鹿児島県鹿児島市・奄美市・屋久島町、三重県及び一般社団法人淡路島観光協会がそれぞれの観光地や歴史・文化・食などの魅力を紹介した後、外交団などの参加者が各団体の発表を視聴しながら、事前送付された特産品を試すなどして、各地域の魅力を五感で楽しみながら理解を深めた。 地域の魅力発信セミナー 各自治体などからのプレゼンテーションの様子(10月28日、東京) このほか、外務省と地方自治体との共催で、各地方の魅力を現地で直接体験してもらうことを目的に駐日外交団が参加する「地方視察ツアー」を実施している。11月18日及び19日に実施した秋田県鹿角(かづの)市へのツアーでは、駐日外交団から14名が参加した。各国大使を始めとする外交団は、世界文化遺産登録された縄文遺跡への訪問など地域が誇る歴史・文化施設などに直接足を運び、地域の伝統文化・伝統工芸体験なども通じて地域の魅力を堪能した。また、11月25日及び26日に実施した福島県こおりやま広域圏へのツアーでは、「最先端医療技術集結地のこおりやま広域圏」、「広域圏でみる東日本大震災・原子力災害からの復興の歩み」を主軸として、14名の参加者が医療、エネルギー、気候変動、農産業などに関連する各拠点を訪問し、市民とも交流しながら、東日本大震災後も発展を続ける福島県の今について理解を深めた。これまで、ツアーの実施をきっかけに参加国との交流・連携が始まった自治体や、参加外交団とのつながりを活用して同地域への来訪者増加を目指す自治体も出てきている。 地方視察ツアーで秋田県鹿角市の世界文化遺産・大湯環状列石を視察する外交団(11月19日、秋田県鹿角市) 地方視察ツアーでコミュタン福島を訪れ東日本大震災について説明を受ける外交団(11月26日、福島県三春町) さらに、外務省では地方自治体に対し、地域レベルの国際交流活動に密接に関係する最新の外交政策などに関する説明や意見交換の場を提供している。その一環として、3月、「地方連携フォーラム」をオンライン形式で開催した。外務省職員による「最近の日中関係・中国情勢」をテーマとした講演が実施され、パネルディスカッションでは「コロナ禍における地方の魅力海外発信戦略 ~今こそやるべきこと~」をテーマとして、「地方再生に向け、いま地域がやるべきこと」、「自治体・DMO1の事例に見るコロナ禍で行うべきインバウンド向け情報発信とは?」及び「地域PRポイントの見つけ方と作り方」について外部有識者が講演を行い、活発なパネルディスカッションも行った。 地方連携フォーラム 有識者によるパネルディスカッションの様子(3月2日、外務省) 海外での事業については、東日本大震災後の国際的な風評被害対策として、食品輸入規制の撤廃・緩和の働きかけと併せ、地方創生の一環として日本の地域の魅力発信、日本各地の商品の輸出促進、観光促進などを支援する総合的な広報事業である「地域の魅力海外発信支援事業」を、中国においてオンラインでの情報発信を含む形で実施した。同事業では、中国の消費者に、中国にいながらにして日本の観光・文化・食などの地域の魅力を一層体感してもらうべく、期間中、在中国日本国大使館の微博(中国SNSウェイボー)アカウントにて、67の自治体参加の下、日本各地の動画を配信した。また、中国各地で小売店、日本料理店、卸売業者など、各種団体が実施する日本料理や特産品に関するプロモーション・販促活動について、情報発信などの支援を行った。 地域の魅力海外発信支援事業で在中国日本国大使館のSNSアカウントから発信した岡山県のPR動画 また、在外公館施設を活用して自治体が地方の魅力を発信することを通じて、地場産業や地域経済の発展を図る支援策である「地方の魅力発信プロジェクト」をアジア地域において計2件実施した。1月に在ホーチミン日本国総領事公邸で開催した福島県・山梨県・大分県魅力発信レセプションでは、3県がセミナー形式で特産品や観光地の魅力を説明し、試食・試飲ブースで、日本酒や焼酎、ぶり、椎茸(しいたけ)、梨といった特産品を提供した。本イベントは、地元メディアでも取り上げられ、参加自治体の魅力が広く伝えられた。9月には、在瀋陽(しんよう)日本国総領事公邸が、富山県大連事務所と岩手県大連事務所の協力を得て「地方特産品ライブ配信PR事業」を実施し、オンライン形式で富山県からは高岡漆器、岩手県からは南部鉄器といった伝統工芸品と共に観光や文化についての紹介を行った。視聴者との質疑応答を含む双方向の交流も行い、延べ1万1,000人以上の視聴者が両県の魅力に理解を深めた。 加えて、例年天皇誕生日の時期に合わせて開催される「在外公館における天皇誕生日祝賀レセプション」で地方自治体の産品や催事などを紹介・発信する場を設けている。2021年は新型コロナの影響により開催取り止めや開催形式をオンライン形式に切り替えた公館が多くあった中でも、24の在外公館において延べ50の自治体による情報発信が実施された。 このほか、外務省では様々な取組を通じて日本と海外の間の姉妹都市交流や2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のホストタウン交流を始めとする日本の地方自治体と海外との間の交流を支援してきた。具体的には、在外公館長や館員が海外の姉妹都市提携先を訪問して、国際交流・経済交流関係担当幹部などと意見交換を行うことや、在外公館長の赴任前や一時帰国の際に地方都市を訪問し、姉妹都市交流やホストタウン交流に関する意見交換や講演を行うことで、地方の国際化を後押ししている(289ページ コラム参照)。また、日本の自治体と姉妹都市提携を希望している海外の都市などがある場合は、都道府県及び政令指定都市などに情報提供するとともに、外務省ホームページの「グローカル外交ネット」2で広報するなどの側面支援を行っている。 地方連携の取組を紹介する広報媒体としては「グローカル外交ネット」のほか、毎月1回メールマガジン「グローカル通信」3を配信し、加えて「ツイッター」4による投稿を行っている。これら広報媒体においては外務省の地方連携事業にとどまらず、各地方自治体が進める姉妹都市交流やホストタウン交流、外国人の目から見た地方活性化、その他様々な国際交流に関するエピソードを紹介している。 また、各地の日本産酒類(日本酒、日本ワイン、焼酎・泡盛など)の海外普及促進の一環として、各在外公館における任国要人や外交団との会食で日本産酒類を提供したり、天皇誕生日祝賀レセプションなどの大規模な行事の際に日本酒で乾杯をするなど日本産酒類の紹介・宣伝に積極的に取り組んでいる。 さらに、開発途上国の急速な経済開発に伴いニーズが急増している水処理、廃棄物処理、都市交通、公害対策などについて、ODAを活用して日本の地方自治体の経験やノウハウ、また、これを支える各地域の中小企業の優れた技術や製品も活用した開発協力を進めるとともに、そうした開発途上国の開発ニーズと企業の製品・技術とのマッチングを進めるための支援を実施している。これらの取組は、地元企業の国際展開やグローバル人材育成にも寄与し、ひいては地域経済・日本経済全体の活性化にもつながっている。 コラム心の中で咲き続けるホストタウン ─東京2020大会を終えて─ 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)の開会式では、モルドバ選手団がホストタウンの一つである山形県鶴岡市産のシルク製スカーフ・チーフを着用し、また、ルワンダ選手団は岩手県八幡平(はちまんたい)市の特産であり、ホストタウン登録のきっかけにもなったリンドウの花を手に持って入場し、友好の証(あかし)を示しました。また、エストニア選手団の入場時には、駐日大使館員が高速道路で自国の都市「サク」と同じ長野県佐久市の標識を見つけたことが姉妹都市提携・ホストタウン登録につながったことや、同国大統領(当時)が大会期間中に佐久市を訪問したエピソードもテレビ中継で紹介されました。 ホストタウンには最終的に185の相手国・地域に対して533自治体が登録されました。新型コロナの感染拡大により、当初想定していた交流が困難となった中でも、各自治体は最大限の知恵を絞り、選手とのオンライン交流や応援メッセージ動画の発信、相手国と地元の料理を市民がアレンジして考案したおもてなしメニューの提供など、様々なアイデアを持ち寄って交流を継続してきました。 そのような交流は、人と人との心のつながりを作り出したのです。 ドイツのパラ陸上競技選手団を受け入れた長崎県島原市では、直接の交流ができない中でも応援の気持ちを届けようと、一人の市民がフルートによるドイツ国歌の演奏を思い立ち、競技場の練習を終える選手たちにその音色を響かせました。愛知県幸田町ではホストタウン相手国であるハイチの国家元首の御逝去直後に行われたオンライン交流で「ガンバレ!ハイチ!」と書かれたメッセージを掲げ、翌8月に発生したハイチ大地震後にはすぐに町役場に被災者義援金の募金箱を設置し、支援の手を差し伸べました。ギニアビサウの柔道女子代表選手を受け入れた岡山県総社市では、同国の子どもへ贈呈するため、市民から未使用の文房具を募るなど、大会後も相手国・地域の人々とつながりを求める動きが広がっています。 外務省においても、交流の機運を高めるため、相手国・地域を始め世界に対しホストタウン自治体の魅力を効果的に発信するため、各国出身のインフルエンサーを起用し、全国16の「ホストタウン魅力発信動画」(注1)を制作しました。また、外務省の「対日理解促進交流プログラム」では、カリブ共同体(CARICOM:カリコム)の若手外交官・行政官が鹿児島県内の複数のホストタウンとオンラインで交流し、バーチャルツアー形式で各自治体を訪問して海岸の環境保全について意見交換を交わしたほか、ラオスの学生は三重県伊勢市と地方の魅力や農業・漁業の取組を話し合うなど、交流を深めています。さらに、在外公館が相手国の正確な情報を提供し、自治体の間で緊密な調整を行うことで事前合宿受け入れにつなげたり、在外公館長が先頭に立って交流に参加し、大会後も相手国関係者と今後の発展について意見を交換するなど、積極的な後押しを行いました。 このように、様々な交流の物語がホストタウン一つひとつにあります。そしてその物語は選手、住民、関係した方々の全員の心に残っていることでしょう。 東京2020大会の各閉会式は盛大な花火で締めくくられ、まさにホストタウン交流が花火と共に盛大に花開いたようでした。その花は、やがて種を実らせ、次のステージで新たな花を咲かせることで彩りを深めていくことでしょう。それを証明するかのように、各自治体からは、交流を末永く継続させていくため、相手国・地域との学術交流や姉妹都市の提携を模索する動き、ホストタウン自治体同士が連携して国際スポーツ大会で相手国の選手を共同応援する計画など様々なアイデアが出されています。このような交流の継続が、人と人との心の更なるつながりを生み出し、温かい未来を紡ぎ出していくことでしょう。一人ひとりが交流に携わることで、相手のことをもっと知りたい、もっと関わりたいという思いにつながり、この積み重ねこそがまさに国民一人ひとりに支えられたオールジャパンの外交に結び付くのです。 ケルスティ・カリユライドエストニア前大統領と栁田佐久市長(写真提供:Karli Saul) 競技場の外からフルートでドイツ国歌を演奏する島原市民(写真提供:島原市) 「頑張れ!ハイチ!」を掲げる幸田町民(写真提供:幸田町) (注1) インフルエンサーによるホストタウン魅力発信動画(外務省) https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/local/page23_003415.html 北海道釧路市とベトナム、青森県西目屋村とイタリア、岩手県八幡平市とルワンダ、秋田県・大館市・仙北市・美郷町とタイ、山形県村山市とブルガリア、群馬県片品村とホンジュラス、新潟県十日町市とクロアチア、山梨県富士吉田市とフランス、長野県他6自治体と中国、島根県海士町・西ノ島町・知夫村(1)とミクロネシア、佐賀県・佐賀市・嬉野市とオランダ・フィンランド(2)、熊本県とインドネシア、沖縄県沖縄市とニュージーランド、宮城県岩沼市と南アフリカ、静岡県焼津市とモンゴル、愛媛県・松山市・砥部町とマレーシアの計16の動画を制作し、配信した。 (1)動画制作後に島根県隠岐の島町も本ホストタウンに追加登録された。 (2)佐賀県はオランダ・フィジー・ニュージーランド・タイ・フィンランド、佐賀市はオランダ・フィジー・ニュージーランド・フィンランド、嬉野市はオランダ・フィジー・ニュージーランドのホストタウン 1 DMO:Destination Management/Marketing Organization「観光地域づくり法人」 2 外務省ホームページ「グローカル外交ネット」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/local/page23_003047.html 3 地方連携推進室メールマガジン「グローカル通信」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/ms/lpc/page25_001870.html 4 地方連携推進室 Twitter:https://twitter.com/localmofa