第3章 国際社会で存在感を高める日本 4 日本の経済的な強みの発信(日本の農林水産物・日本産食品の輸出促進を含む。) (1)外務本省・在外公館が一体となった日本企業の海外展開の推進 外国に拠点を構える日系企業の拠点数は、2020年10月時点で8万以上にも上る。これは、日本経済の発展を支える日本企業の多くが、海外市場の開拓を目指し、海外展開にこれまで以上に積極的に取り組んできたことの現れである。アジアを中心とする海外の経済成長の勢いを日本経済に取り込む観点からも、政府による日本企業支援の重要性は高まっている。 このような状況を踏まえ、外務省では、本省・在外公館が連携して、日本企業の海外展開推進に取り組んでいる。在外公館では、大使や総領事が率先し、日本企業支援担当官を始めとする館員が「開かれた、相談しやすい公館」をモットーに、各地の事情に応じた具体的支援を行うために、日本企業への各種情報提供や外国政府への働きかけを行っている。また、現地の法制度に関するセミナーや各種情報提供及び法律相談を、2021年度にはアジア地域を中心に、13か国19公館で実施した。 ビジネスに関する問題の相談だけではなく、天皇誕生日祝賀レセプション、各種イベント・展示会などで、日本企業の製品・技術・サービスや農林水産物などの「ジャパンブランド」を広報することも、在外公館における日本企業支援の重要な取組の一つである。日本企業の商品展示会や地方自治体の物産展、試食会などを広報・宣伝する場として、また、ビジネス展開のためのセミナーや現地企業・関係機関との交流会の会場として、大使館や大使公邸などを積極的に提供することにより、幅広く広報を行ってきている。そのほか、新型コロナの世界的流行に鑑み、オンラインなども活用して事業に取り組んだ。 官民連携・企業支援という観点からは、これから海外展開をしようとする日本企業の支援だけではなく、既に海外に展開している日系企業の支援も重要である。2016年6月に英国で行われたEU残留・離脱を問う国民投票を踏まえ、英国は2020年1月31日にEUを離脱し、同年12月31日をもって移行期間が終了した。政府は、英国やEUの動きや交渉が日系企業に多大な影響を与え得る観点から、これまで2016年7月に立ち上げた内閣官房副長官を議長とする「英国のEU離脱に関する政府タスクフォース」(2020年1月末までに15回開催)や、在外公館でのセミナーなどを通じて、政府全体で必要な取組を行ってきた。引き続き関連動向を注視していくとともに、日英EPAの適切な運用及び日系企業に対する情報提供を含め、必要な対応を行っていく。 (2)インフラシステムの海外展開の推進 新興国を中心としたインフラ需要を取り込み、日本企業のインフラシステムの海外展開を促進するため、2013年に内閣官房長官を議長とし、関係閣僚を構成員とする「経協インフラ戦略会議」が設置され、2021年12月までに52回の会合が実施された。同会議では2013年に作成された「インフラシステム輸出戦略」を毎年改定し、そのフォローアップを行ってきたが、2020年12月に近年の情勢変化を踏まえ、「インフラシステム海外展開戦略2025」(以下「新戦略」という。)を策定し、(1)経済成長の実現、(2)SDGs達成への貢献、(3)「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目的の3本の柱とし、2025年のインフラシステムの受注額を34兆円とすることが目標として掲げられた。2021年6月には「ポストコロナを見据えた新戦略の着実な推進に向けた取組方針」を決定し、ユーティリティ、モビリティ・交通、デジタル、建設・都市開発農業・医療・郵便等の5分野の「分野別アクションプラン」の策定や総理のトップセールスを補完する各省幹部トップセールスの件数などの政策目標(Key Performance Indicator:KPI)を設定するなど、新戦略の目標達成に向け、具体的施策を推進している。 また、在外公館においては、インフラプロジェクトに関する情報の収集・集約などを行う「インフラプロジェクト専門官」を指名し(2022年2月末時点で75か国97公館、約200名)成果を上げてきている。 (3)日本の農林水産物・食品の輸出促進(東日本大震災後の日本産食品に対する輸入規制) 日本産農林水産物・食品の輸出拡大は政府の重要課題の一つであり、政府一体となった取組を一層促進すべく、2020年12月に「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」が策定され、農林水産物・食品の輸出額を2025年に2兆円、2030年に5兆円にするという目標の達成に向け、輸出産地・事業者の育成などを行っていくこととなった。また、輸出額1兆円を突破した2021年末には本戦略を改訂し、品目団体の組織化など、更なる輸出拡大に向けて取組を加速化させる。外務省としても、関係省庁・機関、日本企業、地方自治体などと連携しつつ、在外公館などのネットワークを利用し、SNSなども活用しつつ、日本産農林水産物・食品の魅力を積極的に発信している。特に、55か国・地域の59か所の在外公館には、日本企業支援担当官(食産業担当)を指名し、農林水産物・食品の輸出促進などに向けた取組を重点的に強化しているほか、その他の国・地域においても各国・地域の要人を招待するレセプションや文化行事などの様々な機会を捉え、精力的な取組を行っている。さらに、今後、主要な輸出先国・地域において、在外公館とJETRO海外事務所などを主要な構成員とする輸出支援プラットフォームを形成し、現地において輸出事業者を包括的・専門的・継続的に支援することとなっている。 輸出拡大の大きな障壁の一つとして、東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故後に諸外国・地域が導入した、日本産農林水産物・食品に対する輸入規制措置がある。2021年は震災・原発事故から10年の節目となったが、依然として震災・事故後に規制を導入した55か国・地域のうち14の国・地域(2021年12月時点)において、日本の農林水産物・食品などに対する輸入規制措置が維持されていることは大きな問題である。この規制の撤廃及び風評被害対策は政府の最重要課題の一つである。外務省も関係省庁と連携しながら、一日も早くこうした規制が撤廃されるように取り組んでいる。 こうした取組の結果、2021年にはイスラエル(1月)、シンガポール(5月)、米国(9月)が輸入規制を撤廃し、累計で41か国・地域(カナダ、ミャンマー、セルビア、チリ、メキシコ、ペルー、ギニア、ニュージーランド、コロンビア、マレーシア、エクアドル、ベトナム、イラク、オーストラリア、タイ、ボリビア、インド、クウェート、ネパール、イラン、モーリシャス、カタール、ウクライナ、パキスタン、サウジアラビア、アルゼンチン、トルコ、ニューカレドニア(フランス領)、ブラジル、オマーン、バーレーン、コンゴ民主共和国、ブルネイ、フィリピン、モロッコ、エジプト、アラブ首長国連邦、レバノン及び上記3か国)が規制を撤廃した。また、香港(1月)、仏領ポリネシア(3月)、EU(10月)も規制を緩和するなど、規制の対象地域・品目が縮小されてきた(2021年12月末時点)。 引き続き、関係省庁、地方自治体、関係する国際機関などと緊密に連携しながら、規制措置を維持する国・地域に対し、科学的根拠に基づく早期撤廃及び風評被害の払拭に向け、あらゆる機会を捉え、より一層説明及び働きかけを行っていく。