第3章 国際社会で存在感を高める日本 3 国際会議における議論の主導 (1)G7・G20 ア G7 G7では、基本的価値を共有する各国の間で率直な議論を行い、国際社会が直面する様々な課題に結束して対応している。 英国はG7議長国就任後間もない2月19日にG7首脳テレビ会議を開催し、G7首脳は、民主的で開かれた経済と社会の強みと価値をいかしていくことで一致した。 6月11日から13日まで開催されたG7コーンウォール・サミットは、2年ぶりの対面でのサミットとして世界の注目を集めた。「より良い回復」という全体テーマの下、G7の中心的議題である世界経済・貿易や外交・安全保障について、首脳間で率直な議論が行われた。会議の一部にはG7メンバー以外のアウトリーチ国(オーストラリア、インド、韓国、南アフリカ)や国際機関も参加した。 菅総理大臣は、「より良い回復」を達成する上では多角的貿易体制の推進、サプライチェーンの脆(ぜい)弱性への取組などが重要であり、また「開かれた社会」の実現のためには信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)の推進などが重要であることを強調した。国際保健については、ワクチンの普及や保健システム強化に向けた日本の取組などを紹介した。気候変動については、2021年から2025年までの5年間において官民合わせて6.5兆円相当の気候資金支援を実施し、適応分野の支援を強化することなどを表明した。 議論の中で日本を含む複数の国から中国に関する発言があり、中国に関し、世界経済の公正性や透明性を損なう非市場主義政策及び慣行への共同のアプローチについて協議すること、気候変動、生物多様性などの国際課題において協力していくこと、特に新疆(きょう)ウイグル自治区や香港について、人権や基本的自由を尊重するよう中国に呼びかけていくことなどを確認した。加えて、東シナ海及び南シナ海における状況を引き続き深刻に懸念し、現状を変更し、緊張を高めるあらゆる一方的な試みに強く反対すること、また台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促すことでも一致した。 議論の結果、G7首脳は、協力して新型コロナに打ち勝ち、より良い回復を成し遂げ、国際協調と多国間主義に基づき、民主的で開かれた経済と社会を推進することで一致し、G7首脳コミュニケを含む成果文書が発出された。 首脳会合に加えて閣僚会合も数多く行われ、このうちG7外務・開発大臣会合は5月3日から5日まで(英国・ロンドン)と12月11日から12日まで(英国・リバプール)の二度にわたり対面で開催された。北朝鮮、中国、ロシア、中東など、地域情勢について活発な議論が行われたほか、新型コロナ対応、女子教育、気候変動、人道危機などにおけるG7での連携を確認し、またメディアの自由、サイバー・ガバナンス、信教及び信条の自由などについても取り上げられた。12月の会合の一部にはASEAN諸国の外相も招待され、対面又はオンライン形式で参加し、G7とASEANとの協力についても議論された。 G7コーンウォール・サミット (6月11日、英国・コーンウォール 写真提供:内閣広報室) イ G20 G20は、主要先進国・新興国が参画する国際経済協調の第一のフォーラムである。 10月30日及び31日に開催されたG20ローマ・サミットでは、議長国イタリアが掲げた「人、地球、繁栄」という優先課題の下、国際保健、気候変動、開発などの重要課題について議論を行い、議論の総括としてG20ローマ首脳宣言が発出された。岸田総理大臣は、ワクチンの普及や将来の健康危機に備えることの重要性を指摘したほか、DFFT、質の高いインフラ投資及び開発金融の公正性・透明性に関して日本の考えを説明するとともに、先進各国による気候資金支援の重要性を強調し、首脳間の議論に貢献した。 また、6月28日から30日までイタリアで開催されたG20外相及び開発大臣関連会合には、茂木外務大臣が出席し、多国間主義、アフリカ、食料安全保障、開発、人道支援などについて議論した。 G20ローマ・サミット (10月30日、イタリア・ローマ 写真提供:内閣広報室) (2)アジア太平洋経済協力(APEC) APECは、アジア太平洋地域の21の国・地域が参加する経済協力の枠組みである。アジア太平洋地域は、世界人口の約4割、貿易量の約5割、GDPの約6割を占める「世界の成長センター」であり、APECはこの地域の貿易・投資の自由化・円滑化に向け、地域経済統合の推進、経済・技術協力などの活動を行っている。国際的なルールに則(のっと)り、貿易・投資の自由化・円滑化と連結性の強化によって繁栄するアジア太平洋地域は、日本が志向する「自由で開かれたインド太平洋」の核である。日本がAPECに積極的に関与し、協力を推進することは、日本の経済成長や日本企業の海外展開を後押しする上で非常に大きな意義がある。 2021年はニュージーランドが議長を務め、「共に参加し、共に取り組み、共に成長する」という全体テーマ及び(1)回復を強化する経済・貿易政策、(2)回復に向けた包摂性・持続可能性の向上、(3)イノベーションとデジタルに対応した回復の追求という三つの優先課題の下、年間を通じてテレビ会議形式による様々な会合で議論が進められた。中でも、新型コロナ流行下で必要不可欠な物品やサービスの貿易円滑化、気候変動に対処するために貿易の果たし得る役割を模索する中で、環境物品リストの技術的な更新やその将来的な拡大の可能性、環境関連サービスの参照リスト作成と将来的な更新、非効率な化石燃料補助金の削減に関する議論が進められた。 テレビ会議形式で開催された11月12日の首脳会議では、首脳宣言が採択されたことに加え、「APECプトラジャヤ・ビジョン2040」を実施するための「アオテアロア行動計画」が附属書として採択された。この行動計画は、「貿易・投資」、「イノベーションとデジタル化」、「力強く、均衡ある、安全で、持続可能かつ包摂的な成長」及び「APECの制度的枠組みの継続的な改善」の各章で構成され、各エコノミーが個別に、また、APECが全体として取り組むべき具体的課題と方向性が記されている。 首脳会議に出席した岸田総理大臣は、新しい資本主義の実現を目指すことで、日本経済を新たな成長軌道に乗せ、アジア太平洋の成長に貢献していくことを表明した。その上で、コロナ後の成長に必要な要素として、経済回復を強化する自由で公正な貿易・投資環境の実現と強靱(じん)なサプライチェーンの構築、TPP11協定のハイスタンダードを維持し、地域における自由で公正な経済秩序の構築に引き続き貢献すること、デジタル時代における「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」の推進、脱炭素化に向けた支援を通じアジア全体のゼロエミッション化を目指すこと、国際原油市場の安定化を図ることなどを訴えた。 2022年は、タイが議長を務めることとなっている。 APEC首脳会議(11月 写真提供:内閣広報室)