第3章 国際社会で存在感を高める日本 第2節 日本の国際協力(開発協力と地球規模課題への取組) 1 開発協力 (1)開発協力大綱と日本のODA実績 日本が1954年に政府開発援助(ODA)1を開始してから65年以上が経過した。ODAを含む日本の開発協力政策は、長きにわたり国際社会の平和と安定及び繁栄、ひいては日本自身の国益の確保に大きく貢献してきた。 近年、開発途上国が直面する開発課題が多様化・複雑化し、開発におけるODA以外の資金・活動の役割が増大するなど、開発を取り巻く状況が変化していることを受け、2015年2月には、それまでのODA大綱に代わる「開発協力大綱」が閣議決定された。開発協力大綱では、日本が開発協力の長い歴史の中で培ってきた哲学を踏まえ、更にそれを発展させていくべきとの観点から、(1)非軍事的協力による平和と繁栄への貢献、(2)人間の安全保障の推進、(3)自助努力支援と日本の経験と知見を踏まえた対話・協働による自立的発展に向けた協力を基本方針としている。これらの基本方針の下、(1)「質の高い成長」とそれを通じた貧困撲滅、(2)普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現、(3)地球規模課題への取組を通じた持続可能で強靱(じん)な国際社会の構築を重点課題として、開発協力を推進することとされている。 このような開発協力大綱の下で進められた日本のODA2実績(2020年実績)は、「贈与相当額計上方式」3によると、対前年比4.3%増の約162億6,025万米ドルとなった。これはDACメンバーの中では、米国、ドイツ、英国に次いで第4位である(日本以外の国については2020年暫定値を使用)。この計上方式での対国民総所得(GNI)比は0.31%となり、DACメンバー中第13位となっている(日本以外の国については2020年暫定値を使用)。 (2)2021年の開発協力 開発協力大綱を根幹としつつ、戦略的かつ効果的な開発協力を推進するため、2021年、日本は、以下アからエを中心に取り組んだ。 ア 新型コロナウイルス感染症対策 第一に、2021年は新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)への対処が引き続き国際社会にとっての大きな課題であり、国際社会と連携して国境を越えたグローバルな危機への対応に当たった。具体的には、医療体制が脆(ぜい)弱な開発途上国において、中長期的な観点から強靱(じん)な医療・保健システムを構築すべく、二国間援助や国際機関を通じた保健・医療関連機材の供与やワクチン関連支援、保健・医療分野における能力強化のための技術協力などを、かつてないスピードで実施してきている。とりわけワクチンに関しては、6月にCOVAXワクチン・サミット(AMC増資首脳会合)を共催し、共同議長として国際社会の更なる連帯とコミットメントを呼びかけた結果、資金調達目標を大きく超える額の確保を達成した。さらに、開発途上国における経済活動の維持・活性化に貢献するため、2年間で最大7,000億円の緊急支援円借款の供与を実施しており、これらの支援はこれまで各国から高く評価されている。 引き続き、現下の新型コロナ危機を克服するためのワクチン・治療薬・診断に関する支援を行うとともに、将来の健康危機に備えて開発途上国の保健・医療システムを強化し、水・衛生分野も含めた幅広い分野で健康安全保障のための支援を行っていく。 イ 「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現 第二に、世界の活力の中核であるインド太平洋地域に「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現すべく、引き続き、ODAを戦略的に活用しながら具体的な取組を進めている。 日本は従来、地域の連結性強化のための「質の高いインフラ」整備、法制度整備支援、債務持続可能性の確保のための公的債務・リスク管理研修の実施や債務管理・マクロ経済政策分野の能力強化、海上安全の確保のための海上法執行機関の能力強化(巡視船艇や沿岸監視レーダー機材の供与、人材育成など)を実施しており、引き続きこれらを推進していく。 とりわけ、質の高いインフラの整備は、「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けた重要な基礎であるとともに、新型コロナの感染拡大からの復興に際しても特に必要となる。この点、2019年のG20大阪サミットで承認された「質の高いインフラ投資に関するG20原則」に含まれる、開放性、透明性、ライフサイクルコストを考慮した経済性、債務持続可能性などの諸要素を確保し、これらを国際スタンダードとして引き続き普及・実施していくことが重要である。 ウ 地球規模課題への取組 第三に、日本は、人間の安全保障の考え方の下、新型コロナ対策を含め、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を始めとした地球規模課題への取組を進めている。引き続き、保健、食料、栄養、女性、教育、防災、水・衛生、気候変動・地球環境問題などの分野における開発協力を積極的に進めていく。その際、国際協力NGOとの連携も活用しつつ、顔の見える開発協力を推進する。また、人道と開発に加えて紛争の根本原因への対処を強化しようとする「人道と開発と平和の連携」の考え方に基づいて、難民支援を含む人道支援、平和構築・国造り支援を推進していく。 エ 日本経済を後押しする外交努力 第四に、開発途上国の発展を通じて日本経済の活性化を図り、共に成長していくための取組を推進している。2020年12月に決定された「インフラシステム海外展開戦略2025」や、2021年7月に決定された「成長戦略フォローアップ」でも日本企業の海外展開を一層推進すべく、ODAを戦略的に活用していくことが求められている。 具体的には、日本の優れた技術を開発途上国の開発に活用するため、官民連携型の公共事業への無償資金協力などを通じ、日本企業の事業権・運営権の獲得を推進するとともに、貿易円滑化や債務持続性の確保といった、質の高いインフラ投資に資する技術協力を推進していく。また、中小企業を含む民間企業及び地方自治体の海外展開のため、JICAの民間連携事業による開発途上国の課題解決に貢献し得るビジネスモデルの調査・実証や製品・機材などの認知度の向上に係る支援を通じて継続的な需要創出を図るとともに、地方を含む中堅・中小建設業界などの海外展開支援を推進していく。さらに、人材育成を通じて、ビジネス環境整備を推進し、企業の海外展開や投資促進に貢献していく。 (3)国際協力事業関係者の安全対策 2020年3月、新型コロナの感染拡大により、多くの国際協力事業関係者が一時帰国したが、JICA関係者については同年7月中旬以降、条件の整った国から渡航再開を順次進め、2022年3月時点でのJICA関係者の海外滞在者数は一時帰国前と比べて7割程度(JICA海外協力隊を除く。)まで回復した。 今後も、新型コロナの感染防止に係る国際協力事業関係者の安全対策を十分に講じるとともに、テロへの対策としてこれまで実施してきた「国際協力事業安全対策会議」最終報告(2016年8月)に基づく取組も行いながら、国際協力事業に係る安全対策を一層強化していく。 (4)主な地域への取組 ア 東・東南アジア 東・東南アジア地域の平和と安定及び繁栄は、同地域と密接な関係にある日本にとって重要である。日本はこれまで、開発協力を通じ、同地域の経済成長や人間の安全保障を促進することで、貧困削減を含む様々な開発課題の解決を後押しし、地域の発展に貢献してきた。 中でも、ASEANは「自由で開かれたインド太平洋」実現の要であり、日本は、ASEANが抱える課題の克服や統合の一層の推進を支援するとともに、域内の連結性強化や産業基盤整備のための質の高いインフラ整備及び産業人材育成支援を重視している。東・東南アジア地域は多くの日本企業が進出し、在留邦人の数も多いことから新型コロナ対策支援を集中的に行った。具体的には、11か国に対し、総額約380億円の保健・医療関連機材などの無償供与及び技術協力を通じた保健・医療システム強化への支援を実施しているほか、経済的影響を踏まえ、5か国に対し総額約2,200億円の新型コロナ対策財政支援円借款を供与した。また、新型コロナを受けたASEAN支援の一環として日本が全面的に支援するASEAN感染症対策センターの稼働に向けて、ASEAN各国の公衆衛生担当者に対する研修も行っている。 さらに、自由で開かれた国際秩序を構築するため、日本のシーレーン上に位置するフィリピンやベトナムなどに対し、巡視船や沿岸監視レーダーを始めとする機材供与、専門家派遣や研修による人材育成などを通じて海上法執行能力構築支援を積極的に実施している。そのほか、域内及び国内格差是正、防災、環境・気候変動、エネルギー分野など、持続可能な社会の構築のための支援についても着実に実施している。2020年11月の日・ASEAN首脳会議では「AOIP協力についての日・ASEAN首脳会議共同声明」を採択し、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と本質的な原則を共有していることが確認されたことも踏まえ、日本は、AOIPの重点分野である海洋協力、連結性、SDGs、経済などに沿った日・ASEAN協力を引き続き強化していく考えである。2019年に署名された日・ASEAN技術協力協定に基づき、2021年は、感染症対策のほか、物流、海洋ごみ、犯罪者処遇などに関する研修を実施した。 ミャンマーについては、2月のクーデター発生後の人道状況悪化を受けて、国際機関を通じた、ミャンマー国民への直接の人道支援(食料、医療用品など)を実施してきている。 メコン地域では、日・メコン協力の指針である「東京戦略2018」に基づく協力が着実に進展した。8月の日・メコン外相会議では、茂木外務大臣から、メコン地域に対して日本がこれまでに実施してきた約560万回のワクチン供与、約7.5億円分のコールド・チェーン支援、酸素濃縮器供与といった新型コロナ対策支援について紹介し、今後もメコン諸国が新型コロナとの闘いに打ち勝つための支援を行っていくと述べた。メコン地域はインド太平洋地域の中核に位置しており、日本は、日・メコン協力の枠組みを通じて、引き続きメコン諸国の発展に貢献していく。 中国については、1979年に開始した対中ODAは既に2018年度に新規案件の採択が終了し、2022年3月には全ての事業が終了する。 UNICEF連携「ラスト・ワン・マイル支援」引渡し式 (11月、フィリピン) イ 南西アジア 南西アジア地域は、東アジア地域と中東地域を結ぶ海上交通の要衝として戦略的に重要であるとともに、インドを始め今後の経済成長や膨大なインフラ需要が期待されるなど、大きな経済的潜在力を有している。一方、同地域は、インフラの未整備、貧困、自然災害などの課題を抱えており、日本は、日本企業の投資環境整備や人間の安全保障も念頭に、ODAを通じ、課題の克服に向けた様々な支援を行っている。新型コロナの世界的な流行は、社会的かつ経済的に脆(ぜい)弱性を抱え医療体制が未整備である南西アジア地域にも大きな影響を及ぼした。日本は南西アジア諸国の新型コロナ対策として、3か国に対し総額1,600億円の財政支援円借款を供与し、7か国に対し総額86億円以上の保健・医療関連機材などの供与を実施している。また、ワクチン接種体制を構築する「ラスト・ワン・マイル支援」として、6か国に対し約25億円のコールド・チェーン整備支援を実施している。加えて、技術協力を通じた保健・医療システム強化のための支援などを実施している。 南西アジアの中でも巨大な人口を抱えるインドに対し、日本は、連結性の強化と産業競争力の強化に資する電力や運輸を始めとする経済社会インフラ整備の支援として、高速鉄道や複数の都市における地下鉄建設、インド北東部における道路建設などの支援を実施している。これに加えて、持続的で包摂的な成長への支援として、植林などを通じた森林セクターの支援や、感染症対策を含む医療体制の強化のための保健セクター支援などを実施している。バングラデシュでは、「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」構想の下、バングラデシュ国内及び地域の連結性向上やインフラ整備、投資環境の改善に寄与する支援を行っている。また、同国内では、2017年8月以降、ミャンマー・ラカイン州から大規模な避難民が流入し、避難が長期化していることにより、避難民キャンプでの人道状況が悪化するとともに、周辺のホストコミュニティの生活環境にも深刻な影響が及んでいる。この状況を受け、日本は、国際機関及びNGOを通じて、水・衛生、保健・医療、食料安全保障、生計支援などの分野で支援を実施している。 日本から調達されたダッカ都市交通鉄道(MRT)6号線車両。日本とバングラデシュの国旗がモチーフとなっている(11月16日、バングラデシュ・ダッカ) ウ 太平洋島嶼(しょ)国 太平洋島嶼国は、日本にとって太平洋で結ばれた「隣人」であるばかりでなく、歴史的に深いつながりがある。また、これらの国は広大な排他的経済水域(経済的な権利が及ぶ水域(EEZ))を持ち、日本にとって海上輸送の要となる地域であるとともに、かつお・まぐろ遠洋漁業にとって必要不可欠な漁場を提供している。このため、太平洋島嶼国の安定と繁栄は、日本にとって非常に重要である。 太平洋島嶼国は、経済が小規模であること、領土が広い海域に点在していること、国際市場への参入が困難なこと、自然災害の被害を受けやすいことなど、小島嶼国特有の共通課題を抱えている。このような事情を踏まえ、日本は太平洋島嶼国の良きパートナーとして、自立的・持続的な発展を後押しするための支援を実施している。 7月にテレビ会議方式で開催された第9回太平洋・島サミット(PALM9)では、(1)新型コロナへの対応と回復、(2)法の支配に基づく持続可能な海洋、(3)気候変動・防災、(4)持続可能で強靭(じん)な経済発展の基盤強化、(5)人的交流・人材育成の五つの重点分野を中心に議論を行い、5,500名以上の人的交流・人材育成などを含むコミットメントを発表するとともに、日本が太平洋島嶼国と共に取り組んでいく今後3年間の具体的取組を「PALM9首脳宣言」の附属文書である「共同行動計画」にとりまとめた。共同行動計画においては、五つの重点分野における具体的な取組として、ワクチンの供与・管理・接種支援、医療施設の整備及び高度医療機器の供与のほか、港湾・空港などの質の高いインフラ整備を始め、違法・無報告・無規制(IUU)漁業、防災、海洋プラスチックごみ対策にも資する廃棄物管理、気候変動対策といった分野の協力などの支援を実施していくことが盛り込まれた。太平洋島嶼国からは、PALMがこれまで果たしてきた役割に対する高い評価とともに、PALM8における日本のコミットメントの実現及び五つの重点分野に関する日本の新たなコミットメントに対して謝意が表明された。 2022年1月15日に発生した火山噴火及び津波による被害を受けたトンガ王国に対して、人道的観点及び同国との友好関係に鑑み、国際協力機構(JICA)を通じた緊急援助物資の供与に加え、その輸送のために国際緊急援助隊(自衛隊部隊)を派遣した。さらに、約244万米ドルの緊急無償資金協力を実施している。 日本の支援で建設されたポートビラ港ラペタシ国際多目的埠(ふ)頭(バヌアツ) 緊急援助物資を積みトンガに到着した自衛隊輸送機を出迎えたフアカヴァメイリク・トンガ首相らの様子(2022年1月22日、トンガ) エ 中南米 中南米は、日本と長年にわたる友好関係を有し、約213万人の日系人が在住するなど、歴史的なつながりが深い。また、資源・食料の一大供給地域であると同時に、約5兆米ドル規模の域内総生産を有する有望な新興市場である。一方で、国内における所得格差の是正、自然災害への対応、SDGs達成といった課題を抱える国が少なくないため、日本は、各国の抱える事情を勘案した上で、様々な協力を行っている。 日本は中南米諸国の新型コロナ対策として、2か国に対し総額約300億円規模の財政支援借款を供与し、25か国に対し総額91億円の保健・医療関連機材などの供与を実施している。また、ワクチン接種体制を構築する「ラスト・ワン・マイル支援」として、7か国に対し約15億円規模のコールド・チェーン整備支援を実施している。加えて、17か国に対する、技術協力を通じた保健・医療システム強化のための支援などを実施している。 また、2020年11月のハリケーン被害に関し、コロンビア、ニカラグア、ホンジュラス、グアテマラに対して、緊急援助物資(テント、スリーピングパッド、毛布など)や復興関連機材(掘削機、ブルドーザーなど)を供与した。このほか、各国のニーズに応じた支援を行っており、例えば、エルサルバドルに対して、若手行政官などが自国の開発や発展に必要な専門知識を習得するため日本の大学院において学位を取得することを支援している。また、近年、中米各国では、米国を目指す移民が増加しており、日本は、移民発生の根本原因である中米地域の貧困、治安、災害などの分野における課題の解決に資する支援を実施している。 また、昨今のベネズエラの経済・社会情勢の悪化により、約600万の避難民が周辺国に流出しており、周辺国を含め地域規模で影響が及んでいる。日本は宇都隆史外務副大臣が2021年6月に「ベネズエラ避難民への連帯を示す国際ドナー会合」にて表明したように、避難民を含むベネズエラ国民への民生支援及び影響を受ける周辺国に対する支援を継続しており、2021年には、国際機関及びNGOを通じて、ペルーやコロンビアにおいてベネズエラ避難民及びホストコミュニティ向け支援を実施した。 ラスト・ワン・マイル支援供与機材の引渡し式 (11月8日、パラグアイ・アスンシオン) オ 中央アジア・コーカサス 中央アジア・コーカサス地域は、ロシア、中国、南アジア、中東及び欧州に囲まれており、この地域の発展と安定は、日本を含むユーラシア地域全体の発展と安定にとっても重要である。日本は、アフガニスタンやイランなど近接地域を含む広域的な視点も踏まえつつ、自由で開かれた中央アジア・コーカサス地域がルールに基づく国際秩序を維持・強化し、持続可能な発展を行うための国造りを支援している。 日本は中央アジア・コーカサス諸国の新型コロナ対策として、8か国に対し総額32億円の保健・医療関連機材などの供与を実施している。また、日本は国際機関を通じて、アフガニスタンと国境を接するこの地域の国境管理能力強化の支援も実施している。 農家の女性に手工芸品の制作を指導するJICA専門家 (7月20日、キルギス・ビシュケク 写真提供:JICA/鈴木革) カ 中東・北アフリカ 欧州、サブサハラ・アフリカ及びアジアの結節点という地政学上の要衝に位置する中東・北アフリカ地域の平和と安定の確保は、日本のエネルギー安全保障のみならず世界の平和と安定のためにも重要である。こうした観点から日本は、同地域の平和と安定に向けた支援を行ってきている。 2021年には、日本は、中東・北アフリカ地域に対してもODAを活用した新型コロナ対策支援を実施した。具体的には、総額約291億円規模の国際機関経由での支援及び二国間支援による保健・医療関連機材などの供与を実施した。 内戦の続くシリアに関しては、日本は困難に直面する全てのシリアの人々に人道支援を提供するとの支援方針の下、シリア及び周辺国に対して2012年以降総額29億米ドル以上の支援を行ってきている。3月には欧州連合(EU)と国連が共催した「シリア及び地域の将来の支援に関する第5回ブリュッセル会合」に鷲尾英一郎外務副大臣が参加し、2021年中に約2億ドルの新規拠出を決定し、引き続きシリアにおける人道状況の改善に向けて役割を果たしていくと述べた。さらに、将来のシリア早期復興を担う人材を育成するため、2017年以降、シリア人留学生111人を日本に受け入れている。 パレスチナに関しては、日本は、パレスチナの経済・社会の自立化を目的とし、日本、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンの4者協力による「平和と繁栄の回廊」構想の下、「ジェリコ農産加工団地(JAIP)」の発展に取り組んでいる。8月の茂木外務大臣のパレスチナ訪問時に、JAIPパレスチナ・ビジネス繁栄センター開所式、ヒシャム宮殿遺跡大浴場保護シェルターの開所式が行われた。また、11月には鈴木貴子副大臣が「国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に関する閣僚級国際会合」に出席し、UNRWAによるパレスチナ難民支援活動とその財政安定化の重要性、及び日本の一貫した支援などについて述べた。 厳しい人道状況が継続するイエメンに対しては、日本は2015年以降、合計約3億米ドル以上の支援を実施してきた。3月の「イエメン人道危機に関するハイレベル・プレッジング会合」では、鷲尾外務副大臣から、2021年中に少なくとも総額約4,900万ドルの支援を行うことを決定し、日本は引き続きイエメンの平和と安定に向け貢献していくと表明した。また、国際機関と連携して、引き続き人道支援を実施しており、2021年はメンタル・ヘルスケア、小規模漁業世帯への生計支援や能力再建、教育などの分野で協力を行った。 アフガニスタンでは、8月のタリバーンによるカブール制圧以降、人道状況が悪化しており、国民の半数近くが食料などの人道支援が必要とされていることに加え、多数の新たな難民が周辺国へ流出することが懸念されている。こうした状況を踏まえ、9月に行われた「アフガニスタンに関する拡大閣僚会合」では、茂木外務大臣から、国際機関を通じ、シェルター、保健、水・衛生、食料、農業、教育などの分野で6,500万ドル(約71億円)規模の新規支援を行うことを含め、2021年中に総額約2億ドル(約220億円)の支援を行う用意があることを表明した。 中長期的な中東地域の安定化のためには人材育成が不可欠である。一例として、エジプトでは技術協力「エジプト日本科学技術大学(E-JUST)プロジェクトフェーズ3」を通じて、エジプト及び中東・アフリカ地域の産業及び科学技術人材の育成を支援している。また、円借款「エジプト・日本学校支援プログラム(エジプト・日本教育パートナーシップ)」を通じた学校運営支援、教員の能力向上支援も実施しており、2021年10月までに日本式教育のモデル校が48校開校した。 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に関する閣僚級国際会合に出席する鈴木外務副大臣(11月16日、東京) 「E-JUSTでの安全とリスク管理の授業」(1月、エジプト、写真提供:JICA) キ アフリカ アフリカは、2014年前後の資源価格急落による経済の低迷から徐々に回復し、豊富な天然資源と急増する人口を背景に、引き続き、その潜在性・将来性が国際社会の注目と期待を集めている。一方で、新型コロナの感染拡大は、保健・医療面を始めとした、アフリカが抱える脆(ぜい)弱性を浮き彫りにしている。このような中、日本は、二国間及び国際機関を通じ、総額68億円分の保健・医療関連機材などの供与を実施している。これに加え、技術協力を通じた保健・医療システム強化のための支援を実施した。また、日本は長年にわたり、アフリカ開発会議(TICAD)プロセスを通じて、アフリカの保健・医療体制を中長期的に支える取組を積極的に行っており、これらの取組は新型コロナ対策において改めて評価されている。たとえば、ガーナでは、日本が設立を支援し、検査技師の育成などに協力してきた野口記念医学研究所が、同国のPCR検査実施に中心的な役割を担っているほか、ケニアでは、日本が支援してきた中央医学研究所(KEMRI)などの保健・医療関連の研究機関が、アフリカ各地で新型コロナの対策拠点として貢献している。 新型コロナはアフリカの社会・経済にも広く影響を及ぼしている。日本は2019年8月に開催したTICAD7の三つの柱である経済、社会、平和と安定のそれぞれの分野で取組を進め、アフリカの社会・経済面での諸課題への対応に貢献している。 経済分野では、ABEイニシアティブ3.0などを通じて、アフリカにおけるビジネスの推進に資する産業人材の育成を拡充している。ABEイニシアティブでは、TICAD Ⅴ(2013年)以降、これまでJICAを通じて約1,600人のアフリカの若者に日本の大学院での教育の機会や日本企業などにおけるインターンシップ、日本語研修、起業家育成研修などのビジネス・プログラムを提供している。また、連結性の強化に向け、三つの重点地域(東アフリカ・北部回廊、ナカラ回廊、西アフリカ成長の環)を中心とした質の高いインフラ投資の推進にも取り組んでいる。9月には、西アフリカ「成長の環」を通じた連結性強化に貢献するため、ガーナで「第二次テマ交差点改良計画」及び「第二次国道八号線改修計画」に関する書簡の交換を行った。 社会分野では、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の拡大に向けた取組を一層推進している。また、質の高い教育の提供に向け、理数科教育の拡充や学習環境の改善に協力している。 平和と安定分野では、「アフリカの平和と安定に向けた新たなアプローチ(NAPSA)」の下で(172ページ 第3章第1節3(6)(イ)b参照)、治安関連の機材整備や人材育成などの支援を通じて、アフリカが主導する平和と安定に向けた取組を後押ししている。 中央医学研究所(KEMRI)に対するPCR検査キット供与式(6月、ケニア) KEMRIでの第三国研修の様子(11月、ケニア 写真提供:JICA) (5)適正かつ効果的なODA実施のための取組 ア 適正なODA実施のための取組 ODAの実施では、各段階で外部の意見を聴取し、その意見を踏まえた形で案件を形成することにより、透明性及び質の向上に努めている。ODA実施の事前調査開始前の段階では、開発協力適正会議を公開の形で開催し、関係分野に知見を有する独立した委員と意見交換を行い事業の妥当性を確認している。さらに、案件の実施後には、JICAは2億円以上の全ての案件について、事業の透明性を高める観点から、事後評価の結果を「ODA見える化サイト」で公表しており(2021年12月末時点で2,795件掲載)、10億円以上の案件については第三者による事後評価を行っている。外務省はODAの管理改善と説明責任の確保を目的として、第三者による政策レベルの評価(国別評価、課題・スキーム別評価など)及び外務省が実施する無償資金協力案件の事後評価を実施し、評価結果から得られた教訓をその後のODAの政策立案や事業実施にいかすように努め、その結果を外務省ホームページ上で公表している。 なお、JICAは、開発協力の適正性を確保する一環として、環境社会配慮ガイドラインを導入しており、人権、環境及び社会への影響に配慮したODAの実施にも努めている。 イ 効果的なODA実施のための取組 ODAは、相手国のニーズや案件の規模に応じて、無償資金協力、有償資金協力及び技術協力という三つの枠組みにより実施されているが、限られた予算を効率的に活用し、高い開発効果を実現するため、外務省は相手国の開発計画や開発上の課題を総合的に検討して、国ごとにODAの重点分野や方針を定めた開発協力方針を策定している。また、国別開発協力方針の別紙として事業展開計画を策定しており、個別のODA案件がどの重点分野につながっているかを一覧できるよう取りまとめている。これらの取組により、国ごとの開発協力の方針を明確にし、各枠組みの垣根を越えたより戦略的な案件の形成を実現している。 ウ ODAの国際的議論に関する取組 日本はODAに関する国際的な議論に積極的に貢献している。OECD/DACでは各国のODA実績が正当に評価されるための測定方法の改定や、ODAを触媒とした民間資金の動員の方策、新型コロナ対策や気候変動問題に関する援助の在り方について議論が行われている。また、新興ドナーが行う途上国支援が、国際的な基準や慣行と整合する形で説明責任と透明性を持って行われるよう、OECD/DACとして相互学習の機会を設けるなどの働きかけを行っている。 エ ODAへの理解促進のための取組 開発協力の実施に当たっては国民の理解と支持が不可欠であり、このため効果的な情報の発信を通じて国民の理解促進に努めている。ODAホームページを全面刷新し内容を充実させるとともに、ODAツイッター、メルマガ配信などを通じて幅広い層を対象に、分かりやすい情報発信を目指している。また、人気アニメを起用した「鷹の爪団の 行け!ODAマン」シリーズ拡充のほか、ODA紹介動画、開発協力ドキュメンタリー動画などを新たに制作した。一般参加型企画としては国際協力イベント「Earth Camp」を初めてオンラインで実施した。さらに今年30回目を迎えた「グローバルフェスタJAPAN」を、オンライン・対面参加両方を可能にしたハイブリッド形式で開催、2日間で1万人を超える来場・視聴者を得た。また、教育機関などで外務省員が講義を行うODA出前講座も2021年はオンラインで積極的に実施し、開発協力への理解促進を図っている。海外に向けた広報としては、日本の開発協力に関する現地での報道展開を目指してODA現場での視察ツアーを実施した。さらに英語や現地語による広報資料の作成も行っている。 発信力の高い著名人を起用した動画「フロントランナー」を公開中 1 ODA:Official Development Assistance 日本の国際協力については、『開発協力白書 日本の国際協力』 参照https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo.html 2 日本のODAの主な形態としては、二国間の資金贈与である無償資金協力、開発途上地域の開発のための貸付けである有償資金協力、技術協力、国際機関への拠出・出資などがあるが、このうち一番大きな額を占めるのが有償資金協力である。有償資金協力による貸付けは、通常、金利分と共に返済が行われている。 3 「贈与相当額計上方式」(Grant Equivalent System:GE方式)は、経済協力開発機構・開発援助委員会(OECD/DAC)が標準のODA計上方式として2018年の実績から導入したものであり、有償資金協力について、贈与に相当する額をODA実績に計上するもの。贈与相当額は、支出額、利率、償還期間などの供与条件を定式に当てはめて算出され、供与条件が緩やかであるほど額が大きくなる。従来のOECD/DACの標準であった純額方式(供与額を全額計上する一方、返済額はマイナス計上)に比べ、日本の有償資金協力がより正確に評価される計上方式といえる(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/100053766.pdf)。