第3章 国際社会で存在感を高める日本 5 国際連合(国連)における取組 (1)日本と国連との関係 国連は、現在、世界のほぼ全ての国(2021年12月現在193か国)が加盟する国際機関であり、紛争解決や平和構築、テロ対策、軍縮・不拡散、貧困・開発、人権、難民問題、環境・気候変動、防災、感染症を含む多様な分野の諸課題に取り組んでいる。 日本は、1956年に加盟して以来、普遍性と専門性の両面を活用し、国連の3本柱である平和と安全、開発、人権を始めとする様々な分野において、多国間協力を通じた政策目的の実現を図ってきた。国連安全保障理事会(国連安保理)の非常任理事国を加盟国中最も多く務めるなどして、国際社会の平和と安全の維持のため主要な役割を果たしてきたのは、その重要な例である。こうした活動を支えるため、政府として国連への財政拠出を行いつつ、組織面(マネージメント)への関与を行ってきたほか、国連を舞台として活躍する日本人職員を支援し、重要なポストの獲得に努めている(277ページ 第4章第1節2(1)参照)。国連を21世紀にふさわしい効率的かつ効果的なものとしていくことは喫緊の課題であるため、日本は引き続き国連安保理を始めとする国連改革に積極的に取り組んでいる。 (2)2021年の主要行事 9月、第76回国連総会ハイレベルウィークは、新型コロナの影響を受け、事前録画した演説の上映及び対面での参加の両方を可能としたハイブリッドの形式で開催され、菅総理大臣は事前録画、茂木外務大臣は対面の形式で出席した。 菅総理大臣は一般討論演説において、新型コロナ危機を乗り越え、世界をより良い未来に導くための日本のビジョンと貢献について発信した。感染症危機の克服に向けた日本の取組を紹介し、世界をより良い未来に導くために特に重視する分野として、国際保健システム、脱炭素化、自由で開かれた国際秩序づくり、平和と安全の四つを挙げ、それぞれの分野において日本として積極的に取り組んでいくことを表明した。最後に、東日本大震災から10年となることに言及しつつ、国際協調の重要性を再認識していること、また、多国間主義を一層推進していく決意を述べた。 また、菅総理大臣は四つの会合にビデオメッセージで参加した。米国主催のエネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム「Major Economies Forum(MEF)」では、気候変動対策において2050年カーボンニュートラルを目指す決意や、日本がリーダーシップを発揮していくことを述べた。「SDGモーメント」では、日本が2030年までのSDGs(持続可能な開発目標)達成と、その先の希望に満ちた未来に向け、全力で取り組んでいくことを強調した。さらに、米国主催「新型コロナ・サミット」では、日本によるCOVAXファシリティへの財政的貢献や新たなプレッジを含むワクチンの現物供与の支援を紹介するとともに、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けた国際的な取組をリードしていく決意を示した。「国連食料システムサミット」では、日本として、世界のより良い「食料システム」の構築に向けて取り組むとともに、12月に幅広い関係者の参加を得て「東京栄養サミット2021」を主催し、新型コロナにより悪化している世界の栄養状況の改善のために、国際的な取組をリードしていく決意を示した。 茂木外務大臣は、国連安保理改革に関するG4外相会合の主催、アフガニスタン情勢に関するG20臨時外相会合への参加に加え、米国、韓国、英国、フランス、ロシア、インドネシア、カタール、パキスタンとの外相会談、日米韓での外相会合を行った。各国外相との個人的関係も基礎にしつつ、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のビジョン及び国際社会における日本の立ち位置を強化する外交を展開し、北朝鮮やアフガニスタンといった地域情勢などにつき国際社会と緊密な連携を確認した。さらに、多国間主義同盟閣僚級会合、第12回包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議にビデオメッセージを発出し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に関する国連総会ハイレベル・サイドイベントを共催するなど、日本の政策や立場を国際社会に発信した。 さらに、茂木外務大臣はグテーレス国連事務総長と会談し、9月にグテーレス事務総長が発出した「我々のコモンアジェンダ」報告書(国際社会が直面する様々な課題にどう対応するかについての提言書)における新たな課題への対応について意見交換を行い、人間の安全保障の強化につなげることの重要性について一致した。また、北朝鮮に関し、事務総長から拉致問題の早期解決に向けた理解と協力への支持が改めて示された。 8月には、第76回国連総会議長就任を目前に控えたシャーヒド・モルディブ外相が訪日し、菅総理大臣を表敬するとともに、茂木外務大臣と新型コロナ、気候変動、北朝鮮問題、安保理改革などについて意見交換を行った。 2022年2月のロシアによるウクライナ侵略と安保理におけるロシアの拒否権行使を受け、3月、国連総会緊急特別会合が開催され、「ウクライナに対する侵略」決議が日本を含む141か国の賛成により可決された。日本はこの決議の共同提案国にもなり、採択後ロシアに対し、国際社会の圧倒的な声に耳を傾け、決議を実施するよう求めると発言した。 (3)国連安全保障理事会(国連安保理)、国連安保理改革 ア 国連安全保障理事会 国連安保理は、国連の中で、国際の平和と安全の維持に主要な責任を有する機関であり、5か国の常任理事国と、国連加盟国により選出される10か国の非常任理事国(任期2年)から構成される。その扱う議題は、紛争の平和的解決への取組、大量破壊兵器の拡散やテロなどの新たな脅威への対処から、平和構築、女性・平和・安全保障など幅広い分野に及んでいる(190ページ特集参照)。これに伴い、国連平和維持活動(PKO)や国連特別政治ミッション(SPM)などの活動の幅も多様さを増している。 日本は、国連加盟国中最多となる11回、安保理非常任理事国に選出され、国連安保理での議論に積極的に貢献している。2016年1月から2017年12月末までの前回任期中は、北朝鮮による3度の核実験(2016年1月、9月及び2017年9月)及び累次の弾道ミサイル発射を受けて採択された六つの国連安保理決議の作成に貢献するなど、北朝鮮の核・ミサイル問題などの解決に向けて尽力した。また、アフリカ・中東を始めとする地域情勢への対応に積極的に取り組むとともに、国連安保理の作業方法改善に向けた議論を主導した。さらに日本は任期中、国連安保理が国際の平和及び安全の観点から効果的に対処できるよう人間の安全保障や平和の持続の考え方にも基づきつつ議論に貢献した。また、2019年12月に開催された「不拡散/北朝鮮」を議題とする国連安保理公開会合では、北朝鮮による弾道ミサイル発射は、国連安保理決議違反であり、日本のみならず国際社会全体にとって深刻な挑戦であること、国連安保理決議の完全な履行が重要であることを呼びかけるなど、国際の平和と安全の維持に関わる議論に力を尽くしてきた。日本は、これからも国際社会の平和と安全の維持に貢献し続けるため、日本の常任理事国入りを含む安保理改革が実現するまでの間、可能な限り頻繁に理事国となるべく、2022年に行われる安保理非常任理事国選挙に立候補している。 イ 国連安保理改革 国連発足後75年以上が経(た)ち、国際社会の構図の大きな変化に伴い、国連の機能が多様化した現在でも、国連安保理の構成は、ほとんど変化していない。2022年2月のロシアによるウクライナ侵略の事態に対し、安保理ではこれを非難する決議案が投票に付されたが、ロシアの拒否権行使により採択されず、安保理としての協調した対応がとれなかった。このことは、安保理が現在の国際社会が求める機能を十分に果たしていないことを如実に示した。国際社会では、国連安保理改革を早期に実現し、その正統性、実効性及び代表性を向上させるべきとの認識が共有されている。特に、「国連創設75周年記念宣言」では、全世界の首脳が「安保理改革の議論に新しい命を吹き込む」ことを誓約した。 日本は、国連を通じて世界の平和と安全の実現により一層積極的な役割を果たすことができるよう、常任・非常任議席双方の拡大を通じた国連安保理改革の早期実現と日本の常任理事国入りを目指し、各国への働きかけを行ってきている。 ウ 国連安保理改革をめぐる最近の動き 国連では、2009年から総会の下で国連安保理改革に関する政府間交渉が行われている。2021年は、1月から5月まで月に1度政府間交渉会合が実施された。6月下旬、第75回会期の作業を第76回会期に引き継ぐ決定が、「安保理改革の議論に新しい命を吹き込む」との内容を含む形で、国連総会でコンセンサスにて採択された。11月、シャーヒド第76回国連総会議長は、政府間交渉の共同議長に、カタールの国連常駐代表を再任し、デンマークの国連常駐代表を新たに任命した。新たな体制の下、今後の議論の進展が注目される。 日本は、国連安保理改革の推進のために協力するグループであるG4(日本、インド、ドイツ及びブラジル)の一員としての取組も重視している。茂木外務大臣は、9月の国連総会ハイレベルウィークに合わせ、G4外相会合を主催した。G4の外相は同会合で、国連安保理改革の議論の現状認識を共有し、具体的進展を図るための共通の取組について意見交換を行い、G4の結束と決意を再確認した。また、G4の外相は、政府間交渉の進展を得るため、国連総会議長を支持することで一致するとともに、アフリカ共通ポジションへの支持を表明し、アフリカを始めとする関係国とも連携しつつ、文言ベース交渉の早期開始など改革プロセスの前進のために協力することで一致した。日本は引き続き、改革推進派諸国と緊密に連携し、国連安保理改革の実現に向けたプロセスに前向きに関与していく。 国連安保理改革に関するG4(日本、インド、ドイツ、ブラジル)外相会合(9月22日、米国・ニューヨーク) 特集国連安全保障理事会 ─理事会が扱う課題とその変化─ 国連の場では、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大は、国際的な保健課題にとどまらず、安全保障にも影響を及ぼし得るという認識が広がっています。また、気候変動についても、安全保障上の脅威を悪化させるものという見方があります。このように、地域紛争、軍縮、テロリズムといった従来からの国連の安全保障課題と比較して、新しい安全保障課題だと捉えられるものが近年増えています。これに伴い、国連の安全保障理事会(安保理)が扱う課題にも変化が生じています。言い換えれば、安保理が国連憲章上担っている「国際の平和及び安全の維持」についての責任の範囲に変化が見られるのです。 安保理の従来からの議題としては、まず、地域別のものがあります。特に、アフリカ及び中東に関するものが約8割と多く、アフガニスタン、シリア、リビアやソマリア、マリ、コンゴ民主共和国などの情勢が扱われています。また、テーマ別の議題もあり、国連平和維持活動(PKO)、テロの脅威、平和構築などが扱われます。さらに、このような既存の議題にとどまらない新しい内容を扱う場合には、安保理の各理事国は、その時々の情勢も踏まえて何を議題とすべきかについて協議します。 最近の議題数の傾向を見てみると、1990年代から2007年まで毎年8から23の新たな議題が追加されてきた一方、2008年以降は1年当たり三つ以下の追加にとどまっています。 その背景には、2010年代から、新たな課題を表現する新たな議題を増やしていくよりも、既存の議題の下に新たなサブ項目を追加することで、安保理が新しい課題に対応するという傾向があると考えられます。 例えば、テーマ別議題の一つである「国際の平和及び安全の維持」の下のサブ項目として、「海上の国際組織犯罪」、「気候と安全保障」、「新型コロナウイルス感染症の影響」などを加えることで、安保理としても国際情勢の潮流を受けた新しい課題に対応しようとする傾向があります。 同時に、こうした流れは、新たな議題の追加をめぐる安保理内の調整の結果と見ることもできます。例えば、気候変動は、安保理では「国際の平和及び安全の維持」という議題の下に「気候と安全保障」というサブ項目を設ける形で扱われています。しかし実際のところ、各国の意見は割れているのが現状で、気候変動は紛争などのリスクを増加させる要因であるという認識の下、気候変動自体を(サブ項目ではなく)安保理の正式な議題として立てるべきという意見がある一方で、安保理は気候変動を扱う場ではないという考え方も見られます。このような各国の立場の相違も背景に、気候と安全保障を主題として扱う安保理決議はいまだありません。 なお、安保理の公式会合で取り上げる議題について理事国の一致が得られない場合には、安保理議場での手続投票となることがあります。手続投票は、常任・非常任の別を問わず9理事国の賛成票をもって可決されます。また、安保理の正式な議題となっていない案件であっても、公式な場ではなく、非公式な場(アリア・フォーミュラ会合など)で扱われる例も増えてきています。 日本は、安保理が気候変動、飢饉(ききん)、感染症などの幅広い複合的な現代的課題にも効果的に対処することが重要という観点から、前回安保理理事国を務めた2017年から2018年の間に、「国際の平和と安全に対する複合的な現代的課題への対処」に関する公開討論(公式会合)を主催しました。 日本は現在、2022年の安保理非常任理事国選挙に立候補しています。同選挙に当選した暁には、国際社会の動向を注視しつつ、安保理の一員として、平和と安全の維持により一層貢献していきます。 図1 各地域が安保理の会合の議題に占める割合(2021年、地域情勢に関する会合) 図2 安保理の会合の数(2021年、分野別議題のみ) 主要国の国連通常予算分担率(単位:%) 順位 国名 2019年-2021年 2022年-2024年 1 米国 22.000 22.000 2 中国 12.005 15.254 3 日本 8.564 8.033 4 ドイツ 6.090 6.111 5 英国 4.567 4.375 6 フランス 4.427 4.318 7 イタリア 3.307 3.189 8 カナダ 2.734 2.628 9 韓国 2.267 2.574 10 スペイン 2.146 2.134 主要国の国連PKO予算分担率(単位:%) 順位 国名 2021年 2022年 2023年-2024年 1 米国 27.8908 26.9493 26.9493 2 中国 15.2195 18.6857 18.6857 3 日本 8.5640 8.0330 8.0330 4 ドイツ 6.0900 6.1110 6.1110 5 英国 5.7899 5.3592 5.3592 6 フランス 5.6124 5.2894 5.2894 7 イタリア 3.3070 3.1890 3.1890 8 カナダ 2.7340 2.6280 2.6280 9 韓国 2.2670 2.5740 2.5740 10 ロシア 3.0490 2.2858 2.2858 (4)国連の組織面(マネージメント) ア マネージメント グテーレス国連事務総長は、2期目の再任が決定した6月、平和への取組及び開発と共に国連のマネージメント分野での改革について継続的な取組が必要であるとの認識を示し、これまで取り組んできた改革を強化することを表明した。また、9月には「我々のコモンアジェンダ」報告書を発出し、国連を新たな時代に適応させるための具体策を提案した。日本は、加盟国や国連事務局との対話を通じて、改革の目的を支持しつつ、こうした取組が具体的な成果を上げ、国連が一層効果的・効率的に任務を果たすよう求めてきている。 イ 予算 国連の予算は、一般的な活動経費である通常予算(1月から翌年12月までの2か年予算。2020年から2022年までは試験的に1月から同年12月までの1か年予算を導入)と、PKO活動に関するPKO予算(7月から翌年6月までの1か年予算)で構成されている。 このうち、通常予算については、2021年12月、国連総会において、2022年予算として約31.2億米ドルの予算が承認された。また、PKO予算については、2021年6月に2021年から2022年度の予算が承認され、予算総額は約63.8億米ドル(前年度最終予算比約3.0%減)となった44。 国連の活動を支える予算は、各加盟国に支払が義務付けられている分担金と各加盟国が政策的な必要に応じて拠出する任意拠出金から構成されている。このうち、分担金については、日本は、米国、中国に次ぐ第3位の分担金負担国として、2021年通常予算分担金として約2億4,772万ドル、2021/22年PKO分担金として約5億2,926万ドルを負担しており、主要拠出国の立場から、国連が予算をより一層効率的かつ効果的に活用するよう働きかけを行ってきている。なお、分担金の算出根拠となる分担率は加盟国の財政負担能力に応じて3年ごとに改定されており、2021年末に改定された日本の分担率は、米国、中国に次ぐ8.033%(2022年-2024年)となった。 また、このような国連の行財政を支える主な機関として、国連行財政問題諮問委員会(ACABQ)及び分担金委員会がある。これらの委員会は個人資格の委員から構成される総会付属の常設委員会であり、ACABQは国連の行財政問題全般について審査し、総会に勧告を行う一方、分担金委員会は、総会における通常予算分担率の決定に先立ち、全加盟国の分担率案を作成し総会に勧告する重要な役割を担っている。日本はこれらの委員会に継続的に委員を輩出している。 44 国連通常予算の推移及びPKO予算とミッション数の推移についての外務省ホームページの掲載箇所はこちら: 国連通常予算の推移(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100091314.pdf) PKO予算とミッション数の推移(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100091315.pdf)