第2章 地域別に見た外交 3 欧州地域機関との協力及びアジア欧州会合(ASEM) (1)北大西洋条約機構(NATO)との協力 NATO3は加盟30か国の集団防衛を目的とする同盟であり、加盟国の集団防衛のほか、治安維持活動、テロ対策など、加盟国の領土及び国民の安全保障上の直接の脅威となり得る域外の危機管理や、域外国・機関との協力による協調的安全保障に取り組んでいる。アフガニスタンにおいては2015年以降「確固たる支援任務(RSM)」を行っていたが、8月の米軍撤収とともにNATOの同任務も終了した。 NATOにおいては近年アジア太平洋地域への関心を増してきており、2020年12月にオンラインで行われたNATO外相会合では、日本の外相としては初めて茂木外務大臣のステートメントがNATO日本政府代表部大使により代読され、今日の東アジアの安全保障環境が一層厳しくなっていることについて指摘するとともに、日本の推進する「自由で開かれたインド太平洋」にとってNATOは心強いパートナーであると発信した。また、6月に開催されたNATO首脳会合で発出されたコミュニケにおいては、日本を含むアジア太平洋のパートナー国との対話及び協力を拡大すると公表された。 日本とNATOは基本的価値を共有するパートナーであり、2014年5月に署名した国別パートナーシップ協力計画(IPCP)(2018年5月及び2020年6月に改訂)に基づき、具体的な協力を進めてきている。日本は、これまでNATOのサイバー演習(サイバー・コアリション)への参加や、人道支援・災害救援(HA/DR)に関連する演習にオブザーバー参加してきている。また、女性・平和・安全保障(WPS)分野などにおける協力推進のため、2021年12月からNATO本部に4代目となる女性自衛官を派遣している。加えて日本は、NATOの軍事的な専門知識を活用し軍備管理・軍縮、民主化・地域安定化促進を目的とした事業を行う「平和のためのパートナーシップ(PfP)信託基金」などを通じて、ウクライナにおける不発弾処理支援、セルビアにおける国防省造兵廠(しょう)の非軍事化能力の構築支援などに貢献してきている。 (2)欧州安全保障協力機構(OSCE)との協力 OSCE4は、欧州、中央アジア・コーカサス、北米地域の57か国が加盟し、包括的アプローチにより紛争予防、危機管理、紛争後の復興・再建などを通じて、加盟国間の相違を橋渡しし、信頼醸成を行う地域安全保障機構である。日本は、1992年から「協力のためのアジア・パートナー」としてOSCEの活動に協力しており、タジキスタン所在の国境管理スタッフカレッジ(研修機関)を通じたアフガニスタン及び中央アジア諸国の国境管理強化によるテロ防止、選挙監視及び女性の社会進出支援プロジェクトなどへの支援を行っている。また、OSCEはウクライナ情勢改善のため重要な役割を果たしており、日本はOSCE特別監視団(SMM)に財政支援及び専門家の派遣を行っている(専門家は2015年8月から断続的に派遣)。12月にスウェーデンで開催された外相理事会には水谷章駐オーストリア大使が参加し、OSCE加盟国の国境管理能力向上に向けた支援などを継続していくと、2022年の日・OSCEパートナーシップ30周年を迎えるに当たり、引き続きOSCEに積極的に協力すると述べた。 (3)欧州評議会(CoE)との協力 CoE5は、民主主義、人権、法の支配の分野で国際基準の策定に重要な役割を果たしている欧州の47か国が加盟する国際機関であり、日本はアジアで唯一のオブザーバー国として知見提供及び会合開催支援により貢献している。7月の「AIに関する会合」のサイドイベント、11月の「世界民主主義フォーラム」及び「オクトパス会合2021」にも日本から出席し政策発信を行った。また、2021年は日本のオブザーバー国就任25周年に当たり、CoE本部に桜を寄贈し植樹したほか、特設ホームページを開設し日本政府や欧州評議会関係者の祝辞メッセージを発出した。 (4)アジア欧州会合(ASEM)における協力 ASEM6は、アジアと欧州との対話と協力を深める唯一のフォーラムとして、1996年に設立され、51か国・2機関を参加メンバーとして首脳会合、外相会合を始めとする各種閣僚会合及び各種セミナーの開催などを通じて、(1)政治、(2)経済及び(3)文化・社会その他を3本柱として活動している。 11月25日及び26日には第13回首脳会合が議長国カンボジアの下、オンライン形式で開催された。日本からは、岸田総理大臣が出席し、新しい資本主義の実現を目指すこと、新型コロナ対策や気候変動対策を通じて地球規模課題の解決に積極的に貢献し、新型コロナからの「より良い回復」に向けた国際的な取組をリードしていく決意を表明した。さらに、岸田総理大臣は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、各国と連携し、ルールに基づく連結性の強化に積極的な役割を果たしていくことを述べるとともに、国際的な原則に則(のっと)った質の高いインフラ投資の実施の重要性を指摘した。地域情勢については、北朝鮮による核・ミサイル活動に対する強い懸念を表明し、拉致問題を含む北朝鮮への対応についてASEM参加国と連携していくと述べた。東シナ海や南シナ海では一方的な現状変更の試みや緊張を高める活動がエスカレートしており、法の支配に逆行する動きも見られることについて強く反対するとともに、香港情勢及び新疆の人権状況に対する強い懸念を表明した。 この首脳会合で発出された議長声明では、アジアと欧州間のパートナーシップの重要性を再確認し、北朝鮮の核及びその他の大量破壊兵器並びに弾道ミサイル計画の完全な、検証可能な、かつ不可逆的な廃棄(CVID)や拉致問題の即時解決、国連海洋法条約を始めとする国際法の完全な遵守、海洋安全保障の確保などが言及された。また、新型コロナの感染拡大を踏まえ、議長声明と併せて発出された「新型コロナウイルス感染症後の社会経済復興に関するプノンペン声明」では、新型コロナのワクチンに関する国際協力、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)、更なる気候変動対策など、アジア・欧州諸国の復興のための重点施策を発信した。 日本は、ASEM唯一の常設機関であるアジア欧州財団(ASEF)7に対し、感染症対策のための医療用個人防護具(PPE)及び抗ウイルス剤などの備蓄事業を支援し、ASEM参加国への備蓄物資の緊急輸送や、能力構築のためのワークショップ及び公衆衛生ネットワーク事業の実施に協力してきている。5月から10月にかけてはASEFの備蓄物資がカンボジア、ラオス、バングラデシュ、ブルネイ、ベトナムに提供された。そのほか、ASEFと関係機関の共催による環境フォーラムのオンライン形式での実施、ASEFへの拠出金の支出などを通じて、ASEMの活動に貢献した。 欧州の主要な枠組み その他の欧州地域 【北欧諸国】 アイスランド:5月、アイスランドとの共催により、第3回北極科学大臣会合がアジア初となる東京で開催され、北極研究の国際協力による推進をテーマに議論が行われた。 スウェーデン:3月、菅総理大臣はロヴェーン首相と電話会談を実施し、経済、気候変動、デジタルなど幅広い分野で二国間関係を一層強化することで一致した。また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて協力していくことにつき、ロヴェーン首相から賛同を得るとともに、中国、ミャンマーを含む地域情勢に関して連携することで一致した。 デンマーク:11月、林外務大臣は訪日したコフォズ外相と会談し、両大臣は、2014年に両首脳間で発出した「戦略的パートナーシップ」を更に具体的な協力へと発展させることを目的とした「戦略的共同作業計画」の調整の進捗を歓迎した。また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現や気候変動への対処を含めた国際場裡における協力促進を確認するとともに、地域情勢についても意見交換を行い、基本的価値を共有する同志国として連携を強化して対応していくことで一致した。 ノルウェー:岸田総理大臣は、ノルウェーが主導する「持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル」のメンバーとなり、11月の第3回会合において、日本の取組を紹介しつつ、持続可能な海洋経済の構築への貢献を表明した。 フィンランド:茂木外務大臣は訪日したスキンナリ開発協力・外国貿易相と会談を行い、デジタル及びサイバー分野を始めとした二国間関係の進展を歓迎するとともに、新型コロナ対策を含めた国際場裡での連携を強化することで一致した。また、インド太平洋での協力についても意見交換を行い、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の実現の重要性を確認した。 【ベネルクス三国】 オランダ:6月、イタリアで開催されたG20外相会合の機会に、茂木外務大臣がカーフ外相と会談を行い、両外相は「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携強化を確認した。さらに、オランダは2020年に発表した独自のインド太平洋ガイドラインも踏まえ、フリゲート艦「エファーツェン」を英空母打撃群の一部としてインド太平洋に派遣するとともに日本に寄港させた。 ベルギー:新型コロナの流行下において、ワクチンの開発・生産拠点及び貿易港・国際空港を擁するベルギーは、世界へのワクチン供給で大きな役割を担った。日本との関係では、7月、ベルギー南部で発生した集中的豪雨による洪水被害に対し、菅総理大臣及び茂木外務大臣からお見舞いメッセージを発出した。 ルクセンブルク:7月、アンリ大公殿下が2020年東京オリンピック競技大会開会式出席のために訪日した。 サンマリノ:2020年12月8日に実施されたサンマリノ大評議会(議会に相当)の総選挙を受け、2021年1月8日、ルカ・ベッカーリ外務・国際経済協力・通信長官を首班とするベッカーリ政権が発足した。7月には、ヴェントゥリーニ、ニコリーニ両執政が2020年東京オリンピック競技大会開会式出席のために訪日した。 ポルトガル:7月、井上信治国際博覧会担当大臣がポルトガルを訪問し、サントス・シルヴァ外相と会談を行った。同外相からは大阪・関西万博への参加が表明され、井上国際博覧会担当大臣は、ポルトガルの参加表明を歓迎するとともに、万博の成功に向けたポルトガルとの協力を確認した。 モナコ:7月、アルベール2世公殿下が2020年東京オリンピック競技大会開会式出席のために訪日した。 【バルト三国】 エストニア:7月、茂木外務大臣は日本の外務大臣として初めてエストニアを訪問し、リーメッツ外相と会談を行い、カッラス首相を表敬した。両者との間で、今次訪問及び2021年の友好100周年を機に幅広い協力関係を一層促進させることで一致した。エストニア側から、「自由で開かれたインド太平洋」への支持が表明され、同志国がルールに基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化していくことの重要性について一致した。8月、菅総理大臣は、訪日したカリユライド大統領と首脳会談を実施し、デジタルやサイバー分野での連携や「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け連携することで一致した。 ラトビア:7月、茂木外務大臣は日本の外務大臣として初めてラトビアを訪問し、リンケービッチ外相と会談を行い、カリンシュ首相を表敬した。両者との間で、今次訪問及び2021年の友好100周年を機に幅広い協力関係を一層促進させることで一致した。ラトビア側から「自由で開かれたインド太平洋」の実現への力強い支持が表明され、同志国がルールに基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化していくことの重要性について一致した。 リトアニア:7月、茂木外務大臣はリトアニアを訪問し、ランズベルギス外相と会談を行い、シモニーテ首相を表敬した。両者との間で、今次訪問及び2022年の友好100周年を機に幅広い協力関係を一層促進させることで一致した。リトアニア側から「自由で開かれたインド太平洋」への支持が表明され、同志国がルールに基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化していくことの重要性について一致した。 アイルランド:12月、林外務大臣はコーヴニー外務・国防相とテレビ会談を実施し、政治・経済分野などの二国間関係発展のため、連携を一層促進することで一致した。また、両大臣は、地域情勢についても意見交換を行うとともに、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて同志国の連携を強化することで一致した。 【V4】 日本とV4各国(ポーランド、ハンガリー、スロバキア、チェコ)との二国間関係は長い歴史があり、伝統的に良好。5月の茂木外務大臣のワルシャワ訪問時に第7回「V4+日本」外相会合を開催し、「自由で開かれたインド太平洋」や西バルカン支援において協力していくことを確認した。 ポーランド及びハンガリーは「法の支配」をめぐってEUとの対立を深めており、EUによる両国への復興基金の承認が遅延。7月のハンガリーにおけるLGBT関連法の成立や10月のポーランド憲法法廷における憲法とEU法の関係に関する判決など、EUが掲げる基本的価値と各国の主権に係る問題が発生した。 ポーランド:3月の菅総理大臣とモラヴィエツキ首相の電話会談、5月の茂木外務大臣のポーランド訪問時の外相会談、7月のドゥダ大統領の訪日など、活発なハイレベル対話を実施し、戦略的パートナーシップ関係の強化を確認した。 ハンガリー:3月のシーヤールトー外務貿易相訪日及び5月の茂木外務大臣のワルシャワ訪問時に、外相会談を実施。ハンガリー(7月からV4議長国)と「V4+日本」協力を推進するとともに、日系企業による新規投資を歓迎し、経済関係を強化していくことで一致した。 スロバキア:5月の茂木外務大臣のワルシャワ訪問時に、コルチョク外務・欧州問題相と会談を実施。日系企業による新規投資を歓迎し、経済関係を強化していくことで一致した。 チェコ:5月の茂木外務大臣のワルシャワ訪問時に、クルハーネク外相と会談を実施。「日・チェコ協力のための行動計画(2021から2025年)」に署名するとともに、両国の戦略的パートナーシップを確認した。 【西バルカン諸国】 西バルカン地域では、民族間の対立が依然として残っているものの、各国はEU加盟に向けた改革に取り組むなど、全体としては、安定と発展に向けて進展した。2018年1月、安倍総理大臣が日本の総理大臣として初めてセルビアを訪問し、EU加盟を目指す西バルカン諸国(アルバニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア及びモンテネグロ)との協力を進める「西バルカン協力イニシアティブ」を発表し、青年交流、経済交流などの分野で西バルカン地域全体との協力を促進した。4月に西バルカン諸国政府により設立された西バルカン基金との協力事業として、西バルカン各国からの参加者を得た「西バルカン地域における新型コロナウイルス感染症の市民社会団体の持続性に対する影響」研究報告プロジェクトをオンラインにて実施した。5月には茂木外務大臣がボスニア・ヘルツェゴビナを訪問し、7月にはオスマニ・コソボ大統領及びクリボカピッチ・モンテネグロ首相の訪日が実現した。 【GUAM(ジョージア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ)】 旧ソ連4か国により、民主主義の促進や安定的な経済発展を目的として設立。日本は2007年に「GUAM+日本」協力枠組みを創設し、外相級及び次官級の会合や、訪日招へい事業としてGUAM諸国の実務家・専門家などとのテーマ別ワークショップを実施している。日本は、GUAM諸国の安定と経済発展により、基本的価値が国際社会に根付くことを重視している。 スロベニア:4月に茂木外務大臣が2021年後半のEU議長国となるスロベニアを訪問、ロガル外相との外相会談、パホル大統領、ヤンシャ首相表敬を実施。2022年の外交関係開設30周年を契機に、経済関係の発展、Society5.0やサイバーセキュリティーの分野で関係を進展させることで一致した。また、「西バルカンイニシアティブ」の下、西バルカン諸国のEU加盟に向けて協力することで一致した。 ルーマニア:2021年に外交関係樹立100周年を迎え、戦略的パートナーシップ文書の署名に向け両国間で調整が行われた。 ブルガリア:2018年以降、「西バルカン協力イニシアティブ」の下での協力を推進。11月、日本とブルガリアの共催で第2回西バルカン防災セミナーを開催した。 クロアチア:2019年の外相相互訪問、2020年の茂木外務大臣とグルリッチ=ラドマン外相との電話会談で両国間関係に弾みが付く中、2023年の外交関係樹立30周年に向けて、経済分野を含む二国間関係の一層の進展が期待される。 オーストリア:交流150周年を迎えた2019年には、両国で様々な行事が開催されたほか、クルツ首相などが日本を訪問。2020年9月には、安倍総理大臣と同首相との電話会談が実施された。 スイス:2021年7月、2020年東京オリンピック競技大会開会式に際してパルムラン大統領が訪日し、菅総理大臣との首脳会談を実施。また、同月には租税条約改正議定書が署名されたほか、在大阪スイス領事館が新設された。 ギリシャ:2019年の日ギリシャ修好120周年を経て、安定して良好な関係が継続。今後経済関係を含めて一層の関係強化が期待される。 キプロス:2018年1月の在キプロス大使館開設に続き、2019年9月には、在京キプロス大使館が開設。2022年の外交関係樹立60周年に向けて一層の関係強化が期待される。 コラム日本とバルト三国との友好100周年 第一次世界大戦後、ロシア革命を背景に、エストニア、ラトビア、リトアニアはロシア帝国からの独立を宣言し、国際的な承認を経て共和国として誕生しました。日本は、当時のエストニア及びラトビアを1921年に、リトアニアを1922年に国家承認しました。それから100年目に当たる2021年(リトアニアについては2022年)を、それぞれの国との友好100周年として祝い、日本とバルト三国の間との友好関係の発展を図っています。 大正10年3月1日閣議決定 「エストニア」「ラトヴィア」及「ジヨルジア」各国政府ヲ法律上ノ政府トシテ承認ノ件 1929年にはラトビアの首都リガに日本の公使館が開設され、欧州情勢に関する情報収集で重要な役割を果たしました。また、リトアニアのカウナスには領事館が設置され、そこで杉原千畝(ちうね)副領事が発給した「命のビザ」は第二次世界大戦中に多くのユダヤ人の命を救ったことで知られています。その後バルト三国は第二次世界大戦下でソ連に併合されましたが、1990年にソ連からの独立や独立への移行の宣言が発出され、日本は翌1991年にエストニア共和国、ラトビア共和国、リトアニア共和国として独立した現在のバルト三国を改めて国家承認し、外交関係を開設しました。以来バルト三国は欧州の一員として国際社会で積極的に活動し、日本にとっても基本的価値を共有する重要なパートナーとなっています。その間、2007年に天皇皇后両陛下(当時)がバルト三国を御訪問され、2018年に安倍総理大臣が日本の総理大臣として初めてバルト三国を訪問するなど順調に二国間関係を発展させてきました。 2021年においても、バルト三国との要人往来が活発に行われました。まず、1月の「ラトビア共和国国家承認100周年記念式典」に菅総理大臣がビデオメッセージを寄せ、7月には茂木外務大臣が日本の外務大臣として初めてバルト三国を歴訪しました。また、8月、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に合わせて、カリユライド・エストニア大統領とレヴィッツ・ラトビア大統領夫人が訪日しました。これらの機会に行われた会談では、100周年を迎える日本とバルト三国の友好関係を確認するとともに、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現を始め、同志国として国際社会共通の課題において協力を促進することで一致しました。 日本と各国の交流行事は新型コロナウイルス感染症による制限を受けましたが、感染状況を見極め、対策をとりながら、エストニアでは6月から11月まで着物展を、またラトビアでは10月から12月までデジタル浮世絵展を実施しました。さらに、11月には、これら両国でオンライン形式の日本ブランド発信事業「江戸木版画」セミナーを実施しました。 バルト三国は欧州の物流拠点としても発展中です。西欧諸国との統合強化のための広域インフラ事業が進行中であり、日本との経済関係強化にも積極的です。経済的な連結促進を通じて欧州の結束強化に寄与できるよう、日本政府としても後押ししていく考えです。友好100周年を契機に、経済的・文化的交流をこれまで以上に強化し、日本の人々にとってバルト三国がより身近に感じられるようにしていきます。 ラトビア訪問時にリンケービッチ外相(中央)と植樹する茂木外務大臣 特集「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と日本の欧州外交 東アジアの安全保障環境の厳しさが増し、国際社会の不確実性が増大する中で、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)(注1)」の実現に向け、基本的価値を共有する同志国との連携強化は極めて重要です。2021年は、従来は地理的に遠く離れていて必ずしもインド太平洋への関心が高くなかった欧州のインド太平洋への関心と関与が増大した年でした。 欧州連合(EU)においては、南太平洋に領土を持つフランス、歴史的、経済的にアジアとの結び付きが強いオランダ及びドイツに続き、EU独自のインド太平洋に関する戦略策定の機運が高まっていました。そうした中、茂木外務大臣が1月に日本の外務大臣として初めてEU外務理事会に出席(オンライン形式)し、FOIPに関する日本の考えと取組を説明しました。その後、EUは9月に「インド太平洋における協力のためのEU戦略に関する共同コミュニケーション」を発表し、日本を含むパートナーと共にインド太平洋において協力していく方針を鮮明にしました。さらに2022年2月、同年前半のEU議長国であるフランスとEUが共催する「インド太平洋閣僚会合」に、林外務大臣が出席(オンライン形式)し、パートナーとの連携強化の重要性を強調しました。また、北大西洋条約機構(NATO)も、6月のNATO首脳会合の成果文書において日本を含むアジア太平洋パートナーとの協力拡大に言及するなど、FOIPのビジョン実現に向けた心強いパートナーとなっています。 英国も、3月に策定した「競争時代におけるグローバル・ブリテン」と題する戦略文書の中で、インド太平洋への関与を深めていく方針を示しています。 インド太平洋における日本と欧州との協力は幅広い分野にわたっています。上述のEUの「共同コミュニケーション」にはEUが日本を含むパートナーとの協力を強化していく分野として、既に日・EU間の協力が進行しているグリーン及び連結性に加えデジタルなど計七つの優先分野が提示されています。また、日本は、多くの欧州諸国との間でも新型コロナウイルス感染症対策、気候変動対策、デジタル化、経済安全保障などの分野についても、協力を推進していくことで一致しています。 そして、特に安全保障分野では、欧州各国は、実際に艦艇を派遣するなど、インド太平洋への関与も強化する方針が確固たるものであることを示しています。フランスは累次にわたり艦隊を派遣し、日本と共同訓練を行うとともに「瀬取り」監視に参加しました。とりわけ、5月に練習艦隊「ジャンヌ・ダルク」が日本に寄港した際には、米国・オーストラリアも交えた共同訓練を実施しました。英国は空母「クイーン・エリザベス」を中心とした英国・オランダ・米国の艦艇で構成される空母打撃群の日本寄港、二国間及び多国間共同訓練の実施により、英国の地域への関与が揺るぎないものであることを示しました。ドイツもまた、フリゲート「バイエルン」の日本寄港、二国間及び多国間共同訓練並びに「瀬取り」監視への初参加により、地域への関与を強化しています。 国際社会のバランスが大きく変化する中で、法の支配を始めとする基本的価値を共有する欧州諸国との連携強化が、「自由で開かれたインド太平洋」の実現、さらには法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化において果たす役割は一層大きくなっています。日本としては、2021年に増大した欧州のインド太平洋への関心と関与を歓迎するとともに、こうした関心と関与が揺るぎないものとなるよう、今後とも緊密に連携していく考えです。 EU外務理事会に出席し「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」について説明する茂木外務大臣(1月) (注1) FOIP:Free and Open Indo Pacific 3 NATO:North Atlantic Treaty Organization 詳細については外務省ウェブサイトに掲載 https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nato/index.html 4 OSCE:Organization for Security and Cooperation in Europe 5 CoE:Council of Europe 6 ASEM:Asia-Europe Meeting 7 ASEF:Asia-Europe Foundation