第2章 地域別に見た外交 3 朝鮮半島 (1)北朝鮮(拉致問題含む。) 日本は、2002年9月の日朝平壌(ピョンヤン)宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化を図ることを基本方針として、引き続き様々な取組を進めている。北朝鮮は、2021年には、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したものを含め、3回の弾道ミサイルの発射を行ったほか、9月には弾道ミサイル技術を用いて「極超音速ミサイル『火星8』」の発射を行うとともに、「新型長距離巡航ミサイル」を発射した旨発表した。2022年に入ってからも北朝鮮は極めて高い頻度で、新たな態様での発射を繰り返しており、2月27日及び3月5日には、その最大射程ではなかったものの、大陸間弾道ミサイル(ICBM)級弾道ミサイルを発射した。さらに、同月24日には、新型とみられるICBM級弾道ミサイルを発射し、同ミサイルは日本本土から約150キロメートルのEEZ内に落下したものと推定される。このような事態を更に悪化させる弾道ミサイル発射を含め、一連の北朝鮮の行動は、日本、地域及び国際社会の平和と安全を脅かすものであり、断じて容認できない。日本としては、引き続き、米国や韓国と緊密に連携するとともに、国際社会とも協力しながら、関連する国連安保理決議の完全な履行を進め、北朝鮮の非核化を目指していく。拉致問題については、北朝鮮に対して2014年5月の日朝政府間協議における合意(ストックホルム合意)15の履行を求めつつ、引き続き、米国を始めとする関係国と緊密に連携し、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を実現すべく、全力を尽くしていく。 ア 北朝鮮の核・ミサイル問題 (ア)北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐる最近の動向 北朝鮮は、累次の国連安保理決議に従った、全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄を依然として行っていない。 2021年1月5日から12日まで、朝鮮労働党第8回大会が開催された。同大会において金正恩(キムジョンウン)国務委員長は、侵略戦争の危険が続く限り、防衛力は不断に強化されなければならないと述べるとともに、核兵器の小型化・軽量化・多弾頭化、原子力潜水艦、極超音速兵器、軍事偵察衛星の開発・保有などについて言及したと報じられた。また、2021年10月11日に平壌で開幕した国防発展展覧会「自衛2021」では、最近5年間で開発・生産されたとされる各種武器・戦闘技術機材などが展示された。同展覧会では、2020年10月の朝鮮労働党創建75周年記念閲兵式や2021年1月の朝鮮労働党第8回大会記念閲兵式で登場した新型のICBM、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の可能性があるものなども展示される様子が報じられた。 北朝鮮は、2021年3月25日に「新型戦術誘導弾」と称する弾道ミサイルを発射したのに続き、9月11日及び12日には「新型長距離巡航ミサイル」と称するミサイルを発射したことを発表した。同月15日には「鉄道機動ミサイル連隊」による訓練として、短距離弾道ミサイルを、また、28日には「極超音速ミサイル『火星8』」と称する弾道ミサイル技術を使用したものを、さらに、10月19日には、「新型潜水艦発射弾道弾」と称する弾道ミサイルを発射した。この中には、変則軌道で飛翔(しょう)するといった特徴を有するものが含まれているほか、9月15日の短距離弾道ミサイルは、日本のEEZ内に落下した。 2022年に入ってから、北朝鮮は極めて高い頻度で、また、新たな態様での発射を繰り返している。1月5日及び11日には「極超音速ミサイル」と称する弾道ミサイルを発射し、11日には金正恩国務委員長の立ち会いが報じられた。また、同月14日には「平安北道鉄道機動ミサイル連隊の検閲射撃訓練」として弾道ミサイルを、同月17日及び27日に「戦術誘導弾」と称する弾道ミサイルを相次いで発射するとともに、同月25日には「長距離巡航ミサイル」を発射したことを発表した。同月30日には、中距離弾道ミサイル(IRBM)級弾道ミサイル「火星12」とみられるミサイルを、2月27日及び3月5日には、「偵察衛星」開発のための重要試験と称して大陸間弾道ミサイル(ICBM)級弾道ミサイルを発射した。これらについては、ICBM級弾道ミサイルの最大射程ではなかったが(いずれも飛距離300キロメートル程度)、最大射程での発射を行う前に、何らかの機能の検証を行うことを目的として行われた可能性があると考えられる。 さらに、弾道ミサイルが正常に飛翔しなかったと推定される3月16日の発射からおよそ1週間後の24日には、新型とみられるICBM級弾道ミサイルを発射し、その飛翔距離は約1,100キロメートル、最高高度は6,000キロメートルを超えて北海道の渡島(おしま)半島の西方約150キロメートルの日本のEEZ内に落下したものと推定される。この発射に際して、北朝鮮側は同ミサイルを「火星17」と称し、発射実験の全過程を直接指導した金正恩国務委員長は、今回発射されたミサイルの武器体系は「強力かつ威力ある核戦争抑止力としての使命と義務を遂行することになる」として、北朝鮮は「強大な軍事技術力を備えて米帝国主義との長期的対決を徹底的に準備していくだろう」と述べたと報じられた。 なお、これに先立つ1月19日には、金正恩国務委員長の司会の下で開催された朝鮮労働党第8期第6回政治局会議において、「今後の対米対応方向」が討議され、同会議は、「米国の敵視政策と軍事的脅威がもはや黙過することのできない危険ラインに至った」と評価した上で、「暫定的に中止していた全ての活動を再稼働する問題を迅速に検討してみることに関する指示を当該部門に任務配分した」と報じられていた。 また、北朝鮮の核活動について、2021年8月の国際原子力機関(IAEA)事務局長報告は、北朝鮮の核施設が稼働している新たな兆候があると指摘した。 (イ)日本の取組及び国際社会との連携 北朝鮮による度重なる弾道ミサイル等の発射は、日本のみならず、国際社会に対する深刻な挑戦であり、全く受け入れられない。北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄に向け、国際社会が一致結束して、安保理決議を完全に履行することが重要である。日本は、これらの点を、各国首脳・外相との会談などにおいて確認してきている。 日米韓3か国の連携は北朝鮮への対応を超えて地域の平和と安定にとっても不可欠であるとの認識の下、3か国の間では、首脳会合、外相会合、次官協議、そして六者会合首席代表者会合の開催を通じ、重層的に協力を進めてきている。2021年5月5日には、G7外相会合の機会にロンドン(英国)において日米韓外相会合が開催され、三者間で北朝鮮の完全な非核化へのコミットメントを再確認し、北朝鮮に対して国連安保理決議の下での義務に従うことを求めることで一致するとともに、対北朝鮮政策において日米韓で緊密に連携していくことで一致した。また、9月22日には国連総会の機会にニューヨーク(米国)において日米韓外相会合が開催され、北朝鮮の完全な非核化に向けて日米韓の連携を一層進めていくことで一致するとともに、地域情勢及びグローバルな課題についても意見交換を行い、日米韓3か国による連携・協力を一層深めていくことで一致した。2022年2月12日には、ホノルル(米国)において日米韓外相会合が開催され、北朝鮮による度重なる弾道ミサイルの発射に対する深刻な懸念を共有した上で、今後の対応について綿密にすり合わせを行った。さらに、同会合では、中国やウクライナ情勢を含む地域情勢、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組について意見交換を行うとともに、国際保健、気候変動といったグローバルな課題についても意見交換を行い、引き続き3か国で連携して対応していくことで一致した。会合後には、日米韓外相共同声明が発出された。 また、日本は、海上保安庁による哨(しょう)戒活動及び自衛隊による警戒監視活動の一環として、安保理決議違反が疑われる船舶の情報収集を行っている。安保理決議で禁止されている北朝鮮船舶との「瀬取り」(洋上での物資の積替え)を実施しているなど、違反が強く疑われる行動が確認された場合には、国連安保理北朝鮮制裁委員会などへの通報、関係国への関心表明、対外公表などの措置を採ってきている。加えて、「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、米国に加え、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド及びフランスが在日米軍施設・区域を使用し、航空機による警戒監視活動を行った。また、米国海軍の多数の艦艇、フランス海軍フリゲート「プレリアル」、「シュルクーフ」及び強襲揚陸艦「トネール」、オーストラリア海軍フリゲート「バララット」及び「ワラマンガ」、カナダ海軍フリゲート「ウィニペグ」、英国海軍フリゲート「リッチモンド」、ドイツ海軍フリゲート「バイエルン」が、東シナ海を含む日本周辺海域において、警戒監視活動を行った。さらに、安保理決議の完全な履行及び実効性の確保のため、関係国の間での情報共有及び調整が行われていることは、多国間の連携を一層深めるという観点から、意義あるものと考えている。 イ 拉致問題・日朝関係 (ア)拉致問題に関する基本姿勢 現在、日本政府が認定している日本人拉致事案は、12件17人であり、そのうち12人がいまだ帰国していない。北朝鮮は、12人のうち、8人は死亡し、4人は入境を確認できないと主張しているが、そのような主張について納得のいく説明がなされていない以上、日本としては、安否不明の拉致被害者は全て生存しているとの前提で、問題解決に向けて取り組んでいる。北朝鮮による拉致は、日本の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題であると同時に、基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的問題である。また、拉致被害者の御家族も御高齢となる中ではあるが、「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」代表が交代し、「決して諦めない」との思いを胸にこの問題の解決に向けた取組を続けている。日本は、拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ないとの基本認識の下、その解決を最重要課題と位置付け、拉致被害者としての認定の有無にかかわらず、全ての拉致被害者の安全の確保と即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しを北朝鮮側に対し強く要求している。2022年1月には、岸田総理大臣が施政方針演説で、「最重要課題である拉致問題について、各国と連携しながら、全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、あらゆるチャンスを逃すことなく、全力で取り組む。私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意。」と表明した。 (イ)日本の取組 北朝鮮による2016年1月の核実験及び2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイル発射を受け、同月に日本が独自の対北朝鮮措置の実施を発表したことに対し、北朝鮮は全ての日本人拉致被害者に関する包括的調査を全面中止し、特別調査委員会を解体すると一方的に宣言した。日本は北朝鮮に対し厳重に抗議し、ストックホルム合意を破棄する考えはないこと、北朝鮮が同合意に基づき、一日も早く全ての拉致被害者を帰国させるべきことについて、強く要求した。 (ウ)日朝関係 2018年2月9日、平昌(ピョンチャン)冬季オリンピック競技大会開会式の際の文在寅(ムンジェイン)韓国大統領主催レセプション会場において、安倍総理大臣から金永南(キムヨンナム)北朝鮮最高人民会議常任委員長に対して、拉致問題、核・ミサイル問題を取り上げ、日本側の考えを伝えた。特に、全ての拉致被害者の帰国を含め、拉致問題の解決を強く申し入れた。また、同年9月、河野外務大臣は国連本部において、李容浩(リヨンホ)北朝鮮外相と会談を行った。2021年9月、菅総理大臣は第76回国連総会における一般討論演説において、「日朝が実りある関係を樹立することは、日朝双方の利益に合致するとともに、地域の平和と安定にもつながる。」と表明した。 (エ)国際社会との連携 拉致問題の解決のためには、日本が主体的に北朝鮮側に対して強く働きかけることはもちろん、拉致問題解決の重要性について諸外国からの理解と支持を得ることが不可欠である。日本は、各国首脳・外相との会談、G7サミット、日米豪印首脳会合、日中韓サミット、日米韓外相会合、ASEAN関連首脳会議、国連関係会合を含む国際会議などの外交上のあらゆる機会を捉え、拉致問題を提起している。米国については、トランプ大統領が、安倍総理大臣からの要請を受け、2018年6月の米朝首脳会談において金正恩国務委員長に対して拉致問題を取り上げた。2019年2月の第2回米朝首脳会談では、トランプ大統領から金正恩国務委員長に対して初日の最初に行った一対一の会談の場で拉致問題を提起し、拉致問題についての安倍総理大臣の考え方を明確に伝えたほか、その後の少人数夕食会でも拉致問題を提起し、首脳間での真剣な議論が行われた。トランプ大統領は、2017年11月の訪日の際に続き、2019年5月の訪日の際にも拉致被害者の御家族と面会し、御家族の方々の思いのこもった訴えに熱心に耳を傾け、御家族の方々を励まし、勇気付けた。また、2022年1月の日米首脳テレビ会談において、岸田総理大臣からバイデン大統領に対して、拉致問題の即時解決に向けて引き続きの理解と協力を求め、バイデン大統領から、改めて支持を得た。中国についても、2019年6月の日中首脳会談において、習近平(しゅうきんぺい)国家主席から、同月の中朝首脳会談で日朝関係に関する日本の立場、安倍総理大臣の考えを金正恩国務委員長に伝えたとの発言があり、その上で、習近平国家主席から、拉致問題を含め、日朝関係改善への強い支持を得た。また、2021年10月の日中首脳電話会談においても、岸田総理大臣から習近平国家主席に対して拉致問題を含む北朝鮮への対応について提起し、引き続き日中が連携していくことを確認した。韓国も、2018年4月の南北首脳会談を始めとする累次の機会において、北朝鮮に対して拉致問題を提起しており、2019年12月の日韓首脳会談においても、文在寅大統領から、拉致問題の重要性についての日本側の立場に理解を示した上で、韓国として北朝鮮に対し拉致問題を繰り返し取り上げているとの発言があった。また、2021年10月の日韓首脳電話会談においても、岸田総理大臣から拉致問題について、引き続きの支持と協力を求めたのに対し、文在寅大統領から拉致問題についての日本の立場への支持が示された上で、両首脳は、日韓・日米韓の連携の重要性について改めて一致した。3月には国連人権理事会において、また12月には国連総会本会議において、EUが提出し、日本が共同提案国となった北朝鮮人権状況決議案が無投票で採択された。さらに、12月には、安保理非公式協議において北朝鮮の人権状況について協議が行われ、その後、日本を含む有志国は、拉致問題の解決、特に拉致被害者の即時帰国を要求するとの内容を含む共同ステートメントを発出した。日本は、今後とも、米国を始めとする関係国と緊密に連携、協力しつつ、拉致問題の即時解決に向けて全力を尽くしていく。 ウ 北朝鮮の対外関係など (ア)米朝関係 2018年から2019年にかけて、米朝間では2回の首脳会談及び板門店での米朝首脳の面会が行われ、2019年10月にはストックホルム(スウェーデン)において米朝実務者協議が行われた。しかし、2020年及び2021年は、米朝間の対話に具体的な進展は見られなかった。 バイデン大統領は、2021年4月に対北朝鮮政策レビューを完了した。同レビューを通じ、米国は、朝鮮半島の完全な非核化が引き続き目標であることや、日本を含む同盟国の安全確保のための取組を強化すると明らかにしている。5月21日に行われた米韓首脳会談後の共同記者会見では、バイデン大統領は、金正恩国務委員長が何らかのコミットメントをすれば、自分は同委員長に会うだろうと述べた。また、米国は、様々な機会において米国は北朝鮮に対して敵対的な意図を抱いておらず、北朝鮮側と前提条件なしに会う用意があると発信してきている。 一方、金正恩国務委員長は、9月の最高人民会議第14期第5回会議において行った演説の中で、「我が方に対する米国の軍事的威嚇と敵視政策には少しも変わったことがなく、米国は「外交的関与」と「前提条件のない対話」を主張しているが、国際社会を欺瞞(まん)して自らの敵対行為を覆い隠すためのベールにすぎない。」と述べたと報じられた。 米国は、2022年1月、北朝鮮による弾道ミサイル発射を含めた一連の挑発行為への対応として、大量破壊兵器の開発・拡散に関与したなどとして、1団体及び7個人を独自の制裁措置(資産凍結措置)の対象に追加指定した。 また、同月、金正恩国務委員長の司会の下で開催された朝鮮労働党第8期第6回政治局会議において、「今後の対米対応方向」が討議され、同会議は、「米国の敵視政策と軍事的脅威がもはや黙過することのできない危険ラインに至った」と評価した上で、「暫定的に中止していた全ての活動を再稼働する問題を迅速に検討してみることに関する指示を当該部門に任務配分した」と報じられた。 (イ)南北関係 2018年には3回の南北首脳会談が行われるなど、南北関係は大幅に進展したが、2019年、2020年に引き続き、2021年は南北関係に前向きな動きはみられなかった。1月の朝鮮労働党第8回党大会において行った活動総括報告の中で、金正恩国務委員長は「南北関係は(2018年4月の南北首脳会談で署名された)板門店宣言以前の時期に後戻りした。」としつつも、韓国の「態度次第で、近いうちに平和と繁栄の新たな出発点へと戻ることもあり得る。」と述べたと報じられた。文在寅大統領は、党大会の6日後に行われた新年記者会見で、「南北関係の発展に役立つのであれば、いつでも、どこでも(南北首脳会談は)可能である。」と述べるとともに、人道協力を始めとする南北協力に前向きな姿勢を示した。7月27日、韓国政府及び北朝鮮はそれぞれ、4月以降の南北首脳間の親書を通じたやり取りの結果、南北間の通信連絡線を再開することで合意し、通話を再開した旨を発表し、同日、南北間の通信連絡線は再開されたが、8月10日から北朝鮮側の応答が途絶した。文在寅大統領は、9月の国連総会一般討論演説において、2021年が南北の国連同時加盟から30年となる年であることに触れつつ、「朝鮮半島の「終戦宣言」のために国際社会が力を合わせることを改めて促し、南北米の三者又は南北米中の四者が集まり、朝鮮半島での戦争が終結したことを共に宣言することを提案する。」と述べた。これに対し、金正恩国務委員長は、9月30日の最高人民会議における施政演説において、「終戦宣言に先立ち、互いへの尊重が保障され、他方に対する偏見的な見方と不公正で二重的な態度、敵視の観点と政策からまず撤回されるべきだというのが、我が方の不変の要求」と述べたと報じられた。また、同演説において金正恩国務委員長は、8月から途絶していた南北通信連絡線を再開させる意思を表明し、10月4日から南北通信連絡線が復旧した。さらに、金正恩国務委員長は、同月11日に行われた国防発展展覧会「自衛2021」での記念演説において、「南朝鮮が我が方に食って掛かからなければ、主権行使に手出ししなければ、朝鮮半島の緊張が誘発されることは決してない。」、「我々の主敵は戦争そのものであって南朝鮮や米国、特定のいずれかの国家や勢力ではない。」と述べたと報じられた。 (ウ)中朝関係・露朝関係 2020年以降、新型コロナの感染拡大などの影響もあり、中朝・露朝間において従前のような要人往来は見られなかったが、中朝間においては、2021年7月の中国共産党創建100周年及び中朝友好協力相互援助条約署名60周年の際に、金正恩国務委員長と習近平国家主席との間で祝電の交換などが行われた。 北朝鮮の対外貿易(南北交易を除く。)の約9割を占める中朝間の貿易は、新型コロナの世界的な感染拡大を受けた往来の制限のため、規模が大幅に縮小しているが、2022年1月17日、中国外交部報道官は、中朝間の友好的な協議を経て、中国・丹東と北朝鮮・新義州を結ぶ鉄道通関地の貨物列車の運行が既に再開されたと述べた。 (エ)その他 2021年、北朝鮮からのものとみられる漂流・漂着木造船などが計18件確認されており(2020年は77件)、日本政府として、関連の動向について重大な関心を持って情報収集・分析に努めている。また、2020年9月には、日本海の大和堆西方の日本の排他的経済水域(EEZ)において北朝鮮公船が確認されており、外務省は、このような事案が発生した際には、北朝鮮に対して日本の立場を申し入れてきている。引き続き、関係省庁の緊密な連携の下、適切に対応していく。 エ 内政・経済 (ア)内政 2021年1月5日から12日までの8日間、朝鮮労働党の最高指導機関である第8回党大会が開催された。第8回党大会は、2016年5月に行われた第7回党大会以来、約5年ぶりの開催となった。党大会では、金正恩国務委員長が、「人民大衆第一主義政治」を強調しつつ、過去5年間の成果・反省及び今後の課題に係る活動総括報告を行い、核・ミサイル開発の継続、米朝関係を始めとする対外関係、南北関係などについて言及したと報じられた。また、金正恩朝鮮労働党委員長を「朝鮮労働党総書記」に推戴するなどの人事が公表されるとともに、党大会を5年に1回招集するなどを明記した党規約の改正も発表された。その後、金正恩国務委員長は、第8回党大会の決定の実施も念頭に、党中央委総会、市・郡責任書記講習会及び党細胞書記大会を開催するなど、積極的な活動を継続した。 9月には、最高人民会議第14期第5回会議が開催され、金正恩国務委員長は、2019年以来となる施政演説を行い、経済発展、「国家」防衛力の強化、米朝関係、南北関係などについて言及したと報じられた。また、金与正(キムヨジョン)氏を国務委員に補選する国務委員会人事なども行われたと報じられた。 12月には、朝鮮労働党中央委員会第8期第4回全員会議(総会)が5日間開催され、金正恩国務委員長は、2021年を「厳格な難関の中」の「偉大な勝利の年」と評価しつつ、2022年の課題として経済、非常防疫事業、「国家」防衛力の強化などに言及したと報じられた。 (イ)経済 北朝鮮の対外貿易においては、中国が最大の貿易額を占めるが、2020年以降、新型コロナの世界的な感染拡大を受けた往来の制限などの影響で、中朝貿易の規模は大幅に減少した。2021年1月の第8回党大会において、金正恩国務委員長は、制裁、自然災害、世界的な保健危機により第7回党大会で示した「国家経済発展5か年戦略」で掲げた目標を達成できなかった旨述べ、自力更生及び自給自足を核心とした新たな「国家経済発展5か年計画」(2021年から2025年)を提示したと報じられた。その後も北朝鮮の状況について、金正恩国務委員長は、「一層厳しい苦難の行軍を行うことを決心」(4月の党細胞書記大会)、「史上かつてない難関が折り重なった」(10月の朝鮮労働党創建76周年記念講演会)などと言及したと報じられた。 2021年12月27日から31日まで、第8期第4回党中央委員会総会が開催され、金正恩国務委員長は2022年の課題の一つとして、社会主義建設の基本戦線である経済部門は、生産を活性化するなどして経済を成長軌道に乗せ、人民に安定して向上した生活を提供することに全力で集中すべきである旨述べたと報じられた。また、こうした中、2022年1月17日、中国外交部報道官は、中朝間の友好的な協議を経て、中国・丹東と北朝鮮・新義州を結ぶ鉄道通関地の貨物列車の運行が既に再開されたと述べた。 (ウ)新型コロナへの対応 北朝鮮は、2020年以降の新型コロナの世界的な感染拡大を受け、全土で防疫措置を強化した。2021年1月の朝鮮労働党第8回大会では、金正恩国務委員長が、「世界的な保健危機にも対処できる防疫措置を堅固に築くべき」と述べたと報じられるなど、引き続き、感染拡大防止策の徹底や強化の必要性が強調された。また、7月27日の第7回老兵大会では、金正恩国務委員長が「世界的な保健危機と長期的な封鎖による困難及び隘(あい)路は、戦争の状況にひけをとらない試練」と述べたと報じられた。さらに、9月2日の朝鮮労働党第8期第3回政治局拡大会議では、金正恩国務委員長が、「世界的な大流行伝染病事態が抑制されず、引き続き拡散している危険な形勢は、国家的な防疫対策をさらに強化して実施することを要求する。」と述べ、「全ての党組織と幹部が国家防疫体系とこの部門の事業を再点検し、防疫戦線を今一度緊張させて覚醒させるための一大政治攻勢、集中攻勢を展開すること」を強調したと報じられた。12月27日から31日まで、第8期第4回党中央委員会総会が開催され、金正恩国務委員長は2022年の課題の一つとして、「非常防疫事業は国家事業の第1位に置き、些(さ)細な気の緩みや隙、盲点もなく強力に展開していくべき最重大事としていま一度指摘した」と報じられた。なお、北朝鮮は、2022年2月時点でいまだに感染者は発生していないとしている。 オ その他の問題 北朝鮮からの脱北者は、滞在国当局の取締りや北朝鮮への強制送還などを逃れるため潜伏生活を送っている。日本政府としては、こうした脱北者の保護や支援について、北朝鮮人権侵害対処法の趣旨を踏まえ、人道上の配慮、関係者の安全、脱北者の滞在国との関係などを総合的に勘案しつつ対応している。なお、日本国内に受け入れた脱北者については、関係省庁間の緊密な連携の下、定着支援のための施策を推進している。 (2)韓国 ア 日韓関係 (ア)二国間関係一般 韓国は重要な隣国であり、日韓両国は、1965年の国交正常化の際に締結された日韓基本条約、日韓請求権・経済協力協定その他関連協定の基礎の上に、緊密な友好協力関係を築いてきた。しかしながら、2021年においても、旧朝鮮半島出身労働者問題や慰安婦問題、竹島問題などにおいて、日本側にとって受け入れられない状況が続いた。 このような中、10月、岸田総理大臣の就任に当たり日韓首脳電話会談を実施し、岸田総理大臣から文在寅(ムンジェイン)大統領に対し、旧朝鮮半島出身労働者問題や慰安婦問題などにより日韓関係は引き続き非常に厳しい状況にあると述べた上で、これらの問題に関する日本の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めた。また、岸田総理大臣から、地域の厳しい安全保障環境の下では、北朝鮮への対応を始め、日韓・日米韓の連携を一層深めていくことが不可欠であると述べるとともに、拉致問題について、引き続きの支持と協力を求めた。 また、新型コロナの影響により要人往来が大幅に制限される状況下、合計3回の日韓外相会談(電話会談を含む。)や2回の日韓次官間の協議、累次の機会における日韓局長協議を始め、外交当局間の意思疎通が継続された。 (イ)旧朝鮮半島出身労働者問題 1965年の日韓国交正常化の中核である日韓請求権・経済協力協定は、日本から韓国に対して、無償3億米ドル、有償2億米ドルの経済協力を約束する(第1条)とともに、「両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が(中略)完全かつ最終的に解決されたこと」、また、そのような請求権について「いかなる主張もすることができない」(第2条)ことを定めている。 しかしながら、2018年10月30日及び11月29日、韓国大法院(最高裁)は、第二次世界大戦中に日本企業で労働していたとされる韓国人に対する損害賠償の支払を当該日本企業に命じる判決を確定させた。 これらの大法院判決及び関連する司法手続は、日韓請求権・経済協力協定第2条に明らかに反し、日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであるばかりか、国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すものであって、極めて遺憾であり、断じて受け入れられない。 日本政府としては、この問題を日韓請求権・経済協力協定上の紛争解決手続に従って解決すべく、2019年1月に同協定第3条1に基づく協議を韓国政府に対し要請したが、韓国政府はこれに応じなかった。また、同年5月には、同協定第3条2に基づく仲裁への付託を韓国政府に対し通告し、これに応じるよう要請したが、韓国政府は同協定に規定された仲裁手続に係る義務を履行せず、その結果、仲裁委員会は設置できなかった16。 この間も原告側の申請に基づき、韓国の裁判所は、2021年9月27日及び12月30日の日本企業資産に対する売却命令(特別現金化命令)の決定を含め、日本企業の資産の差押え及び現金化に向けた手続を着々と進めてきている。日本政府は、韓国側に対し、仮に日本企業の差押資産の現金化に至ることになれば日韓関係にとって深刻な状況を招くので、避けなければならないことを繰り返し強く指摘し、韓国側が、国際法違反の状態を是正することを含め、日本側にとって受入れ可能な解決策を早期に示すよう強く求めてきている。 日本政府としては、引き続き、日韓の外交当局間の意思疎通を継続していくとともに、旧朝鮮半島出身労働者問題を含む両国間の問題に関する日本の一貫した立場に基づき、今後とも韓国側に適切な対応を強く求めていく方針である。 旧朝鮮半島出身労働者問題に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_004516.html (ウ)慰安婦問題 慰安婦問題は、1990年代以降、日韓間で大きな外交問題となってきたが、日本はこれに真摯に取り組んできた。日韓間の財産及び請求権の問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に」解決済みであるが、その上で、元慰安婦の方々の現実的な救済を図るとの観点から、1995年、日本国民と日本政府が協力してアジア女性基金を設立し、韓国を含むアジア各国などの元慰安婦の方々に対し、医療・福祉支援事業及び「償い金」の支給を行うとともに、歴代総理大臣からの「おわびの手紙」を届けるなど、最大限の努力をしてきた。 さらに、日韓両国は、多大なる外交努力の末に、2015年12月の日韓外相会談における合意によって、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した。また、同外相会談の直後に、日韓両首脳間においても、この合意を両首脳が責任を持って実施すること、また、今後、様々な問題に対し、この合意の精神に基づき対応することを確認し、韓国政府としての確約を取り付けた。この合意については、潘基文(パンギムン)国連事務総長(当時)を始め、米国政府を含む国際社会も歓迎している。この合意に基づき、2016年8月、日本政府は韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」に対し、10億円の支出を行った。この基金から、2021年12月末日までの間に、合意時点で御存命の方々47人のうち35人に対し、また、お亡くなりになっていた方々199人のうち64人の御遺族に対し、資金が支給されており、多くの元慰安婦の方々の評価を得ている。 しかしながら、2016年12月、韓国の市民団体により、在釜山(プサン)日本国総領事館に面する歩道に慰安婦像17が設置された。その後、2017年5月に新たに文在寅政権が発足し、外交部長官直属の「慰安婦合意検討タスクフォース」による検討結果を受け、2018年1月9日には、康京和(カンギョンファ)外交部長官が、(1)日本に対し再協議は要求しない、(2)被害者の意思をしっかりと反映しなかった2015年の合意では真の問題解決とならないなどとする韓国政府の立場を発表した。2018年7月、韓国女性家族部は、日本政府の拠出金10億円を「全額充当」するため予備費を編成し、「両性平等基金」に拠出すると発表した。また、2018年11月には、女性家族部は、「和解・癒やし財団」の解散を推進すると発表し、その後解散の手続を進めている。韓国政府は、文在寅大統領を含め、「合意を破棄しない」、「日本側に再交渉を要求しない」ことを対外的に繰り返し明らかにしてきているものの、財団の解散に向けた動きは、日韓合意に照らして問題であり、日本として到底受け入れられるものではない。また、日韓合意では、国連など国際社会において、慰安婦問題について互いに非難・批判することを控えていることを確認しているにもかかわらず、韓国は、近年、国連人権理事会の場において、この問題に言及しており、日本は反論してきている。 さらに、2021年1月8日、元慰安婦などが日本国政府に対して提起した訴訟において、韓国ソウル中央地方裁判所が、国際法上の主権免除の原則の適用を否定し、日本国政府に対し、原告への損害賠償の支払などを命じる判決を出し、同月23日、同判決が確定した18。なお、同年4月21日、類似の慰安婦訴訟において、ソウル中央地方裁判所は、国際法上の主権免除の原則を踏まえ、原告の訴えを却下したが、同年5月6日、原告が控訴した。日本としては、国際法上の主権免除の原則から、日本政府が韓国の裁判権に服することは認められず、本件訴訟は却下されなければならないとの立場を累次にわたり表明してきている。上述のとおり、慰安婦問題を含め、日韓間の財産・請求権の問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で「完全かつ最終的に解決」されており、また、2015年12月の日韓外相会談における合意によって、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」が確認されている。したがって、同判決は、国際法及び日韓両国間の合意に明らかに反するものであり、極めて遺憾であり、断じて受け入れることはできない。日本としては、韓国に対し、国家として自らの責任で直ちに国際法違反の状態を是正するために適切な措置を講ずることを改めて強く求めていく方針である。 日韓合意は国と国との約束であり、これを守ることは国家間の関係の基本である。日韓合意の着実な実施は、日本はもとより、国際社会に対する責務でもある。日本は、上述のとおり、日韓合意の下で約束した措置を全て実施してきている。韓国政府もこの合意が両国政府の公式合意と認めているものであり、国際社会が韓国側による合意の実施を注視している状況である。日本政府としては、引き続き、韓国側に日韓合意の着実な実施を強く求めていく方針に変わりはない(国際社会における慰安婦問題の取扱いについては31ページ参照)。 慰安婦問題についての我が国の取組に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page25_001910.html (エ)竹島問題 日韓間には竹島の領有権をめぐる問題があるが、竹島は歴史的事実に照らしても国際法上も明らかに日本固有の領土である。韓国は、警備隊を常駐させるなど、国際法上何ら根拠がないまま、竹島を不法占拠し続けてきている。日本は、竹島問題に関し、様々な媒体で日本の立場を対外的に周知するとともに19、韓国国会議員などの竹島上陸、韓国による竹島やその周辺での軍事訓練や海洋調査などについては、韓国に対し、その都度強く抗議を行ってきている20。特に2021年は韓国海洋水産部によるホームページ上での竹島のリアルタイム映像の公開、韓国国会議員や韓国警察庁長の竹島上陸、竹島やその周辺での軍事訓練や海洋調査が行われ、これらにつき、日本政府として、日本の立場に鑑み受け入れられないとして強く抗議を行った。 竹島問題の平和的手段による解決を図るため、1954年、1962年及び2012年に韓国政府に対し国際司法裁判所への付託などを提案してきているが、韓国政府はこの提案を全て拒否している。日本は、竹島問題に関し、国際法に則(のっと)り、平和的に解決するため、今後も適切な外交努力を行っていく方針である。 (オ)韓国向け輸出管理運用の見直し 韓国政府は、2019年9月11日、日本が韓国への半導体材料3品目(フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)の輸出に係る措置の運用を見直し、個別に輸出許可を求める制度としたこと21は世界貿易機関(WTO)協定に違反するとして、WTO紛争解決手続の下で二国間協議を要請した。同年11月22日、韓国政府は日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)の終了通告の効力停止を発表し、その際、二国間の輸出管理政策対話が正常に行われる間、WTO紛争解決手続を中断すると表明し、2019年12月及び2020年3月には、輸出管理政策対話が実施された。日韓の輸出管理当局間では対話と意思疎通を通じて懸案を解決することで一致していた中で、韓国政府は、2020年6月18日、WTO紛争解決手続を再開させ、同年7月29日、WTO紛争解決機関において紛争処理小委員会(パネル)設置が決定された。 (カ)交流・往来 日韓間の往来者数は、2018年に約1,049万人を記録したが、2020年3月以降、新型コロナに係る水際対策の強化により両国間の往来者数は大幅に減少し、2021年は約3万人にとどまった。そうした中、国際的な人の往来再開に向けた段階的措置として、2020年10月8日から、「ビジネストラック」及び「レジデンストラック」を韓国との間で開始したが、国内外における変異株の感染拡大を受け、2021年1月14日以降、これらトラックの運用を停止した。その後、同年11月8日以降、一定の要件の下で、ワクチン接種済者に対する入国後の行動制限の緩和及び外国人の新規入国制限の緩和が行われ、韓国からも企業関係者、留学生などの日本への新規入国が再開されたものの、11月30日以降、オミクロン株に対する水際措置の強化に伴い、同措置は停止された。 日韓両政府は、日韓関係が難しい状況であるからこそ、日韓間の交流が重要である点について一致している。日本では若年層を中心に「K-POP」や関連のコンテンツが広く受け入れられており、特に新型コロナの影響で外出自粛が求められる中、韓国のドラマや映画は世代を問わず幅広い人気を集めている。また、日韓間の最大の草の根交流行事である「日韓交流おまつり」は、新型コロナ流行下において2021年は東京及びソウルのいずれにおいても、2年連続でオンライン形式で開催された。日本政府は、「対日理解促進交流プログラム(JENESYS2021)」の実施を通じ、青少年を中心とした相互理解の促進、未来に向けた友好・協力関係の構築に引き続き努めており、2021年の交流事業は全てオンライン形式での交流事業を実施した。 (キ)その他の問題 日韓両国は、2016年11月、安全保障分野における日韓間の協力と連携を強化し、地域の平和と安定に寄与するため、GSOMIAを締結し、同協定は、それ以降2017年及び2018年に自動的に延長されてきた。しかし、韓国政府は、2019年8月22日、日本による輸出管理の運用見直し(54ページ(オ)参照)と関連付け、GSOMIAの終了の決定を発表し、翌23日、終了通告がなされた。その後、日韓間でのやり取りを経て、同年11月22日、韓国政府は8月23日の終了通告の効力を停止することを発表した。日本政府としては、現下の地域の安全保障環境を踏まえれば、同協定が引き続き安定的に運用されていくことが重要であるとの考えに変わりはない。 日本海は、国際的に確立した唯一の呼称であり、国連や米国を始めとする主要国政府も日本海の呼称を正式に使用している。韓国などが日本海の呼称に異議を唱え始めたのは1992年からである。また、それ以降、韓国などは国連地名専門家グループ(UNGEGN)会議22や国際水路機関(IHO)を始めとする国際機関の場などにおいても日本海の呼称に異議を唱えてきたが、この主張に根拠はなく、日本はその都度断固反論を行ってきている23。 また、盗難被害に遭い、現在も韓国にある文化財24については、早期に日本に返還されるよう韓国政府に対して強く求めてきており、引き続き、韓国側に適切な対応を求めていく。 そのほか、在サハリン「韓国人」への対応25、在韓被爆者問題への対応26、在韓ハンセン病療養所入所者への対応27など多岐にわたる分野で、人道的観点から、日本は可能な限りの支援、施策を進めてきている。 イ 日韓経済関係 2021年の日韓間の貿易総額は、約9兆3,000億円であり、韓国にとって日本は第3位、日本にとって韓国は第4位の貿易相手国・地域である。なお、韓国の対日貿易赤字は、前年比16.9%増の約2兆2,500億円(財務省貿易統計)となった。また、日本からの対韓直接投資額は約12.1億米ドル(前年比52.8%増)(韓国産業通商資源部統計)で、日本は韓国への第6位の投資国・地域である。 また、2020年11月、日本及び韓国を含む15か国は、日韓間での初めての経済連携協定(EPA)ともなる地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名した。2021年12月3日、韓国は同協定の批准書を寄託者であるASEAN事務局長に寄託し、韓国については同協定が2022年2月1日に発効した。 WTO紛争解決手続の下では、韓国による日本製ステンレス棒鋼に対するダンピング防止措置に係る案件について、2020年11月、パネルは、韓国の措置をWTO協定違反と認定し、措置の是正を勧告したが、2021年1月、韓国はWTO上級委員会に申し立てた。また、韓国による自国造船業に対する支援措置に関し、2018年11月、WTO紛争解決手続に基づく二国間協議を要請し、同年12月に協議を実施した(その後、韓国における新たな支援措置も対象として改めて協議を要請し、2020年3月に協議を実施した。)。 韓国政府による日本産食品に対する輸入規制については、様々な機会を捉えて韓国側に対して早期の規制撤廃を働きかけている。 ウ 韓国情勢 (ア)内政 文在寅大統領は、就任から5年目を迎えた2021年5月10日の特別演説において、新型コロナからの回復、包容、飛躍などを強調したことを始め、2020年に続き、内政上、新型コロナ対応に注力した。2021年4月には、金富謙(キムブギョム)元行政安全部長官を国務総理に指名するなど一部内閣改造を行った。 4月7日、空席となっていた二大都市ソウル・釜山の市長補欠選挙が行われ、いずれも最大野党「国民の力」の候補が勝利した。同補欠選挙の前には、ソウルを始めとする大都市部を中心に住宅価格の高騰が社会問題となっている中、韓国住宅公社職員による不動産投機疑惑が持ち上がり、与党に対する世論が悪化したことが野党候補の勝利の一因となったとされる。 次期大統領選挙を控え、韓国において2021年下半期以降、各政党において予備選挙が行われた。与党「共に民主党」では、10月10日、李在明京畿道(イジェミョンキョンギド)知事(当時)が同党の大統領候補として選出された。最大野党「国民の力」では、11月5日、尹錫悦(ユンソンニョル)前検察総長が同党の大統領候補として選出された。尹前検察総長は、文政権の検察改革の方針に反発し、3月4日、検察総長を辞任、7月30日、最大野党「国民の力」に入党した。2022年3月9日、大統領選挙の投開票が実施され、尹前検察総長が当選した。文政権からの政権移行の準備を行い、同年5月10日、尹前検察総長が第20代韓国大統領に就任する予定である。 2021年10月26日には盧泰愚(ノテウ)元大統領、11月23日には全斗煥(チョンドゥファン)元大統領が逝去した。 (イ)外交 2021年上旬から新型コロナのワクチン接種が世界各地で本格化したことを受け、韓国政府は、いわゆる「ワクチン外交」を積極的に展開した。英国、イスラエル、ルーマニアとの間でワクチンのスワップ協定を締結し、これらを二国間関係強化の契機にしようと努めた。 また、ポスト・コロナを見据えたこのような外交的取組と並行して、北朝鮮との関係は引き続き文在寅政権にとっての最重要課題であった。文大統領は9月の国連総会一般討論演説において、朝鮮半島の「終戦宣言」を提案するなど北朝鮮との対話を積極的に呼び掛けるなどしたが、南北関係に進展は見られなかった(南北関係については49ページ ウ(イ)参照)。 対米関係については、5月に文大統領が訪米し、バイデン大統領との間で初めての米韓首脳会談が行われた。同首脳会談では朝鮮半島の完全な非核化に対する共通のコミットメントの再確認や米韓「ミサイル指針」の終了などで合意したことに加え、新型コロナ対策として米韓グローバル・ワクチン・パートナーシップの構築などについても合意した。また、新型コロナの影響により規模を縮小する形で、3月及び8月には米韓連合指揮所訓練を実施した。また、2019年及び2020年に引き続き2021年も、米韓間では2020年以降の米軍駐留経費に関する第11次防衛費分担特別協定(SMA)についての協議が計2回行われ、同年3月、有効期間6年間(2020年から2025年まで)の多年度協定に合意した。 対中関係については、4月に鄭義溶(チョンウィヨン)外交部長官が就任後初の外遊として訪中し、王毅(おうき)国務委員兼外交部長との間で中韓外相会談を行った。また、9月には王毅国務委員兼外交部長が訪韓し、再び外相会談が行われた。いずれの会談でも北朝鮮の非核化実現のために中韓両国が尽力していくことが再確認されたほか、外交・安保対話(2+2)の実現推進などについても合意された。しかし、中韓両国が調整してきた習近平(しゅうきんぺい)国家主席の訪韓は、2021年も実現しなかった。 (ウ)経済 2021年、韓国のGDP成長率は、輸出と民間消費の好調などにより4.0%となり、新型コロナの感染拡大の影響などにより、マイナス0.9%に低下した前年からプラスに転じた。総輸出額は、前年比25.8%増の約6,445億米ドルであり、総輸入額は、前年比31.5%増の約6,150億米ドルとなったため、貿易黒字は約295億米ドル(韓国産業通商資源部統計)となった。 2017年5月に発足した文在寅政権は、国内的な経済政策として、「人中心経済」を掲げ、「所得主導成長」及び「雇用中心経済」を強調し、最低賃金を2018年から2年連続で引き上げたが、急激な引上げが雇用減を招いているとの批判が高まる中、2021年8月には2022年の最低賃金を9,160ウォン(前年比5.1%増)とすると発表した。 なお、韓国では近年急速に少子高齢化が進んでおり、2021年の合計特殊出生率は過去最低の0.81人を記録し、少子化問題が深刻化している。 また、文在寅政権はこれまで不動産投資を抑制する政策を実施してきたが、多住宅所有者の投機目的の住宅購入に伴う需要過剰により、政権発足以降の4年間でソウルのマンション価格が約7割上昇し、不動産価格の高騰が続いており、この問題への対応が政権の重要課題の一つとなっている。 韓国政府は、5月、世界中で半導体供給不足が続く中、国内の安定的なサプライチェーン構築を目指す戦略として、各種税制支援・税金控除、人材育成を内容とする「K-半導体戦略」を発表した。さらに、7月には、韓国のバッテリー産業が著しい成長を遂げている中、グローバル市場を主導していくための戦略として、「K-バッテリー発展戦略」を発表した。 15 2014年5月にストックホルムで開催された日朝政府間協議において、北朝鮮側は、拉致被害者を含む全ての日本人に関する包括的かつ全面的な調査の実施を約束した。 16 資料編:旧朝鮮半島出身労働者問題 参考資料 参照 17 分かりやすさの観点から、便宜上、「慰安婦像」との呼称を用いるが、この呼称は、これらの像に係る元慰安婦についての描写が正しいとの認識を示すものでは決してない。 18 資料編:慰安婦問題 参考資料 参照 19 2008年2月、外務省は「竹島 竹島問題を理解するための10のポイント」と題するパンフレットを作成。現在、日本語、英語、韓国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、アラビア語、ロシア語、中国語及びイタリア語の11言語版が外務省ホームページで閲覧可能。また、2013年10月以降、外務省ホームページにおいて、竹島に関する動画やフライヤーを公開し、現在は上記11言語での閲覧が可能になっている。加えて、竹島問題を啓発するスマートフォンアプリをダウンロード配布するといった取組を行っている。外務省ホームページ掲載箇所はこちら:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/takeshima/index.html 20 8月、韓国海洋水産部がホームページ上で竹島のリアルタイム映像を公開。また、同月、洪碩晙(ホンソクジュン)「国民の力」議員、11月、金昌龍(キムチャンリョン)韓国警察庁長が上陸。さらに、6月及び12月、韓国軍が竹島に関する軍事訓練を実施。日本は、直ちに、竹島の領有権に関する日本の立場に照らし受け入れられず、極めて遺憾であることを韓国政府に伝え、厳重に抗議した。 21 2019年7月1日、経済産業省は、(1)韓国に関する輸出管理上のカテゴリーの見直し(韓国を「グループA」から除外。そのための改正政令は同年8月28日施行)及び(2)フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目の個別輸出許可への切り替えを発表 22 各国の地名や地理空間情報などの専門家らが、地名に関する用語の定義や地名の表記方法などについて技術的観点から議論を行う国連の会議。2017年、これまで5年ごとに開催されていた国連地名標準化会議と2年ごとに開催されていた国連地名専門家グループが統合され、国連地名専門家グループ(UNGEGN)会議となった。 23 日本海呼称問題に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら: https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nihonkai_k/index.html 24 2012年に長崎県対馬市で盗難され韓国に搬出された後、韓国政府が回収し保管している「観世音菩薩(ぼさつ)坐像」について、所有権を主張する韓国の寺院が韓国政府に対して引渡しを求める訴訟を大田(テジョン)地方裁判所に提起し、2017年1月、同裁判所は原告(韓国寺院)勝訴の第一審判決を出した。これに対し、被告である韓国政府は控訴し、現在、大田高等裁判所に係属中。当該文化財はいまだ韓国政府が保管しており日本に返還されていない(2022年1月末時点)。 25 第二次世界大戦終戦前、様々な経緯で南樺太に渡り、終戦後、ソ連による事実上の支配の下、韓国への引揚げの機会が与えられないまま、長期間にわたり、サハリンに残留することを余儀なくされた朝鮮半島出身者に対し、日本政府は、一時帰国支援、サハリン再訪問支援などを行ってきている。 26 第二次世界大戦時に広島又は長崎に在住して原爆に被爆した後、日本国外に居住している方々に対する支援の問題。これまで日本は、被爆者援護法に基づく手当や被爆者健康手帳などに関連する支援を行ってきている。 27 2006年2月、「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」が改正され、第二次世界大戦終戦前に日本が設置した日本国外のハンセン病療養所の元入所者も国内療養所の元入所者と同様に補償金の支給対象となった。また、2019年11月、「ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律」が制定され、元入所者の家族も補償対象となった。