第5章 国民と共にある外交 3 外交における有識者などの役割 変動著しい世界における国際秩序の構築に当たっては、民間有識者が前面に立って、各国の政府の公式見解にとらわれない国際的政策論議を行い、それが国際世論や各国政府の政策決定に影響を及ぼすという状況が顕著となっている。 各国の対外経済政策に大きな影響を持つダボス会議、各国の著名な有識者や閣僚がアジアの安全保障について議論する場となっているアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)、欧州のみならず各地域及びグローバルな安全保障問題について広く議論が行われるミュンヘン安全保障会議、中東の安全保障をテーマとしたマナーマ対話などはその代表例である。主要国において、このような協議の場に参画できるようなシンクタンク(調査研究機関)や研究者などの人材の育成や、大学教授など有識者の活用の重要性がこれまで以上に高まっている。 日本の外交・安全保障についての知的基盤を広げ、国民の幅広い参画を得た外交を推進することが中長期的な外交力の強化につながる。このような考えの下、外務省は、日本の外交・安全保障関係シンクタンクの活動への支援を通じ、これらシンクタンクの情報収集・分析・発信・政策提言能力を高めることを目的として、外交・安全保障調査研究事業費補助金制度などを実施している。これに加え、外務省は、2017年度から、日本の調査研究機関による領土・主権・歴史に関する調査研究・対外発信活動を支援する領土・主権・歴史調査研究支援事業補助金制度を運用しており、公益財団法人日本国際問題研究所1が内外での一次資料の収集・分析・公開、海外シンクタンクと協力した公開シンポジウムの開催、研究成果の内外への発信などを実施している。2020年には、アホウドリの視点で尖閣諸島上空を飛びつつ、同諸島の歴史及び自然を学ぶことができる映像が作成され、領土・主権展示館で公開されたほか、竹島を日本領と記載する米国政府作製航空図などが公表された。同事業を通じ、日本の領土・主権・歴史に係る史料及び知見の蓄積や、国内外への発信強化が期待される。 1 公益財団法人日本国際問題研究所ホームページの関連箇所はこちら:https://www.jiia.or.jp/jic/