第5章 国民と共にある外交 第1節 世界とのつながりを深める日本社会と日本人 1 日本の成長と外国人材の受入れ (1)成長戦略とビザ(査証)制度 日本政府は、「観光先進国」への新たな国造りに向けて、2016年3月末、「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、訪日外国人数については、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人という新たな目標を設定した。このビジョンでは、潜在的に観光客誘致の大きな市場である20か国・地域の中で、訪日に際してビザの取得が必要な中国、ロシア、インド、フィリピン及びベトナムの5か国に対し戦略的にビザ緩和を実施していくことが示された。これらを踏まえ、外務省はこれまで、人的交流の促進や二国間関係の強化などの観点から、各国との間で、申請書類の簡素化や発給対象者の拡大を含むビザ緩和を実施してきた。しかしながら、2020年の訪日外国人数は新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の拡大防止を目的として、日本と諸外国双方がとった水際対策措置の強化の影響などを受けて減少し、約412万人にとどまった。ビザ緩和は、人的交流の促進や日本経済の成長に一定の効果を与えることが見込まれるところ、国内外における新型コロナの状況を見極めつつ、今後も一層の取組を進めることが期待されている。 一方、犯罪者や不法就労を目的とする者、又は人身取引の被害者となり得る者などの入国を未然に防止するため、水際対策の一環としてのビザ審査の厳格化も重要な課題である。外務省としては、「世界一安全な日本」を維持しつつ訪日外国人を増やすとともに、富裕層、リピーター及び若年層の誘客など、質量両面で観光立国に貢献していくことを目指し、二国間関係、外交上の意義などを総合的に勘案し、水際対策措置とのバランスを考慮しつつ、今後もビザの緩和に取り組んでいく。 (2)外国人材の受入れ・社会統合をめぐる取組 2008年のリーマン・ショックを契機に、日本に長期滞在する外国人の数は減少傾向にあったが、2012年を境に増加傾向に転じている。少子高齢化や人口減少が進行しつつある中、日本経済の更なる活性化を図り、競争力を高めていくためには、有能な人材を国内外を問わず確保することが重要である。2018年12月に出入国管理及び難民認定法が改正され、2019年4月から在留資格「特定技能」による外国人材の受入れも開始されており、今後、日本に滞在する有能な外国人がますます増えていくことが予想される。 外務省は、新型コロナをめぐる状況も踏まえ、こうした一連の施策を、関係省庁と協力して推進している。その一環で、「外国人の受入れと社会統合のための国際フォーラム」を開催し、具体的課題や取組について国民参加型の議論の活性化に努めている。2021年2月に開催した同フォーラム(外務省と国際移住機関(IOM)1の共催)では、「在日外国人への情報発信:コロナ禍で見えた現状と課題」をテーマに、新型コロナ流行下における在日外国人への情報発信における好事例や問題点などを紹介しつつ、活発な議論が行われた。 1 IOM:International Organization for Migration